かませクズ貴族転生   作:サムラビ

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血税と浪費と脳死

「てか重っ……」

 

 イケメン力持ちタンク、アルフェンの大剣は、常人には辛い重量だった。のですぐに装備から外して捨てる。俺のパラメーターではこれを所持したら走ることもできない。

 

「『キャビネット』」

 

 そして、何故こんなことにと断腸の思いで領民の血税に手を付ける。俺はチートポーションを2本取り出し、呆けているカルシェラに1本押し付ける。

 

「これをアルフェンに飲ませろ。終わったら、後衛で俺の指示を待て」

「――っ! は……はい……」

 

 全く以て頼りにならない返事だが、口の中に瓶の先を突っ込む位ならヤツでも十分こなせる任務であろう。

 

「っ……マズい」

 

 クソ雑魚ドラゴンの尻尾攻撃第二弾が金髪ツンデレへ迫る。このゲームにおいて、戦闘不能者二人は全滅への序曲である。

 

「――くっ!」

 

「おぉっ!」

 

 何と奇跡の回避。絵面的には水仙が尻餅を着いただけだが、この状況においては最上のファインプレイだった。その勢いに乗って、俺はガンダッシュで近寄り、抱き起こす。

 

「水仙っ、とにかくラトーラを捕まえて最後衛へ戻すぞっ! アイツが死んだらパーティの全滅が確定する」

 

「――なっ! えっ? 貴方……誰?」

 

「いいから後1ターン耐えてくれ。尻尾で殴られて生きてたら、これを一気飲みしろ」

 

 パツ金が何か困惑しているが、とにかく指示を伝え、再びポーションを押し付けて走り出す。

 

 このゲームには前衛後衛システムがあり、ポジションは最前衛、前衛、後衛、最後衛の4つ、最後衛にいれば、序二段先生に攻撃の術はない。どうにも動きが緩慢なスケルトンは、言わずもがな。

 

「ラトーラっ! 最後衛へ下がってくれ。お前多分ブレス一発で戦闘不能になるから」

「…………」

 

 安定の無視。ちなみに、現在の位置関係はおそらく、俺、水仙、ラトーラが最前衛判定という初心者でもやらない自殺志願陣形である。当然、列攻撃のブレスが来たらマジで壊滅する。

 

「……『キャビネット』」

 

 血税消費第二弾。

 

 俺は徐にマジックポーションを取り出し、土日で身に付けた秘技、ボトル片手開封を用いて瓶の蓋を外しながら無口銀髪の後方へ回り込む。

 

「――っ!?」

 

 魔法コマンドの集中からか、半開きになっていた口の中にやや尖ったデザインとなっている瓶の先を強引に押し込み、体勢としては完全に死角から襲い掛かる感じで抱き着いて抑え込む。

 

「――っ……んっ……っ?」

 

 力の分まで魔のパラメーターで満たされているキャラ設定に助けられ、何とか振り解かれることなくラトーラの体内へ液体を注入することに成功。すると、その効果からか、殺意の眼差しで俺を振り返ったラトーラの表情が一変し、抵抗が一気に弱まる。

 

「……っ……っ……っ……ハァ」

 

「よし、MPは全回復した。早くアルフェンとカルシェラの後ろまで下がれ」

 

「……わかった」

 

 空瓶を一瞥したラトーラは、何か言いたげな表情を引っ込めて、指示に従ってくれる。

 

「――ぐっ!」

「おぉっと……」

 

 そこで、今度はしっかりとドラゴンの尻尾が水仙を真芯で捉える。不変の物理法則に従い、吹き飛ぶ四条水仙。最もライブ感が伝わる位置で、俺はその姿を観測した。

 

 

「――ってうおあぁぁぁぁっ!」

 

 

 あろうことか、水仙は握っていたポーションの瓶を空中で放してしまい、100万ガバチョが激しく縦回転しながら宙を舞っている。殴られてアイテム落として破損するRPGとか聞いたことねぇけど。どうしたシステム。

 

「くっ」

 

 速さの霊薬を10本くらい飲んでおけばよかったと内心で後悔しながら、俺は一般的な速度で走り出す。4メートル程吹っ飛んで倒れた水仙はまぁドンマイ。俺は右中間深めに飛んだ打球へ猛進するライトフィールダーの如く、ダイビングキャッチを試みる。

 

「うっ! あぁ……」

 

 が、全然届かない。

 

 そして無情にも5メートル先で落ちた小さな瓶は破砕音を響かせてその中身を床へ投げ出す。

 

 一瞬水仙に床を舐めさせるか迷ったが、実現性の低さから泣く泣く却下する。

 

「ぐっ……」

 

 ここでトラウマが蘇る。

 

 あれはそう、戦闘のパターンがイイ感じに噛み合い、時間を忘れてダンジョン探索してしまった時のこと。キミも、そんな体験をしたことは、ないだろうか。

 

 その没頭故、セーブをせずに3時間も戦い続け、上がったレベルと手に入れたドロップアイテムはホクホクのホクホク、そこでまさかの事故が起きる。

 

 バックアタックされた挙句に考えられる最悪のピンアクションを経て前衛キャラが崩壊、全滅一歩手前の状態でコマンドフェイズが回ってきたのである。

 

 逃走用アイテムはなし、その他諸々の可能性を考慮した末、確実な生存方法はボスでも簡単には使わない超高価な全体回復アイテムを複数使用することのみ。それが一瞬で理解できしまい、暫し画面を見つめて固まったのは言うまでもない。

 

 後に思ったことは、もう少し早く、オートセーブという概念が一般化されていれば、という虚しきたらればだった。

 

 が、そんな後悔を紐解いている場合ではない。

 

「『キャビネット』……」

 

 怒気を込めて詠唱し、チートポーションを1本追加する。何故序二段ドラゴン相手にこんな金額を消費しているのだろう。これはもう、全プレイヤーからの嘲笑は避けられそうもない。

 

「水仙っ! 返事はできるか?」

 

 またも抱き起こす。気分は衛生兵だ。自分が雑魚であることは理解しているのだが、どうにも目の前のドラゴンに対して根本的な危機感を抱くことができない。

 

 いや、落ち着け、今最高にピンチだぞ。

 

「……痛っ……ご、ごめん、なさい……もう……私……」

 

「いやいやいや。まぁとにかくこれを飲め」

 

 泣いてるし左腕が明後日の方向へ曲がってるし完全に瀕死だが、兎にも角にもポーションを飲ませる。さすがに抵抗はされなかった。

 

「っ……んっ……んっ……っ! えっ? 嘘……何で……腕も……」

 

 怪我をした状態で飲むとそうなるのか、淡い水色の光が患部を包み、全てのダメージが無かったことになっている。が、まぁそれは置いてといて。

 

「後で全部説明するから、とにかく今は起きて『金剛陣』を使ってくれ」

 

「えっ? アンタ、ホントに……」

 

 おいおい頼むぜマジで。大量の骨骨戦士が群がってこっちに近付いてきてんだって。

 

「はいすぐ立つっ」

「っ……」

 

 前方に視界を戻すと、序二段先生は完全にこちらをターゲッティングしており、攻撃態勢に入るのは時間の問題だ。ちゃんとターン制を守ってほしい。

 

「――っ!」

 

 そこでスケルトン達が全て凍り付き、割れて弾ける。

 

「あの無愛想馬鹿……何で『銀世界』なんだよっ! ドラゴン水属性だっつのっ! 『キャビネット』」

 

 もどかしさがそろそろ限界を突破してしまいそうだが、チートポーションを2本掴み、水仙に差し出す。

 

「ダメージが一番デカいのはさっきの尻尾だから『金剛陣』を使えば戦闘不能はない。これを飲んで2ターン凌いでくれ。その頃には、アルフェンが最前衛に復帰してくれる」

 

「えっ? あ……え……あ……」

 

 今度は水仙がカルシェラみたいにまごまごし始める。この感情が軽度の殺意というヤツか。

 

「いいから指示に従え。アルフェンが戻ってきたら『アリアンランス』で攻撃しろ。まぁ大した火力にはならんけど」

 

 とにかく、俺はラトーラに蹴りを入れるべく最後衛を目指さなければならない。

 

「――待ってよっ! 何なのいきなりっ! 私っ『金剛陣』も『アリアンランス』も使えないっ! 一体、何なのよアンタ……」

 

「はっ?」

 

 泣きながらキレる水仙の言葉を受け、魔法を掛けられたように、俺の時間が停止する。が、そんなことをしている場合ではないことにすぐ気付く。

 

「――ってブレスブレスブレスっ!」

「――キャッ!」

 

 FPSの時の癖で、報告を三回連呼しながら水仙を力の限り投げ飛ばして少しだけ前に出る。そんな記憶だけあるとかマジで止めてほしい。

 

「っぐおぉぉぉっ! 冷たっ!」

 

 だが叫びに反して、冷気を肌で感じたのは一瞬のみ。周囲を包んだ吹雪の中心は少し左に逸れていた様子。

 

「っ……おおっと……」

 

 首を全力で右へ傾けたからか、頭部はセーフだったが、左半身は完全に凍り付き、半分だけ氷像のような塩梅に仕上がっている。そして狭間となっている身体の真ん中がまぁまぁ痛い。ビジュアル的に、動かすのは控えておく。

 

「とりあえず一杯……んっ……フゥ……」

 

 巻き戻したように身体は回復し、生の素晴らしさを体験する。素直に受け取らなかった水仙を褒めておこう。そして、1本落として駄目にした事実を忘れたい。既に何百万溶かしているんだ俺はっ。

 

「『キャビネット』……水仙、もう肉壁でいいから。これを飲みながら防御して耐えててくれ。まぁ防御コマンドなんてないけど」

 

 防御コマンドって場合によっては最強行動だよなぁ、と思いつつ、もう完全に麻痺した心でポーションを2本取り出し、今度は優しく押し付ける。

 

 ちなみに、水仙の存在意義の一つ『金剛陣』は、パーティ全体の防御力を上げてくれる優秀な金属性魔法であり、中盤まで水仙はこれしか使わないと言っても過言ではない。

 

「む、無理よ……私一人で耐えるなんて……アンタ、ドラゴンが怖くないの?」

「えっ?」

 

 同じ序二段なら相撲取りの方が遥かに怖いけど。っていうか今更だけど、リースいれば俺見てるだけでいいのに。

 

「……」

 

 だが、考えてみれば、水仙の反応が正常か。ドラゴンは人々に恐れられているという設定に間違いはない。しかし、序二段ドラゴンを恐れているプレイヤーが皆無なのもまた事実。

 

 ここでまた、研ぎ澄まされた思考の没入を再現する。

 

 超絶高速一人会議。

 

 俺が先日、気合と根性と執念で飲み干した守りの霊薬は100本。1本での守りの上昇値は最低が3で最高が7、中央値を平均に採用すれば1本当たりの上昇は5と考えられる。

 

 その仮説に従えば、今の俺の守りは500を超えているはず。アルフェンの最終的な守りが700ちょっと。でもそれは99レベルでの話。てかそこまで上げないと勝てない裏ボス達ってどうなんよ。

 

 そしてさっきのブレスも、死ぬ程って感じではなかった。普通に表面が凍っていただけかもしれん。

 

「HP見てぇ……」

 

 カルシェラとラトーラのリアクションから察するに、レベルもMPも概念化されていないっぽい。やっぱ分かり易さは大事だ。

 

「――っ」

 

 そういえば、アルフェンが一向に戻って来ないことに気付く。彼が戻ってくれば、水仙との不毛な押し問答からも解放される。その一方で、ブレスは燃費が悪いのか、とりあえず空中を飛び回っている序二段先生から目を離し、後方を見やる。

 

「はっ?」

 

 またもやどうしたことか。40メートル先では時間がゆったりと流れているのだろうか。だとしたら俺も混ぜてくれ。

 

 魔法をパナす体勢に入っているラトーラはOK。だがしかし、その横で未だぴくりとも動かないアルフェンと、その傍らでオロオロしてる感じのカルシェラにはどうしようもなく憤りを感じてしまう。最前衛は吹っ飛ばされたり、氷像にされかけたりしているというのに。

 

「もういい……水仙、一緒に後衛へ戻るぞ。最悪、カルシェラを盾にすれば1ターンは凌げる」

「えっ? ちょっ――」

 

 隊列移動にここまで行動値を消費した記憶はないが、仕方なく走り出す。そして、後数分もせずにスケルトンがまた湧き出すことだろう。

 

「カルシェラああああぁぁっ! てめぇ一応お婆ちゃんと同居だろっ! ポーション飲ませる程度の食事介助っ、さっさとやれっ!」

 

「ヒィィィィィッ! す、すいませんっ!」

 

 相も変わらずビビり散らす陰キャ紫女。ここを生き延びたら教育が必要だ。

 

「いいから、さっさと飲ませてくれ……言っておくが、現状はお前も最前衛だぞ」

「っ……あ、で、でも……意識がないのに、どうやって……」

 

「気持ちは分かるが緊急時だ。口移しで頼む。さすがにアルフェンも文句は言わないだろう」

 

 リースに惚れる予定だが、まだ会ってないし。

 

「えぇっ!? そ、そんな……」

 

 絶対的エース、戦闘不能中イケメン、要らない子を最後衛に置き、水仙と二人、数メートル分前へ出てからもう一度振り返る。

 

「ラトーラっ! 『銀世界』ではなく『ダークナイトオブザソウル』にしてくれ。その方がDPS、じゃなくて、ダメージ効率がいいからっ」

 

 ラトーラ専用の闇属性は相性関係なしなので、裏ボスにもダメージが通る優秀な攻撃手段である。

 

「……」

 

 明らかに「はっ? だからてめぇ何で知ってんだよ?」って感じの顔をされるが、重ねて緊急時である。

 

「よし、水仙、先に戻るぞ。どうせ後1、2ターンで立て直せる」

「あ……う、うん」

 

 こっちも何とか冷静さを取り戻せたようで何よりだ。

 

 

「――て、ヤバ」

 

 

 システム的にも自然な流れ。

 

 最前衛が不在なら近接攻撃は前衛へ、前衛が不在なら後衛へ。先程のブレスとは違い、明確なプレッシャーを伴ったドラゴンの肉体言語。

 

 

「――ぐあっ、ハッ!?」

「――レクスっ!」

 

 

 加えて、二分の一の確率を引き当てた俺は、生まれて初めてドラゴンに尻尾で殴られた。

 

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