かませクズ貴族転生   作:サムラビ

4 / 37
でぶとデブとDEBUと断捨離

「…………うん? あ、今日は早いんだった」

 

 睡眠が終了し、意識が目の前に向かうと、見ていたかもしれない夢の残滓が一瞬で霧散する。感覚的に、大して気になるストーリーではなかったような気がする。

 

 時間は何と四時過ぎ。それでも昨日は就寝が早かったので、全然眠くないし、結局の所、慣れないこの世界についての興味関心が、毎日遠足前日のような不思議な高揚感を生んでいるのは否めない。これはもちろん、他の当たりキャラの成り代わりだったなら兆倍に増えていることであろう。

 

 暮らしの全てが完結できる広い部屋で朝の準備を済ませると、静かな室内に人の近付く足音が響く。

 

 それはすぐに止まり、想定通りに扉がノックされる。

 

「……レクス様、昨夜の件、既に準備が整っております」

「滅茶苦茶早いけど単純に好都合だな」

 

 小走りで近付き、扉を開けると、やや驚くリタを先頭に、三名の小太り男性。まだサンプル数は少ないけど、この世界は結構肥満率が高いように思える。デブ遭遇率高め、というアバンギャルドなデバフが付いている説も考えられるが、まぁ気にしないでおこう。

 

「このような早朝での呼び出しに応えてもらい、感謝している」

 

「「「――っ!」」」

 

 俺の言葉に、三人のおっさんが同じように驚愕する。もう慣れたし面倒臭い。

 

「早速だが、今日はこの部屋にある品々を出来る限り売りたいと考えている。三人共、何時まで時間が取れる?」

 

「っ……あの、何時……とは?」

 

 無理もないが、とにかく言語理解が遅い。

 

「暇な身ではないだろう? 今日は俺のために何時までここに滞在できるか、と聞いている。もちろん、迅速に事を済ませたいとは思っているが」

 

 愛想よくでもなく、高圧的にでもなく、出来る限りフラットに言葉を発する。

 

「い、いえっ! とんでもございませんっ! レクス様のご依頼でしたら、何日掛かったとしても誠心誠意、応えさせていただく所存であります……」

 

「よし、二人も同様か?」

 

 アルファベットで呼ぶのに飽きたので、商人甲、乙、丙と名付け、乙と丙にも確認を取る。

 

「「――っ!? も、もちろんでございますっ!」」

 

 良い返事。

 

 腐っても四大貴族。というより、腐っているからこそのコルフォート家。

 

「まず、宝石系を集めた。数が多くて面倒かもしれないが、値を付けてみてほしい」

 

「「「「――――っ!」」」」

 

 リタも含めてギョッとする四人。

 

 百均の籠みたいなのが欲しかったが世界観的になかったため、北アフリカで売ってるような独特の匂いを発する籠に仕方なく纏めておいた。一応個数は数えて127個、大抵のものが大きなビー玉みたいな大きさで、宝石の相場にはあまり明るくないが、庶民の感覚では気を失うような価値になるかもしれない。

 

 そしてさすがは専門家。手袋に小さな単眼鏡というよく見るようなスタイルで甲、乙、丙は品定めに取りかかる。が、三人共既に汗だくな上に手が震えている。

 

「ダ、ダイヤモンド……」

「これも……ダイヤモンドだ……等級はおそらく……全て、F以上……」

「こっちは……エメラルド、ルビー、アレキサンドライト……」

 

「……」

 

 予想以上に衝撃を受けている様子。もしかして全部本物なのか。レクスのことだからメッチャボラれてると思っていたのに。いや、考えてみたらコルフォート家の嫡男に偽物掴ませたのバレたら人生終了な世界だったか、ここ。

 

「大雑把でいいんだが、127個の宝石でどの程度の値になる?」

 

 止めないとこの人達一生唸り続けそうなんだけど。

 

「お、大……雑把……うーん……少なくとも、これだけで一億ガバチョは超える……かと」

 

「マジでか……」

 

 この世界の貨幣単位はガバチョ。しょぼい傷薬が一本で10ガバチョ。ゲーム内だと999万ガバチョでカウンターストップだったので、ゲームの限界を超えることは確定的だと思われる。

 

「では、甲……じゃなくて、貴方には宝石を担当してもらって、二人にはこっちをお願いしたい」

 

 汗を拭くのに忙しそうな甲を置き、乙と丙を少し奥へと促す。

 

 宝石以外で高値が付きそうなのは絵画、壺、同じく宝石がはめ込まれた謎の工芸品、金色の家具にどぎつい色の服。ちなみに俺は今、昨日いただいた地味な白地の部屋着を身に着けている。結構快適。

 

「あ……本当に……そ、それらを……」

「売って、いただけるのですか……」

 

「頼む。値が付かないものは幾らか払うので、処分してほしい」

 

「「――――っ!」」

 

 おいおいマジでいい加減落ち着け。実はまだ早朝だぞ。

 

「こ……この絵……」

「あぁ……『髪を結わう少女と子猫』だ」

 

「あの……ラグナス最後の一作……」

 

 リタまで混ざって驚いているが、あいにく俺はこの世界の文化を知らない。落穂を拾っている的な作品だろうか。まぁ確かに凄い上手いと思うけど、そもそも部屋に絵は要らない。カレンダーと替えてほしい。

 

 興奮が続く中、その熱に押されて少し楽しくなってきたこともあり、溶けるように二時間が経過する。何となく終わりが見えた気もするが、もうちょっと掛かりそうだ。

 

「えっと……後、このベットって、買取は可能だろうか?」

 

「「「「――――っ!」」」」

 

 久々の四人同時びっくり。ちなみに、このベットが消えれば俺的にはオールコンプリート。後は、金色であるというのが唯一の減点対象となるデカくてナイスなソファがあるので、大きめの家具はそれだけで十分間に合う。少ない服の収納は籠に任せる。

 

「フレーム……のとこは金だと思うし、見ての通りに宝石がはめ込まれてる。こんな趣味の悪い寝具を使いたい人間はいないと思うが、解体すれば売れるんじゃないかと思う」

 

「あの……レクス様。このベットはレクス様がお生まれになった記念品でもあるのですが、よろしいのでしょうか?」

 

 ここで初めて、感情のこもった声をリタから掛けられた気がする。ベットの話よりもそちらの方が刺激として強い。

 

「あぁ、なるほど。それはさすがに、という思いもあるが、逆に言えば返せとは言われなそうな品だな……ただ、やはりこの大きな、サファイア? は目立ち過ぎるか……宝石収集に命を賭けている母上の手に渡ると厄介かもしれん。これだけは持っておくか。で、どうだ? このベットで最後になる」

 

「っ……」

 

 言葉を失うリタ。そういえば、そろそろトリシャが起きる時間だろうか。とりあえず、握って捻ったら結構簡単にその球体は取れた。

 

「……承知しました」

 

 さすがに順応してきた商人達は、やっと淡々とした様子で値段を計算していく。

 

「そういえば、サファイアはアクセサリの練成で使う宝石だったか。これを使ったら何回分できるんだろうな」

 

 アクセサリにスキルを宿す練成。ギャンブル的なやり込み要素の一つだが、これを使えば確率が上がりそうではある。

 

「「「「っ…………」」」」

 

「うん?」

 

 四人から向けられる視線に、首を傾げると、最も近い甲が恐る恐る口を開く。

 

「こ、これ程の純度のサファイアを練成に使う……というのは……あっ! いえ、私などがレクス様に意見などっ! 申し訳、ございません……」

 

「別に大丈夫だ。そういえば、練成に使うサファイアは2万ガバチョで買えたか。これ一つでどのくらいの値になる?」

 

 ちょうどよい大きさなので、ついつい上に放り投げてキャッチを繰り返してしまう。良い玉だ。

 

「お、おそらく、1000万ガバチョは超える、かと……」

 

 よし、へそくりとしておこう。

 

 結局全てが完了した時刻は八時過ぎ。トイレ休憩を一回挟んで四時間強の長丁場となってしまったが、個人的にはヤバいレベルで上振れ過ぎた結果となってしまった。だってこれ、全部元は血税やん。ネズミな小僧さんのモノマネを何年続ければ返せるのだろう。

 

「そして広っ」

 

 払う金をかき集めるべく戻っていった甲、乙、丙を見送り、部屋に戻ってくると、中央に金色のソファと籠数個のみの空間は、元々の面積が一人用から逸脱していたことを強調してくれていた。とりあえず、物が無さ過ぎてとても新鮮で不思議な空間となりました。

 

「ま、両親が部屋に来ることはないし、問題にはならんだろう」

 

 父は金集めと弱い者いじめで忙しいし、母は集めた宝石を一生眺めて暮らしているので露見はない。ワンチャン、リタがチクるのがリスクか。

 

 そんなこんなで、断捨離終了から一時間半後、届けられた現ナマを受け取り、再び自室へと帰還する。

 

「…………6億ガバチョ、か」

 

 端数を切り捨てて返したら甲と丙が気絶していたが、何事も分かりやすさは大事であろう。

 

 見ただけで「これ高そっすね」と思う輝きを放つ100万ガバチョ金貨が600枚。置き引きに遭ったらそれこそ首吊り確定の所持金。

 

「こんなん持ってたら心臓に悪いな。とっとと使おう」

 

 つい独り言を漏らしながら、俺は一旦心を落ち着け、外出の準備を済ませることにした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。