かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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仮眠明けとメイドの圧と顛末の一部

「――――っ…………うん?」

 

 全身に纏わり付く気怠さと共に、目が覚める。

 

 それと同時に、抗い難い二度寝への焦がれが、意識を瞬時に制圧する。というより、無血開城した格好と言って相違ない。

 

「…………」

 

 なので、俺はもう一度目を閉じた。

 

「――レクス様」

「――っ!?」

 

 気配なく耳元で囁かれた声に、心臓が跳ねる。

 

 そしてその衝撃により、自動的にまた目を開いてしまう俺。

 

「え……とっ? あれ? ここは……」

 

 何と、現在地はあの寒々しい程に広い自室ではなく、俺が横になっているのも、あの悪趣味なデザインを除けば寝心地の良いゴールデンソファではない。

 

「……応接室……」

 

 昨日行ったり来たりで訪れたため、辛うじて記憶にある。と言っても、この屋敷は100LLLLLLLLDDDDDDDDDKKKKKKKKK位の建物っぽいため、同じような部屋が複数あっても特に疑問はない。後、さすがにキッチンはそんなにないかもしれん。

 

「レクス様。おはようございます」

「あ――――」

 

 そういえばとソファから起き上がり、後方を見やると、数歩分距離を取って直立不動で控える女性の姿。

 

「…………シオン?」

 

 デジャヴとは言わないかもだが、リタとの初対面とシチュエーションが似ていることもあって、そう感じてしまう。

 

 上は茜色、下は紺色、その上には大きな白いエプロン、何処となく和風メイドを思わせる恰好と、見たこともない程に自然で綺麗な緑色の短髪から、該当キャラの名前が疑問形で口から漏れてしまったらしい。

 

「っ…………はい。四条家上女中筆頭のシオンと申します。水仙様の命により、お迎えに上がりました」

 

「…………」

 

 一礼するだけで漂う流麗さ。テンプレ和風美人の不意な逆凸を受け、若干頭が混乱したが、リタ、水仙、一応カルシェラなど、ある程度美人慣れしてきた成果か、すぐに冷静さを取り戻すことができた。

 

「っていうかアイツ、本当に迎えを寄越したのかよ……」

 

 自分で迎えに来いよと思ったけど、それだと角が立ちまくるためだとセルフ解決し、とりあえず意識をもう一歩先へ進める。

 

「今って……何時っすか?」

「はい。午前8時7分です」

 

「うーわっ、4時間も寝てねぇじゃん……」

 

 昨今、二徹からが徹夜だと言い出す輩もいるが、俺は毎日7時間以上の睡眠をモットーとしている。

 

「…………うん。わざわざ申し訳なかった。体調不良で、今日は学園を休む。水仙にはそう伝えておいてほしい」

 

 ストレスとの付き合い方は様々だが、先送りコーピングという手法が存在するらしい。これはその名の通り、嫌なことを先送りにし、一時的な退避行動を行うことで、仮初のストレス緩和を得るという方略だが、長い目で見るとメリットが少ないという研究結果が出ている。

 

 だとしても、場合によっては二度寝は何よりも優先される。少なくとも、燃えるゴミを一回パスすることは度々ある。

 

「――レクス様。顔をお拭き致します」

「えっ? ぶ――――」

 

 そこで、振り向いた顔面へイイ感じに温いタオルのような何かが押し付けられる。

 

 これは正に、給仕係のサイドアタック。

 

 またもや気配なく俺に接近していたくノ一リタ。そして如実なパラメーターの差により、有無を言わさず押さえ込まれてしまう。

 

「っ…………一応聞いとくと、自室の金ソファで寝てたはずなんだけど?」

 

 続けてサラサラの短髪を櫛で整えられるが、これについてはあまり必要ない感じではある。中身は純然たるクズだが、外見はなんちゃって貴公子程度には見れる。それがレクス・フォン・コルフォートという男。つまり、本来なら寄ってくる女も同類に限られるということだ。

 

「本日は必ず出席されるという話に加え、四条家からの迎えもと伺っておりましたので、配慮させていただきました」

 

「アイツ外堀埋め過ぎだろ……」

 

 というか、今気付いたけど俺制服やん。寝起き且つ二度寝体勢というのは、これ程までに処理機能が低下するというのか。まぁそうだろう。

 

「……ちなみに、俺が本気で今日学園を休むと宣言したら、どうなる感じ?」

「……」

 

 聞いた瞬間、二人の放つ圧が若干増したように感じられたが、あくまで仮定の話と受け取ってほしい。

 

「特に、問題はありません。ただ、この場でのやり取りは全て四条様に伝わることになるかと」

「ですよねぇ……」

 

 嫌なことを先送りにしてもイイことはない、場合が多い。

 

 とは言っても眠い俺は、虚空からチートポーションを取り出し、蓋を開けて一気に呷る。

 

「っ、よし。行こうか、学園」

「……では、ご案内させていただきます」

 

 明らかに何かをキメた様子の俺に対し、持ち前のスルー力で流して歩き出すシオン。

 

「父上と母上は?」

「まだお休みになられております」

 

「……とりあえず、戻るまで頼む」

「承知致しました」

 

 紅茶は淹れず、そのまま去るリタ。立場的には絶対に代わりたくないが、ここ数時間に関しては幽閉状態の父上に嫉妬してしまいそうではある。どうやら、ポーションでスッキリした頭に、未だ心が追い付かない様子。

 

「さて……」

 

 これ以上グダるのは利口ではないと判断した俺は、若干の空腹感を押し込んで応接室を後にする。

 

「……」

 

 無言のまま、少し前を歩く緑髪の女中。身長に関しては、水仙よりも少し低い位だろうか。まぁスタイルは普通にイイ。そういうゲームだしね。

 

 ここで少し、設定が頭に浮かぶ。

 

 四条家にも奴隷はいるが、奴隷という呼称はなく、女性の場合は女中(じょちゅう)という言葉が用いられている。また、その扱いも奴隷よりは大分よろしい。そして、四条の本家、水仙に仕えるシオンは上女中であり、そのトップを意味する筆頭という肩書が付いている。

 

 つまり、お手伝いさんで一番偉い人って話であり、それに加え、頭の固い善人集団、四条家の中では最も柔軟性の高い人物がこのシオンさん。ただ実質、その地位は度重なるショック療法によって生まれ変わった水仙によって捲り取られてはいるっぽい。

 

「で、もちろん」

 

 作中において、レクスとシオンに絡みはない。が、レクスの逆名声を知らぬ者など、この国にはおらず、それは彼女とて例外ではない、はず。それは、ファーストコンタクトの空気感でも何となくは受け取ったし、俺が名前を知っていたことも、訝しがってはいた。

 

 もしかしたら、ある程度の情報は水仙から刷り込まれているのかもしれないが、ここでは流しておくこととしよう。

 

「――では、私はここで失礼させていただきます」

「はい。どうも」

 

「……」

 

 無言のまま短い通学路を歩き、学園正門前に到着。これまた短いやり取りの後、若干訝しげに視線を寄越したシオンは、無表情のまま踵を返す。

 

「うーん……」

 

 初期のリタ同様、ちょっと判断できないが、少なくとも肯定的な雰囲気は感じられなかった。何だか久々の新キャラな気もするが、改めて自分の悪評を思い出し、あのボロ小屋が少し恋しくなる。

 

 とりあえず、ここに突っ立っていると周りの一般学生に迷惑が掛かるため、足早に校舎の中へ入る。正直、この場所に対して肯定的な思いはなく、テンションも上がらない。こんな状況が長く続くと、不登校になってしまうかもしれないが、臨むところではあったりする。

 

「……」

 

 などと考えていると、階段を上って右へ曲がるつもりが、魂が勝手に左へと足を動かす。つまり、俺は根源的にあのクラスの中には入りたくないらしい。

 

「……よし。生徒会室で寝直すか……」

 

「――よし、じゃないでしょ……」

「――っ!?」

 

 突然後方から襟首を掴まれてびっくり。今日はそういう日なのだろうか。

 

「……気配を殺して近付くのが今日のトレンドなのか?」

「何言ってんのか分かんないけど、学園まで来て寝るとか意味ないから」

 

 短い睡眠時間にもめげず、今日も元気で綺麗な水仙さん。最早久しぶりという感覚はない。

 

「今って何時?」

 

 異世界あるある。スマホがないので、基本時間が分からない。

 

「……8時半。後10分で出席確認よ」

 

「今更だけど、学生の朝って早いよなぁ……っていうか、魔法の学園なのに何であんな授業つまらんかなぁ……」

 

 このゲームの攻略サイト見てた方が全然楽しいレベルなんだけど。

 

「しかも、今ってさすがにのんびり授業受けてる場合じゃなくね?」

 

 コルフォート家当主の不正が暴かれ、被害者側の四条家も大いに揺れていることだろう。

 

「分かってるわよ。ほら、生徒会室に行くんでしょ? この時間なら、誰もいないし」

「あれ? あの四条水仙が授業をフケる、と?」

 

「生徒会のメンバーはある程度の理由があれば授業を免除されるのよ。アンタの分も申請しといたから、問題はないわ」

 

「理由って?」

 

 まさか、既にお家騒動を学園に報告したのか。

 

「昨日の王命についてって書けば、それ以上は聞かれないわよ」

「あー、そういやそんなこともあったな」

 

 無残に散った変な色のさまようよろいを思い出すが、今一度ご冥福を祈りたい。

 

 とにかく内心でテンションを上げ、金髪美少女の横に並ぶ。

 

「お前もしかして、この学園の授業のつまらなさにも気付いたんじゃないのか?」

「っ…………まぁ、否定はしないわ。それより、一夜明けてから、そっちの様子はどうなの?」

 

 俺の感覚で言う所の正常な思考回路を手にしたっぽい水仙は悔しそうに言うが、そう悪い感じではなさそうだ。

 

「まぁ言うて一夜明けてないけど。両親共に幽閉状態で就寝中。母上は腰を抜かしてキレ散らかすだろうけど、無力だから問題はない。ってか、むしろそっちの方がヤバいだろ?」

 

「…………そうね」

 

 今度は明確に気まずそう。

 

 昨日の夜、四条家に起こったことは、端的にまぁまぁな大事件。

 

 本来ならば一年後、二周目以降の主人公、カナトが水仙ルートへ入った際に出くわす話。

 

 土地離れの悪い地主によって駅周辺の開発が進まず、時代から見捨てられていく田舎町のイメージを色濃くした真面目善人没落貴族の四条家。愛や人情では腹が膨れんという派閥が現れるのもまぁ無理もないのがこのテキトーなゲーム世界。

 

 そんな連中はきっと、クズ道の正中線を征くコルフォート家とはそれはまぁ馬が合ったことだろう。そしていつからか、両者はガッチリとスクラムを組み、互いに甘い汁を啜り倒すためにショボい悪事を重ねに重ねていったのである。まぁ細かいことは知らんけど。

 

 一言で片付ければ、コルフォート家は金、四条家は奴隷となる人材。

 

 おそらく住民基本台帳も存在しないこの世界では、消えても分からない、そもそも最初からいないような人間も多いのかもしれない。加えて、権力と暴力を元手にノーリスクで利益が出るなら、エスカレートしていくのは自然な流れか。

 

「そもそも、奴隷っていう概念が好きじゃないからなぁ……」

 

 もちろん、こっちの感覚を押し付けるようなことはしないし、奴隷の存在によって各種科学技術が誕生し、発展したという歴史的背景を知ると、ぐうの音も出ない部分はあるのだが。まぁ戦争が嫌いっていう話と大して変わらんだろう。

 

「――お茶淹れるから、先座ってて」

「うん」

 

 水仙の言葉通り、誰もいない生徒会室へと入り、流れに従って腰を下ろす。隅の魔法家電から急須にお湯を注いだ水仙が、小さいトレイに湯呑を乗せて戻ってくる。

 

「おぉ……日本茶やん……」

「煎茶よ……別に飲みたくないなら置いといて」

 

「いやいやいや全然飲みたいけど。っ……」

 

 言いながら、目の前のお茶を啜る。もう少し冷ましたいが、広がる風味は期待通り。

 

「美味い……紅茶もイイけど、やっぱ煎茶だよなぁ……」

 

「ハァ……もう一々気にしないけど、アンタには四条家の文化の方が馴染みがあるのかもしれないわね」

 

 水仙も一口啜り、湯呑をテーブルに戻す。

 

「……こっちは大混乱。ただ、アンタのおかげで決定的な証拠が掴めたから、大勢は決してるわね。当人達は何でバレたのかって疑問からまだ動けないみたい……今はまだ、現当主の父が中心になって罪状を全て洗っている最中よ。多分、犯人は全員切腹でしょうね」

 

「おぉう……」

 

 ファンタジーあるある、人がガンガン死ぬ。そもそも、人が死ぬっていう出来事が身近過ぎる。何とかならんもんか。まぁならんけど。

 

 優しい水仙からしたら、と思うが、その瞳には強い意志。加えて、この件については事実を伝えた瞬間から一歩も引く気はない様子だったのだが、それでもこっちは結構な罪悪感。

 

「後、この件に関して、父は強く責任を感じているわ。あの人、言い出したら聞かないからもうどうしようもないけど、近い内に私が当主になる流れは間違いないわね……」

 

「あー、あのおっさんならそう言い出すかぁ……」

「アンタ会ったことないでしょ……」

 

 本来なら裏から消し去る感じだし、また一つ本来のストーリーから外れてしまう。ただ、そんなことは知らん。そして、それでいいのか本来のストーリー。むしろ今の流れの方が収まるべき地点としてはまだあるべき姿だろ。

 

 

「――っ!? 二人共、ここにいたのか……」

 

 

「「っ……」」

 

 俺は右、水仙は左を向く。そこには、若干息を切らせた赤髪の貴公子。

 

「「…………あ――」」

 

 そして、俺と水仙の声が重なる。その表情を見るに、水仙は忘れていたらしい。

 

「俺は別に忘れていた訳ではないがな」

 

 半分は強がりでも、優先順位が下の方だったというだけの話なのは確か。

 

「昨日は、すまなかった……だが、こちらは事の顛末を知らなくてね……ラトーラ君は、レクス君に聞けばいいと……」

 

「はっ?」

 

 あの生活力皆無女、他人に丸投げするなんていう高等技術を身に付けやがったのか。もしや、ヤツにも要らん影響を与えてしまったのだろうか。

 

「――会長、その前に一つ、いいですか?」

 

「っ、何だい? 四条さん」

 

 会話の主導権を握ったかに見えたアルフェンは、水仙のカットインに阻まれる。

 

「私、学園を辞めます」

 

「っ…………えっ?」

 

 数秒固まった後、疑問符と共にまた固まる会長、何故か俺に対してドヤっぽい笑みを浮かべる水仙。

 

 これはつまり、先を越されたということかもしれない。

 

「――あ、俺も辞めるわ」

 

 そしてそれに気付いた瞬間、俺の口も勝手に動いていた。

 

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