かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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昏倒と骨折り損と懺悔の幕開け

「――――あ、ちょっとローリー。俺、パトラッシュの様子を見てくるわ」

「ざけんなっ! しかも馬の名前はアルレッキーノだろっ!」

 

 皺になるので止めてほしいが、想定通り、ローリーは易々と俺を店外へ出したりはせず、縋り付くように上着をガッチリ両手でホールドしてくる。

 

「――ちょおまマジ掴むなってっ! というか、こんな店いられるかっ! 俺は出ていくっ!」

 

「逃がすかぁっ! 大体っ、この後の展開なんて決まり切ってるじゃないかっ! 全部レクスの責任だろっ!」

 

 最悪だ。このロリの方が力のパラメーターが高い。どんだけ貧弱なんだレクスっ。生きて帰れたら、ハードなトレーニングを日課に加えよう。

 

「わかったわかったわかったわかったっ。一緒に逃げよう、ローリー」

 

 柔道の試合のような様相を呈してきたが、ヤツは裾を決して離さない。

 

「何かイイ感じの声で言うなっ! それに、こっから出れないって言っただろっ! 絶対分かってて言っているしっ」

 

 くそ。無言で外へ飛び出す、がアライブな選択肢だったようだ。だから頼む、クイックロードさせてくれ、世界よ。

 

「「―――――っ!?」」

 

 そうこうしている内に、時は来てしまう。見た目は何てことない木製の扉だが、今の我々には死の門のような禍々しさを放っている。

 

 そして開かれた門から姿を現したのは、両目を充血させている金髪の美少女。身から放つ殺気は想定の3倍、肩と腰に申し訳程度の装飾を施した水着を着用している。そういえば、ハイレグアーマーとかいう嘘みたいな名前の防具だった気もする。

 

 尚、本当にどうでもいいが、その醸し出す雰囲気と見た目のギャップによる恐ろしさの相乗効果は、動物の着ぐるみが血濡れのナイフを握り締めている類の怖さに近いものなのかもしれない。

 

「……ねぇ? 私、確認したわよね? コレを装備すれば、問題なく読むことが出来るって。そしたらアンタ、間違いないって言ったわよね? そうよね? ねぇ、どうなの?」

 

 完全に病みの属性を放つ四条水仙。断っておくが、このゲームはそういうジャンルではない。そして少なくとも、目の前の女は序二段ドラゴンより遥かにおっかない。

 

「頼む、落ち着いてくれ。俺にとってもガチで計算外なんだ。つまりこれは悲しい事故だ。そもそも、この場でお前を騙して俺に何の得がある? そこも含めてもう一回考えてくれっ!」

 

「そんなことはどうでもいいのよ……今の私は、ただアンタを絞め殺したいだけなんだから……」

 

 駄目だ。もうトークコマンドが非表示状態になってしまったっぽい。

 

「なら――ばっ!?」

 

 もう一つの脱出口、2メートル先の転移椅子。だがその極短い経路は、赤毛にツナギという出で立ちの小さき悪魔によって遮られていた。

 

「もう観念しなってレクスっ!」

 

「き、貴様あああぁぁぁぁっ! 何故っ! こんなクソみたいな場面に限って鋭い読みを発揮しやがっ――――ぶへぁ――――」

 

 絶望による激昂の最中、背後から左腕を取られたと思った時には、もう首をへし折られているかのような感覚を残して、俺の意識は途絶していた。

 

 最後の思考は、背中に触れた柔らかな感触についてと、チキンウィングフェイスロックは異世界でも存在するのか、という内容だった。

 

 

 

 

「――――はっ!? あ…………首は……おぉ、てっきり半身不随かと……」

 

「――仕方がないから、チートポーションを一つだけサービスしといたよ。思い出したけど、一応は上客な訳だしね」

 

 カウンタ―に突っ伏す体勢から起き上がると、呆れ顔のロリっ子に迎えられ、転生生活は未だ継続中という事実も含め、全ての現状が思い出される。

 

「――それじゃ、次は私の番でいいわよね?」

「えっ? 何の話?」

 

 俺を半殺しにした水仙は、転移椅子にどっかりと座ってジト目を俺に向けている。当然、俺が三途の川へ運ばれている間に着替えた様子。

 

「何? もう一回絞め落とされたいの?」

 

「いや、間に合ってる。それで、そっちのターンは俺に何をさせる感じ?」

 

 これ以上恍けるのはリスクが高いと瞬時に本能が判断した様子。だが、実質無駄にターンを消費しただけの俺サイドは余りに痛過ぎる。

 

「そうね……まずは…………家族。両親は……和解自体が成立しないかもしれない。でも、妹さんは可能でしょ? そこから始めましょう」

 

「……………………」

 

 マ?

 

「何? 何で停止してんのさ。さっきは珍しく真面目な感じで意気込んでたのに」

 

 現実を知らないローリーの言葉に罪はないが、初めの一歩とするには壁が高く、そして余りにも強固なように思えてならない。

 

「アンタが把握してる兄妹仲から見れば、確かに不可能かもしれないけど、さっきも言ったように、アンタはレクスじゃないんだから、それを信じてもらうことができれば、和解は十分可能よ」

 

「むしろそれだけのことをした存在が既に消えてるって知ったら喜びそうなもんだけど、まぁそこまで単純な話じゃないんだろうね」

 

「なる……ほど……」

 

 考えてみれば、俺がようわからん転生体だという限りなく事実に近い仮説を、もう既に目の前の二人は信じてくれている。バリバリにメタな情報を表に出している漠然とした不安を除けば、今後はどんどん力で押していけばイイのではなかろうか。

 

「ただ、現実的な話、俺とトリシャじゃ会話が成立しない。こっちの顔を見ただけで要救心な感じ――じゃなくて、酷く震えて怯えてしまうから」

 

「そこは、私が間に入るわよ。そもそも、アンタ一人の言葉じゃ、こんな馬鹿げた話、まず誰も信用しないわ」

 

「あ、一応、馬鹿げた話だっていう認識はあるんだな」

 

「決まってるでしょ。頭を打った位で何処かの誰かと中身が入れ替わるなら、今頃世界はもっと混沌としているはずよ」

 

「そりゃ道理だね。けど、なら何で水仙は割とすんなりレクスの話を信じたの――っていうのは、さっきからしてた話か」

 

「そう。だけど、個人的に確信を持てたのは、やっぱりその顔よ。レクスはもっと、常に下卑た表情をしていたわ」

 

「最早全く要らない情報なんだけど、その顔一回見てみたいっていうのはあるな……」

 

 きっと腐敗貴族だけが纏えるオーラの根源とも言える、選ばれし者だけに許された品の無さなのだろう。一応、それっぽい表情の練習には2時間程の手間を割いたのだが、やはり付け焼き刃では届かない境地だということか。

 

 まぁとにかく、やると決まったなら行動あるのみだ。正直に言えば、先にアルフェン対策と水仙の金剛陣習得を急ぎたい所なのだが、それを押せる状況ではないし、押しても武力で分からされるのは予定調和であろう。

 

「えっと、早速動きたい所だけど、何か具体的な策はあったりする?」

 

 言い出した方にプランがあるなら、乗っかりたい所ではある。

 

「直接会って、話をする。後は、あの、リタさん、だったかしら。彼女にも同席してもらうのがいいかもしれない」

 

「あぁ、お前リタと気が合いそうだよな。筋が通ったこと大好物なトコとか」

 

 というか、仲良さげに話す掛け合いはゲーム内において複数存在する。

 

「筋が通ったことが嫌いな人間なんて碌なもんじゃないでしょ……」

 

「言われてみれば、レクスの通す筋ってちょっと独特だよね」

 

「いやいや通常だろ。最初に店来た時も、普通に良識を備えた客だっただろ」

「良識を備えた人間は嫌がる馬を狭い店内に引っ張り込んだりしないから」

 

「はっ? 何でそんなことしたのよ? そもそも、外に繋いである馬って、ここへ来るのには必要なかったんでしょ?」

 

「いや、気持ちの問題だ」

「もうホントに何言ってんのかわかんないんだけど……」

 

 これは様式美に近い概念か。ただ、俺の内なる何かがそうすべきだと叫んだ。何とかその思いを伝えたいのだが。

 

「こういう所も、以前のレクスなら考えられないわ」

 

 一々苦言を呈してくるローリーに対して、水仙は淡々と頷きを返す。今更ながら、彼女と協力関係を結べたのは非常に大きいと言えるだろう。

 

「まぁ、善は急げで、今から屋敷へ向かう感じでイイ?」

「もちろん、嫌がってもそうするつもり」

 

 しかも、モチベが高そう。

 

「てかローリー、本当にこっから出れないのか? 試しに出てみたら……あー、身体が溶けるとか?」

 

「怖いこと言わないでよ……ただ、柔らかい壁にぶつかったような感じで、出られないってだけだから」

 

 ゲームでもよくある、それ以上何故か進めない状態を、リアルに落とし込んだ演出なのかもしれない。

 

「一応受け入れるけど、信じられない話ね……」

 

「あ、水仙さ、一回『アリアン・フィールド』パナしてもらって、この小屋ぶっ飛ばしてもらってもいい?」

 

「はぁっ?」

「ほら、こういうことサラッと言うんだよ。この人」

 

 純粋なる探究心が何故かディスられる。これが世界間ギャップの一つなのかもしれん。

 

「この小屋、見た目はボロいかもだけど、絶対に壊れないよ。横綱ドラゴンのブレスでも、傷一つ付かないから」

 

 つまりそれは、一撃死確定の攻撃にも耐えられるということを意味する。

 

「それは凄いな……何かあったら、ここへ避難するのもアリ、か……」

「ねぇよ」

 

「えっ? 今何ドラゴンって言ったの?」

 

 

 とりあえず、俺と水仙は屋敷に戻ってミッションスタートという流れに至った。また、話題にするのが怖かったため、ハイレグアーマーは一旦この場に置いておくこととした。作用しなかった原因については、改めて考察の時間を設けたいと思う。

 

「――じゃ、また近い内に来るから、そん時は何かお茶と摘まめる菓子系も用意するわ」

「そんなことより、次来る時はホントに馬は要らないから。言っても無駄かもだけど」

 

「いや、そのフラグは回収したし、もうヤツを連れてくることに意味はないよ」

「だから分かるように喋ってよ……世界が違うんだから」

 

 お前も人のことは言えんだろって話だが、面倒なので口には出さない。

 

「よし、目的地も都合よく目の前だし、早速向かおう」

「ちょっと。今話してたでしょ」

 

「えっ? あ――」

 

 呆れ顔で小屋の外を指差す水仙に、気付きを得る。そして、若干面倒臭い。

 

「……ローリー、飼う?」

「いいから早く連れてきなよ……」

 

 どうやら、この幼女はこんな僻地に一人でも寂しくはないらしい。アネクメーネへの長期単身赴任にも耐えられる、強靭な精神の持ち主だ。

 

 

 その後、部分的に反抗するアルレッキーノとの格闘を経て、俺と水仙は屋敷の裏手へと帰還する。何と、学園終わりからの迅速な行動が功を奏し、時刻的にはまだ昼間と呼べる時間帯ではある。

 

「――うん……父上は不在、母上は今日も、コレクションの宝石達を愛でるのに忙しいから、屋敷の最奥に引き籠っていることだろう。とりあえず、一旦は俺の自室を目的地としよう」

 

「っ…………まぁいいわ。それより、本当にその母上はアンタの部屋には来ないの?」

 

「来ない。それに、使用人達は我関せずだと思うから、多分問題はない」

 

 屋敷の敷地が広大であることも一因だと思われるが、彼らが俺の部屋周辺のエリアに足を運ぶことはない。きっとそう決められているのだろう。

 

 早足で正面側の門へ移動すると、何回か会話した覚えのあるメイドさんが、主の帰りを待っている。隙間時間に満ちた職務と言えよう。

 

「――っ!? お帰りなさいませ、レクス様」

 

 当然ながら、同伴している相手の顔を確認し、驚愕の表情を見せる栗色髪のメイドさん。多分二十代中盤。

 

「まぁ何とは言わんが、他言無用で頼む。それと、こっちの対応はもういいから、リタに俺の部屋へ来るよう伝えてもらっても構わないか?」

 

「か、かしこまりました……失礼致します」

 

 彼女も大分、俺と話していても怯えた様子を見せなくなってきたが、まだまだ疑心暗鬼の領域かと思われる。想像も出来ないが、本来のレクスなら、相手を絶望させるために敢えて油断するまで理不尽を封印するという、暇な趣向を凝らすことに余念がないのかもしれない。

 

「……それにしても、広い屋敷ね」

「うん。不便で仕方がない」

 

 スケール的にはスタジアムで寝泊りしているような気分ではある。

 

「ハァ……今は本音だって分かるけど、他の人なら絶対そうは取らないわよ」

「分かってるって。でも、お前だって住んでみりゃ分かるぞ」

 

 自分が小さい子どものままなら、屋敷の中を探検し始める所だが、生憎とそういう欲求は全く湧いてこない。

 

 手入れは行き届いているが、絶対に必要ない広大な庭を抜け、自動ドアの役目を課せられたメイドの手によって、我々は並んで屋敷へと足を踏み入れる。

 

「……凄い数の給仕係ね……」

「それな。かと言って、リストラクチャリングするのもちょっとなぁ……」

 

「何それ? 魔法?」

 

 面倒な会話は広げず、唯一オートパイロットで辿り着ける憩いの自室へ急ぐ。その間、すれ違う誰もが水仙の存在に驚きを隠せない様子だが、さっきのメイドさんが周知させてくれることに期待しておく。まぁそもそも、彼女らが両親にチクることなどありはしないだろう。

 

「――よし、トラブルなく辿り着くことができたな」

「っ……豪華というよりは、悪趣味な扉ね」

 

「俺もそう思う」

 

 そういう感覚が共有できる点は素晴らしいとも思う。が、そんなことは置いといて無意味にデカい扉を開いて中へ招く。

 

「――――え…………」

 

 特に焦る必要はないのだが、扉を閉めておくことにする。多分すぐにリタが来るだろうが。

 

「うん? どうした?」

 

 またもやフリーズしている水仙に声を掛けるが、その反応は非常に鈍重であった。

 

「――あ……な、何で……部屋に何もないの?」

 

「何言ってんだ? 分かり易く中央に主張の激しいソファがあるだろ。しかも、それを囲むように安っぽい収納籠もしっかりと存在感を放っている」

 

「っ! だからっ! それしかないじゃないっ! こんな広い部屋に、物がコレだけなんて……えっ? レクスの部屋って、こんなだったの……」

 

「あーいや、不用品は全て売っ払ってガバチョに変えた。そうでなきゃ、何億ガバチョも持ってる訳ないだろ」

 

「うっ……た? そ、そう、なの……レクスは、貴金属や宝石、絵画の収集が趣味だとは聞いてたけど…………全部売ったら、幾らになったの?」

 

 いや、とりあえず中の方へ入ろうぜ。

 

「幾らって……えっと……あれ? 5億位、かな」

「――――ごっ!?」

 

 何かもうよく覚えてない。大半はポーションに消えたイメージだし。残っているのは民への罪悪感だけだ。

 

「別世界に来た訳でもないのに、リアクション祭で話が進まんな……とにかく奥の方へ行こうぜ。真っ金金のソファしかねぇけど」

 

「――っ!? 待って……あの、隅にあるのは何?」

 

 何とか動き出した水仙が、たった3歩でまた足を止めてしまう。そろそろ面倒臭い。

 

「あん? あぁ……見ての通り、宝石だよ。何かあった時のためのへそくりみたいなモンだ。気にするな」

 

 テキトーに転がしておいたサファイアボールは、部屋の隅で寂しく光を反射させていた。

 

「あんな大きなサファイア、見たことないわ…………アレで、幾らになるの?」

「えっ? 確か、一千万とか、かな」

 

「っ……う……何か、頭痛がしてきた……」

 

「何でだよ……それより――――」

「――――レクス様、お呼びでしょうか?」

 

「お」

 

 そりゃそうって話だが、知らせを受けたリタがすぐに参上してくれた様子。

 

「開いてるから、とりあえず中に入ってくれ」

「承知しました」

 

 ワンテンポ置いて、扉が開かれる。

 

 

「―――――っ!?」

「―――――っ!?」

 

 

 そして当然ながら、俺よりも手前にいた水仙と入室したリタは、ばったり顔を見合わせる形となる。どうやら、水仙の来訪は共有されていなかったらしい。他言無用の目的語が適切に伝わっていなかったのだろう。

 

「…………」

「…………」

 

「うん?」

 

 無言のまま、既に数秒を過ぎて見つめ合っている二人。別に顔見知りのはずなのだが、今度は俺の方がワンテンポ遅れて、その原因に思い至る。

 

 

「何で…………そんな格好をしているの?」

「…………」

 

 その指摘通り、リタが着ているエロベクトルに飛び出た忍び装束は、給仕に適しているとは言い難い格好ではあった。

 

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