かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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後悔と罪悪と急な覚醒

「――え……っ!? 馬っ!?」

「っと……」

 

 馬とフェイスガード状態で転移する形となり、仰け反るという一般的な反応を示したリースを後ろから受け止めると、すぐ横のカウンタ―の中で牛乳瓶を傾けていた赤毛ロリと目が合う。

 

「――うん? 減って、増えた? てか、レクスって女の子の知り合いしかいないの?」

「いや、心の友、アルレッキーノは牡馬だが?」

 

「馬じゃん……」

「数秒前に違う馬を買い取ろうとしてたヤツの台詞じゃないわね……」

 

 折角憩いの場に戻ってきたというのに、ネチネチとツッコんでくる二人。

 

「いや、彼は乗馬用ではなく、友人兼愛玩動物としていてもらえば問題ないだろ」

 

「っ……あの……コレって……」

 

 一番事情を説明してくれそうな水仙に、縋るような視線を送るリース。

 

「そうね……ここはヴァーミリオン領を更に西へ進んだ先にある……お店? つまり、空間転移したってことになるわ」

 

「っ……えぇっ!? 空間……転移……え……コルフォートの……秘術ですか?」

 

「その理解で問題ないんじゃないかしら。それよりローリー、カルシェラは……奥の部屋にいるの?」

 

「あー、あの人ってカルシェラっていうんだ。てか、あの人って病気だよね? 心の。本当に勇者パーティなの?」

 

「え……カルシェラ……先輩は、精神病……なんですか?」

 

「…………」

「…………」

 

 少々の沈黙の後で隣へ目を向けると、おそらく全く同じ表情をしている水仙と視線が交わる。加えて、ゆっくりとすり寄ってきたアルレッキーノを撫で、お互いに動揺の緩和を試みる。

 

「いや、別に……精神病では……あれって、医者の診断があって初めてそうなるものだろ?」

「っ……もし仮にそうだとしたら、病院で医者に見せた時点で……確定するんじゃないの?」

 

 話せば話す程に、ローリーの素朴な疑問が不都合なベクトルに突き刺さる。もしかしたら、俺達はもう大分長いこと、第一にすべきことから目を背けていたのかもしれない。

 

「うん……そう言われると、そもそもファーストコンタクトの時点で精神科受診を促し、速やかに投薬治療に入るべきだったのかもしれん……」

 

 リアルな目線で考えれば、素人目でも適応障害は確定だし、抑うつの気もあった。加えて、幼少から精神的虐待を受け続けてきた事実を、俺は知っている。

 

 これは意識の外にあった話だが、ゲームキャラには結構多い事例なのかもしれない。本来ならば妹の分も含め、今すぐ予約するべきだろう。

 

「な、なら……今からでも……」

 

「っ……だな……」

「そう、よね……」

 

 世界の平和は大事だが、個々人のクオリティオブライフも同様に重要視されて然るべきではある。

 

「で、カルシェラは……奥?」

 

「いや、外だけど……もう少し掛かるんじゃないかな。二人が行ってからずっと、霊薬を5本飲んで、外へ出て行って吐いて戻ってを繰り返してるから」

 

「「え…………」」

 

 また病的なエピソードが一つ重なってしまう。

 

「そ、それって……過食嘔吐……ですか? 何故、そんなことを……」

 

「えっ? 何故って、世界のためだよ。勇者が何とか頑張らないと、この世界はずっとどん詰まったままらしいから」

 

「ちょいちょい……」

 

 さすが二周目以降登場キャラ。ネタバレ付近の話題にも頓着する様子を見せない。

 

「後……レイヤクって、何ですか?」

「えぇ……レクスさぁ、何で説明してから来ないのかなぁ……」

 

「すまんすまん。店長、リースに諸々チュートリアル頼む。俺はちょっと、カルシェラを探しに行くから」

 

「いいよ。この人は健康そうだし」

 

 どうやら、カルシェラと二人というのはローリーにとってもそれなりにしんどい状況だったのかもしれない。アルレッキーノがいなかったら耐えられなかったまであるかもしれん。

 

 とにかく、後輩はロリに任せ、水仙と小屋の外へ。

 

「「おぉう……」」

 

 そしてすぐに捜索ミッションは完了する。だがしかし、連鎖的に発生した対話ミッションの方が問題だった。

 

 何もない荒野のまた特に何もないゾーンの真ん中で四つん這いになって嘔吐している少女の後ろ姿。紫色の癖毛も、もう少し爽やか路線にしてもイイのかもしれんが、そうすると陰気なキャラクター性が死んでしまうかもしれない。ただ、現実にはそんな性質は死んでよいはず。

 

「……今更なんだけど、何で俺はこんな過酷なミッションをカルシェラに課してしまったのだろう……」

 

「何か……今思えば、あの時は変な勢いがあったのかもしれないわね……」

 

 自分がされて嫌なことは、人様にはしちゃいけませんよ。お婆ちゃんからの教えだった気もしないでもない。尚、一度やると決めたことは途中で投げ出すな、の間違いだったかもしれん。ただ俺は今ここで投げ出したい。

 

 ラトーラ、カルシェラ両名を生き返らせた俺と水仙は、マイペースに去ってゆくラトーラを見送った後、狼狽ゲージをMAXにしたままのカルシェラをこの店に連行した。今となってはその記憶も随分と朧気だが、問答無用だった気がしないでもない。

 

 その際に与えた指令が運の霊薬を200本飲み干せという、字面的には拷問と相違ない内容だったことが、現在の後悔と状況を作り上げている。

 

「まぁ明日の朝まで出来る範囲でとは付け足したけど、全く喉が渇いていない時に水飲むのって、結構キツいんだよなぁ……」

 

「……正直、死ぬ位ならってこともあって、慣れちゃったっていうのはあるわね……」

「俺も、パラメーターが上がる期待値があって何とか……っていうのもあったし……」

 

 結論でも何でもないが、他者から強いられてすることとしては、まぁまぁ下の方に位置する行いなのかもしれない。

 

「――と、ここで駄弁ってても始まらん……」

 

 どう声を掛けたらよいかも不明なまま、俺と水仙はその妙な存在感を放つ小さな背中へと近付いていく。

 

「――ぅおぉぅえぇぇぇぇがはぁぁぁぁぁぁ――」

 

 凄い。酔って吐いても飲むのを止めない人みたいにザバザバ嘔吐してる。

 

「な、何か……そこもだけど、他の所も地面の感じが……少し変化しているように見えるけど……」

 

 水仙の指摘通り、荒れ果てた大地が極致的に不自然なまでの瑞々しさを放っている。

 

「ローリーもそんなこと言ってたっけ……多分、吐いたモノに混ざった霊薬の成分によって、地面にも運が向いてきたのかもしれん……」

 

 もし地面に知性があったら色々文句もあるかもしれんが、それよりも目先の問題とそろそろ向き合わなければなるまい。

 

「――カルシェラ? その、大丈夫……には見えないわよね……」

 

 タイミングを見計らっていた所、水仙に先手を取られるが、無論好都合ではある。

 

 ただ、遺体回収から蘇生までを俺が施したと理解していたカルシェラは、やや過剰に感謝している様子だった。そのため、退学する前とは違って怯えられることも気持ち薄く、ある程度スムーズにコミュニケーションを取ることはできた。

 

 というより、そんな従順過ぎるカルシェラの態度も、やってることのヤバさに気付かなった一因と言えるだろう。

 

「ぅ……うぅ……あ……あれ? もう……朝、ですか?」

 

 四つん這いのまま振り返り、こちらを見上げるカルシェラはいつも通り。その整った顔立ちを、目の下のクマと陰気な表情、ボサボサの癖っ毛が台無しにしている。

 

「いや、まだ夜にもなってない。が、カルシェラ。ちょっと一旦指示したことは中断しよう。ちょっと……その、やり方が……」

 

 病的だし。

 

「っ……でも……」

 

 もう過飲嘔吐しなくてもいいという提案のはずが、表情を曇らせるカルシェラ。過剰に怯えることも、過剰に従順なことも、結局厄介なことに変わりはないっぽい。

 

「その、まさかそんな方法を取るとは思ってなくて、ごめんなさい……だとしても、飲んで吐いてを繰り返すのは、どう考えても身体に毒だから、これ以上はもう止めましょう」

 

「聞いた話だと、嘔吐を繰り返すと、胃液で歯がボロボロになるとも聞く……とりあえず、もうしんどいとは思うけど、最後にコレを頑張って飲もう」

 

 チートポーションの蓋を開け、差し出す。ホントなら注射などの方法で直接いきたい所だが、ここは我慢してもらう他ない。

 

「え……あの……次は……それを飲めば……は、はい…………んっ……んっ……」

 

 受け取った瓶を迷いなく傾けるカルシェラだが、そのスムーズさに何故か若干の狂気を覚えてしまう。

 

 

「――っ!?」

「「っ……」」

 

 

 治癒現象による淡い光。その光量が、やや長いように感じられた。

 

 チートポーションの効力については、身を以て深く理解しているであろう俺と水仙。少なくとも俺は、受けたダメージが大きい時程、その光は強烈であったと記憶している。

 

「ぅ…………うん…………あれ?」

「「――――っ!?」」

 

 共に半歩下がってしまう俺と水仙。数秒を経て収まった光から現れたのは、正に先程思ったマイナス要素が除去された少女の姿。端的に、どぎついクマが消えたのが大き過ぎる。

 

「そ、そういえば朝、久しぶりにポーション飲んだ時、肌の調子も良くなったのよね……すぐ、そんなこと気にしてられる状況じゃなくなったけど……」

 

 と言われても、俺から見れば常に絶好調の美肌なのだが。

 

「うん……眠気もなくなるし、今の光り方からすると、カルシェラって相当コンディション厳しい状態で生活してたのかもな……」

 

 不眠に偏頭痛、猫背による肩こりまでは、キャラ紹介にもちゃんと記載されている。

 

「あ…………これが、チートポーション……っ……すいません……これって100万ガバチョ……ですよね? 後で、払います……でも……こんなに身体が軽いなんて……」

 

「それは、全然気にしなくてイイんだけど……カルシェラ……見違え過ぎだろ……」

「ホント……そうね……何だか、いい香りもするし……」

 

 確かに、消臭効果まであるのか、荒野には無縁なラベンダーみたいな香りが風に混じる。髪色とリンクしているのかもしれない。そう考えると、いつもいい匂いのする水仙も、何か知らない花の香りなのかもしれない。だとしたら漢字の花っぽいな。

 

「……はい。頭痛も、首の痛みも、視界まではっきりしてて……凄い……生まれ変わったみたいです」

 

「喋りまでスムーズ……」

 

 加えて、整体の効果まであるのか、スッと立ち上がった彼女の目線は、水仙とそう変わらない。内側から綺麗になろう、みたいなCMに出れそうだ。

 

「多分、身体の状態に引っ張られて、精神の方もかなり安定したんじゃないかしら。私も、塔ではそう感じたし」

 

「あぁ、俺はむしろ、あのしんどい状態からの爽快感が癖になってたし」

「それは全然共感できないけど……」

 

 そして当たり前のことだが、ゲーム内でチートポーションをカルシェラに使っても、こんな現象は起きない。というかエロゲ的に言えば、カルシェラの属性は今の一瞬で全て消し飛んだことにはなる。俺はタゲ外だが、ああいうのが好きな輩も相当数いることだろう。

 

「うーん……改めて、何が起こるか分からないのが世の常なんだよなぁ……」

「何で急に発言が老け込むのよ……」

 

 不意打ち的なルート突入、主人公の補正剥奪と離脱、ヒロインの謎な覚醒、ならきっと、カナトの補正奪還もワンチャンか。まぁそれはない気がする。

 

 だとしても、ちゃんと動けそうなカルシェラにアルフェンも加われば、試練突破も十分射程圏内な気がしてきた。

 

 俺は、早くも来たる決戦に備えて戦闘のシミュレーションを頭の中で展開し始めていた。

 

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