かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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学園と傀儡とまた金髪

 昨日は寂しいと感じるレベルで広い風呂に入った後、パジャマもスウェットも無かったため、適当に寝転がりやすい服を着て寝て起きた。とりあえず、昨夜の時点で用意されていた制服に着替える。この世界、ファストファッションの店とかあんのかな。

 

 美味だが寒々しい朝食を取り、依然として訝しがるリタに見送られ、概念的には屋敷と宮殿のちょうど中間に位置する我が家を出る。どうやら、自動車での送迎はないらしく、そもそも自動車がない。科学技術は全て魔法に置き換わっているのだから当然と言えば当然。

 

 転校初日な気分であるのは言うまでもないが、こちらから接しない限り絶対に誰も関わってこないことは明白であるため、一周回って気楽な思いで通学路を行く。

 

 昨夜は屋敷宮殿の広さがゲーム内のマップとかけ離れていたため、メイドの同行なしではトイレの場所すらもあやふやであったが、学園までの道のりに関しては問題ない。っていうか超近いし、学園の建物の主張が激しい。

 

「……」

 

 中世的建築物が大学的な配置で並んでいる建物群に向かって歩いていると、同じ制服を来た少年少女達が歩数に比例して増えていくが、誰しもが一度俺の方を見て以降歩みを微妙に早めて距離を取るという行動を安定化させていた。つまり想定通り。

 

 逃げる学生を道しるべに正門を通り、校舎の中へ入る。もちろん、下駄箱も土禁もない。

 

「……A、だよな」

 

 何でも一番が好きなレクスに学園側が気を遣ったとか。クラスのアルファベットは序列を表すものではないというのに、俺は一体何を考えているのだろう。ただ、その阿呆なエピソードのおかげで自分のクラスが思い出せたので内心で部分的に感謝しておこう。

 

「――っ! おはようございます。レクス様っ」

「おはようございます。レクス様っ」

「おはようございます。レクス様っ」

 

 挨拶のカノン。会いたくないヤツに会ってしまったが仕方なく頭を下げる的なテンションで、男子学生A、B、Cが入室を拒むように頭を深く下げる。なぜ、ジャパニーズお辞儀。

 

「おはよう。いい朝だな」

 

 萎えつつ挨拶を返し、一対二のアンバランスな花道を通過して教室内へ足を踏み入れると、終わりなき挨拶ラッシュを喰らいながら席まで誘導される。つまり、男女共にA組の学生は既に傀儡と化している。きっと分家とか下請けとかそんなんだろう。俺を怒らすと親が職を失う的な。ギャグとして捉えないと酷過ぎる世界だ。

 

 教室も大学風で、奥の教壇を中心に扇状に席が配置されており、学生側から教員を見下ろす格好になるため、後方やや前目の席であれば、隠れて内職するのは容易だと思われる。そして、三列ある座席のど真ん中が俺の席であるらしく、講義中、トイレに行きたくなった際は地獄のような位置でもあった。

 

 何で強権振るってまでこんな席を。

 

 続けて、近くの席に座る取り巻き筆頭のような二人が、見てて辛くなるレベルで媚び諂ってくるも、俺の反応が著しく優れないことに対し、本日は機嫌が悪いと判断してくれたのか、やがて黙ってくれた。

 

「……」

 

 この学園生活、なかなかどうして全く面白くない。

 

 そして、授業もヤバかった。

 

 どうやら教師陣についても調教済みらしく、もはやコルフォート家って結構凄くね、と思い直した程に忖度に忖度を重ねた時間が展開され続けた。

 

 歴史の話になればコルフォート家の英華を最大限に誇張し、魔法の授業ではシステム説明を読んだ方がわかりやすいような話の中に、俺の属性である金属性魔法の優位性に対して半ば弁護するように歪んだ説明が続いた。っていうか金属性自体は普通に微妙だけど。

 

 そう、これは忖度ではない。完全なる隷従である。

 

 俺はそう結論付けたが、教員も含め四十人近くによる演技の圧力は、どうにも単独で覆せるものではなかった。少なくとも初日に切り込むのはちょっと憚られる。無駄だと皆が確信している中で開催された会議の雰囲気を凝縮して練成し続けたような残念な空気感は、ある意味で地獄と呼称してもよいのではなかろうか。

 

「……ふぅ」

 

 午前の日課がやっと終わった。教科書を朗読するだけのつまらん授業よりも時計の進みが遅かったように感じられたが、とりあえず食堂へ行こう。

 

「えーっと……今日は……一人で、食事を取りたい、かもしれない……」

 

「――っ!」

 

「あっ……はいっ! 申し訳ありませんっ! レクス様の深い考えは、我々などではどうにも見通せず、ご不快な思いをさせてしまいましたっ! 申し訳ありませんっ!」

「申し訳ありませんっ!」

「申し訳ありませんっ!」

「申し訳ありませんっ!」

 

 謝罪の暴力。

 

 おそらく、食事を共にしない系の取り巻き連中まで走り寄ってきて謝る始末。凄いぞコルフォート家。もはや俺は感動していた。少なくとも、ここまで半年以上こんな学園生活を続けてきたクラスメート達の呪縛は、何とか解かねばならないと心に留めておく。

 

 だが、それでも今は一人にしてほしい。

 

 謝罪の後は、不要になったチェックポイントから離れるように、学生達は俺から遠ざかっていく。きっと、彼らは仮初の自由を得たのだろう。

 

 午前の時間で大分精神を鍛えられた俺は、嫌悪と畏怖がブレンドされた民草の視線にも構わず、食堂へと歩みを進める。

 

「広っ」

 

 ついツィートが漏れてしまう位の敷地面積。映画で観た某西洋魔導学園のそれを凌ぐテーブルと椅子の集合体に少々圧倒されてしまうが、これならば遠目に映る主要キャラ達との接触も何とか回避できそうだ。それに、生徒会関連の人達は学園内に用意された自室で食事を取る感じだったはずなので、少なくとも今日はまだコンタクトせずに済みそうだ。

 

「――何故、貴様のような穢れた奴隷が僕と同じものを食しているのだっ!」

「っ……ぐっ……」

 

 何処まで近付けばメニューが見えるかと考えていた所、食事中の学生達の輪から無視しづらいやり取りが発生する。ちょっと共感できないが、貴族学生が奴隷階級と思われる学生の頭にホワイトなシチューをぶっかけている。

 

 とりあえず相手を殴ってからどうするか考えるような暴挙に対し、やられた学生はただ黙って俯いている。

 

「……」

 

 周囲からの反応は無。なぜならこの学園では日常茶飯事な光景だからだ。

 

 テキトー設定の一つ。この学園への入学はある種義務であり、一定の魔力を有していると認められた者は例外なくここでの高校生活が決定する。

 

 そしてこの世界には貴族、平民、奴隷という三つの階級が存在し、その上下関係は絶対。イイ感じの貴族はそもそも平民や奴隷を相手にしないというだけで問題が生じないが、そこそこから下の貴族連中には奴隷への差別と迫害をライフワークとしている猛者も多い。凄い人生だ。

 

 そもそも、決まりも作らずにこの三階級をチャンプルしたらこんなことが横行するのは目に見えているのに、何故そうしたのか。まぁ多分、その方が解決すべき揉め事が起こりやすいからという都合なのだろうが。

 

「うん……」

 

 是非、情報収集したい。そう思い、差別主義者A君に近付く。

 

「ちょっと――」

 

「――っ! レクス様っ! ぼ、自分のような者に声を掛けていただき、ありがたき幸せ……」

「おぉっと……」

 

 明らかに上級生の彼はテンパりつつも歓喜の表情でこちらに跪く。どうやらクズ的言動を常とする貴族達にとって俺はカリスマのような存在らしい。もしロールを全力で演じるならば「貴様、手緩いぞ」と言って模範的迫害を披露し、クズ道を教授すべきなのかもしれない。

 

「少し、話が聞きたい。できればキミと親交の深い友人も何人か交えて話がしたいのだが、どうだろうか?」

 

「なっ! ぜ、是非っ! その、何人程、集めればよろしいでしょうか?」

 

 うわ、この上なく乗り気。マジで凄いぞコルフォート家。

 

「そう、だな。二、三人でお願いしたい。そっちの席が空いているので、そこで」

 

 その豊富なキャパにより、昼飯時でも食堂内の席はまだ幾分余裕がある。なので出来る限り隅の方を指定する。

 

「――っ! は、はいっ! 直ちにっ!」

 

 ふくよかな体格の割には鋭敏な動きで目的遂行へ移るA君。そしてもうどうしもなく注目されているが、例によってすぐに学生達は目を伏せ、自身を守るべく食事に勤しんでいく。おいおい、貴族ってこんなのじゃないだろ。

 

「……」

 

 ホカホカのシチューで頭を染めている彼は、未だ嵐が通り過ぎるのを待つように足元へ視線を落としている。著しく不自然な行動となってしまうため、気遣うことは叶わないが、とりあえず優秀なメイドが仕込んでくれた高そうなハンカチをテーブルにパッと置き、指定した席へ移動する。

 

 というか早く入学してイベントをこなしてクソ貴族を一掃してくれ主人公と思ったが、俺はその筋の総代のような立場であることを思い出し、テンションが下がった。

 

「あっ、レクス様、本日の昼食、全てのメニューを用意しました。どうぞ、お好みのものを」

「おおぉっと……」

 

 凄い。媚を売るスキルをある程度極めるとこんな早業が可能なのか。隅に位置するテーブルは不必要に広い範囲がキープされており、その上には色とりどりの料理が陳列されている。もっと別の何かに熱を注ぎ込めばまた違う人生が歩めたのではなかろうか。

 

 また、A君はこちらの指定通りに三人の人物を招集しており、その中の一人は第一印象で読み取れる程に立場が弱く、三人ルートなら同席、二人ルートなら排除という盤石の備えが施してある。

 

「んじゃ、まぁ、適当に貰おうかな……」

 

 初めての魔法学園での食事。こんな風にメニューをセレクトするとは思わなかった。まぁもう細かいことを気にするのは止めようと思いつつ席に着く。するとそれに連動するように彼らはこちらを取り囲む。これが挟み将棋なら、俺は既に取られてしまっているだろう。そしてやはり立場の弱いD君は最も離れた席へ。

 

「そ、それで、お話、というのは…………」

 

 こいつら全く飯食う気ねぇんだけど。ちなみに面子はデブ、デブ、痩せ、痩せの四人。最後の痩せがD君。貴族と言えば品性、という印象だったが、彼らからは人相の悪さしか感じられない。

 

「この感じだと、聞き耳を立てるにしても距離があるな。キミ達は多分……普段からとても気を遣って過ごしていると思うんだけど、ちょっと本音が聞きたいんだ。別に試すとかではないから、正直に質問に答えてほしい。ここまで、言ってることわかる?」

 

 年上に対する態度とはかけ離れているのは承知だが、もう面倒なので気にしない。

 

「そ……それは……はい。わかります」

「はい、私もです」

「はい、私も」

「……」

 

 周囲へ目を向けつつ、貴族達は神妙な表情で首を縦に振る。いきなり変なこと言われて、きっと混乱してるんだろう。本音を引き出すのは難しいかもしれん。

 

 そして、多分D君は黙っているよう指示されていると思われる。こうなってくると、一番話を聞きたいのはD君なんだが、そうすると彼の立場を悪くしていしまうだろう。三人を平等に、D君はややぞんざいに扱うのが妥当な所か。

 

「よし、では最初の質問。最近の生活でいいんだけど、一日の中である、楽しいことを順番に言ってもらいたい。じゃあまずA君から」

 

「えっ? あの……」

 

 場の主導権はこちらなので、もう好きなように進めさせてもらう。

 

「制限時間を設ける気はないけど、それぞれが簡潔にテンポよく答えてくれると助かるな」

 

「えっ? あ……申し訳ありません……では、私から……楽しいこと……あの、最近……ですと、新しく買った兎人族の給仕が、酷い粗忽者でして、こちらが何もせずとも失敗を重ねる。今朝もそうでしたが、汚らわしい獣人を敢えて扱うのは、貴族の嗜みと申しますか、ちょうど良い手慰みになっております」

 

 この世界はテンプレな獣人も存在し、犬、猫、兎を筆頭に爬虫類系も存在していたはず。ただ彼らは魔力を持たないため境遇の良い者は商い、悪い者は奴隷という塩梅で、ストーリーの本筋とも絡まず、不遇な扱いを受けている。でもキャラデザは非常によろしい。

 

「……ほぅ、それは素晴らしいな」

 

 うん、とりあえずまだサンプル数は一つだ。

 

「えっと、キミは?」

 

 B君かC君かは忘れたが、目が合った方に振る。

 

「はいっ! 先月、奴隷商が新しく仕入れたという品を揃えて押し売りに来たのですが、それを見た給仕共が、おそらく自分が首を切られるとでも思ったのでしょう、慌てふためく様がもう滑稽で。それからは定期的に、獣人共が見える所に偽の売買契約書を置いておくことが習慣になりまして、今日も頗る良い反応を示しておりました」

 

 おぉっとクズ回答が連発。もはやイーブンパーが最大という厳しい展開。

 

「なるほど、奴隷の話題で繋げてきた、ということか。キミは?」

 

 C君かB君、どちらかはもう遥か彼方のデブに振る。お前が踏み止まらなければ、D君の回答権は消滅という予定調和が決まってしまうぞ。

 

「はい。つい先日のことなのですが、同じクラスに生意気な平民がおりまして、少し立場を分からせようと、その平民の親が営んでいる商店が取り扱っている物を調べまして、父に頼んで仕入れ値を上げるよう指示してもらった所、その効果が余りに早く、ヤツはもう今後の不安を口にしておりました。貴族として、民を指導するのは清々しいものです」

 

「……それは、凄いな」

 

 三の三、猛打賞、コールドゲームで閉幕。

 

「……」

 

 これがこの世界のリアル。三人共、良い笑顔で語ってくれた。価値観が違うと言ってしまえば話は簡単だが、この溝を埋めようと対話を重ねる位なら、確かに暴力で白黒付けた方がお互いに負担は少ないように思えてしまう。

 

「答えてくれて、ありがとう。ちなみに、なんだけど、最近、コルフォート家の話……今キミ達がしてくれたようなの……何か耳にしたことって、ある?」

 

「はいっ! もちろんです」

 

 A君が目を輝かせて挙手。

 

「どうぞ……」

 

「それはもう、あのヴァーミリオンとシャンティエーカ、二つの大貴族に奴隷の専売契約を結ばれたと聞き及んでおります。今まで部分的だったものがついに……これこそ、コルフォート家の威光が王都全体に示されたこととなりましょう」

 

「はい、実は我が家では数日前から、食事の際はその話題と決まっております。少々食卓の雰囲気が悪くても、その話をすればたちまち……栄えあるコルフォート家には、感謝してもし切れません……」

 

「もちろん、私の家でも同様です」

 

「そうか……」

 

 カナト、飛び級でもして早く俺ん家をぶっ潰してくれ、頼む。

 

「――クズが雁首揃えて悪巧み?」

「っ……」

 

 背中に掛けられる、不機嫌そうな声。対面のクズ仲間達の表情の変化も含め、それが誰なのかはすぐわかった。

 

「っ! 四条……水仙……」

 

 和名金パ美少女の登場に、ビビる貴族男子。

 

「あ……あの、本日はっ! ありがとうございました。失礼致しますっ!」

「ありがとうございました。失礼致しますっ!」

「ありがとうございました。失礼致しますっ!」

「ありがとうございました。失礼致しますっ!」

 

 ビブラートの効いた四重奏で蜘蛛の子を散らすデブデブ痩せ痩せ。ちゃんと料理のお盆を持って立ち去った所は唯一の加点ポイントだった。とりあえずグラスに入った水を少し口へ含むと、キレ気味の水仙さんは空いた対面にドカンと腰を下ろす。この人は料理も掃除も出来ないガサツ系ヒロイン枠も満たしているのだ。

 

「実はただ談笑していただけなんだけど、悪巧みをしているように見えたのか?」

 

 言ってから気付く、無駄な質問。それに対し、腕と脚を組んだ強気な美少女は、少し首を傾げる。

 

「……随分落ち着いてるわね。てっきり当分の間は大人しくしてると思ったんだけど、クズにはクズなりの気持ち悪い根性みたいなのがあるのかしらね」

 

 確かに向こうからすればそうなるわな。

 

「昨日通り魔に遭って……は挑発的だから止めておこう。昨日やられた所がまだ本調子じゃない」

 

「嘘よ。身体は家の者が完全に回復させたわ。その上で、責任を持って家にまで送り届けた。コルフォートの使用人にも、それは確認してもらってるから、仮病で逃げようとしても無駄」

 

 このツンデレ、一年生時でも変わらず優しいな。

 

 きっと、リタからすれば気分の上がる出来事だったに違いない。気を失っている俺に腹パン1ダース位は喰らわしていたのかもしれん。まぁその程度では溜飲は下がらんだろうが。

 

「正直な話、前後の記憶が微妙に曖昧なんだが、俺をぶっ飛ばすと心に決めた最後の一押しは何だったんだ? 思い当たることが多過ぎて全く絞り切れない」

 

 実際、一年生の頃にレクスが水仙にボコされたという話はちゃんと話題になっているので、昨日のはある意味でイベントの一つだったと言えるだろう。同じ副会長である水仙は新たにその座へ就くカナトと俺を比較して、スムーズに好感度を上げていくという方向を辿る予定。

 

「このクズが……アンタ、いつもカルシェラに酷いことしてるでしょ。あの子、泣いてたのよ。アンタに言っても無駄なのはわかってる。けど生徒会の仲間にまで手を出すなら、アタシだってもう黙ってないわ。昨日言った通りよ」

 

「カルシェラ……彼女、何か言ってたのか?」

 

 生徒会会計、気弱が服を着て歩いているような地味系ヒロイン。結構エグいレベルの人見知りも手伝って、ヒロイン人気投票最下位。ただまぁ、個別ストーリーが盛り上がらないのが原因だと俺は捉えているが。

 

「……あの子は人の悪口なんて言えないわ。アンタも、それを知っててミスを擦り付けてるんでしょ。気付いていない人なんて、いない」

 

 そうなんだよな。あの人、本気で自分が悪くて俺を怒らせてるって認識してる。かなりハイエンドな認知の歪みだ。劣等感とコンプレックスと自己肯定感の低さが三位一体となって彼女の自責を生み出しているのだろうと推測される。多くのユーザーが「さすがに面倒くさい」といった感想を抱いている人物である。

 

「……わかった」

 

 現状、会話を重ねてもヘイトを高めるだけなのは間違いない。

 

「はっ? 何がわかるっていうの? アンタになんか、わかる訳ない」

 

「違う。っていうか食堂でキレ過ぎだから。とにかく、要求を言ってくれ。毎日ボコして、回復して家まで送るのは大変だろ。こっちも自分の身を守るために、仕方なく従う」

 

 この言い方ならギリギリ納得が得られるのではなかろうか。

 

「…………」

 

 案の定、水仙はこちらの意図について思いを巡らせている様子。

 

「あ、死ねはなしで」

 

 そこで、先手を打って俺自身が最初に浮かんだ要求内容をとりあえず封印指定しておく。

 

「っ……そこまでは言わないわよ……アタシだって、アンタがいて回ってる部分もあること位、理解してるわよ」

 

「えっ?」

 

 何だと? 俺を必要悪のようなものと捉えているのかこの女。絶対違うだろ。明らかに必要悪未満だろ。あのアルフェン会長様は初対面一発目から死んでほしいと思ってたらしいし。先見の明がある者からは即死亡が最適解で揺るがない。それがレクス・フォン・コルフォートという男だ。

 

「うるさい。アンタと分かり合えるなんて思ってないから、安心して。とにかく、カルシェラとはもう関わらないで。次何かするなら、骨の一本や二本は覚悟なさい」

 

 睨みを利かせて立ち上がり、金髪美少女は颯爽と食堂を去っていく。

 

「うん……カルシェラか……」

 

 少し気付きを得た。正直な所、水仙は毎日謝り続ければ少しずつ関係性が作れそうだが、それは彼女の優しさに甘えるだけでやはり憚られるし、彼女からしたら迷惑以外の何物でもない。その一方で、カルシェラなら本気で自分が悪いと思っているため、俺へのヘイトは他の面子と比べれば随分低いはず。個人的な範囲でなら友好関係を築くことができるかもしれない。

 

「まぁ……」

 

 だとしても、既に何となくの行動指針は固まってきた所だったので、人間関係路線のことについては、一旦保留としておくことに決めた。

 

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