「――マジかよ……飯が絡む話なら無条件で味方だと思ってたのに……」
「えっ? 何が――はっ? アンタが小食なだけでしょ?」
「いや目ぇ怖いって……」
食いしん坊キャラを受け入れられれば、また一皮剥けそうなのに。
「……」
「それに、ラトーラがわざわざ訪ねてくるなんて、今までだったらまず考えられないわ」
「うーん……まぁ、やや驚いて空腹感が一旦引っ込んだからいいか」
ただ、次に空腹を身体が思い出した時の萎え方がヤバそうではある。
そんなこんなで、俺と水仙、ラトーラはデカい庭にちょいちょいポツンとある屋根付きの椅子に向かい合って座っている。リタ曰く、これはガゼボと言うらしいが、完全に初耳だ。三文字とも濁点が付いた言葉を一つ言って下さいと振られた時に使ってみようと思う。
また何となく、メリーゴーランドを三段重ねたみたいなお皿に乗せられた小さなスイーツと一緒に紅茶が出てくることを期待していたが、ラトーラの魔力にビビッて従者達は近付こうともしない。後方で控えているリタに頼むのはちょっと気分的にムズそう。
「うん……この時間にスイーツもないな……」
そして状況はシンプル。
無口無愛想銀髪美少女の凸を受けた俺は、その圧と水仙の離反により、ダイレクトで庭へと追い込まれた格好である。まぁ正直、暴力で圧倒的に劣っているのでこれはもうしょうがない。当然、逆なら蹴り返して後日指定した時間に来させる所ではある。
「んじゃまぁ、用件を聞こう。緊急性が高いということに関連して、ある程度察しは付いてるっちゃ付いてるけど」
「……」
「そうね……ただ、ラトーラが事情説明なんて……」
「それについては……っ」
「――っ!?」
それは長い銀髪の隙間に収納されていたかのようだった。
ビジュアルは完全に雪の結晶。そのまんま過ぎて逆にデザイン盗用とはされなそうだが、つぶらな瞳が二つ加えられているだけで、何となくゆるキャラとして成立しているように思えなくもない。
目の前でフワフワと浮かんでいる姿はある種感動モノではある。表面が冷たいのかが若干気になるが、見た感じメッチャ冷たそう。
「な、何……それ……」
展開予測が出来ていた俺と、そうではなかった水仙。その分、リアクションの大きさに差が生まれたが、特に取り上げる問題ではない。
「魔法生物だ。俺の知る限りではラトーラ以外に使役できる者はいない。必要な場面において、短文しか話せないラトーラに代わって喋るのが唯一無二の用途となる」
ゲームをプレイしていれば同意できることだが、全ての設定がガバガバなため、何の説明もなしに存在していても特に違和感を覚えないという、何故かグッズ化までされているマスコットキャラである。そこの方がむしろ不思議。
ちなみに、ラトーラルートに入らない限り登場することもなく、ラトーラ本人と主人公以外に存在を知る者もいない。
「……」
「っ…………」
何でアンタが知ってんのよ? と言うのはもう引退したらしい水仙さん。非常に助かる。
「えっとぉ……実はなんスけどぉ……」
「唐突に喋り出すのね……」
「まぁまぁ、聞こうじゃないか」
後で知ってびっくりな話、声優さんはラトーラと一緒で、べしゃりはスッススッス言う後輩キャラ。好きな人は好きだろうし、どうでもイイ人はどうでもイイ。俺は後者。
「お二人がいきなり辞めたじゃないスかぁ……それで、すぐ会長さんが補充要員を入れたんスよ。で、慣らし運転みたいなノリでギルドの依頼を幾つか受けようって流れのままダイレクトでダンジョンアタックしたら会長さんと補充のお二人がご臨終しちゃったって感じっス」
「「やっぱり……」」
でなければ、ここに訪ねてくる役はその会長さんであるはずだ。それ位は言われんでもわかる俺と水仙。
「……あ、あの、カルシェラは?」
「うん? あ……あぁはい。カルシェラさんも死んでます。忘れてました。サーセン」
ノリ軽っ。
「そ、そう……それじゃあ、ラトーラだけで何とか倒して逃げてきたって訳ね……」
「いや…………もしかして、ラトーラって『アイス・リレイズ』使える?」
「――えぇっ?」
「…………使える」
一見して無表情の中に、約3ミリグラム程の「お前何で知っとんねん?」という成分が確認できる。その横では対照的に、情緒豊かな反応を示す使い魔。
「へぇ……マジか……」
薄々そうではないかと思っていたが、ラトーラはこの時期で既に来年のパーティ加入時と変わらぬ強さ、レベルを有していることがほぼ確定した。補足すると、正式加入は後半の一歩手前位なため、かなり強い。
「聞いたことないんだけど……そんな魔法」
「ラトーラの魔法は多分書籍化されてないからな。要は一時的に自分を氷漬けにして魔物からのヘイトをゼロにしてやり過ごす便利な魔法だ」
ある意味、死んでいった仲間目線で言えば超絶に自己中な所業ではある。それはまるで、野良パーティにサッサと見切りを付けて逃げ出すソロプレイヤーのように映るかもしれん。
「それって……つまりドラゴンと戦った時も……」
「そう。『アイス・リレイズ』はボス戦でも機能するから、俺らがボコられてもラトーラだけは帰還出来たって話だな」
「凄い魔法ね……」
ラトーラ加入後は唐突なボス戦が多く、スタッフ的にはその救済措置として設けたとの話だったが、シナリオ担当者は「それじゃ意味なくね?」と漏らしていたそうな。予想外の場面からボスを投げ込み、プレイヤーを責めたいS気味なライターだったのかもしれない。
ないとは思うがワンチャン、所々で魔物との戦闘を挟まなければならないストレスによる嫌がらせが生み出した魔法とも言えよう。
「まぁ、最近のRPGはオートセーブ多いし、慣れてくるとセーブって忘れちゃうんだよなぁ……」
シナリオに没入すると更にセーブし忘れる可能性は跳ね上がる。
「……お二人共、それを知ってもキレ散らかさないんスね? 何とか倒して逃げてきたってことにしようと思ってたんすけど」
「いやむしろラトーラが命を賭けて戦ってくれる方が違和感強めだわ」
「あの場面でそういう手段があるなら、普通に使用するべきよ」
この辺については俺も水仙も、死んだ自分が悪いというスタンス。自分がやられたら味方のせい、と瞬間的に感じる人も多いらしいが、どちらが間違ってるとかではないだろう。少なくとも、犯人捜しするならアレは凸ったアルフェンが第一戦犯だし。
「……」
そして、正面からは若干不満気な視線を覚えるが、これは俺の被害妄想かもしれない。
「で、ダンジョンか……じゃなくて、ギルドの依頼ってことは……」
完全にサブクエストやん。それも何故今なのか。自分原理で考えるなら、こっちがサブクエに着手したから生徒会連中もそっちに流れたと見れるが、判断材料はまだまだ不足している。
「ユッキー、何処の何てダンジョンか分かる?」
「分かるっス。こっからまだ近い方なんスけど――」
「――ちょっと待って。貴方の名前、ユッキーって言うの? それを、ラトーラが……」
またどうでもイイことに囚われてしまう病が発症した様子の水仙さんが、堪らずカットインしてくる。それと同時に、面倒そうな顔をした俺に対して目線で咎めてくるのも忘れない。
「名前はないっスよ。だとしても、雪の結晶みたいなナリっスから、ユッキーって言われれば自分のことだって位は理解出来るっス。当然、別にそれで構わないっスよ」
「へぇ、キミ、下手な人間より絡み易いな」
「どうもっス」
「っ……いいわ。続けて」
ラトーラの不参加により、2対1で勝利を収めた我々。
「はいっス。ダンジョンはシャンティエーカ領内にあるナーガラージャの城跡地下っス」
「えぇ……」
終わってる。
プレイヤーによってはクリア後に行くダンジョンやん。しかも依頼の内容的にも放置で問題ないヤツだし。
「何でよりにもよってそこ?」
敵メッチャ強いて。
「持ってきたのは会長さんっスね。現状、死人に口なしっスけど」
「それ、使い方おかしいわよね……」
「まぁまぁまぁ、一応確認するけど、3人、じゃなくて4人か。遺体のある場所はどの辺?」
「そっスね。城跡の階段を下り切ってから、数分も掛からない地点っスね」
「うーん……逆に結構行ったなぁ……エンカウント2、3回は避けられんだろ……俺らが行っても完全にミイラ取りがミイラだな……」
ある意味、アルフェン会長は一昔前の勇敢という概念が服を着て歩いてるようなキャラなのかもしれん。敏感なカルシェラはさぞ死の気配に怯え切っていたことだろう。
「知らないけど、そんなに厳しい所なの?」
「少なくとも、4人がやられたのはこの前のドラゴン以上の魔物であることは確定」
「っ……嘘でしょ……何でそんなダンジョンが……」
設定です。
それに、RPGによってはストーリー進行で周辺の生息モンスターがレベチで強くなるなんてこともある。今回に関してはダンジョン内に引き籠ってくれてんだから、むしろ一定の配慮があると言えよう。
それにどの世界にだって、行かない方が身のためな場所は、意外と身近にあるものだ。
「えっと。地下なら、通常は3日で蘇生不可だっけ?」
気温が高過ぎる所だと、更に期限は短くなる。そんなトコに限って細かいアホな世界。
「だから、2日と考えた方がいいでしょうね」
「………………残念だけど、今回は打つ手なしだな」
「確かに、ドラゴン以上の魔物と3連戦は現実的じゃないわね……っ……あ、モヤっと玉は?」
モヤっと玉。よくある戦闘脱出便利アイテム。
主に地面へと叩き付けることで緑色の煙を発し、何やかんやで戦闘から離脱できる。
「いや、シャンティエーカとヴァーミリオンにあるダンジョン内ではモヤっと玉は使用不可だ」
「はっ? 何で?」
仕様です。
「とにかく使えないんだって。使えたらカルシェラが使ってるだろ。知らんけど」
理由は、デバッグしてる段階でモヤっと玉投げまくりでアイテム回収が可能だと気付いたことによる改変である。もし可能だと、ゲームバランスが開始4時間程で崩壊する。無論、今は崩壊してほしい。
「ヤバいな……ある意味で、俺と水仙が多少遠因とも見えるし」
「それは普通に原因だと思うんだけど……」
「そうなると、お二人でも遺体回収は無理っスかぁ……とは言っても、出来たら何とかレベルの話なんで、しゃーないっスね」
「何でそんな軽いのよ……」
ラトーラからしたらそんなもんだろう。むしろ、ここまで手間を掛けたのだから、結構イイヤツな印象に塗り替わったまである。
そう考えると、より何とかしたい所ではあるのだが。
「………………あ」
割とすんなり策は出てきた。俺は思わず、微妙にライトアップされたドデカい屋敷を見上げる。
「おっ、何かあるんスか?」
「何かと聞かれればとにかくメチャクチャ金があったことを思い出したわ。水仙、幾らって言ってたっけ?」
何だか知らんが結構な額だった気が。
「何で忘れられんのよ……160、億ガバチョでしょ……」
声帯が拒絶反応を示したのか、水仙は詰まりながらその数字を言葉にする。
「え……額、ヤバ過ぎないスか……」
汗を垂らすエフェクト。ずっとそうだが、中々に感情豊かなユッキー。
「魔法生物目線でもヤバいのか。いや、そこはラトーラ本人の感覚か。古来より、金で済むことは、金で済ませるという名言を聞くが、今は正にそのシチュエーションなのかもしれん」
パッと見で金にモノを言わせる以外の方法は確認不可能。ならば、早々に行動を開始するべきであろう。ただ、本音を言うと解散して一回寝て、明日の昼前に再集合して動き出したい所。
実際のRPGでもあってほしい。じゃあ一回帰って休んで、また明日の昼過ぎに集合な。世界は今にも滅びそうだけど。
「まぁ駄目だよな……」
そして、一向に滅ばない世界。だったら日曜位、ゆっくり寝かせてくれ。
「つまり……また、そういうこと?」
「そういうことだな」
「……」
何となく、三者の間で疎通が取れてる雰囲気の俺達。ユッキーだけがクエスチョンマーク。事前情報の同期が不完全なのかもしれない。
「それじゃ、お金をササっと収納して、とっとと向かうか……」
そういえば、我が愛馬アルレッキーノは元気にしているだろうか。きっと、社畜馬である彼からすれば特にどうということはないのだろうが。
そんな風に思いつつ、俺は屋敷へと足を向けた。