かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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東と南と四大分家の一角

「――と言うことで、やってきましたコルフォート東部」

「当然初めてだけど、思ってたのと大分違うわね……」

 

 予想通りのリアクションをくれる水仙。先程馬を一時預かりしてくれたお手伝いさん一行は大分後方の離れた所で控えている。これぞ、コルフォート家が誇る事なかれ主義の真髄か。

 

「一応聞くけど、何で水仙って馬に乗れないの? バリバリ乗れそうな育ちなのに」

「っ……何でって……そりゃ、乗る機会が無かったからよ。移動は基本馬車だったし」

 

「いやいや。次期当主としては、馬にも乗れないとかないだろ。そもそも、子どもの頃からシオンさんとかに甲斐甲斐しく仕込まれてそうだけど」

 

「そんなにシオンと歳離れてないわよ……っ、けど、確かに乗れた方がいいわよね」

 

 本人自身、何で乗ろうとしなかったのかが疑問な様子。まぁ答えは、二人で馬に乗って出掛けるデートイベントがあるからなのだが。つまり、ヒロインは全員馬に乗れません。おまけに多分リタも乗れない。ご都合主義とは恐ろしいものよ。

 

「さて、駅から離れれば離れる程何もないっていう感じだが、とりあえず、道を舗装することの大切さを実感できるな」

 

 時折強く吹く風が巻き起こす砂煙が中々にうっとおしく、周囲の活気の無さを更に演出してくれている。

 

 ここで位置関係にサラッと触れれば、学園を中心として北の丘に王城、その北西方向は侵入不可の険しい山脈。学園の南にはヴァーミリオンとシャンティエーカ領が並んで広がり、東が四条とコルフォート。この二領は学園と隣接しており、ここからも長い歴史が垣間見れる。

 

 先日荒らしに入った王家の墓を挟んで北が四条、南がコルフォートという塩梅だが、先代の築いた城壁のような何かによって領地はしっかりと区切られており、加えて南東側に当たる現在地は、本来なら水仙が足を運ぶことはないと思われる。

 

「何処まで豪華な屋敷が続くのかって思ったけど……ただ、スラムと言う程に荒れ果ててる訳でもないわね」

 

「うん? まぁ……そう、だな。確かに、スラム街という感じじゃないな」

 

 謎の店へ行く際に通った西の果てに比べればその通り。ただ、今の水仙の口振りから察するに、四条の方も結構酷い感じなのかもしれない。これもワールドマップが実装されていないゲームあるあるだが、プレイヤーの目に触れない場所が滅茶苦茶多いのである。

 

 家というよりは小屋、それらが一応規則正しく並んでいることで、一帯に文化的な風景をもたらしてはいる。それでも周りに商店などはなく、水仙も言ったように荒れ果てているというよりは物寂しいといった印象。

 

「コルフォートの人口は大体政令指定都市レベルって聞いたけど、それだけじゃ大分幅があるだろって話だよなぁ……」

 

「何言ってんのか分かんないけど、子どもを保護していくのよね?」

 

「そう。まぁあくまで、本人が希望すればだけど、赤ちゃんは問答無用で引き取るかもしれん」

 

 既視感を覚えるやや大きめの建物へ足を向けつつ、並んで歩く水仙の問に答える。

 

「ま、こういうことなら普通に手を貸すわよ。一応、本来の目的にも合致する訳だし」

 

「うん? 何の話……って思ったけど、そういえば俺の罪滅ぼしに付き合ってくれるって流れだったな。今更だけど、こっちが一方的にありがた過ぎないか?」

 

 イメージ的には、世界の人気者が無償でサポートしれるって感じなのだが。

 

「別にそっちがどう捉えるかは関係ないわよ。ただ、こっちからしたらアンタの……せい? それともおかげなのか、まだ分かんないけど、色々とあり過ぎて結局縛られてるのかも」

 

「まぁ……かなり前倒しで当主になる感じだもんなぁ……」

 

 今となっては本人が決めた道。とは言っても、バリバリに影響因なのは事実。

 

「だとしても、探索遠征に行く前と比べれば、寝る前に悩むことはなくなったわね」

 

「あーなるほど。明日の心配をしながら今日を終えるサイクルか……ある程度そうあるべきだとは思うけど、深刻なのが毎日だとつまらない生活になるよなぁ……」

 

 逆に、明日はこれをやろうとワクワクし過ぎて一向に眠れないというパターンもあるっちゃあるが、それでも前向きに入眠するのが人間にとって大切なことなのは間違いない。

 

「本当に……そうだと思う。私が深刻に考え過ぎてて、それが周りに負担を与えてたって、最近になって気付けたし」

 

「四条家はホント、水仙個人への忠誠で何とかなってるトコあるしな。その当人が一生浮かない様子じゃ、周囲のコンディションも下がる一方だろ」

 

「はっ? 何今のはな――っ」

 

 そこで、珍しく良いタイミングで建付けの悪い扉が音を立てて開く。

 

 パッと見な話、周囲の柵が最早柵という概念を満たしていないのだが、今度暇そうなヤツを適当に見繕ってこの辺の修繕に当たらせようかと思った。

 

 

「――っ!? っ……レ、レクス様……何故、こんな……」

 

 

「よしよしよし、ちゃんといてくれた」

 

 話をスムーズに進めるには、場を吞むのが肝要。ということで、俺は登場した黒髪の青年に接近し、軽く肩に手を回す。

 

「――えっ!?」

 

「紹介しよう。彼の名はクリス。この世知辛いコルフォート領で人の心を失わず、身寄りのない子ども達を引き取って細々と生活を続ける聖人のような人物だ」

 

 もちろん、全てキャラクターブックの引用だが、実際そんな感じで間違いない。

 

「なっ? そんな、ことは……」

「っ……彼? 嘘……男、なの……」

 

 彼は突然のことに、水仙はその容姿と性別の不一致に驚いている。予想はしていたが、2秒で流したい要素ではある。

 

「クリスという名前も含めていと紛らわしいが、彼はれっきとした成人男性であり、当然俺らよりも年上だ」

 

「そ、そう……なの?」

 

 経験則からか、俺の言葉を信じ切れない四条水仙は、当人に確認する。

 

「え……あっ、はい。僕は……男です」

「っ……」

 

 艶のある黒髪短髪、顔は女、声も女、でも男。界隈ではよくある話だが、ここを現実世界として過ごしてきた者にとっては、その限りではないだろう。何とは言わんが、よく掘られずにここまで生き抜いてきたものだ。

 

 また、もう一言だけ補足するなら、ぶっちゃけトークファンブックの中で、複数いるイラストレーターさん達が冗談交じりにおっさんを描くのが一番しんどいと話していた。まぁ、我々はそこから察するべきだろう。声優さんも女性だし。

 

「今更だけど、皆声綺麗だよなぁ……」

 

 特に水仙の声はガチでそう。

 

「な、何よいきなり……」

「いや……」

 

 そして、レクス・フォン・コルフォートには声が実装されていない。無論、戦闘ボイスのやられ声すら存在しないのである。まぁ、需要ゼロだしねぇ。

 

「も、もしかして……貴女は、あの……」

「あ……四条水仙です。よろしくお願いします、クリスさん」

 

 狼狽から抜け出せないクリスに対し、すぐに余所行きの表情でリカバーする水仙。この辺りは練度の差が如実か。

 

「――っ!? あ……あの……」

 

 後ろ向きな推量が働いたのか、顔を青ざめて一歩下がるクリス。確かに、彼からすれば現状は青天の霹靂過ぎる。

 

「大丈夫だ、悪いようにはしない」

「もうちょっと言葉を選びなさいよ……あの、外に出ている子ども達は、こちらで?」

 

 何となく察した様子の水仙が、周囲を見渡しながら質問する。

 

「は、はい……その、申し訳ありません。おもてなし出来るようなものは、何も……」

 

「いやいやいや、問題ない。どう考えても不意打ち且つ刺激が強過ぎるし、用件を済ませたらすぐに退散する。っていうか立ち話で十分だから」

 

「……用件、ですか……」

「それって、ここに住んでいる子ども達を引き取るってこと?」

 

「っ……」

 

「――いや、ここで暮らす子の多くはクリスさんを心から慕ってるし、貧乏に負けない強メンタル持ちもいる。とは言っても、全部が全部上手く回ってる訳じゃないから、そこら辺はケースバイケースで臨機応変にやね。差し当たって、食事面の支援は本日から開始する」

 

 既に適任者を見繕うようリタに指示してあったりする。

 

「――なっ!? あ、あの……っ……もしかして、当主様が代わられるという噂は……」

 

「やっぱりもう領内に広まってるのね。こっちはまだ確認してないけど、四条の方もそうなのかしら」

 

「まぁ、娯楽に溢れた世界ではないからねぇ。この手の噂話が伝播するスピードは相当なものなのかもしれん」

 

 何処かの段階で、コルフォート領の価値観の平均値的な概念を掴みたいとは思う今日この頃。某世界では最早、インターネットがないなら生きている意味はありませんみたいな人も珍しくはないし。人生それぞれ十人十色である。

 

「ここだけの話、でもないけど、これからは俺が当主で回ってく感じだから、少なくとも今日食べるパンがないみたいな領民はいなくなる……はず」

 

「そこまで言ったなら言い切りなさいよ……」

 

 実際、食糧の需要と供給においては全然余裕がある我が領。当然、独占する輩によって今までは歪み切っていた訳だが。そしてその中心が俺とか俺の家。あなかなし。

 

「まぁまぁまぁ。後、結構な頻度でこの家の前に赤ちゃんが託されていくっていうのは、今も変わらず?」

 

「な、何故、それを……っ……パニーニ家の方に、陳述、その……嘆願書のようなものを送らせていただこうかと、考えてもいたのですが……」

 

「いや、そんなことをしたら最悪殺されるまであるから、思い止まって正解だったと思う」

 

 今更だが、なんちゅう理不尽。

 

「パニーニ家……確か、コルフォート領における四大分家の一つだったわね」

「はい……事実上、南東部に当たるこの辺りを治めている貴族になります」

 

 ただまぁそれは置いといて、本件は約半数のプレイヤーがスルーするらしいサブクエスト、コルフォート領に孤児院を作ろう、を雑になぞっているのである。

 

 イメージ的にはモチベが上がりそうなものだが、蓋を開けてみればキモいレベルのたらい回しとおつかいの連続で、ドロップアウトするプレイヤーも多いとか。ゲームにおけるクエストの性質上仕方のない話なのだが、所々でそれはてめぇでやれよ、というツッコミを禁じ得ない。

 

「で、さすがに赤ちゃんを受け入れる余裕はないと思うから、今後はこっちで請け負う形にする。今の所一応、キャパは千あるから」

 

「改めて、結構な数字ね……」

 

「非常に、助かります……ですが、重ねて、ここにはお返しできるようなものは……」

 

 ゲーム内ではすんなり飛びついていた印象だったが、ここまであからさまな話の内容からすれば、当然の反応だろう。だが、こちらにも予定がある。隣に頼れる用心棒がいる内に済ませたいことはそれなりにあるのだ。

 

「うん、素晴らしい反応だ。コルフォートと言えば詐欺だからな。とにかく、もう少ししたら褐色肌の露出狂美人が尋ねてくるはずだから、その人から詳しい話を聞いてほしい。我々はこれから、パニーニ家に行く流れだから」

 

「ちょっ、聞いてないんだけど……」

 

 そういえば、水仙にちゃんと説明してなかった。ある意味で癖になっているのかもしれない。きっと、そう言ったらまた絞められる。

 

 抵抗不能な暴力が目の前にあるという恐怖に駆られた俺は、未だ納得には程遠い様子のクリスさんを押し切り、そそくさと来た道を引き返して馬に乗る。それにしても、従者達のスムーズな対応には恐れ入る。

 

「――てか、後でアルレッキーノを迎えに行かないとな」

「っ……てっきり、出発する前に一旦寄ると思ったんだけど」

 

 手を取って引き上げ、水仙を後ろに乗せる。

 

「いや、既に馬が用意されててさ。もし違う馬が、とか言い出したらマジで皆オロオロするから、言い出せないんだよなぁ……」

 

 飯についても、最初は命乞いされたしなぁ。別にクレームを付けた訳でもないのに。

 

「何か、今までのコルフォート家が分かる話ね……」

「今日の用事が全部済んだらローリーへの手土産に加えてリンゴも持参して訪ねよう」

 

 もちろん、別にこの馬が気に入らないという訳ではないが、あの長距離走行をこなした実績と愛着は、離れたからこそ分かる類のものだった。

 

 そんなこんなで、馬を走らせること数十分で目的地に到着。四条家にある食事と日本食の照らし合わせをしていたら体感時間はほぼ一瞬であった。

 

「――とんかつあるのに、鰻食べないってよく分からんなぁ……」

「鰻って、あのヌルヌルしたのでしょ……蛇を食べないのと一緒だと思うんだけど……」

 

「諸々落ち着いたらプロジェクトを立ち上げて、蒲焼を作らせよう」

 

 これでまた一つ、この世界で生きるモチベが増えた。とりあえず馬から降りて従者に託す。

 

「……何か、馬鹿みたいな屋敷の中で生活してるからか、このレベルだと小さく感じちゃうな」

「どう考えても十分大きいわよ……」

 

 栄えている方向へ数十分の移動。俺と水仙は青い屋根が特徴的なまぁまぁデカい屋敷の前に並んでいた。そして、どうしたのってレベルでオロオロしている門番のような兵士二人。我が家とは違い、しっかりと鎧と剣で武装しているが、この辺りは治安が悪いのだろうか。

 

「レ、レ、レ……レクス、様……」

「レレレは止めようぜ……」

 

 さすがに。

 

「――っ!? しっ、失礼致しましたっ! ど、どうぞ……中の方へ……」

 

「当たり前かもしれないけど、普通に顔パスなのね……」

「都合がよろしいから気にしないでおこう」

 

 ガチャガチャと金属音を立てまくって震えている兵士二人を労い、敷地内に入る。

 

「1分未満で扉まで辿り着けるのは助かるな」

「普通は5秒未満で辿り着けるんだけど……」

 

 少しずつ埋めていきたい感覚の差を流しつつ、既に兵が退散しているっぽい扉の前に。ある意味で英断なのかもしれん。そう思いながら、俺は無駄にデカ過ぎる扉を押し開ける。普通だと信じたいが、扉は自分で開けたい派。

 

 

「「―――――――」」

 

 

「――お……お許し……下さい……どう、か……」

「何だ? 獣人風情が、主の慰めを拒むというのか?」

 

「「…………」」

 

 演劇の練習中だろうか。

 

 似合わない服を着た小太りのおっさんが、生理的嫌悪で表情を引き攣らせている猫系の獣人お姉さんに跨ろうとしている。

 

「何故に入ってすぐの所で……」

「…………ねぇ? コレ、どうするの?」

 

「っ……」

 

 冷たい声と共に俺の左肩を掴む水仙。徐々に増す握力が、その感情を物語っている。っていうか普通に痛い。

 

 

「いや、そりゃあ……」

 

 

 本来のレクス・フォン・コルフォートならば、貴様、手緩いぞ、の流れだが。

 

 

 とりあえず俺は、目の前のおっさんに同情する所から始めることにした。

 

 

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