かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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事情と説明と擦り合わせ

「――よし、そっちがその気ならもうこっちだって気を遣う必要はないな……予定を前倒しにして今日中にアルフェンを復活させよう」

 

「……あの、今のそっち……というのは、誰のことを指すんですか?」

「その部分は私達に向けて言ってる訳じゃないから、流せば問題ないわ」

 

「っ……さすがです……四条先輩」

 

 こっちもさすがに腹の減った俺と水仙は、中等部の食堂で昼食を取りつつ、晴天の霹靂状態なリースに諸々状況説明をさせてもらっていた。その際、過剰に畏まる必要はないと繰り返し伝え、何とか様から先輩呼びへの移行に成功したが、まぁまぁ無理な話ではあるだろう。

 

 最大収容人数が4桁に迫るらしい大食堂をたったの三人で利用している違和感は置いて、俺は食後二杯目の紅茶を傾ける。先程やっと食事を終了させた水仙は一杯目。午後の授業中だったリースは当然既に食後。

 

「ラトーラには早馬を送ってもらって現地合流……で……うーん、何か忘れてる気がするんだけど……まぁ大したことじゃないか」

 

「それってもしかして、カルシェラのことなんじゃないの?」

「あ……」

 

 急な閃きに似た、何かが繋がる心地良い感覚。

 

「そうだった……そこからすれば、短時間で若干遠くに来た感はあるな。なら、一旦お店か……っていうか、それこそリース最強化計画を発動させれば色々解決する、か……」

 

「えっ? 何ですか……それ……」

「もちろん、そんなふざけた計画は私が潰すけど?」

 

 ヌルゲーへの最短ルートは、またもや秒で頓挫する。

 

「いやいやいやわかったわかった。後、もうお前はツッコミで人が殺せるレベルだってことを自覚してくれ……」

 

 そもそもの腕力に加えて、力のパラメーター5割増しとかいうルートヒロイン特権装備が、彼女を化け物に変えてしまったとさ。

 

「アンタ以外にはちゃんと手加減してるわよ」

 

 と言いつつ、先程は後輩男子の右手を粉砕しているのだが。

 

「……それにしても、ナーガラージャの城跡地下へ行くなんて、さすがは魔法使いの最高峰、学園生徒会の方々ですよね……」

 

 どうやら地元勢のリースには、あの場所のヤバさがしっかりと伝わっている様子。おそらく、何でこんな所にヤバ過ぎなダンジョンが、という事例は、そのような形でアンタッチャブル認定されているのだろう。

 

「それでも、レクス先輩と四条先輩がいれば、ご遺体の回収は可能なんですよね?」

「まぁ正確にはラトーラパイセンだけど、その理解で問題ない」

 

「っ……ラトーラ先輩……複数の禁呪を操る……史上最強の魔法使い……あ、あの……すいません。どのような方なんでしょうか?」

 

「一々そんな風に言わなくても大丈夫よ。けど……まぁ……とりあえず無口ね」

「で、今言った通り最強で、遠目でも見たことあるならわかるだろうけど、銀髪の超絶美人だ」

 

「はっ?」

 

 その声と眼差しに、一瞬で背筋が凍り付く。真夏に重宝しそうだ。

 

「待て待て待て。あくまで一般論だろ……そんな風に睨まんでも大丈夫だって。俺クズ貴族だから」

 

 さすがに、お前にベタ惚れだからと真顔で言える程のオープンリーチキャラではない。

 

「っ、えっと……あの、噂の通り、レクス様は今までずっと……その、嫌われ役を演じてきた、ということですよね……そうまでしないと、コルフォート家では、生きていけなかった…………本当に、凄いです……」

 

 性善説寄りの立場から噂を推量していたっぽい善人枠リース。そこはかとなく罪悪感が。

 

「いや……まぁ、それについては――」

 

「――そ。だからさっきも言ったけど、そんなに畏まる必要はないわ。普通に一つ年上の先輩だと思って接してくれた方が、私もコイツもやり易いから、少しずつ慣れてくれると嬉しいわ」

 

「っ……はい。ありがとうございます、四条先輩」

 

 どうやら、クソ真面目からクソが除去され、一定の柔軟性を得た四条先輩は、バレンタインで靴箱を本命チョコで満たし、後輩女子から告白ラッシュを受けそうな古き良きイケメン女子へとクラスチェンジした様子。

 

 まぁそれはいいとして、俺としても元気で優しく、少し気安い所もある本来のリースが好ましいので、推したい提案ではある。

 

「ってことで……ボチボチ移動なんだけど……リースって、馬には乗れる?」

 

 さっき聞いた話から察するに、乗れるとは思う。

 

 ただ、やはりこうして実際にその世界に入り込むと、一生カナトの後ろであっても、この世界観で馬に乗れないヒロイン達には違和感しかない。

 

「あ……すいません……私、乗馬の経験だけはなくて……」

「……けど、さっきはカナト君とは別々に通ってるって言ってたわよね?」

 

「はい。なので、家が近くの友人……女の子なんですけど、いつもその後ろに乗せてもらってます」

 

「へぇ……」

 

 不便じゃね、それ。

 

「なら、多少遅くなるけど、馬車移動か……」

 

 もうずっと食堂の入口で待機し、あらゆるリクエストに応えてくれそうな雰囲気を漂わせている校長先生。何か、ホント、わざわざありがとうございます。少なくとも、毎日毎日こんな対応されてたら、人生ナメた上に何かを勘違いしてしまうことでしょう。

 

「魔法で強化された馬なら……三人乗ることも可能ではありますが……」

「あ……そういえば……」

 

 禁断のハーレムルートであったな。何がどうなってそうなるかはプレイヤーのみぞ知る所だが、半裸のリタとラトーラにサンドイッチされながら馬を走らせる一枚絵は、確かに存在している。

 

「速度アップよりも、積載重量を上げる魔法の方がハードル低いってヤツか」

「はい。多分……校長先生に頼めば……」

 

 それに加えて、リースは小柄属性だし、ラトーラとリタコンビよりは絵面的にも現実的か。

 

「よし…………とりあえずさぁ、二人共ちょっと落ち着いたら、乗馬習った方がよくね?」

 

「「……」」

 

 設定上仕方ないとはいえ、今後もこの世界で生きていくならば、その方がいいのは明白ではあった。もちろん、二人に罪はないことを、俺は知っている。

 

 

 ラトーラへの連絡も含め、即座に快諾してくれた校長先生、中等部職員一同には後で何か送ろうと心に決め、中等部内序列一位らしい名馬をお借りして一旦帰路に着く。体長がデカめな馬であるためか、前にリースを乗せる形でもそこまで狭い感じはない。

 

「――おぉ、この馬メッチャイイわ……残念だけど、アルレッキーノとはレベルが違う」

「アル、レッキーノ……あの、その方も生徒会のメンバーなんですか?」

 

「そうじゃないんだけど……そうね。生徒会のメンバーは、私とコイツに、アルフェン会長、ラトーラにカルシェラ、貴女を加えた六人になるわ」

 

「あ……そっか。私も、そうなんですよね……」

 

 そう。そしてこのゲームは五人パーティ制なので、俺はやっと前線メンバーを卒業することができる。ファンが泣いても復帰はない。そしてファンはいない。哀しき完璧。

 

「……所でなんだけどさぁ……リースはカナトと実家も近くて幼馴染で……の割には、ちょっと関係性薄かったりしない?」

 

「アンタそれまだ引っ張るの……」

 

 水仙の溜息が首筋にかかる。中々どうして悪くない。

 

「えっ? そう、ですね。でも、カナトはイイ子、ですし、友達としては好きだと思います」

 

 テレ0の事務的口調。これはもう諦めよう。コレ以上は水仙にまた異常者呼ばわりされてしまう。

 

「水仙もやっぱり、カナトを見ても、何も感じなかった……って話?」

 

 と言いつつチャレンジする心を失わない俺。往生際が悪い、とほぼ同義ではある。

 

「昼食の時も含めて、四回はそう言ったんだけど……」

 

「すまん…………あ、ほらでも、顔とか? どっちかって言えばイケメンの部類じゃない?」

 

 イケメンキャラではないが、ゲームの主人公がブサイクというのはそれが売りでない限りあり得ない。少なくとも、大抵が普通の容姿という評価のややイケメン。

 

「……一応言っとくけどアンタ、見た目は整ってるから。何で自覚がないのかは知らないけど……」

 

「へぇ……」

 

 ただそんな顔激強なお前に言われても、ではある。

 

「あの、私も……どう考えてもレクス先輩の方がイケメンだと思いますけど……ただ、その……多分演技をされている時は、また違ったように見えていたのではないかと……」

 

 言われて気付く、自分の容姿。部屋に鏡はないし、リタの高速蒸しタオル洗顔のおかげで、自身の顔を目にする機会に乏しいことを思い出す。かませクズ貴族引くことのクズは一応イケメン、という方程式が、浮かんですぐ消える。

 

「確かに、この手のキャラって、ちゃんとした表情でいれば普通にイケメンな人多いよな」

「何で、他人事なんですか……」

 

 その辺りについては水仙も触れず、馬は快調に街道を走る。これでやっと、道行く人から注がれる好奇の視線もなくなるだろう。

 

「――そういえば、試練って具体的には何をするの?」

「えっ? 四条先輩も知らないんですか?」

 

「そういや王様から説明なかったか……まぁ色々と中抜けからのって展開だしな……」

 

 王家の墓イベントから階段四段飛ばしレベルのスキップではある。ただ、サボりで終わった学園のペア戦イベントも含めて、季節的には本編とリンクはしている。

 

「で、試練っていうのは、先代……というか初代勇者の思念体? 要は殴られるし殴れる幽霊、かな。とにかくその勇者様を倒すまでが試練って話だ」

 

 ダンジョンもなく、現地へ行ってすぐバトルというイベント。スタッフ曰く、探索したい人には本編以外で沢山そういう所作ったので、好きに遊んで下さい、みたいな設計らしい。実際、周回プレイ時のやり込み要素はほぼほぼ本編とは絡まないお話が大半を占める。

 

「初代勇者……それって、勇者アリア様……ですか?」

 

「あぁそっか。そりゃ歴史の授業で習うか……あ、俺は演技に集中するため、初等部から既に授業には全く集中しないというスタイルを貫いていたんだ」

 

「っ……さすがです」

「ぅ……」

 

「…………」

 

 腰に手を回している水仙の指が、ちょっとだけ俺の脇腹に食い込むが、何とか思い止まってくれた様子。

 

「……試練……ということは、やっぱりその試練が終わったら、禁域へ行くことになるのよね?」

 

「あぁ、その流れだけど、試練をクリア出来ればそこまででもない。だから、難易度的には試練が文字通り勝負所にはなるかな」

 

 今は懐かし序二段ドラゴンではないが、本編で登場する敵キャラはどうにも雑魚というイメージが定着してしまっているため、言う程の脅威には感じられないが、当然一周目状態である我々からすれば、しっかりと脅威なのは言うまでもない。

 

「きん、いき……とは……」

 

 前を向いたまま会話を続けていたリースが、久しぶりに振り返る。上目遣いがまぁ可愛い。

 

「あれ? 禁域については習わないの?」

 

「そうね。禁域について知っているのは、王族の関係者と一部貴族に限られるんじゃないかしら。ただ、霧が立ち込めているだけで何もないから、今じゃ誰も気にしてないって話ね」

 

「そんな所に、私達も……そこには、何が……じゃなくて、そもそも、何処にあるんですか?」

 

「位置的には四条とコルフォートを分ける城壁? みたいなヤツの終点近く、それ以降のエリアになる。で、水仙も言った通り、霧で何も見えんし、基本行く必要もない」

 

「っ……必要はなくても、何かはあるんでしょ?」

「そりゃまぁ……っていうか、二人共、ネタバレって平気な方?」

 

「えっ? いえ、私は……結構うるさい方です……」

「なら、その時でイイかもなぁ」

 

 現地人からしたら結構なオチだし。

 

「何で本にあるお話と同列で考えてんのよ……ま、私は別にその時で構わないけど」

 

 そりゃ助かる。ここでチョークスリーパーとかされたらもれなく洗いざらい白状するしかないし、ここで話すのがそれなりに面倒なのは事実だし。

 

 その後は、探索遠征以降の展開について端折りつつリースに説明していたら、目立ってしょうがない我が家が見えてきた。まぁ中等部が裏手とは言っても近いっちゃ近いしね。

 

「ぅ…………本当に、凄いお屋敷……ですよね……」

 

 鉄板なファーストリアクションを示す後輩だが、水仙は既に慣れた様子。

 

「正直、住むとなると不便なのよね……」

 

「だよな。もし落ち着いたら、庭にちょうどイイサイズの別宅を建設するわ。っていうか、どうせなら四条家にあるような木造の平屋がイイな」

 

「…………気が早過ぎるけど、将来的にはどっちに住むことになるのかしら……」

 

「うーん……諸々の要因を無視して構わないなら、俺は四条領がイイな。自然豊かだし、温泉あるし」

 

「っ……そう」

 

 そんな、現実逃避に近いレベルで遠い話をしつつ、キモ広い屋敷に裏手までやってくる。

 

「そういや、何でアルレッキーノ置きっぱにしてんだ、俺……」

 

 愛馬なのに。

 

「あ、そういえば、随分と自然な流れで出発したわよね、私達」

 

 もしかしたら、あそこがヤツの居場所なのかもしれない。だって、この馬を買い取りたいし。

 

「よし……ただ、色々と準備してたことが活きたのは間違いない。それじゃリース、先に降りてもろて」

 

「えっ? あ、はい……」

 

 何でここで、と顔に書いてあるが、説明するのがやや面倒臭いので、事後説明にしようと瞬間的に決める。どうやら水仙も、それはそれで構わないっぽい。

 

 

 どうせなら、後輩のリアクション予想をしてみたかったが、転移の有効地点に入った俺達三人は、今度はしっかりと馬を除外して空間を跳躍する。言うに及ばず、あの狭い空間に馬二頭は地獄過ぎるので。

 

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