かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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肉壁Aと肉壁Bと心的負担

 この身体が感じた最初の感覚を思い出す。

 

 痛みと苦しさ。

 

 胸と腹の骨が砕けたのは何となく感触で理解できたが、痛み自体は吹き飛んで背中を打った瞬間が最大か。正直、死ぬ程というレベルではない。個人的には、食い過ぎによる腹痛の方が絶望感で勝る。これも人それぞれか。

 

 その一方で、これはどういうことか。もし責任者がいるなら、至急連れてきてほしい。小一時間粘着しなければ、気が済みそうにない。

 

 そう、俺は今し方、雑魚カスドラゴンに尻尾で殴られた。

 

 だがしかし、我が装甲は敵の攻撃を圧倒的に凌駕しているはずであり、自ら進んでダメージを貰いに行く趣味はないものの、内心で喰らってもどうということはないと高を括っていたことは否めない。

 

 そしてこの一見傲慢に見える可能性を秘めた考えにはもちろん、そう結論付けるに足る確かなエビデンスがある。いやまぁ、それはたった今塵も残らずに完全崩壊したのですが。

 

 私の守りは数値にして500+α、しかも上振れが起こればそれを凌ぐこともあり得るはず。こんなクソ雑魚カスドラゴンの攻撃力など一々暗記している程に変態でもないが、少なくとも仮説通りならば喰らうダメージは1とかのはず。

 

 実際、その前に受けたブレスはダメージではなく、凍傷の酷さが際立っていたように懐古される。

 

 なのに何故、ホワイ。故に、責任者出て来い。

 

 それとも、俺の最大HPは5とか8とかなのだろうか。一応言っておくが、初期レベルのカナトでも三桁をギリギリ超えている。しかもチュートリアルバトルで戦う俺、レクスのHPはそこそこ高い。

 

 しかしこれについては、プレイアブル化すると何故かHPが見る影もなく減少するRPGあるあるで納得可能だ。

 

 では何故――

「――レクスっ!」

 ――至近距離からの水仙の大声で我に返る。いや、返らされる。

 

「っ……水仙、俺は今、何分位落ちてた?」

「えっ? い、2秒とか、じゃないの……」

 

「なるほど、ブッ、これが相対性か……」

 

 右を向いて吐いた唾が唾ではなく血の固まりだった。つまり多分まぁまぁヤバい。でも、本当にヤバい時って痛覚がカットされるって聞いた気がするけど、どうなんでしょう。

 

「いでよ『キャビネット』」

 

 魔力が少ない人でも安心、安全の収納魔法。今後、口癖の欄にはこれを記入しよう。

 

 喋っただけで激痛な中、俺は虚空から掴み出したポーションをガブ飲む。

 

「復っ活! 水仙、作戦を思い付いた。今は黙って協力してくれ。頼む」

 

 実は思い付いた訳ではなく、最初から存在する至極当然な普通の戦法であるが、言っても仕方ないので伏せる。

 

 抱き起こしてくれた水仙の後方、問答無用で人をどつき倒してくる野蛮種族の動きを見ながら立ち上がる。そして瞬時に、それならこっちは問答無用の墓荒らしであることを悟り、少々SAN値が曇る。

 

「っ……う、うん。わかった」

 

 さすがにそろそろ無駄口を叩かなくなった四条家次期当主。というか今更だが、湧き出したスケルトン一体一体がパウンド狙いのMMAファイターのようなアグレッシブさで一斉に襲い掛かってきたらすぐゲームオーバーなのだが、ここら辺がRPG世界の親切設計だろうか。

 

「試行回数1回という心許なさは気合で補うとして、まず次はお前が最前衛に出る。で、殴られる。俺が抱き起こしてポーションを飲ませる。俺がポーションを渡して前に出る。で、殴られる。俺を抱き起こしてポーションを飲ませる。これを一生繰り返す。何か質問は?」

 

「…………冗談、でしょ?」

 

 激苦笑いで頬をヒクヒクさせる水仙。実は俺も自分で言ってて、普段からRPGプレイヤー達はタンクキャラに何て酷いことをさせているんだろう、と思ってはいた。それとも、ラグビーのプロップの上位互換という考え方もアリなのだろうか。

 

「確かに、プロップマジしんどいって聞くぞ……」

 

 フッカーとロックも同レベルって話だし。つまりはタンクもその系統か。

 

「はい、ドラゴンはこっちの空気を読んで待ってくれたりはしません。まぁ結構待っててくれてるって見方も出来ないこともないけど……行ってみよう。なぁに心配するな、事切れる前にポーションをぶち込んで必ずやエレクトを回避してみせる」

 

 そして俺は、早飲ませ0,5秒の称号を得る。多分シルバートロフィー。でも普通にプレイしてたらオールプレイヤースルー。

 

「っ……でも、アンタも今、私を庇って……わかった」

「……」

 

 いや、それは只の確率ですが。まぁ言わんとこ。決意の眼差しで前出てくれたし。

 

 最早憎しみレベルがリミッターの向こう側へ到着してある種の愛が芽生えそうな序二段ドラゴン、その尻尾が三度我々人間を襲う。

 

「――ぅぐっ!」

「あ、最初のアルフェンの分をカウントから除外していた」

 

 これまた失念していたが、尻尾にはノックバック効果があった。なのである意味都合よく前衛へ帰還を果たす瀕死の金髪美少女。顔に付着した土の後が、何故か映える。単純なルックスなら俺は水仙派。ラトーラ派とは仲良くできるが、熾烈な二位争いのリース派とは無理。

 

「ナイスファイト。何はともあれ、飲みましょ」

「っ……んっ……んっ……ん…………ハァ……」

 

 ちょっと慣れてきた介助を経て、四条水仙は仮初の完全回復。出しておいた1本を握らせ、誰かに譲りたくて譲りたくてしょうがないスイッチ、最前衛へと出る。

 

「うわぁ……恐怖の焦らしプレイ……」

 

 スムーズな過程により生まれた攻撃までの短い執行猶予。決意が鈍るから、早くして下さい。

 

「――お」

 

 そこで、天井近くに不穏な連想を促す漆黒の魔法陣。間髪入れずに落とされた無数の剣がスケルトンを一掃し、ドラゴンにもダメージを与える。もうどうしたのって位のレベチな攻撃魔法。そしてどうやら、指示通りに魔法を切り替えてくれた様子。

 

「―――――――――」

「――くっ! ぶ――」

 

 咆哮の後、怒りを乗せた一撃。躱そうと試みるがそれが無駄だと思える速さ。攻撃に転じた時のスピードはマジでどうしようもない。今まで、たまには躱せよ、と思ってゴメン、皆。

 

 そんな感じで俺も吹っ飛ぶ。両腕で顔はガードしたけど、その両腕と胸部と腹部がメッチャ痛い。しかもこの手のMに覚醒する素養はないとみた。

 

「――がはっ!」

 

 そして最も痛い背中着地。折れた骨が内部でグサグサと刺さっているのか、無理やり前向きに感想を述べれば、口の中の血の味がちょっと美味しい。

 

「っ……ほら、飲んで……」

「サンクス。ん……んっ……んっ……ん……フゥ……いやぁ、生きてる素晴らしさを感じるねぇ……癖にはならないけど」

 

「っ……何でそんな余裕なのよ……」

 

「はいタッチ。頼むぞ。普段からの我慢強さを発揮する時が来たって思え」

 

「っ! う……うるさいっ!」

 

 放り捨てるように手を離して立ち上がり、その勢いのままスイッチする水仙さん。

 

 地獄のルーティーンは、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

「――――――」

「――――――」

「――――――」

 

 

 

 画面を見つめているプレイヤーにとっては変化のない退屈なターン経過かもしれないが、中の人目線から言わせてもらえば壮絶な拷問であった。

 

 例えるなら、俺と水仙はバッティングセンターの硬球、投じられては打たれ、戻って放たれてはまた打たれる。本来なら、ボールが2球しかないバッセンなど成立しないが、これをずっと一人でこなし続けていたアルフェンには心からの賛辞と感謝を送りたい。

 

「――んっ……フゥ……う……これ、いつまで続くの? って、ドラゴンが倒れるまでよね……ゴメン、わかってる……」

 

 このゲームにSAN値は実装されていないが、それでも水仙のメンタルが危険域に突入しているのは明白か。是非とも後でメンタルケアを受けてほしい。

 

「11回ずつ殴られて、ブレスが4発……残念だけど、折り返しを過ぎたって感じだなぁ……」

「……」

 

 何かが麻痺し始めている水仙、ブラックバイトの休憩室みたいな空気感の前衛から、俺はまたシフトに戻る。ポジションは今日も変わらず、バットを構えたドラゴンと鉢合わせる最前衛。せめて発生しろ、時給。

 

 そして、欠かせない水分も、過剰に摂取し続ければ命すら落とす。特に俺は、もうあまり一度に沢山の水分を取りたくない思想を得てしまっている。加えて、購入したチートポーションを半分以上消費する見通しについては、後で一人、号泣することだろう。

 

「――ぐっ! あべしっ!」

 

 そろそろ殴られリアクションのレパートリーも尽きる。どうしたものか。

 

「――いっだいっ! んっ……」

 

 身を以て放物線を描いての背中強打悶絶を経て、パートナーによるスムーズな介助からのポーション供給。そろそろお互い、二級ヘルパー位は欲しいと思ったが、それは介護の業界をナメ過ぎだと瞬時に訂正、反省の後、謝罪する。

 

「――じゃ、お願い」

「おぅ、頑張って」

 

 弱音を吐かない所が逆に不気味な金髪少女。間違いなく心を殺している。

 

 なるほど。これがうつ病リスクの一例か。楽しくない時間の連続が抑うつを呼ぶ。やはり人間、楽しく寝て、起きて、食べて、働いて、遊ぶべきだということを再確認する。いや、出来れば働きたくはない。

 

「いや、仕事はある程度嫌々行くものだと、競艇好きの薄らハゲおじさんが言ってたな……」

 

 って誰それ。

 

「――ねぇ」

「っ……うん? あぁ、ラトーラ。どした?」

 

 このどんよりとした休憩室へ来訪者とは、珍しい。たこ焼きの差し入れなら歓迎したいが、そんな夢すら抱ける環境ではない。というか部屋でもない。

 

「えむ、ぴー? 切れたんだけど」

「あー、そっか……っと……はい。多分、次が切れる直前には倒せると思うから、引き続き頼む」

 

 マジックポーションを渡す。

 

「わかった」

「あ……いや、あれ? アルフェンは?」

 

 痛みと苦しみの連鎖、その常態化は人から思考と希望を奪うとかどうとか。とりあえず完全に忘れていた。後方へ目を向けると、視覚から送られる情報に変化はなく、どうやら時間が停止しているらしい。もうどうでもいい。

 

「知らない」

 

 他者への関心という概念が希薄な銀髪の美少女は、休憩室を去る。まぁゆっくりしていきたい空間ではないので、無理もない。

 

 だが。

 

「おいおい……後ろから俺らの惨状は見えてるだろ……せめて一言くらい励まして去れよ……」

 

 くそ。カナト、ラトーラルートは選ぶなよ。個人的には水仙ルートを選んでヤツを救ってやってほしい。裏ボス倒す時も、かなり楽だぞ。

 

「――っ!」

 

 もはや悲鳴も上げなくなった件の水仙さんが、前衛へと送られてくる。今回も安定の両腕骨折。そして俺は、この死地における限界状態によって習得した『無詠唱キャビネット』を用いて、ポーションを取り出す。口癖の欄は、再び白紙に戻る。

 

「――フゥ……ありがと……」

「あぁ、とりあえず行ってくる……」

 

「うん……頑張って……」

 

 この個人経営過労死一歩手前夫婦のような雰囲気、本当に後25ターン弱も耐えられるのだろうか。それでも俺は、前へ出続けることしかできない。本当に行き詰った職場では、外からの支援を受け入れることに用いるリソースすら負担なのである。

 

「ってブレスやん……」

 

 序二段先生が久々に飛行。これだけのターン経過に加え、ラトーラの魔法を浴び続けているため、ビジュアルは大分ボロボロだが、動きの鋭さに変化がない。こっちは骨が折れたら腕が動かんのにおかしいだろ。左の翼、半分もげとるやんけっ、このハゲがぁ。

 

「――っ! うん? あ……」

 

 儚くも、ブレスは俺を跨いで前衛を凍らせる。

 

 ブレスは一番手前しか攻撃できない尻尾アタックとは違い、列範囲攻撃。最後衛は無理でも、そろそろ後衛へ吐いてもらってカルシェラを氷像に変えてほしいのだが、未だに二択を貫いている。そして、水仙がブレスを受けたのはこれで4回目。俺はまだ最初の1回のみ。

 

 ブレスの後は3分程ドラゴンは攻撃してこない。本来ならその凪を謳歌したい所なのだが。

 

「……」

 

 水仙は運のパラメーターが全キャラで最も低い。だが運はクリティカル率と状態異常の掛けやすさ、掛かりにくさを示す数値で、リアルラックとは関係ないはず。

 

「うわ……」

 

 前衛へ引き返すと、しっかり首から下が凍っている水仙。そして足元に置かれているポーション。もしブレスが来たらポーションは手から離すよう伝えておいたが、言われたことはちゃんと出来る人、四条水仙。

 

「ナイスプレイ……」

 

 何か言いたそうな表情で停止している水仙の視線から逃れるようにポーションを拾い、出来るだけ優しく飲ませる。実はもう、お腹たっぷんたっぷんなんです、僕達。まぁ肉壁なんで、業務には影響ないっすけど。

 

 

「――フゥ……ねぇ? おかしくない?」

 

 

 目が据わっている。今までにない圧の強さから、本能的に直視を避ける。

 

「えっ? あぁ、いや……えっ? 何が?」

 

 察していながらも、俺は気付かないふりをした。

 

「っ……」

 

 が、俺よりも遥かに高い力を誇る両手で胸倉を強く掴まれる。

 

「4連続……4連続よっ! アンタ、ブレスはランダムって言ったわよね? なら何で私は4連続で凍らされてんのよっ!?」

 

「いやだから、ランダムっすよ……」

 

「っ! ドラゴンみたいな魔物からは逃げられないことだけじゃなくって、初等部で習ったでしょっ!? 二択を外すのが4連続っ! 4連続よっ! これがどの位の確率になると思ってんのよっ!?」

 

「じゅっ……16回に、1回っす……」

 

 ホントは三択を4連チャンだからもっとヤバい数字だけど、怖くて訂正は不可。

 

「正解…………ねぇ? アンタ、そんなことがこの場の一発目で起こると思う? ねぇ?」

 

 苦しいよりも怖い。そしてこれはもはや絞め技の領域だ。

 

「っ、落ち着けって……」

 

「落ち着け……っ! 私は落ち着いてるっ! こんな何回も何十回も死にかけて逆に今までの人生で一番落ち着いてるわよっ! あの時からアンタの頭がおかしくなったのも知ってるっ! それで少しはまともになったかと思ったら、結局私を騙してたってことでしょっ!」

 

「んぐっ! ちょい待て……」

 

 とりあえず色々と溜まっていたことは察したし、現環境においては俺がDVを受ける側だということも理解した。

 

「いいかよく聞け、ブレスはホントにランダムだっ! これも思い当たることがあるんじゃないのか? お前……そもそもくじ運とか滅茶苦茶悪いだろ……」

 

「――っ!?」

 

 水仙の動きが止まり、副産物的に絞めの強度が幾分下がる。この感じは、思い当たる節があることを如実に示している。

 

 一応まだ仮説の段階に留めておくが、運のパラメーターはリアルラックと相関関係にあるかもしれない。つまり、運の霊薬もアリ寄りのアリだったという可能性が生まれたが、無論覆水は盆に返ってくれない。

 

「とにかくっ! 今ここで口論はマズい。後で振り返りをしよう。一応言っておくけど、俺も今のは酷い話だとは思った。これは本当だ。運の流れってヤツは、実在するんだなとも思えた。で、そろそろ出勤の時間です。最前衛の方へ……はい……」

 

 俺は良識あるガソスタ店員のように、優しい笑顔でポーションを準備し、前方への道を空ける。

 

「っ……あ、ちょっと。私が今ブレス喰らったんだから、アンタがそのまま最前衛なんじゃないの?」

 

「はっ?」

 

 一理あるが、俺の立場的にはとんでもないことを言い出す四条水仙。

 

「いやいやいや、俺ちょっと一旦下がるお腹になっちゃってるんで、その……そういうこと言われると……困るんすけど……ほら、リズムが狂うし」

 

「お腹の話なんかしてないわよっ! 何で私が2連続で攻撃を受けなきゃいけないのよっ! アンタ今ノーダメージでしょーがっ! アンタが前出なさいよっ!」

 

「おいおいおい、じゃあ何か? 四条家では店番をした店員は客が来なかったら給料が貰えないのかっ? 逆に休憩室で休んでるヤツに偶発的な短時間の仕事が入ったらその後の勤務は免除される取り決めでもあんのかっ?」

 

 そんな意味不明な回し方ならそりゃ没落もするわ。

 

「何言ってんのかわかんないけどいいからアンタが出なさいよっ!」

 

 再びドメり出す水仙。コイツ、アルコール入ったら高圧的に絡みつつ暴力振るってきそうなんだけど。

 

「何でだよ……そもそも、人が嫌がることを率先してやるのが四条水仙のアイデンティティだろっ!? 今こそそれを発揮しろっ!」

 

「っ!? 何でアンタにそんなこと言われなきゃなんないのよっ! 冷静に考えたら、もうそんな馬鹿らしい損な役回りっ、こっちから止めてやるわよっ!」

 

「ここでキャラブレとか――ブッ」

「――っ!?」

 

 横っ面にとても硬い感触、つまり空気の読めないドラゴンの尻尾がカットインしてきた。それを瞬時に理解しながら、俺は後衛へ飛ばされる。文句を言えば即時左遷させられる、酷い職場だった。

 

「っ……ま、今はこれで許しておいてあげるわ。ほら……」

「てめ――んぐっ……んっ……んっ……ん……フゥ……」

 

 俺の手からポーションを取って介助に回る水仙。地獄から生還した一時的な躁状態により、水に流すこととして立ち上がる。

 

「うん? は…………おい、カルシェラ……」

 

 ちょうどラトーラの魔法がスケルトン達を掃討してドラゴンへ刺さりまくっているタイミングで、俺はすぐ近くに変わらず座り込む女へと目を向けた。一時的にだが、疑問、怒り、呆れを通過して虚無の領域へ感情が達する。

 

「っ……っ……っ……っ!? ヒッ! ヒイィィィィィィッ!? す、すいませんっ! すいませんすいません……わ、私……」

 

 まるで会長を弔うように念仏のような何かを吐き出し続けていたカルシェラは、俺に気付いて感情を取り戻す。その病的な絵面に、とりあえずこちらの感情は霧散した。

 

 刺激しないよう、穏やかに声を掛けるとする。

 

「カルシェラ、アルフェンにポーションは飲ませて、ないようだが……えっと……どうした? ほら? 緊急事態だってことは、理解、できてるよな? 大丈夫だ。口移しのことは、アルフェンには黙ってるし、バレても擁護派に回るから」

 

「っ……ないから…………じゃ……から…………プ……ない…………から……」

 

 癖っ毛を両手で搔きむしりながら、血走った目で何事かを高速で呟く少女。

 

 凄い。顔が可愛くなかったら普通に気持ち悪い。いや、現状で結構気持ち悪い。

 

「あ、いや……その、大丈夫か? カルシェラ」

「――っ!?」

 

 再びの声掛けに振り向くカルシェラ。つい半歩退いてしまう。

 

「か、顔……顔が……」

「えっ? 何て?」

 

 

「かっ、かかかかかかか顔がタイプじゃないからっ! でっ……で、出来ませんっ! 顔がタイプじゃないからっ! 顔がっ! タイプじゃないからっ! 出来ませんっ!」

 

 

 ドラゴンの咆哮にも負けない大声で、カルシェラは魂レベルでの強い拒否を示す。

 

「……お前、メッチャ声デカいやん……」

 

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