かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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逃避と贖罪とこれからについて 前

「――よし、機能しているようだ」

「っ……何なのよ……それに、いいの? 会長に呼ばれてるのに」

 

「その前に、色々と固めておかなきゃならんことがある」

 

 傍迷惑な称号を押し付けられた次の日、俺はやや強引に水仙を連れ出し、学園から自宅への短い帰路を、ステルスゲームをプレイするような心境で歩いていた。

 

「……おかしくない? この辺り、いつもこの時間は帰宅する学生で溢れてるのに……」

「むしろ好都合だろ。俺達二人が並んで歩いているのは不自然だ」

 

 我が傀儡、クラスメート達の尽力により、人払いが為されているが、それも後数分が限界だろう。ただ、既にもう安全圏は近い。

 

「並んで歩くこと自体は別に不自然じゃないでしょ。同じ生徒会所属なんだから」

「自然な範囲にはアルフェンがいる。そうなると、落ち着いて話せる空間はかなり限られる」

 

 自室に連れ込むのは当人に拒否されそうだし、奇跡的に通ったとしてもリタがいる。俺が四条家へ出向くのは言うまでもなく論外。

 

「……もしかしなくても私、コルフォートの屋敷に足を踏み入れることになる訳?」

「あれ? 逆にもしかして、別に足を踏み入れることは問題ない?」

 

「あるに決まってるでしょ……私が気にしてるのは、仕えてる人達に迷惑が掛かるんじゃないかって話よ」

 

 ゲームの中でも普通に絡みはあるが、水仙とリタはとても相性がよろしい。なので当然、我が両親とは最悪という流れになる。

 

「それはわかっている。こっちも、新たな問題を生む可能性は排除したい。だから、とりあえずこっち」

 

「っ……裏から入るってこと? でもそっちにも人はいるでしょ」

 

「いや、お前の言う通り、屋敷の中は難しい。今日は母君もいるし」

 

 なので、水仙を伴って帰宅すれば、マイマザーがキレ散らかすかこき下ろし倒すかの二択の後、水仙の逆ギレまでは少なくとも不可避であろう。

 

 そんな死地へ赴く趣味はない俺は、メイドの待つ正門は避け、愛馬が繋がれた裏手の西側に大回りで向かう。

 

「馬……何処へ行く気?」

 

「一瞬で着くから、騒いだり文句言ったりはそこで頼む。とにかく、露見してない内に」

 

 説明する前に、もう何を質問したらよいかわからないレベルで荒せばよい。俺のゴーストがそう呟いている。更に正直になれば、ただ単にとても面倒臭い。

 

 そもそも、レクスというキャラクターはシナリオの奴隷第一号であり、考えれば考える程に本来ある流れなどに従う義理はないポジションなのである。ここからは頑張って考えるにしても、細かい部分は場当たり的に歩んでいこうと王の間で心に決めた。

 

 そして、本日も変わらず従順過ぎるコルフォート家の社畜馬。ただ、今回は特に働かせる場面はないはず。

 

「……アンタの後ろに乗るなんて、ドラゴンに会うまでなら考えられないわね」

「所でだけど、本当に八方美人ムーブは卒業するのか?」

 

 個人的には別に構わんけど、これもシナリオ改変の一要因になることは避けられないであろう。そう思いつつ、水仙の手を取って後ろへ乗せる。

 

「別に、我慢するのを止めただけ。私自身は何も変わらないわ」

 

 我慢は四条水仙を形作る主要成分なのだが、指摘すると面倒なので止めておく。

 

「…………」

 

 何か言ってからにしようかとも思ったが、こんな時、何て言ったらよいのか分からず、とりあえず転移を発動させる。

 

「――っ!?」

 

 淡い光による瞬間的な演出を経て、二人と一頭は空間を跳躍し、狭い小屋の中へとやってくる。

 

 

「…………え……っ!? 馬ぁっ!? は――ちょっ!? いったぃっ! こ……このっ! あ……っ、名前聞いてないし……」

 

 

 死んだ魚のような目で椅子に座っていたローリーはワンテンポ遅れて我々の登場に気付くと、驚いた後にキレ、バランスを崩して後ろへひっくり返るという、中々のリアクションで出迎えてくれる。

 

「うん? こいつの名前はアルレッキーノだ。まぁ今命名したんだけど」

 

「馬じゃねぇよっ! っ! じゃなくて馬連れてくる必要ねぇだろっ!? 何考えてんだよっ! な――えっ? 誰その美人。もしかして、今度は誘拐?」

 

「そんな訳がないだろ……一体どんな発想でそこに行き着いたんだよ……」

 

「っ……いきなり馬に乗って室内に踏み込んできたヤツが何言ってんだよっ。次来る時は馬は要らないって言っただろ!」

 

 まぁ、ローリーが多少キレても愛くるしいだけだから問題はない。それに、このセーフゾーンまで来れば、もう気を遣う必要もない。

 

「……ねぇ? まず最初になんだけど、ここは何処?」

 

「いや、水仙。まずと言うならまずは馬を外へ出す所からだ。とりあえず降りろ」

 

「っ……つまり、この馬はそういう力を持ってるってこと?」

「いや、その馬は只の馬だよ……」

 

 さっき要らん言うたやん、というノリで指摘するローリー。

 

「はっ? なら何のために私達は馬に乗ったのよ?」

「いやだから意味なんてないんだって……ちゃんと説明してから来てよぉ……」

 

「……貴女、何歳? どう見ても、まだ子どもよね?」

 

「いや、ローリーに年齢という概念はない。とにかく話が進まんので紹介し――ドゥドゥドゥッ。いやっ、その前に水仙、ちょっと外に繋いできて」

 

 やはり馬が落ち着ける空間ではないのか。従順なはずのアルレッキーノが抗議の鳴き声を上げる。

 

「っ…………ハァ……ほら、大丈夫よ、こっちに来なさい」

 

 何とか踏み止まってくれた様子の水仙は、優しく撫でながらアルレッキーノを小屋の外へと導く。

 

「それで、今日は何をしに来たのさ?」

 

「あぁ、実際申し訳ない。ここ以外に落ち着いて話せる場所がなくて、ついでに、色々と知恵を借りたい。頼むよ。無の境地に至って100年経ちましたみたいな顔してたし、どうせ死ぬ程暇なんだろ?」

 

「ぐっ……最悪なトコ見られたし……」

 

「――何なのよここ……周り何もないじゃないの……」

 

 軽く周囲を見渡したのか、水仙が凡庸なリアクションで戻ってくる。

 

「ここは西の果てだ。誰も訪れないというだけで、怪しい場所ではない。とにかく紹介しよう、彼女は四条水仙。限界まで鍛えれば、この世界で最もタイマンが強い人間だ」

 

「はぁっ!?」

 

 未だ知らぬ事実に、当の本人が驚愕している。

 

「へぇ、そうは見えないけど」

 

「で、こっちがローリー。ここの主であり、所謂神の使いのような存在だ。それ以上は考えなくていい」

 

「っ……そんなの到底無理な紹介の仕方なんだけど……」

 

「けどまぁ、そこまで外れてはいないよ。自分でも説明できないし」

 

 助かることに、あんな雑な説明で概ね納得してくれるローリー。

 

「では……まずは一問一答コーナーを設けよう。水仙からしたら、そうしないと落ち着いて話が出来ないだろうし。でもこのシークエンスは手早く済ませたいから、程々で頼む」

 

 俺は転移地点となっている椅子に腰を下ろし、その対面を水仙に勧める。

 

「……わかった」

 

 提案に頷いた水仙は素直に椅子へ座る。

 

「あ、二人共、その制服って、魔法学園のだよね?」

「あぁ、それは知ってるんだな」

 

「断片的にね。けど良かったよ。それなら、味方をしても問題なさそうだし」

 

 確かに、あくまでプレイヤーを助ける設定だから、その関係者でなきゃ困るのだろう。納得したローリーは、倒れた椅子を戻し、カウンタ―を挿んで座る。

 

 そういえば、普段は取り繕っていても、根はガサツで女子力も低い水仙。腕も脚もイイ感じのギャルみたいに組んでいて、少なくとも、我が妹やカルシェラとは座り方も纏う空気も別種だ。

 

「……まず、アンタは誰なの? レクスじゃないのはもう知ってる」

「あ、そこからか……」

 

 一撃目に最も説明不可なヤツが飛んできた。

 

「レクス……っていうか、何でウチらだけ名乗ってアンタはスルーしたんだよ……」

 

「いや、そもそもローリーはあだ名だろ。で、もうそれについては一回しか言わないから、よく聞いておいてくれ」

 

「……」

 

 と言いつつ、この間にどう説明したらよいかを熟考する俺。加えて、冗談を言ったら暴力に訴えそうな雰囲気の水仙さん。

 

「いいか? 俺はあの時お前にボコされて頭を打った以前の記憶がない。そして、何故だかこの世界のことだけやたら詳しい状態になっている。で、頼むからこの説明で納得してくれ」

 

 1ミリも茶化す空気を出さず、真っ直ぐに相手を見て言う。ただその内容は、我ながら頭がイッてしまっている。

 

「……確かに、あれからアンタは変わった。それに、ドラゴンのことも……もし何も知らなかったら、私達はあそこで全滅していた……」

 

「へぇ、ドラゴンって、何ドラゴン?」

「うん? 序二段」

 

「雑魚じゃん……」

 

 大変お耳が痛い。チートポーションガブ飲んだって言ったらどんな顔するか。

 

「質問を増やさないでよ……」

 

「悪い悪い。で、ついでに。俺は家族や領民や学友やその他諸々に対して虐げる気はない」

 

「明らかに虐げてるヤツの言葉じゃん……」

 

 ローリーちょっと黙ろうか。

 

「……馬車の中での言動も、今思えば演技だと考えた方が自然よね……わかったわ」

 

「っ……マジか……こっちから言っておいて何なんだけど、すんなり信じ過ぎてないか?」

 

 まぁ水仙は、全キャラ中最も詐欺にハマりそうであるけど。ちなみにカルシェラがハマりやすいのは詐欺じゃなくて単純な脅し。

 

「アンタが嘘を吐いている可能性については、ここ数日ずっと寝る時に考えた。その上で、ドラゴンとの戦闘が全てを物語ってる。私はそう結論付けただけよ」

 

「うん? 何でドラゴンと戦うと記憶喪失とかあり得ない知識とかがスルー出来ちゃうの?」

 

「いやそこは色々あんのよ。しかも実際問題、アレがなかったらこっちもここまで赤裸々にカミングアウトしなかっただろうしな」

 

 取り繕う余裕のない状況で、面と向かってコミュニケーションを取り続けたのは水仙だけな訳だし。

 

「それじゃ、次の質問よ。アンタはこれから、どうするの? いや、これじゃ抽象的かも……つまり、目的は何なの?」

 

 何か、意外と質問が優しいな。そもそも、何で色々知ってるのかって部分をクリアしてしまうと、特に答えにくい質問も見当たらない。

 

「目的……ちょっと状況が変わってきたから何ともって話もあるんだけど、そうだな……ローリー、この辺りの土地って、作物育ったりするのかな?」

 

「はぁ? 知らないよそんなこと。でも、チートポーションを撒けば、痩せた大地にも十分な生命が宿るだろうけど」

 

「マジか……なら、この辺りに移住して、自給自足生活でひっそりと暮らしていくのもいいかもな。ちなみにローリー、俺がここの隣とかに引っ越して来たら無理?」

 

 ワンチャン世捨て人ルートはグランドエンドを迎えられるかもしれん。

 

「えっ? っ……別に、ウチは構わないけど……」

 

「っ……ちょっと、何言ってるのかわからないんだけど、もしかして、それが目的とか言い出さないわよね?」

 

 すんなりルート確定かと思われた矢先、水仙から向けられた眼差しは厳しめ。

 

「でも実際、100パー冗談でもなかったりはする。その、ローリーなら知ってるかもしれないけど、俺ら生徒会は勇者の称号を得てしまった」

 

「勇者……この世界、じゃなくて、国? ソーサリーキングダムが成立して以来存在しなかったってヤツだね。ただ、ウチとしてはやっぱり都合がいいよ。その勇者がより高みを目指す場合のサポート役な訳だし」

 

 意外と設定準拠なローリー。だからこそ、話が合ったのだろうか。

 

「……その、得てしまったっていうのは、どういう意味なの? あの会長だって、困惑しつつも大喜びだったのよ? 少なくとも、名誉なことでしょ」

 

 ここら辺については一般的理解に留まっている様子。普通に当然の話だ。

 

「名誉なのは間違いないけど、この後の展開は結構しんどいぞ。すぐにではないと思うけど、そう遠くない将来、王様から禁域を調べてこいとか言われるから」

 

「……禁域って、東の果てのことでしょ? あの先には何もないって、そう習ったわ。アンタは憶えてないかもしれないけど」

 

 それはまぁよくある浅い設定なんすよ。

 

「一気に全部説明してもだよなぁ。正直、俺がスローライフエンドを迎えるのとは関係なく、今の生徒会の戦力じゃ、禁域は無理ゲーだから……逆に、水仙の目的って何になる?」

 

 当たり前に考えれば、やはりお家復権か。

 

「私の? 私は……」

 

 逆に問われる形となったが、その瞳に迷いは見られない。確かに、塔へ向かう馬車の中で話した時とは、少し印象が違う。

 

「ちょっと前なら、四条家のために何ができるか、考え続けることだったけど、ずっとそう思いながらも、もし生まれ変わったら、そんなつまらないこと放り出して、自由に生きたいって願ってた。今は……そうね。まずはアンタに、今までのことを償ってほしいって考えてた」

 

「えっ? 俺っすか?」

 

 見えない所から打撃を貰う。

 

「うーん……部外者目線だと、途中から一気にわからなくなったんだけど、そもそも何で生まれ変わったらの方に舵を切ったのかがわかんない……」

 

「それは……ほら、生死の境を50往復位した末に、見出した道だろ」

 

「いや数がおかしいって……一体何があったんだよ……」

 

 それが、ゲームの世界ではざらに起こるカジュアルな悲劇だったのだよ。

 

「あ……それに、償ってほしいって、やっぱりレクスって極悪人なんじゃんっ! やっぱ移住はなしで」

 

「おぉゴッド……」

 

 そういえばで当然な流れではある。

 

「いやでも、償うって……どうやって……」

 

 意識を取り戻した直後に考えた禊ルート。だが、その道は茨以前に、道自体が完全に閉ざされているように感じられた。

 

「……」

 

 

 だがそれでも、水仙がそう願ってくれるなら、というイメージが一瞬過ぎる。何より、許されるために動くのではなく、何が償いになるのかを考え続けることが、贖罪のスタート地点に立つための唯一の道か。ただ、考えようによっては、そんなものはないって話なのだが。

 

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