かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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誤解と萎えと次のおつかい

「――あ……」

 

 特に俯瞰する程の状況でもないが、給仕係としては些か不適切と考えられる格好のまま、リタは俺の私室から出て、訪ねてきた生徒会長に応対しようとしている。

 

 もちろん、水仙が同室している事実とこの世界の文化的な背景により、それが必要なことであるのは重々承知している。だがしかし、どう考えても二人を隠れさせて俺が応対した方が現状の悪化は防げると思われる。のだが、時既に遅し。

 

「――ちょっとっ、アンタも――」

「――っ」

 

 有無を言わさぬパワー差により、首根っこを掴まれた俺は水仙と一緒にソファの陰に強制ステルス。こうなるとやはりファンタジー世界は知力よりも筋力が重要だと痛感する。深く考えなくても物騒な世の中だ。

 

「――はい」

「――っ!?」

 

 そして、予定調和のようなアルフェンのリアクション。表情を確認する必要もなく、出てきたメイドの姿に驚愕していることが、届く息遣いからも明らかだった。

 

「……」

 

 一瞬、あれこそがコルフォート家における給仕係の正装であると宣いたかったが、既に他のメイドに案内されてここまで来た背景を踏まえると、父親の趣味で仕方なくという路線は絶望的か。

 

「水仙……あんなヤバい姿をしたリタが俺の部屋から出て、俺は後から行くと伝えたら、アルフェンは状況をどのように解釈すると思う?」

 

「はっ? 何が…………っ!? う……そう、ね。レクスと会長は、特に個人的な付き合いは無かったと思うけど、多分……そのまま解釈するんじゃないかしら……」

 

 ここに来て、露骨に目を逸らす水仙。

 

「最悪やん……俺の中では、アルフェンはいずれ仲間になるポジションにいたというのに、これじゃあ、陽も落ちねぇ時間から自室でメイドに手ぇ出してる最低なヤツ設定で固まるじゃねぇかっ!?」

 

 ただでさえ腐った家柄と金だけのクズだと思われてんのに、そっち方向のネタまで加わったら、もう取り戻せんレベルで好感度は地に落ちるぞ。いや、更に地中を掘り進むの間違いか。

 

「ちょっとっ、声デカいって……いいからもう少しだけ待ってて」

「――――っ……」

 

 今度は素早く引き寄せられて後ろから口を塞がれる。今後、水仙の間合いに入る際は、一瞬でこの状態まで持っていかれてしまう事実を念頭におくべきかもしれない。

 

「――レクス様。私がアルフェン様を応接室までご案内致します。水仙様には、他の者に声を掛けさせますので、お二人は少し時間を置いて、別々に足をお運び下さい」

 

「あ、ありがと。リタさん」

「っ……」

 

 もう手ぇ離してよくねぇかと思うが、タップという文化がないのか、何度金髪暴力ゴリラの手首をノックしても、応答が得られない。

 

「――フゥ……何とかなったわね……」

 

「――ぅはっ! っ……ハァ……ハァ……まぁ、もうしょうがないな。公の婚約設定よりはマシだと捉えよう」

 

 本当は軽く文句を言いたかったが、武力で分からされた後遺症か、強気に出る気持ちがあまり湧いてこない。

 

「……そうね。会長は敵じゃないと思いたいけど、今はとにかく、この状況を見られなかったことを良しとするべきよ」

 

 まぁそれに関しては、結構な確率で敵に回るんだが、個人的には絶対に阻止したいルートであることは変わらない。

 

「わかった。とにかく、アルフェンがどう出てくるかだな……」

「――失礼致します」

 

 そして、考える暇もなく新たなメイドが到着する。多分、リタが上手く事情説明しておいてくれたことだろう。

 

「とりあえず、水仙はどういう訳か生徒会室へ行くのを失念して一心不乱に帰宅、俺以外の他のメンツと入れ違いで王様んトコに参上、バックレた俺に激怒して乗り込んできたって設定でいこう」

 

「……かなり嫌だけど、それが一番自然ね……帰宅理由に関しては、家に用事があったことにするわ」

 

「えっ? でも四条水仙ならそれは会長に予め伝えとくだろ。超神経質人間なんだから」

 

「っ……だから、急用が入ったってことにすれば……っ、何でアンタにそんなこと言われなきゃなんないのよっ」

 

 返された反応は完全に図星を突かれて逆上する人間のそれだが、そのノリが今後も続くのは避けたい所だ。

 

「ちょい落ち着け。暴力は止めよう。暴力で来られると俺瞬殺で全負けだから。お前はもうちょっと自分の腕力の強さを自覚した方がいい」

 

 感覚的には小6が小2をいじめるレベルだと思う。スポーツ選手の子どもとかだったらワンチャンあるかもしれんが、俺は生憎腐敗貴族の倅(せがれ)である。

 

「アンタが貧弱過ぎるだけだから……」

「わかったわかった。今日から筋トレするから、メイドさんと一緒に先行ってて」

 

 そうは言っても、チュートリアルかませキャラに力強さを求められても困るって。

 

「……まぁいいわ。多分、リタさんを説得するのはそれ程難しくないと思うし」

「そうかなぁ……」

 

 彼女の根源的憎悪を甘く見過ぎな気もするが。それでも一応、話は聞いてくれそうなのは同意できる。

 

 

 忍者に続いて金髪を見送った俺は、一旦ソファの定位置に腰掛けて気持ちを沈めて思考タイムへ入る。

 

 何か、今考えておくべきことはないだろうか。

 

「…………」

 

 と言っても、前日譚であることに加え、完全に正規ルートを外れてしまった今、俺に残された対処はもうケースバイケースで臨機応変に、しか残されていないのではなかろうか。とりあえず、いつ死んでもおかしくないという心構えは持っておこうと思った。

 

 少しテンションを落としつつ、俺は自室の扉を閉める。

 

「…………あ」

 

 応接室ってドコやねん。

 

 この屋敷マジで広過ぎだし、友達いないから来客もない。中古買取の人達は応接する感じじゃなかったし、どうしたものか。

 

「………………ふむ」

 

 パン。

 パン。

 何となく、俺は柏手を二つ打ち鳴らした。

 

「――おぉぉっ!?」

 

 すると、緊迫の形相でこちらへ駆けてくるウサ耳メイドと犬耳メイドの姿が。彼女らはまるで競い合うように、俺目掛けて長い廊下を全力疾走で向かってくる。

 

「お待たせして申し訳ございません、レクス様」

「お待たせして申し訳ございません、レクス様」

「……」

 

 学園での鬱体験がデジャブる。

 

「ご苦労……キミ、応接室まで案内してもらってもよい?」

「――はい。こちらです」

 

 便利さと虚しさと罪悪感。これでいいのかコルフォート。まぁいいんだろうねぇ。

 

「…………」

 

「あ、キミは、自分の仕事に戻って」

「はい。ありがとうございます」

 

 何が。

 

 なんていう問い掛けは置くとして、俺はウサ耳に付いていかねば。一方で犬耳メイドの方は、隅に寄り、来た廊下を引き返していく。

 

「…………」

 

 ふと、これを以て最後にしたい郷愁が脳裏を過ぎる。

 

 価値観が違うと言えばそれまでだが、加えて、他者からの悪意を感じ取れない、自身を客観視できない、そんなレクスは、この生活に疑問を覚えることもないのだろう。これも、腐敗貴族あるあるの一つなのだが、当人的には傷付かなくて幸せな部分もあるのかもしれん。

 

 ネットでも、文字にして並べたら相手にどう映るかも想像できず、ヤバいコメントや書き込みを垂れ流し続ける人間は後を絶たない。初対面でいきなり腕を組んでくるようなのも、嫌だと思う人は普通にいるが、どれも本人にはそもそもの悪気がない。

 

 心が折れる敗北を重ねて辿り着いたのが人の粗探しというのは何とも言えんが、きっと、他人の足を引っ張るよりも自分の足で登ろうぜなんて今更言われてもなメンタルなのであろう。

 

 ただまぁ、それも人の世の奥床しさだし、別に正解のない話だし、どうでもいいっちゃどうでもいい。言うならば、時間の使い方は人それぞれで、とりあえず頑張ろうぜ皆って話。

 

「つまり……」

 

 まとめると、大抵の人間は、かませクズ貴族の俺よりは周囲に迷惑を掛けずに生きているはず。そう思うと、辛くなると共に、領民のことも何とかせねばと何かに駆り立てられる。

 

「――どうぞ、レクス様」

「あぁ、助かる」

 

 要らぬ考え事をしていたら、屋敷内未知のエリアに足を運んでいたらしい。時間を戻せるなら、意識を道順の方へ向けたいとは思う。

 

 

 そんなこんなで、開けられた扉の中へ。

 

「……」

「っ……」

 

 何ということでしょう。

 

 ちょうど正面に座っていたアルフェン君は、俺の入室に反応するや否や高速で目を逸らしてきた。どうやら、想定以上の不都合な誤解をされているらしい。おそらく、平民のアルフェンからしたらこれだから貴族は的なヘイトがまた塗り重ねられたのだろう。

 

「――何してるのよっ。早く座りなさいよ」

 

 結局生真面目の抜けきっていない水仙は、しっかりと設定通りの半ギレを演じてくる。

 

「騒々しい客だ……」

 

 ので、俺もそれに合わせてみる。こういうのは別に嫌いじゃない。

 

「っ……」

 

 水仙を案内してくれたっぽいメイドさんが、誕生席ポジに紅茶を置く。何と、給仕の分際で主の座る位置を指定してくる、だと。と受け取るのは役に入り過ぎだ。

 

 仕方なくその一人掛けソファに腰を下ろす。左にアルフェン、右に水仙、室内の空気は若干重めか。

 

「……」

 

 ただ、そんなことよりも、部屋の隅に立ち控えながら全くその存在感を端へ寄せられていないリタに、意識の大半を持っていかれてしまう。無表情が映えるエロくノ一装束をその身に纏ってこの場に立つ彼女のメンタリティについて、どうしても好奇心が抑えられない。

 

「――それで……王命とは言え、間の悪い来訪となってしまい、申し訳ない。知っての通り、僕は貴族文化に疎くてね……どうか、これについては許してほしい」

 

「……」

「……」

 

 気まずそうに首を垂れるアルフェン、自動的に顔を見合わせる俺と水仙。三者とも表情の引き攣り具合だけが残念に一致している。

 

 最悪だ。年齢的には業界ルールに則って18歳以上としながらも、我々は高校生なのだ。

 

 例えば、キミが同じ生徒会の友人宅へお邪魔した所、当人が自室でメイドとワッショイしてたら一体どういう塩梅にその後の展開が仕上がるのか、あまりに実例が乏し過ぎてエビデンスの認められる対処法が見当たらない。

 

「用件は何だ?」

 

 俺は心の安寧を求めて紅茶に口を付けるが、当然そこまでの即効性はない。

 

「――その前に、もう一つだけ言わせてほしい。思えば、先日から今日まで、まともに言葉を交わす機会がなかった……重ねて、謝罪させてほしい。タワーでは、レクス君……キミの危機察知を無視し、愚直に歩みを進めた結果、僕は仲間を危険に晒してしまった……」

 

 言いながら、アルフェンは対面の水仙にも目を向ける。何となくだが、水仙は既にその謝罪の言葉を聞いている様子。

 

「加えて、僕は早々に戦線を離脱し、四人には命を救われた。これについても、改めてお礼を言わせてほしい」

 

「その話はいい。それに、俺とカルシェラはお前と変わらん」

「っ……」

 

 水仙のジト目はスルー。何か勘違いしているみたいだが、俺がクソ雑魚であるという事実は揺らがず、この貢献度ゼロ設定は長い目で見れば真実プラス処世術の一環なのである。

 

「……あぁ、分かったよ」

 

 これについても、アルフェンからしたらまぁまぁ気まずいはず。少なくとも俺は、戦闘中に吐いて漏らした友人へ掛ける言葉として、何が正解なのかは分からないし、今後もそれについて考える気はない。

 

「それで、国王は俺達に何を求めてきた?」

 

 ここで、このような形で勇者の称号を得たことについて尋ねようとも思ったが、聞かなくても大体分かるので時短することとした。

 

「……話が早くて、助かるよ。早速の名誉だが、我々生徒会は、王家の墓へ入る許可を頂いた。キミの準備さえよければ、今すぐ向かうことができる」

 

「……」

 

 パッと浮かんだ疑問は三つ。

 

 その一。

 

 何故死地へパシられてるのに、それを名誉と受け取る洗脳がナチュラルに完了しているのだろう。まぁアルフェン君は貴族嫌いで国王大好き設定だから無理もないのだが、要所でまともなこと言ってる分の違和感は拭いきれない。

 

 二つ。

 

 勇者の称号もそうだが、何故学生にそんなことを任せる。この世界の大人、学園の優秀な卒業生は何処で何をやっている。だが、その答えも杜撰(ずさん)な設定の一言で解決はしないが片付けられてしまう。

 

 三つ。

 

 どうして今すぐに向かわにゃならんのか。準備期間を設けさせてくれ、と言いたい所だが、これについても哀しいかな、ゲームにそのような概念はない。話を聞いたらその瞬間直ちに出発がデフォなのである。もちろん、プレイヤーはそれに逆らって全力で寄り道するのだが。

 

「……」

 

 疑問はセルフで解決するが、それによる状況の改善はやはりない。加えて、俺はプレイヤーではないのでマストオーダーを放ってのレベリングや別イベントの消化は許されない。

 

「称号を得た報告を兼ねた墓参りなら構わんが、目的は何だ?」

 

 知ってるけど聞く。これも転生あるある。だが頼む。俺の予想よ、盛大に外れてくれ。

 

「――もちろん、それも達成したいとは考えている。だが、目的は別だよ……四条さんは、今回のことをどう捉えている?」

 

「っ!? そ、そう、ね……けど、まずは内容を共有してから、じゃ……ないかしら?」

 

 どう見てもその内容を知らない様子の水仙。一瞬嬲(なぶ)ろうかと思ったが、その後の報復が恐ろし過ぎるため、すぐに計画の取り止めが決まる。

 

 そして、多分少し勿体付けたかっただけのアルフェンは、表情を露骨に引き締めて俺の方へと向き直る。

 

「確かにその通りだ……目的は…………山吹色騎士の討伐だ」

 

「……」

 

 

 唯一の想定外は、その微妙な色を冠した騎士の名を、そこまでシリアスな顔で言える人間がこの世界にいるということだった。スタッフが軽いおふざけで付けたネーミングはしっかりと反映されているこの世界。他にしっかりさせるべき所は複数あるはずなのだが。

 

 とにかく、幾つか想定していた中でもそこそこダルいルートの決定に、俺は再び内心で頭を悩ませ始めていた。

 

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