まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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5話 まずは会議から

 

 今日は夏コミ8日前です。

 アシスタントの吉住さんが局の会議室に呼び出されたわけだけど、今日は私たちも付いてきてる。

 

 今日はなんと、心強いお兄ちゃんが付いててくれてた。

 

「星野アクアです。短い間ですが、よろしくお願いいたします」

 

「おう。さっさと始めるぞ」

 

 お兄ちゃんが丁寧に挨拶をしても、立ったままの漆原さんは普段と変わらない態度だった。

 鏑木さんから伝えてもらってて、その目的は夏休み期間で番組制作の体験になってるけど。便利なアシスタントが1人増えてラッキーなんて思ってるのかな。

 

「次の深掘りコーナーは、コスプレイヤーへの取材で……あー、あれだ、吉住、何人集まった?」

 

 漆原さんは面倒そうに話し始めたけど、途中でやめて、私やお兄ちゃんに詳しい説明してくれないらしい。もし昨日にお兄ちゃんが教えてくれなかったら、私は今日初めて聞くことになってたと思う。

 

「1人…です……」

「っ……吉住ィ!! 10人集めろ言っただろ! そんなんで間に合うのか!!」

 

 今日もすぐ怒鳴ってるよ。

 早口でわかりづらかったけど、すごい数を求めてたよね?

 

「出演者10人は現実的じゃないですね」

 

「……なんだ、文句でもあるのか?」

 

 お兄ちゃんが冷静に指摘してくれたけど、漆原さんはイライラしちゃってる。

 私や吉住さんじゃ、思っててもちゃんと言い返せないけど。

 

「交渉担当は1人のみ。当日まで残り8日、並行して準備、会場での警備、とにかく現実的には3人が上限でしょうね」

 

 席を立ったお兄ちゃんが、ホワイトボードに①~③の番号を振って『③ 出演構成・人数設計』ってスラスラ書いてる。他にも『取材交渉、移動手段、警備、ロケ弁』で一旦ペンを止めて振り向いたけど。

 やっぱり吉住さんだけじゃ、やることが多すぎるよね。

 

「あぁん? 減らせってことか? 保険だよ保険、盛り上がるとこやらねぇと尺足りねぇんだよ、これだから素人は」

 

「まさか夏コミ当日だけ、そういう撮影の予定だったのですか?」

 

 お兄ちゃんは、しっかりと漆原さんの顔を見て話を聞いてから、『① 番組コンセプト』に『コスプレイヤーへの取材』って書きこんだ。

 

「ねぇねぇ吉住さん、そういえばコスプレって自分で作るモノなの? あとテレビに呼ぶのって難しいの?」

「人によると思いますけど、えっと、今のところ1人は東京ブレイドがテーマだから、出演許可してくれたような……」

 

 目の下のクマもあって、たぶん吉住さんは今日も徹夜して、この会議が始まるまでにいろいろ連絡してくれたんだろうね。

 というかもう1週間ちょっとしかないのに、探すの難しそう。

 

「コスプレへの情熱がある方でしょうね。吉住さん、適任を探してきてくれてありがとうございます」

 

 お兄ちゃんせんせが褒めてくれてて、吉住さんは泣きそうになってるよ。褒めて伸ばすのがホントいいよね。

 

「おい、そういう無駄な時間ねぇんだよ。とにかく人だ、そしてもっと過激なトークを集めろ」

 

 むっ、漆原さんがすぐ文句を言ってくる。

 せっかくお兄ちゃんが、ちゃんとした会議してくれてるのに。

 

「そうなのですか? 他の班の方針を参考にしているつもりなのですが」

「あぁん? ……ちっ、鏑木Pのお気に入りだからって…」

 

 空気がピリピリしてる。

 でも普段の何倍よりマシだよね。吉住さんも関心したようにホワイトボードに書かれる文字を見てるし、意外に漆原さんも文字は目で追っているし。

 

「番組の想定視聴層は若い子が多い。たとえ一過性で、つまり一瞬のことだろうと、炎上は番組全体の責任問題になりますよ」

 

 フリルちゃんたちも見てるって話だよね。

 炎上ギリギリって話もよく聞くし。

 

「東京ブレイドのファンの人たちも気になって見そうだよね。ところで、なんで東京ブレイドなの?」

「えっ……それは漆原さんの話で……」

 

 私が吉住さんにこそこそと質問してたら、漆原さんには聞こえてたみたいで。

 

「ったく、アニメが流行してるだろ? 東京グレード? 画的に映えるんだよ」

 

 なるほど、漆原さんの思いつきなんだね。

 お兄ちゃんが『④ 版権許可』って書き加えてる。

 

「キャラを使う許可ってこと?」

「ああ。キャラクター準拠のコスプレだからな……」

 

 お兄ちゃんがちょっと言いづらそうにしてる。

 たぶん企画を最初からじゃなくて、ちょっと進んじゃった段階から、修正が必要なんだろうね。

 

「アニメ部署にはもう……あー、あとで俺から言っておく。あれだ、こっちが宣伝してやるしネットでアニメ流してるし、すんなりいくだろ……」

 

 わぁ、めっちゃ不安な言い方だ。

 さっき漆原さんは完全に思考停止しちゃってて、どこか遠くを見たもん。

 

「個人のコスプレならともかく、今回は番組利用ですからね。おそらく時間がかかりますよ」

 

 お兄ちゃんがいなかったらどうなってたの。

 

「……ならこうするぞ。オリジナルか、許可フリーのやつか、それかビミョーに東京ぶれぇどっぽくないやつだ」

 

「えぇ!? 東京ブレイドだから…許可してくれたのに……」

 

 吉住さんが驚いて声を出したけど、どんどん声が小さくなっていった。

 

「おい、吉住! 連絡してなんとかしてもらえよ!」

 

 漆原さんがまた怒鳴ってりし、しかも無茶ぶりじゃん。

 もしそのコスプレイヤーさんがキャンセルしたら、吉住さんの一晩の苦労が消えちゃうかも。

 

「あぁ? 何か不満でもあるのか? コスプレイヤーなんて承認欲求が強いやつらだろ。こっちが宣伝してやる立場だぞ?」

 

「それは違うと思います!」

「ルビーの言う通りですね。出演者には敬意を払ってください。それは番組全体として共有されているはずですが、鏑木Pから」

 

 お兄ちゃんが落ち着かせてくれたけど。

 漆原さんもなんとかしなきゃって焦ってる感じはする。

 

「それと版権許可は、僕から連絡しておきます。幸運にも東京ブレイドならば、原作者の方と知り合いなので」

 

 そうじゃん。アビ子先生だっけ。お兄ちゃんが舞台に出てたし、私も1度会ったし、しかもママは一緒にご飯行ってたし。

 

「ちっ、なんでもかんでもお前の思い通りになるのかよ……天才かよ…」

 

 漆原さんはそう言ったけど。

 

「使えるものは使う。だが敵は増やさない。それが天才に囲まれた、僕なりの戦い方なんですよ」

 

 お兄ちゃんがそう伝えた。

 漆原さんは腕を組んで、椅子に座る。

 

「……地上波にできねぇギリギリを攻めねぇと、面白くできないだろ」

 

 そう呟いて。

 

「規制? コンプライアンス? その中で面白いもんを作れるやつは良いよな。でもそんな天才この番組にいねぇんだよ…」

 

 そして漆原さんは机を見つめてる。

 いつも通り早口だったけど、でも雰囲気は弱々しかった。

 

「泥臭くやるしかねぇ……俺だって妻やガキを食わせにゃいけねぇんだ……」

 

 溜めてきた疲れを見せているようで。

 この会議室の中だけで弱音を吐いた感じだった。

 

「人を頼るのも、結構いいものですよ」

 

 ほほえんで、お兄ちゃんはそう言ってくれた。頼ってくれるようになってる。

 

「ルビー、どこまでコスプレについて知ってる?」

「えっ、知らないよ? 友達にもやってそうな子は…あっ!」

 

 みなみちゃんなら詳しいのかな。

 モデルということでいろいろ着てるし。

 

「吉住さんはどうですか?」

「えと、知り合いにいて、そこそこ知ってます。宅コスっていうか、軽くですけど」

 

 なんだ、すぐ隣にいるじゃん。

 コスプレについて知ってる人。

 

「知ってるなら早く言えよ、吉住」

「聞いてみると、意外と身近に頼れる人はいるらしいですよ」

 

 漆原さんは呆れたような様子だったけど、お兄ちゃんに言われたことで、どこか申し訳なさそうな表情をした。

 言えるわけないよね。普段の強引な態度だと。

 

「それと漆原さん、少人数密着型にしませんか。衣装の製作過程から夏コミ本番まで、ドキュメンタリーで撮るのも、深堀りになると思います」

「いや、それだとリスクがある。たった数人のコスプレイヤーから面白さを引き出すつもりか? 過激なトークから当たりを引くほうが何倍も無難だろ?」

 

 お兄ちゃんが提案して、漆原さんも会議に参加してくれてる。

 なんか過激なトークなんていう、過激さもまだあるけどね。

 

「吉住さん、貴方の知り合いが出演者だと仮定して、そういう撮影許可は出ると思いますか?」

「……無理ですね、絶対に」

「ちっ、だから、そういうの引き出せそうなやつを探してこいよ。ほら、家にまで押しかけられたら、最高なんだがな」

 

「家にまで?……それやってみませんか! リポーターの私が聞いてみます!」

 

 たまには漆原さんも良いこと言うじゃん。

 お屋敷みたいなとこでコスプレ衣装をたくさん飾ってるのか、もし服を作ってるならどこまで本格的なのか、あとワンチャン私も自分の分を作れるのか。

 

「ドキュメンタリーなんですもん。コスプレ作りから、本物(リアル)を撮りませんか!」

 

 知らないからこそ、それを深堀りするのがリポーターの出番だよね。

 

「ルビーだけなら、許可が出るかもしれません」

「確かに、女同士ならいけるかもな」

「僕も賛成します。えと、うちのも、ルビーさんなら許可しそうですし」

 

 うちのも? 吉住さんの家族なのかな?

 

 とにかく吉住さんも、だんだん明るさを見せてきてる。

 せっかく身内で会議するんだし、こういう楽しさがいいよね。

 

「よしっ、なら他の班にも通達されているように、この点について確認しておこうか」

「はい! せんせ!」

 

 お兄ちゃんは『⑤ コンプライアンス』って書き足した。

 承諾書は書面で必須、過度な私生活の質問NG、収益や交際などセンシティブ領域は許可制、SNS炎上リスクに注意した発言、などなどね。

 

 コンプライアンスってあちこちで聞くけどね。

 なんかルールっぽかったり、道徳っぽかったり。だから具体的に気をつけることを書いてくれるの助かるなぁ。

 

「さて、番組制作の進行表も纏めておきましょうか。漆原さん、吉住さん、もし何かあればアドバイスしてください」

 

「……あぁ、やることは多いんだ。さっさとやれよ」

 

 お兄ちゃんの手で、完全に白紙だったホワイトボードは、どんどん文字で埋め尽くされていく。

 私も、吉住さんも、漆原さんも、いつの間にか自分でやることを書きにも行ってた。

 

 漆原さんも熟練なノウハウがあって、吉住さんと話しながら、夏コミ当日の撮影のことまで考えてくれてる。

 

 私が今日やらなきゃいけないことは、密着取材の質問リスト作りだよね。お兄ちゃんや吉住さんを手伝いながら、夏コミとコスプレのことを少しは知っておこう。

 

 あとはご自宅に入れてもらうことになるんだもん。私から真剣に頼んでみよう。

 

 

 

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