かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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ポーションと収納とくノ一

「――さ……3億、ガバチョ……」

 

 霊薬1本300万。

 300万×100。

 100万ガバチョ金貨で300枚。

 

 ローリーがカウンターに広がった金貨の水溜まりを見つめて固まっている。

 

「うーん……まぁそうだよなぁ……かさばるよなぁ……」

 

 小瓶のサイズを統一してくれていることには好感が持てる。それでも、木箱を携帯して歩くのは正気の沙汰ではない。間抜けが陥る終業式当日の下校時じゃないんだから。

 

「……やるしかねぇ……」

 

 帰りは気にしなくていい。プランの一つとして、ここで実行に移すとしよう。

 

「追加でチートポーションを100頼む」

 

 ちょうど切りの良い値段で助かる。そう思いつつ、袋をまた一つ、カウンタ―に置く。

 

「はあぁっ!? く、狂ってる……足して4億じゃん……アンタ、どれだけ罪を重ねたの……」

「いやいや重ねてなっ……いや重ねてないからっ」

 

「っ……絶対重ねてる言い方だったけど……」

 

 罪を重ねたのは俺だが俺ではない。

 

 コルフォートの民の力を舐めるな、と言いたいが、俺がそれを言える立場ではない。もし許されるのなら出家したいが、まだ現実から逃げる時間ではない。

 

「いいからマスター、頼むよ。俺は読書の時間に入る」

 

 デカいリュックから借りてきた本を取り出す。

 

「読書って……もう何言ってるかわかんないよぉ……ホントいきなり来て何なの……」

 

「そんなうんざりするな。そして、うんざり度数なら俺の方が遥か上だということも忘れるな。最後に、俺の言葉を深く捉えるな」

 

 改めて言うが、知らなかった。しがらみのない相手との会話が、これ程までに楽だとは。

 

「それ、魔導書? アンタって、やっぱり……強いんだよね? この店に来る人間は、そうだってことになってるから」

 

 まぁ、この店に来る頃にはラスボスオートで勝てる程度には強い訳だし、間違ってはいない。無論、本来の話ならば。

 

「そう思いたいなら止めないけど、後で文句言うなよ。お前雑魚じゃん、とか言われても知らんし」

 

「……それって……えっ? キャビネット? 使用人が使う魔法じゃん……何で?」

 

「うん? あぁ、ちなみにだけど、キャビネットについて、どう思う?」

 

「どうって……習得している人間ってほとんどいないんじゃないの? それこそ、奴隷とか……」

 

「いや……じゃなくて、効果だよ効果。無限ではないけど、あらゆる物を収納しておけるっていうのは、単純に便利だと思わないか?」

 

「えっ? そりゃぁ……けど、それって奴隷の仕事じゃないの?」

 

「うーん……何か認識が狂ってるよな。コンビニを知らない人にコンビニの便利さを話しても全然便利さが伝わらないのと同じかな」

 

 図書館で見つけた『キャビネット』と呼ばれる魔法。

 

 それは名前のイメージ通り、所謂収納魔法と呼ばれるものだ。ゲーム内では何の説明もなしに備わっているものだったのか、少なくともこの世界では奴隷専用魔法となっているらしい。確かに、荷物持ち専用の奴隷が、あの帰りたくない実家にもいた。それが答えか。

 

「便利なのは、魔法じゃなくて奴隷っていう存在でしょ? 身の回りのこと全部やってくれるとか、普通に考えてあり得ないじゃん」

 

「おぉ……素晴らしい考え方だ。キミを育てた人が素晴らしかったんだな。その人に、いや人なのか知らんし掘りたくもないけど、その存在に感謝するわ」

 

「何か嬉しくねぇし……」

 

「とにかく、だ。俺は今からこの魔導書を読破する。そうしないと、この木箱を携帯できない。携帯できなきゃ、正直大したアドバンテージにならん……っつぅ……」

 

 そして勢いで1ページ目を開くが、早くも鈍痛が頭の中に広がる。

 

「はっ? こんなんで痛むの? 演技? 何でそんな演技すんの?」

「俺が聞きたいわ……そして一度しか言わないからよく聞け。俺は、本当に今、頭が痛い」

 

 魔導書の中身は小説のようなお話。ある程度のレベルで話の内容を理解して読まないと読破と判定されないらしいので、どんなにつまらない話でも読むしかない。

 

「…………えっ? お前雑魚じゃん」

 

「うるせぇよ……ちなみに、なんだけど、ローリーは全然頭痛ない?」

「こんなショボイ魔法である訳ないじゃん。何言ってんの」

 

 このガキャ、どこかの段階で軽く嫌がらせをすることに決めた。

 

「……ぅ……うん。おぉ、やっぱこれ、チートポーションちびちび飲みながら戦法でイケるわ」

「はぁぁぁぁっ!? そ、そんなことに……チートポーションを……こいつヤベェ……」

 

 ついにはこいつ呼ばわりし始めるロリ。やはり少々教育が行き届いていない部分が見られる。前言を修正しようと思った。

 

「……っ……うーん……これ、微妙にエンタメ性あるんだけど……」

 

「この、テブラーっていう主人公、最後どうなるんだろう……」

「うん……」

 

 多分死ぬ。

 

 これは、収納がなかったことで、その人生を狂わされる、挫折と哀愁の物語。

 

「……っ……うわっ、そこで収納がない……」

「これ、どうすんの……光りの鈴とエンシェント綿棒、どっちも必要じゃん……」

 

 でも、収納がないから、ここでどちらかを捨てなければならない。テブラーは、選択を迫られる。

 

「コイツ、綿棒捨てそうだよな……」

「うわ、マジで捨てた……最後どうする気だよ……」

 

「っ……っ……」

「…………」

 

 話は、常に収納がないことでギリギリの展開を強いられ続けているが、テブラーは気合と運だけを頼りに、左腕を失いながらも前へと進んでいく。

 

「はあぁぁ……薬取りに来たのに、薬入れられないとか、本気で馬鹿じゃん……」

「っ……収納さえあれば……うん。っていうか、チートポーション、3本目でもまだまだ美味しく飲めるな」

 

 味は柚子フレーバーの天然水みたいな感じ。他のはどんな味なんだろ。

 

「300万溶かしてる……いや、もういいや。早く次のページ」

「はいはい。こっちは激痛と戦いながらなんだっつの」

 

 気付けば話は終盤、人々の希望を背負ったテブラーは、遂に魔人の耳へと辿り着く。

 

「うわもぅだから言ったのに……綿棒ねぇじゃん……どうやって耳クソ取んだよ……」

「いや、ここまでの流れから、どうすることもできないだろ。収納さえあれば……」

 

 もしくは、綿棒が物干し竿みたいなサイズでなければ。

 

 振り返れば、常に後一つ、アイテムが持てればという状況の連続だった。

 

 そして、耳クソの違和感に耐えられず、目覚めた魔人が世界を蹂躙していく。テブラーは只、それを見ていることしかできない。

 

 物語は『全てを滅ぼした後で、貴様を殺してやろう』という魔人の台詞で幕を閉じた。っていうか、魔人喋れんだ。

 

「デカ魔人喋んのかよ……何だよこの話……」

 

「よし、習得。『キャビネット』」

 

 魔法を使用し、触れた物が収納され消える。思った以上の便利さだった。差し当たって、購入した品を収納、結局ポーションは7本飲んでしまったが、全く悔いはない。

 

「『キャビネット』って、これ超便利じゃん……」

 

 覗き見で習得したローリーが、牛乳瓶を収納して遊んでいる。

 

「で、マスター、モノリスを1つくれ」

「……もうローリーでいいよ。モノリスは一人に1つしか売れないよ。ほら」

 

 もう驚くことに疲れたのか、ローリーはソフトボールみたいな大きさの白い球体をカウンタ―に置く。これについても、段々とぞんざいになってきた。

 

 モノリスはワープポイントを設置できるアイテムであり、任意の地点で使用し、マップ画面と繋げることができる。大抵の場合、最強裏ボスの眠るダンジョンの最奥と繋げて使う。っていうか、それ以外で使うヤツ頭イカれてる。

 

「まぁ俺はイカれている訳ではないが」

「いきなり何言ってんのかわかんないけど、アンタはイカれてるだろ……って! えぇ……」

 

 横に置いてあるボロいテーブルと椅子、その椅子に座って球体を握って砕く。使用法も設定通りで非常に助かる。

 

「な、何で、ここと繋げたの? てか、何処と繋げたの?」

「いや、家だけど?」

 

「…………えっ? 何で?」

 

「いやだって、もうすぐ暗くなるし、他に候補もないし。言っただろ? 俺の友達は、ローリーしかいないんだよ」

 

「あの、もう最後にするけど、初対面だよ……」

 

 驚く、キレる、軽蔑、同情、もっと前向きな感情を向けてほしいが、表情豊かなロリを見ている分には悪い気はしない。

 

 とにかく、マジックポーションも50本購入、モノリスの分も引いて、残金は1億と1千万。再び羊皮紙へ目を戻す。

 

「うーん……まぁ……これは抗えないな……」

「まだ買うの……嘘でしょ……」

 

 もはや戦慄といった表情のローリー。

 

「えっとね……コレ、お願い。後さ、残りの1億、ここに置いといてもイイ? どうせ誰も来ないから」

 

「くっ……だとしてもアンタに言われると腹立つ……別にいいよ。触らないから、そこの机にでも置いとけば?」

 

「助かる。多分、ポーションの補充で来ると思うから、またよろしく」

 

 全てを収納し終わった俺は、久しぶりに外へ出るが、日の傾いた荒野は只々寒々しい。

 

「えっ? あ、うん……」

 

 俺はとっとと帰るべく、愛馬を伴って店内へ戻る。

 

「はっ? ちょっ! 馬っ!? 何考えてんだよっ!」

 

 またキレるロリ。牛乳飲んでる意味ねぇなぁ。

 

「何って、彼女を置いていけと言うのか? こんな荒野に」

「っ……外でモノリス使えよ……」

 

「その時は馬の存在を忘れていたんだからしょうがないだろ」

「最悪だコイツ……」

 

 入店を渋る馬をドウドウしながらボロ椅子の有効範囲へ導く。地味に数分を要した。

 

「って牡馬じゃねぇかっ! マジでテキトーだなアンタ……」

 

「細かいことに囚われるロリだな。そもそも厳密な馬の性別の判断方法を知らんわ。とにかく、また来るから、そん時はよろしく」

 

「っ……次、馬連れてきたら、本気で怒るから」

 

「わかったわかった」

 

 フリだと受け取って転移、淡い光に包まれた俺と馬は、本日のスタート地点へと戻ってくる。読書に時間を割かれ、既に外は夜の帳が下りている。

 

「メッチャ暗いんだけど……」

 

 電球が無くて暗いけど、馬は冷静。リタだとヤバそうだから、適当な人にこの馬の名前聞いておこうと思った。

 

 愛馬を労わり、屋敷へ帰る。そこそこアドベンチャーした気分ではある。

 

「――おかえりなさいませ、レクス様」

 

「えっ? あ、あぁ、今戻った」

 

 そういえば俺、レクスだった。

 

 凄い凹む。何だかあのボロい謎の店が恋しい。

 

 嫌々仕えるメイドに付き従ってもらい、自室まで戻る。

 

 マズい。

 

 ローリーとの蜜月によって楽しくなっていた反動が想定外の凄まじさで俺の心を抉ってくる。まぁ蜜月ではないし、蜜月だったらガチな犯罪者なのだが。

 

 端的に、リタが邪魔過ぎる。もちろん、リタ個人に怒りなどはない。であっても、常に嫌々控えられているのはやはり気持ちのよいものではない。レクス本人が裸の王様過ぎるため、今までは問題にならなかったのだろうが、だとしてもよく気付かないものだ。

 

「リタ、少しいいか?」

「はい。っ……」

 

 自室にリタを通す。どうやら、物の無さ過ぎる空間に、まだ違和感を覚えている様子。初期値が違和感でしかなかった俺とは、どうやら違うらしい。

 

「確認だが、リタを俺専属にしたのは、俺が言い出したことだったな?」

「はい」

 

 表情を引き締めるリタ。業務モードの彼女は、感情を完全に押し殺している。まぁ俺の補正視点により無駄だが。

 

「現時刻を以て、リタを俺専属からトリシャ専属へ戻そうと思う。その上で、一つ条件がある。呑めるか?」

 

「っ……はい、条件とは、何でしょうか?」

 

 戸惑いの後に不信。グッドニュースのはずが、やはり額面通りに受け取らない。全く以て想定の範囲内であった。

 

「屋敷の敷地内では例外なく、常にコレを身に着けろ」

 

「っ……はっ?」

 

 俺が取り出して押し付けたのは、くノ一装束。条件付きプレイアブルキャラであるリタに用意された、有料ダウンロード追加コスチュームである。カラーは黒と赤を基調に、鎖帷子と見せかけて只の網タイツ、忍ぶつもりを微塵も感じさせない露出度高めの一品である。ちなみに防御力は1。中身は只の縛りプレイやん。

 

 兎にも角にも褐色くノ一。意外と刺さる層は広いのではなかろうか。まぁ他人の好みはどうでもいいが。

 

「安心しろ。着回せるように3着用意した。別に含みはないが…………一着300万ガバチョだから、大切に扱ってくれると嬉しい」

 

「――っ!? な……こ、これ、が……いや、確かに……こんな手触りの生地は、今まで……」

 

「とりあえず、3分以内に着替えて戻ってこい。はいスタート」

 

「――っ! あ……は、はいっ!」

 

 完全に場を呑んだ。

 

 人間らしい反応を残してリタが部屋を出る。

 

「よし……」

 

 これでフェイスガードされることもないし、針の筵みたいなこの家における、目の保養も確保した。

 

「…………これで、よろしいでしょうか?」

 

「おぉ……正直趣味は悪いが、似合うな」

 

 知ってたけど、リタってかなり着瘦せするタイプだったんだよな。

 

 思った以上に脚が長いけど、もちろんマイナスにはなり得ないし、エロいかと聞かれれば曇りなくエロい。ただ正直な感想を述べれば、エロいというより普通に超可愛い。頭部のパーツによりちょんまげポニテになっている点も、ポイントが高い。

 

「んじゃ、食事とか、報告とかは変わらず声を掛けてもらって、それ以外はトリシャに従って。で、俺の専属は要らない。用があったらこちらから声を掛ける。悪いけど、周知しておいて。それと、言っても無駄だと思うけど、これ以上危害を加える気はないから、テキトーに頼む」

 

「っ…………畏まりました……」

 

「以上。夕飯が出来たら、声を掛けてくれ。お疲れ」

 

 

 どうやら、既にK点を大きく超えていた面倒臭さが解放されてしまった。それでも、プライベート空間を手にした気持ち良さが上回っている。

 

「…………偽者説で殺されるかもしれんが、まぁ……とりあえずいいか」

 

 反動とは恐ろしい。人間は一度手に入れた便利さを手放すことはできない。カップラーメン然り、ネット然り。きっと、何千年後かに滅びを迎える人類の空気感は、本当に恐ろしいものになるのだろう。

 

 ガランとした部屋の中央に設置された悪趣味なソファに座ると、結構疲れていることを自覚する。テブラーがバットエンドだった寂しさが、若干ぶり返してきた。

 

「……」

 

 それでも、今日一日は上首尾と言っていい。

 

 キャビネットとポーションのコンボは、生存確率を高めてくれるだろう。

 

「後は……食後にしよう」

 

 俺は祈る。

 

 これから100本空けなければならない守りの霊薬が、好みのフレーバーであることを。

 

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