まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
コスプレイヤーのメイヤさんに電話したら昨日のうちに承諾してくれた。
私だけ入れてもらえる条件で、大掛かりな撮影なし、書面できちんと交渉する、っていう話だけどね。
私とお兄ちゃんは、吉住さんの車でマンションまで向かった。ホントはタクシーで行こうとしてたけど、番組的にはタレントの扱いも大切なんだろうなぁ。
まあ私が取材してる間は吉住さんには休んでもらえるし。
というか昨日も徹夜してたんだね。
そしてお部屋の前で、お兄ちゃんに衣装や髪型がバッチリか確認してもらって、時間もぴったり、ピンポーンを鳴らす。
しばらくしてドアが開いた。
銀髪に染めてるっぽくて、背が高くて美人な人だね。
「本日はお時間ありがとうございます。深掘れワンチャンという番組で、リポーターをしている星野ルビーです」
まずは挨拶からだよね。マンションの廊下だからテンションと声を抑えるけど。
「本日の撮影は、生活空間を大きく映さない形で、三脚固定のカメラのみ使用させていただければと思っております」
いっぱい練習した通りに、丁寧に頭を下げて伝える。
出演者様にはリスペクトたっぷりだよ。
「お約束した通り、リポーターのみ入室させていただきます。撮影前には必ず画角確認をお願いします。また、撮影データも事前にチェック可能ですので」
お兄ちゃんが補足してくれて、今日は私1人でバッチリ撮影と取材しなきゃね。
「あ……もしかして刀鬼の役者さん……?」
メイヤさんは小声でそう呟いた。
もしかしてお兄ちゃんのファン!?
「舞台みました。えっと、そちらは妹さんで?」
「そうなりますね。僕と吉住はマンションの玄関付近で待機しておきます。もし何かあればお呼びください」
うぅ、緊張するなぁ。
ここから取材も撮影も、私だけになるし。
「……あの…どうぞ…」
「えっと?」
どういうことだろ。
「そちらの方も疲れてるようで…お部屋に……」
なんとメイヤさんは迷いながら、そう言ってくれた。たぶん吉住さんの心配をしてくれて、3人でお部屋に入らせてもらえそう。
そんな優しさに驚きながら、私たちは3人で頭を下げた。
「「「ありがとうございます」」」
そうしてエアコンが効いてて涼しい部屋に通してもらえたら、全部白色って感じでキレイな部屋だった。
家具は最小限で、タンスは大きいけど、コスプレ衣装をたくさん飾ってるようなこともない。
本当に普通で、ベッドはなくて、お布団だって畳まれてる。
ここを、作るための部屋にしてる感じがする。
「シンプル綺麗なお部屋ですね」
「友達もよく来ますから。あっ、女性のね?」
ミシンも家庭用の小さなもので、特別な機材とかはない。
部屋の隅には材料がまとめて置かれていた。
まずたくさんの布があって、あとは装飾品と、塗料まである。
それでこれがトルソーっていう服を飾るやつだよね。
他にもお部屋には、お化粧品をタンスの上に飾ってて、その近くにはまだ開けてない1巻があった。
「東京ブレイド、好きなんですね」
「そうなんですよ。キザミが推しでして」
メイヤさんの声が柔らかくなった気がする。
キザミって、確か舞台でメルト君が演じてたキャラだ。メイヤさんは夏コミまでギリギリだけど、東京ブレイドのキャラのコスプレなのが、取材協力してくれる理由だよね。
「カッコいいのわかります。私も
「ええ、舞台も感動しました。あそこまで原作再現できるなんて」
『今日あま』の時より動きと声の勢いがすごかったよね。
ところでお兄ちゃんが、吉住さんと廊下で立ち止まってて『……そろそろ』って目で伝えてきてる。
「そうだった、じゃなくて、そうでした。カメラの位置はどうされますか?」
「えぇ、それなら、ここで?」
メイヤさんが指示してくれて、お兄ちゃんと吉住さんで設置してくれてる。
「……この辺りで…座ってもらってて構いませんよ?」
「なら、お言葉に甘えさせていただきましょうか」
「そうですね、ありがとうございます」
映像には映らないけど、お兄ちゃんと吉住さんがいる。
こういうのは番組作る時じゃないとわからないね。それに、せっかくメイヤさんの優しいとこが見られてるのに。
「お仕事がんばらなきゃいけない時なんでしょうけど、少しは休んでてください」
メイヤさんが一度廊下に行って、戻ってきたと思ったら、吉住さんに濡れタオルを手渡してる。
吉住さんの顔にかけてて、絨毯の上に寝かせる感じで、めっちゃ撮って残しておきたい光景だった。
「あ、あの、さっきのところ撮らせてもらえませんか?……メイヤさんの優しさが、伝わると思うんです」
「……遠慮しておくわ」
うー、無理だったかぁ。
無理なお願い続けて、怒らせちゃってもいけないもんね。
「失礼いたしました。コスプレという表現活動の魅力ですものね。そういうテーマでの撮影を開始、ということでよろしいでしょうか?」
「そうね。それでお願いします」
メイヤさんの表情や声色が切り替わってて、外向けって感じがした。
「はい。改めて、本日はよろしくお願いいたします」
お兄ちゃんから準備バッチリ合図が出たし。
「ここからは衣装の製作過程を中心に、コスプレイヤーという表現活動の魅力を、深堀りさせていただきます」
予想していたより、声の大きさの調整が難しい。
カメラには音声を入れなきゃだし、あまり響くような声だと隣の部屋まで響いちゃうし、でもテンションはバラエティっぽくしなきゃいけないし。
メイヤさんは静かに頷いてくれた。
「まず、型紙の製作から教えていただけますか?」
メイヤさんから丁寧に説明してくれる。
キザミの設定資料は準備万端だし、舞台衣装の資料まで参考にしてるんだって。
素材の選び方から買い方まで伝えてくれた。
お兄ちゃんが持ってきていた手持ちカメラを使って、いくつかの作業風景まで撮らせてくれる。
私は家庭科の授業でミシンを使った時も難しかったのに、メイヤさんはすごいサクサク進めてた。
「想像していた以上に本格的なんですね。すごいです」
「人によると思いますよ。私は今回の衣装は、特に気合を入れてますから」
こだわりポイントだとか、そういう語りをたくさんしてくれて、推しへの情熱が感じられていいね。コスプレをするモチベ的なのまで撮らせてもらえてる。
「ところで、製作期間はどのくらいかかるのでしょうか?」
「最低でも2週間は欲しいですね」
それを聞いて「夏コミ終わっちゃうじゃん」って、思わずそんなツッコミが声に出ちゃった。
「……だから、こういうテレビの案件は早めに言ってもらえると嬉しいですね。友人が来てくれますけど、今日から徹夜確定です」
なんか番組としてごめんなさい。
メイヤさんはお兄ちゃんに何か合図してて、たぶん『ここカットで』って意味だよね。
「夏コミまでもう1週間しかありませんけど。徹夜をしてでも間に合わせてみせます」
「完成を楽しみにしてますね。だってメイヤさん着るんですもん。美人さんの男装、カッコいいだろうなぁ」
『ありがとう』って小声で呟いてくれた。
たぶんまだ完全に信頼されてない感じがする。番組でNGシーンを勝手に流しちゃうのとか、どうしても気になるんだろうね。
そうだ、どうしても聞きたいことがあった。
「質問なのですが、私が自分の衣装製作をするのは、可能でしょうか?」
私が質問したら、空気が止まったかのようだった。
メイヤさんは笑顔を浮かべたままだけど。
「無理ですね」
作業の難しさ、作業工程の多さ、ウィッグの製作時間。
笑顔でそういうリアルなところも教えてもらえた。
「じゃあ私の場合は、時間がたっぷりある時になりそうですね」
「ええ、まあ私も独学ですから。努力次第では可能ですよ」
メイヤさんは私だけじゃなくて、これからコスプレ製作に興味を持ってくれる、そんな子たちのための言葉も伝えてくれてそうだね。
「……どうして作りたいと思ったのですか?」
「
よしっ、もっと本音をぶっちゃけよう。せっかくメイヤさんから質問してくれてるもんね。
「ママにプレゼントしたくて。だって夏コミに来てくれるんですよ」
「……へぇ…仲がいいのね」
そりゃもう親子共演は嬉しいし、きっと喜んでくれるし。
でもメイヤさんは何か思い当たることがあるみたいで、また作り笑いになっちゃった。
「ちなみに、夏コミには東ブレのコスで参加して取材、ということでしたよね?」
「そうなりますね」
夏コミのルールとか、お兄ちゃんと一緒に確認したけど。
コスプレエリアみたいなのが会場のあちこちにあって、一般の人なら当日予約で気軽っぽい。
でも私たちの場合は取材申請だとか、事前に打ち合わせだとか、ちゃんと必要になるみたいなんだよね。たぶん漆原さんが書類を作って、全力で頼み込んでくれてるところだと思う。
「あなたと、お母様の、コスはどうするの?」
「………えーと」
どうしよ。作れなかった時のことを考えてなかった。
私とママは私服で行く? でも東ブレのコスプレ3人組で行くみたいな話になってない?
「番組でぇ……」
舞台の衣装を借りる? 通販で買う?
あーもう、助けてお兄ちゃん!
「撮影は一度中断しますが。メイヤさん、その質問の答えについては、番組側で用意する予定となっております」
「そ、そう! うちの妹がコスプレ趣味があって、市販のやつですけど!」
お兄ちゃんありがとう。
てか、吉住さんにも妹がいたんだね。
「その、ツルギのコスがあったはずで……」
「……あら、それなら大丈夫そうね。一応コスを貸すことも可能だったんだけど、ほら、私のサイズで作ってるじゃない?」
確かにデカいですからね。凄いもんね。
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
お兄ちゃんがお礼を言ってくれて、私も慌てて頭を下げる。
返事もせずに、めっちゃ見ちゃってた。
「それでは、衣装の製作工程について、全体の流れを改めて教えていただけませんか。本日は、その撮影までさせていただれば幸いです」
「ええ、いいですよ」
お兄ちゃんが撮影にいてくれる安心感あるなぁ。
メイヤさんは早く作業を再開したそうだし、あまり長くお部屋にいるのも悪いし。
「また、その際に気をつけていることなども、できれば」
「おねがいします!」
お兄ちゃんから話を引き継いで、私はメイヤさんへの取材を再開した。
****
無事にメイヤさんへのお部屋での取材も終わって、吉住さんの運転で、私たちは局に戻っているところだった。
その間もお兄ちゃんは考え事してるようで。
「何か気になることあった?」
「いや、想像以上にコスプレに熱意がある方だったからな」
それは私もビックリしたし、良いものが撮れたと思ってる。
キザミの設定資料だけじゃなくて、舞台衣装の資料まで参考にしてたもん。
「当日の衣装はすでに、アビ子先生のところで借りれるか聞いていてな」
「それが何か問題なの?」
「もしかして僕が言っちゃったせいですか?」
吉住さんが不安そうに聞いてきたけど、妹さんから借りてくるって話だよね。
「いえ、それも助かりますのでお気になさらず」
「で、でも、本当に市販のやつですよ? ルビーさんにヘタなの着せられないかなって……」
「へーきへーき!」
もう、ホントに吉住さんも心配症だよね。
高い服じゃないと着たくないなんてこともないよ。部屋着もラフなの多いし。
「問題は、残り1週間という条件で、メイヤさんが作り上げる判断をしているところです」
「え? それってむしろすごくない?」
番組的にもバッチリじゃん。完成品で夏コミ当日一緒に来てくれるんだし。
「ルビー、もし自分が衣装を作ったとしてだ。番組側は、例えば舞台衣装から用意してくる。どう思う?」
「なんかズルい!」
まるで本場で作られた衣装と、比べられてるみたいにも思えるよ。メイヤさんが徹夜してまで作ってくれるし。
「つまり母さんとルビーで2着必要で、そして、ほどよく完璧ではないモノが必要になる」
「メイヤさんそこまで気に……しそう!」
完全に信頼されてない気はしてた。
それに、コスプレへのこだわり凄そうだったもん。
「ちょっと待ってくださいね。そういえば、お母さんって、どういうことですか?」
あ、吉住さんはまだ知らないんだね。
「それは話題性のために、友情出演? 親子出演? とにかく出てもらえるように頼みました。今思えば、企画がぶっ飛びますので反省してます」
「お兄ちゃんおちゃめ! あっ、ママも喜んでましたので!」
「マジか………」
今日あまの撮影の時もそうだったけど。
めっちゃ優しいママだから、そんなに緊張しなくてもいいのに。