かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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昼食と馬鹿デカ屋敷とメイドの軍勢

 中学は義務。高校や大学においては中退する、という表現は耳にするものの、具体的な手続きについては見識がない。

 

 だがしかし、おそらく元の現代社会においても、退学届を事務へ提出するという流れに違いはないのではなかろうか。正直、まぁまぁどうでもいい。

 

 そんなこんなで、俺と水仙は無事退学届を提出し、不備が無ければ本日中に受理される方向で話を終えることができた。当然、周囲は驚愕を通り越している様子だったが、あまり印象には残っていない。きっと、様々な憶測が流れていることだろう。

 

「――そういえば、学生証ってないんだな?」

 

「っ……それって、この学園の学生であることを証明する書類のこと? まぁ……必要かもしれないけど、今更な話ではあるわね」

 

「あーでも、学園と言ったらここな訳だし、わざわざそんなモン作る必要ないのか……」

 

 そもそも、存在意義は学割だし、その上水仙が言うように、気にする時期を逸した話ではある。

 

「っていうか、制服があれば十分でしょ」

「確かに」

 

 若干一仕事終えた感のある我々は、そんな無為な雑談をしながら、ベースキャンプのコルフォート屋敷に戻ってきた。が、建物までがまー長い。

 

 そう思いながらも、口には出さずに歩いていく俺達。

 

「――お帰りなさいませ、レクス様」

 

 割と早い再会となったリタから、ニュートラルな出迎えを受け、やっと室内へ入る。

 

「お疲れ。ある意味で予定通りというべきか、とにかく家庭の事情ってことで学園の方は片付いた。そっちは変わりない?」

 

 ちょっと雑かもしれないが、流れ的に織り込み済みだろうし、問題はないだろう。

 

「……はい。特に変わりありません。今回のことは領内では既に噂となっておりますが、有力な家は足並みを揃えて静観しているようです」

 

「なるほど。こういう時のキモい結束は変わらずか」

 

 まるで、政権を失いそうになった際の与党のような歪んだ団結。ある意味でエンタメと言える概念なのかもしれない。

 

 にしても、リタは最早メイドではなく忍びか密偵のような立ち位置になってきたような。その格好は忍びでも、全く忍べていない所も含め、まぁまぁなカオスが形成されているが、聞かなくても情報を伝えてくれるようになったのは単純に助かる。

 

「ちょうど時間ですが、昼食を取られますか?」

 

 確かに、そう言われると普通に腹は減っている。

 

「助かる。じゃあ……水仙の分と一緒に、客間でよろしく」

「かしこまりました」

 

「はっ? いいの?」

 

「諸々今更だろ。で、後……今日って、この屋敷で働いてるメイド? 給仕? って、何人位休みの人いる?」

 

 とりあえず、広い屋敷の周囲を見渡すと、掃除をしているメイドさんが6人程目に入る。週一でよくね?

 

「…………いえ、病欠の者はおりません」

「っ……」

 

 その表情に変化はないが、少しずつ対リタ読心スキルが上がってきた俺の目からは、微量な困惑が見て取れた。見当違いだったらちょっと寂しい。

 

「なるほど。じゃあ……ここら辺なら広くていいか。昼食後、一旦仕事は中断して構わないから、全員をここに集めてもらってもイイ? 何となくのタイミングで」

 

「……かしこまりました。失礼致します」

「あっ……」

 

 遠慮と空腹で葛藤している様子の水仙には構わず、リタは食堂の方へと去って行く。

 

 その後、さすがに自力で客間まで辿り着いた我々は、既に内装を食事仕様に変えられた室内で向かい合って昼食を頂く。こんなことなら、素直に食堂で食べればよかったと思わなくもないが、あんな長い机を二人で使うよりは現状の方が幾分マシだと捉えておく。

 

「――どんなものが出てくるのかと思ったけど、普通に美味しいサンドイッチなのね」

 

 ルートに入ってから明らかになることだが、健啖家且つ食いしん坊キャラの四条水仙は、既に最後のサンドイッチに手を伸ばしている。食うの早ぇって。

 

「米系のが良かった? てか、昨日の夕食も普通な感じだっただろ?」

 

 余談だが、毎日コース料理生活に耐えかねた俺は、割と早々に手を打っていたのである。当然、両親と一緒の時は問答無用なのだが。つまり、今後は快適な食生活となる見通し。そもそも、もれなく一時間以上も夕食に費やす生き方とは如何に。まぁ、否定はしない。

 

「ここの普通を知らないけど、そういえばアンタはお米の方が好きなのよね。コルフォート領では生産していないんでしょ?」

 

「そうなんだよ……しかも、それで誰も問題を感じてないからどうにも……だから、今度マジで売ってもらえん? お釜と一緒に」

 

 本当はダイヤモンド釜の炊飯器が欲しい。でもコンセントがない。

 

「それ位ならさすがにあげるわよ……」

「助かるわぁ……じゃ、このタマゴサンドを送ろう」

 

 と言いつつ、正直今食べてるので十分なだけ。

 

「っ……まぁ……くれるなら貰うけど。それより、領内を回るって言ってたのに、給仕を全員集めて何をするつもりなの?」

 

 腹が落ち着いた所で、疑問を投げる水仙。何だか、食前より雰囲気が穏やかな気がしないでもない。でも、指摘すると穏やかじゃなくなりそう。

 

「いや、その、領内を回る話と直結するんだけど、その前に、四条家だと、奴隷って言葉は使わないよな? だから、お手伝いさん、でイイんかな。その人達って、週に何回休みの日がある感じ?」

 

「えっ? 休みの、日……」

 

 ここで、タマゴサンドをもう半分平らげていた水仙の手が止まり、逡巡の後に一旦それを皿の上に戻す。

 

「その……日曜日は安息日だから学園は休みだし、商店も閉まってるけど……女中や家来の人に休みなんて……」

 

「ほぉ……」

 

 どうやら、ここはそもそもの基盤がブラックな世界らしい。ただ、我が領はともかく、休みなく働いているにしては四条家は貧乏過ぎる気もする。その原因は何処にあるのだろうか。まぁ、もう既に何度も言及してきた理由になるが。

 

「例えば、シオンさんって、自分の自由になる時間は一日にどん位ある感じ?」

 

 なので正面は早々に諦め、別口から切り込んでみる。

 

「自由、って……うーん……私から見ると、常に何かしらしてるみたいだけど……多分、私が寝てから起きるまでの時間じゃないかしら」

 

「……つまり、彼女はお前より後に寝て、お前より先に起きるってこと?」

「そうだけど?」

 

「……」

 

 アンニュイな水仙の表情から、互いの当たり前という概念にズレがあることを悟る。

 

「でも確かに……生活感って、全然ないよな……」

 

 古来の作品へ目を向けるなら、入口で村の名前を教えてくれるモブキャラは、朝昼晩一生そこで勤めっぱなしな人もいたような。まぁ中には夜の間だけ不在になる例もあった気はするし、近年の覇権ゲーではモブキャラにも生活感を与えていたりもする。

 

「もしかして、奴隷の人からすれば、今の生活で全然充実してるとか?」

 

 というのも、何かの話において、余暇の時間を得た人物が結局何をすればいいか分からず、却ってストレスになってしまったというオチがあったそうな。

 

「充実……そう聞かれると……こっちは満足に食べられてるとは言えないし、そっちは明らかに迫害されてると思うから、さすがに充実してるとは言えないと思う。後、そういえばリタさんって、普通の人間で、魔力も高そうだけど、何で使用人をしているの?」

 

「それはまぁ妹のトリシャが理由だな。元々の儚げな感じに両親の冷遇、俺の迫害も加わって、当時冒険者稼業をしてたリタは、自分以外のパーティが全滅したタイミングでトリシャに出会って、コルフォート家の使用人に志願したらしい」

 

 ソースは設定資料集の人物コーナー。

 

「……良くない言い方だけど、それなりに聞く話ね。ダンジョン探索が危険とは言っても、四条家でも自分から冒険者になる人は一定数いるし」

 

「確か、領主に一定のお金を支払えば、冒険者として自由になれるんだっけ?」

 

「そうね。これも嫌な話だけど、冒険者になる人がいるおかげで、今いる人間が暮らせているのが実態なのよね……」

 

 冒険者については、サブクエストでのみの絡みなため、ほぼほぼストーリーとは関連がなく、実際おつかいイベントがほとんどで、世界観の掘り下げもない。多分、ギャルゲーに必要ないから。それでも、冒険者の5年生存率は三割を切るという、無駄にルナティックな仕様。

 

「冒険者最強、みたいな人物がいてもいいはずなんだけど、多分その前に命を落とすんだろうなぁ……」

 

「多分じゃなくて、それが実態ね……」

 

 だからこそ、途中で辞めたリタがこの世界の最強格に属するのだろう。加えて、5年後に生きてる人達は強い人ではなく、無理をしない人に限られる。

 

「まぁ普通にヤバいダンジョン入ったら死ぬしな」

 

 二周目以降、裏ボスを倒すためのレベリングで、初めてそのヤバさを知るのが典型だしね。これについても、テキトーなゲームバランス設定により、攻略サイトに載っているやり方じゃないとほぼほぼ稼げずに全滅確定という場所も、複数存在する。

 

「とにかく、目に見えない部分については、地道に確かめていくしかないな。で、そろそろ行ってみる? 多分、ウチのメイド軍団が玄関ホールに勢揃いしてるはずだから」

 

「うっ……そういえばそうだったわね……ここの用意もそうだったし、多分もう既に待ってるはずよね……」

 

 こっちもこっちでカルチャーギャップを痛感している様子だが、それは俺も味わった通過儀礼なので、若干の不平等感。やはり俺は、異邦人であり外国人。なのでしょうがないと諦めつつ、客間を後にする。ちなみに、ここの片付けも後回しにして集合している様子。

 

 

「「――――てっ」」

 

 

 遠目の時点でお互い驚愕し、つい心の安寧を求めて目を見合わせる。こういう場合、人間は共感を求めてしまうものだ。

 

「い、いくら何でも多過ぎない?」

「いくら何でも多過ぎるな……」

 

 屋敷正面から左手に伸びる長い回廊から玄関ホールへと戻る俺と水仙。まだ大分距離はある感じだが、状況を理解するには十分な視覚情報が揃っている。

 

 絵面的には、メイド軍団による討ち入り前といった感じか。あの広々としたホールから若干はみ出て整列するコルフォートメイド軍。その筆頭は何故かくノ一。また、集合罪してる理由は討ち入りではなく、一揆か革命と言った方が現実に即しているであろう。

 

「よし、ちょっとした遊びをしよう。全員で何人だと思う? そっちから」

「はぁっ!? い、いきなり……いや、そっちからでしょ普通……ホームなんだから」

 

「道理だねぇ……じゃあ…………四百人で」

 

 正直、見ても分からん。だって奥が見えないし。

 

「そ、そんなにいる? じゃあ、私は三百で」

 

 そう言われると、何だかそれ位に思えてくる。

 

 とりあえず、こっちに気付いているリタが、軍勢から少し離れて迎えに来てくれる。

 

「お二人共、こちらへどうぞ」

「あぁ……あ、リタ。ちなみになんだけど、全員で何人になる?」

 

 絶対にこうなるのを分かってセッティングしただろコイツ。

 

「――――1064人になります」

「マジでか……」「嘘でしょ……」

 

 言葉は違えど、驚きはほぼ同じな次期当主二人。

 

「せん、ろくじゅうよん……ちょっとした町やん……」

「……」

 

 そんな主の驚愕にも構わず、くノ一はエロい尻を揺らして歩き出す。

 

 若干場を呑まれた俺と水仙は、そのままホール正面の階段中央まで案内される。まるで所信表明演説をしなければならないような雰囲気だが、そんな気は更々ない。

 

「――あ、リタ、戻る前に。使用人が1064人いて、この屋敷って、向かいの別館も合わせると幾つ部屋がある感じ?」

 

「――――ちょうど1400になります」

「マジでか……」「嘘でしょ……」

 

 繰り返されるリアクション。贅を尽くす、という言葉の意味を、俺は初めて知ったのかもしれない。どうりで迷子になる訳だ。

 

「……」

「……」

 

 そして眼下では傾注の視線で並ぶ獣人メイド四桁越え。中々に壮観である。また、何が何だか分からないであろう水仙は、それでも肝はしっかりと据わっているようで、目で発言を促してくる。

 

 なので、仕方なく俺は正面に立った。少しは緊張するかと思ったが、明らかに緊張しているのはメイドさん達の方であり、こう上から見下ろすと、その感情がしっかりと伝わってくる。なので、こちらはリラックスして話すことができそうだ。

 

 

「――1064人いるってことで、全員がって訳じゃないかもだけど、これから子どもを沢山連れてくるから、皆にはその子達の世話をしてもらう。以上――」

 

 

 クズ貴族の財力と権力を手にして実質初日となる本日。

 

 これが、とりあえずの一発目に俺がやりたいことだった。

 

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