ダイニングバー
ネオンの明かりが立ち並ぶ歓楽街『龍明』の光景。浮き立つ人々が酒気や色気を纏いながら表通りを行き交うその中で、直にも
カランコロンと鈴を鳴らし、店内から現れた二人の人物。それぞれ可憐と勝気の美貌を放つ私服姿の美女達は、こちらを見つけるなり真っ直ぐな足取りで歩み寄ってきたものだ。
メーの私服姿は今回が初見だ。ダボダボに膨らんだシルエットがカジュアル感を醸し出す紺色のマウンテンパーカーと、ショート丈の白色オフショルダートップス&ショート丈の黒色キャミソール、それと裾に向かって広がる涼しげなアイボリー色のガウチョパンツに、サンダルのように通気性が良い黄色のヒールというファッションで、カバンの
ラミアが淡泊な表情で歩み寄る傍ら、メーは煌びやかでご機嫌な笑顔を披露しながらこちらへ声を掛けてきた。
「ウェーイ!! カンキくんおまた~!」
合流した美女の二人に見惚れながらも、自分はそれぞれの顔を交互に見遣って返答する。
「ラミア、メー。今日もお疲れ様」
「どーも、お疲れ様でーす。お店の前で話し込むのもナンですから、さっさと“自宅”に帰りましょー」
「そうだね。じゃあアパートに向かおうか」
「はいはーい! あたし帰りにコンビニ寄りたーい! 今日はビールたくさん買ってドカ飲みするべ~!」
「メーさんはホントにビールがおスキですねー。コンビニならアパートのすぐ近くにありますから、帰るついでにソチラへ寄りましょーか」
「フゥ~~~~~ッ!! コンビニも近くにあるとかマジ神すぎん!? 優良物件すぎて、逆に事故物件的な!?」
「事故ってどーするんですか。とにかく行きますよー、早く休みたいですし」
盛り上がるメーを他所にして、先に歩き出したラミア。それに自分とメーも追い付いていくことで三人は龍明の帰路を共にした。
視界一面に広がる
その主張が弱まる頃、落ち着いた照明の住宅が周囲に展開し始めた。人口密度は減少し、浮き立つ人間も数を減らして少数の大人が薄暗い街灯に照らされる。自分らもその一部として会話を交えながら歩を進める傍ら、自分はメーへと言葉を投げ掛けた。
「そう言えば、荷物を持ってきてないみたいだけど大丈夫なの?」
「んー? だって無い方がラクじゃん?」
「それは確かにそうだけど、着替えとか無いと困るんじゃ?」
「あは、大丈夫でしょ! 着替えはカンキくんの服借りればいいだけだし?」
「え?」
ラミアは特に口を挟んでこない。その様子から、自分だけが困惑している今の状況に一層と困惑する。
「でも、だって、男物だよ? それに、他の男が着た服を着るのって、ちょっと抵抗感ない?」
「ん~? 別に~? あたしは気にしないけど?」
「そうなの? まぁ、メーがそれでいいなら貸せるけど……」
「あざま~す。まぁさ~、カンキくんとしてもさ~? 自分のパジャマをあたしに着てもらえるの、男として嬉しかったりするっしょ~??」
「…………悔しいことに、否定はできない」
「分かりやすくてウケる。そういうわけで今日はカンキくんのパジャマとパンツ借りっから、そこんとこよろ~」
「待って!? 下着まで借りるの!?」
「だってパンツも着替えるっしょ? 貸してくれたお礼に、お股んトコ擦っといてやるからさ~」
とか言いながらメーは
内容は下品でありながらも男として本能的に抗い難い、誠に魅惑的な言動の数々。それを肉食系の美人から提案されているという事実が背徳感を際立たせている。
恥ずかしながら、口を噤んで考え込んでしまった。そんな赤面するこちらの様子をメーはものすごくご満悦な様子で眺めてきたものだから、自分は
時刻は少し経ち、アパートから歩いて3分くらいの距離にある住宅街のコンビニに訪れた。
度々とお世話になる、通い慣れた店舗。いつもと変わらぬ陳列棚の配置に安心感を覚えていく中で、ラミアとメーは付近の商品を手に取りながら言葉を交わしていた。
「マ!? 激辛タンメンの新商品出てんじゃん!! こんなの即買いっしょ!」
「そーやって色々買ってるから、いつも金欠になるんですよ」
「だって自分へのご褒美が無いとやってらんないじゃん!」
「ご褒美ならビールとおつまみでジューブンじゃないですか」
「え~~ん、ラミアのマジレス冷た~~い。でもさぁ、カンキくんの部屋に住むんなら家賃浮くくね? ならその分いろんなモン買えるくね?」
「確かに、それもそーですね。今までよりも節約がラクになりますし、なら少しくらいのゼータクは問題ナイ……??」
「……我慢してきた分、ラミアも色々買っちゃえよ?」
「あのー、メーさんが金欠で家賃を払えなくなった時のホケンとして、その分ウチがガマンしてきたコトをお忘れですか??」
「まぁまぁ! 今日で極端な節約生活から解放されんだし、せっかくだから自分へのご褒美としてなんか買っちゃいなYOっ!!」
「誤魔化すのヘタですか。まー、でも……たまにならイイかもですねー。ナニかあってもサイアク、カンキさんもおりますし」
ラミアが時折と見せるジト目やら、メーの気兼ねない姿勢やら、おそらく
それだけ今いる場所が、二人にとって安心できる環境であると、そう言えなくもない。所長やマスターが言う『優しさ』でラミアとメーを救うことができているのならば、自分にこれといって不満は無かった。それどころか、これまで不憫な境遇に晒されてきた分、今はその労力が報われてほしいと、ただただ切にそう願うばかりである。
ラミアが提げた買い物かごの中に、お菓子やおつまみが放り込まれる。そこにメーがビールをはじめとした大量の酒類をドカドカ入れていくものだから、さすがにラミアが「入れ過ぎですよ」と圧を掛けて、メーは退散するように商品を元の場所に戻したりしていた。こんな感じに、二人の様子を眺めているだけでも面白いと思って自分は距離を置いていたのだが、ふとメーがこちらにすり寄ってくると、彼女は明らかに何かを企むニヤニヤ顔で声を掛けてきた。
「カンキくんもさぁ、せっかく女の子二人と夜を過ごすんだから、オトコとして用意しておくべくモンがあるんじゃないのかな~~??」
「え? っと……?」
「ほら? 0.01ミリの薄い袋……とかさぁ~~~~」
「!!!! ……ッいや、必要ないから!!」
「必要ない!!!? もしかして最初から“ナマ”!!!?」
「違う!!! そうじゃない!!!」
顔面を真っ赤にして反論する自分と、その勢いでわざとらしく「わー!!」と言いながら走り去ったメー。漫才のようなやり取りを聞き付けて、歩み寄ってきたラミアは「ナニやってるんですか……」とうんざり気味に訊ねてきたりと、本当にやりたい放題なひと時を過ごしたものだ。
このひと時は、帰宅したアパートの自室内でも続く。