かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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分析と主人公と幼馴染

 軽く状況を整理しよう。手綱を操りながらでも、その余裕は十分にあるらしい。

 

 いや、実は整理する必要はない。だが、これは気持ちを落ち着けるためには必要なシークエンスと言えるだろう。

 

 エロゲには、共通ルートと個別ルートという概念がある。

 

 共通ルートは基本、導入部から中盤、もしくは終盤一歩手前までの一本道を指すが、あくまで基本なのでゲームによって扱いは結構異なる印象だ。

 

 そして、共通ルートの終わりから分岐し、各ヒロインをメインとしたエピソードが描かれるのが個別ルート。蛇足だが、共通まではイイのに個別入ったらクソ、みたいな作品はまぁまぁあるし、その逆もまた然り。恋愛要素においてはくっつくまでが楽しいって人も多い。

 

 尚、俺がぶっ込まれたこの世界は、個別ルートに入るともう完全に終盤戦な感じであり、試練という名のボス戦を挿んでラストダンジョンアタックの流れで本編は締め括られる。

 

 ただ、大抵のユーザーはレベル上げややり込み、ヒロインとのイチャラブイベント回収に邁進するため、プレイ時間的には個別のボリュームは結構なレベルではある。とは言え、王城で試練宣告を受けた俺には、もう寄り道は許されないのだが。

 

 しかもこのゲームは周回プレイ前提であり、それ毎に敵が勝手に強くなる仕様もあるため、それが面白いかどうかは置いても歯応えはあるっちゃある。なので諸々引き継いでプレイしても、オールオートプレイという訳にはいかなかったりもする。

 

「――ねぇ? その……多分、腕力が上がってるのって、この指輪の効果、なのよね?」

 

「うん? あぁ、そうだな。そういや、ステータス自体が強化される装備が一周目……じゃなくて、通常で手に入るのはそれ位だから、結構な違和感ではあるかもな」

 

 ヒロインとの好感度が一定を超えると王城から呼び出され、対応するアイテムと試練を押し付けられ、個別ルートへと突入する。当然、ゲームなら呼び出しをシカトし続けることも可能だが、現実ではそうもいかないのが哀しい所か。

 

 因みに、水仙は力、リースは速、ラトーラは魔、カルシェラは運という塩梅。それ以外の隠しヒロイン達はそもそもが全く異なる展開のお話となるため、該当のアイテムは用意されていない。

 

「しょうがない所ではあるんだけど、現状なら守が上がってほしいっちゃほしいよなぁ……」

 

 ここまで見る影もないが、そもそものタンク役はアルフェン会長であり、水仙は本来、主人公のカナトを凌ぐ物理アタッカーなので、システム的には何の間違いもない。ただ、結局ラトーラが最強なので、引き継ぎ云々を考えると、一週目はラトーラ攻略が推奨される。

 

「で、二周目は最速回復目的でリース……まぁ、こんなことなら、もっと早くコンタクトを取っておくべきだったな」

 

「……戦力アップとは言っても、中等部の子にそんな凄いのが二人もいるなんて、聞いたことなかったわね。何でかしら……」

 

 全く以てそれはそうだが、もう面倒臭いから設定でよろしい。

 

 そんなこんなで、なし崩し的にパートナーとなった我々は、仲良く馬に乗って移動中。無論、今もブチギレ中だと思われる従者筆頭から逃れ、然るべき冷却期間を得るための現状であることは説明不要であろう。

 

 それはさておき、晩秋の爽やかな風が心地良い。とにかくその件については、今は棚上げしておくということだ。

 

 さて、これから向かう先で待っているのは吉か凶か。

 

 水仙の言うようにパーティ強化もあるが、主目的は選択肢の拡充にある。期待値通りの展開なら、俺は戦闘においてはやっとお役御免になれるし、リターンの大きい試みではある。

 

 ただ、本来あるべき相手であるカナトと水仙が出会うことで何が起こるかまでは、俺には分からない。ワンチャン、ルートに入ってすぐ寝取られという残念展開もなくはない。

 

「っ…………うーん。まぁそうなったらそうなったで自然の摂理だし、それはもうしゃーないかもしれんな」

 

「何が?」

「いや。とりあえず、放課後の前に到着出来そうなのは素晴らしい」

 

 明日の朝一は予定も入ってるし、今日中に出来ることは今日やっておきたい。まぁ、縛りの緩い平和な世界を生きていたら、まずあり得ない考え方ではあるが。

 

「そうね…………それより、アンタって今日は、自分の屋敷に帰るの?」

「えっ? あー」

 

 言語化はしなかったが、乗馬における互いの密着度は王城到着以前よりも増している。重ねて、一言の文句もない話だ。

 

「いや、帰るにしても、この用事が済んだら四条家に戻ろう。色々報告するべきだし。ただ、割と本気で身の安全の確保を頼みたい」

 

「ホントにその方面のプライドないわよね……」

「正直、今までは片腕で絞め落とされてた感じだけど、今なら指二本とかで絞め殺せるだろ?」

 

 彼我との戦力差は筆舌に尽くし難い。そこにプライドなどあるはずもなかろう。何より、女性の方が強いなんて、二次元じゃ常識だぜ。

 

「っ……かもしれないわね……だから浮気をする時は、それ相応の覚悟を持つことね」

「止めろって……」

 

 所々で作中の台詞が引用される。それこそ、こういうのが世界線という概念を示す証拠なのかもしれない。

 

「――おぉ……ここが中等部か。確かに、建物はみすぼらしいけど規模はこっちが上だな」

 

 サラッと流される系の設定だが、初等部から中等部、そして舞台となる高等部への流れはエスカレーター式ではなく、区切りでガンガン脱落者が去っていく弱肉強食。特に中学から高校で大分ゴッソリ人員が減ることはこの敷地面積が物語っている。

 

「今更だけど、アンタってホントは何処の誰なのかしらね。ま、どうでもいいけど」

「その辺りを受け入れられる所が凄いし、俺にとっては只々救いなんだよなぁ……」

 

 もう大分多岐に亘ると思うし、よくは分からんが、大体の転生モノは最後までそこはカミングアウトしない方が一般的だろう。場合によっては言ったら死んだりするし。

 

 もし機会があれば、生死の境を延々インターバルランさせるという荒療治を是非試してみてほしい。ワンチャンバグって既存のキャラ設定からはみ出せるかもしれない。

 

「「――っ!?」」

 

 高等部と同様、正門前で立っている門番か警備員か職員さんみたいな二人が、我々の登場に大きく動揺しているのが分かる。立ち仕事であることを除けば、大分ストレスフリーな業務であると思われるが、人によっては暇地獄とも考えられる。

 

 現状、この閉ざされた世界において超が重なって付くレベルの有名人である我々は、当然のようにアポなしで敷地内へ足を踏み入れる。こっちが言う前に馬まで預かってくれるという親切対応に、権力者が人生をナメてしまう理由の一端を垣間見る。

 

「さて……この感じだと、授業中であってもこっちの用件を優先してくれるように思えるが、とりあえず三年生の教室へ凸るか……水仙、何処か分かる?」

 

 主人公とその幼馴染は中学時代三年何組だったのか。さすがにそこまでは知らんし、多分設定もされていないと思われる。っていうかそもそも職員室が何処かも分からん。

 

「っ……大丈夫じゃない? あっちから走ってくる人、中等部の校長先生だから」

 

 確かに、我が分家残念四人衆を彷彿とさせる小太りの男性が、必死の形相でこちらへと向かってくる。若干申し訳ないが、都合がよろしいのでこの場では流しておく。

 

「っ……ハァ……ハァ……よ、ようこそ、おいでくださいました……ハァ……ハァ……次期領主様のお二人がこのような……所に……ハァ……どのような……ご用件でしょうか?」

 

「なるほど、世間ではもうそんな感じか……」

「きっと、今は他に話題もないんじゃないかしら」

 

 ネットが無くとも噂は広まる。これはもう人間の業に近い何かっぽい。

 

「まぁ業ではないか……で、なんすけど、三年生に二人、会いたい学生……じゃなくて、生徒がいて、ちょっと話をさせてもらうとか、可能ですか?」

 

「っ……は、話……を……っ、い、いえっ!? もちろんです……それで、その……生徒の名前……など……お聞かせいただければ……」

 

「えっと……二人共、シャンティエーカ領の平民なんですけど、カナトと、リースって……分かります?」

 

 まぁこれで分かるだろう。

 

「ぁ……リースという生徒は、本年の成績優秀者です……カナ……ト……っ、とにかくっ、ご案内致しますっ」

 

「お願いします」

 

 どうやらイケそうだ。毎度スムーズにいかないことも多いため、諦め半分でここまで来たが、流れは来ている様子。なので、校長先生の後ろに続く。

 

「でも……言うて俺らってこの前までは高等部の学生だったのに、そんな限界突破な感じに畏まる相手、なのか……」

 

「いや私じゃなくてアンタだから。あの人は平民だし、もし貴族だったとしても、コルフォート家に目を付けられたら終わりっていうのが、一般的な感覚よ」

 

「あー、言われてみりゃそうだ……」

 

 多分、ウチって国家権力や反社会的勢力以上にケンカ売っちゃいけない存在なんだろうなぁ。主人公達が普通じゃないっていうのをどうにも忘れがちではある。

 

「まぁ一応言っておくと、お前はこれから、本当の意味での物語の主人公と対面することになる。電撃が走るような感覚も十分考えられるから、ある程度身構えていた方がイイかもしれん」

 

「っ……はっ? いつも以上に何言ってるか分からないんだけど、その……カナト君? がその……物語の主人公みたいな子な訳? それとも、リースさん?」

 

 そういえばな話、俺目線だと水仙は先輩な感じしないけど、作中では一個下の相手に子とか言っちゃう程度には真面目先輩キャラだったことを思い出す。正直、矢印みたいに真っ直ぐで且つ融通の利かないことしか言わない彼女の面影は、既にほぼない。

 

「カナトの方だな。リースはその幼馴染で、明るく元気で優しいムードメーカー兼常識人枠ツッコミキャラだ。実は戦力的には、彼女の方が期待できたりする」

 

「っ……明るく元気で優しい……アンタって、そもそもはそういう子がタイプだったりする訳?」

 

「うーん……リースはちょっとなぁ……もちろん嫌いじゃないけど、親戚の子にいてほしい感じかな。で、年に数回会って、あれもこれもお腹一杯食べなさいって煮物を推すおじさんでいたい、みたいな」

 

「それ普通に嫌われるでしょ……」

 

 階段を上りつつ、いつも以上な困惑顔を浮かべる水仙。

 

「とりあえず、今の状況が物語っているように、そもそも俺は水仙派だからなぁ……リタとかラトーラもだけど、実際に絡んでみると、今みたいな距離感がイイかな。ちなみに、カルシェラは論外だ。今でも顔を真っ直ぐ見ると、ゲロの臭いがリフレインされてしまう」

 

 イメージ的にはアンモニウムにメルカプタン、プラスの要素が無さ過ぎる。

 

「最後ので発言全てが台無しなんだけど……」

 

 というやり取りの中、三階に到着し、今度は長い廊下を進む。

 

 どうでもいいが、ここは大学の校舎っぽい高等部とは違い、規模はデカめでもしっかり中学校な感じ。決定的な違いは、やはり土禁ではない所か。一瞬世界観的にこの某島国風の学校は違うだろと思ったが、例によってそんなこと言い出したらそれだけで全てが終わってしまう。

 

「――こちらのAクラスになります。今の時間は授業中ですが、もちろん問題はございません」

 

 いや、普通に授業妨害だろ。でも言わない。というか、既に我々の存在を察知した生徒達のざわつきが耳に届いてはいる。果たして、このツーショットは彼らにどう映るのか。さすがに小一時間前から交際をスタートさせているとは思わんだろう。

 

「――おっ」

 

 いた。っていうか、中央の席から振り返ったリースと完全に目が合っている。重ねてどうでもいいが、本校は30人学級らしく、教室後方にはそこそこのスペース的余裕が見られる。

 

 シオンさんと比べて黄緑寄りな髪色のポニーテール、その隣には黒髪短髪、席位置も含め、非常に目立つため分かり易い。

 

 思えば皮肉なことに、最初期のプレイアブルキャラである二人との出会いが大分遅くなってしまったように感じられたが、俺はこの何となくの勢いを止めずに後方の引き戸を開けて教室内へと踏み入るのだった。

 

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