まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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7話 夏コミ当日に向けて

 

 私たちが局の会議室まで戻ってきたらもう夕方だ。

 昨日の帰る時にはキレイに消しちゃったから、当然ホワイトボードは真っ白になってる。でも写真では撮ってて、その印刷したやつがホワイトボードに貼られてた。

 

 そして漆原さんはパソコンを操作しながら椅子に座ってる。

 書類とか、ペンとか、だいぶ机の上が散らかってて、班長としてやること多いんだろうなぁ。

 

「で、収穫はあったか?」

 

 すぐにそういうのを聞いてくるってことは、私たちに期待してくれてたのかな。

 

「はい。推しのキザミのこと、コスプレ衣装の製作、いろいろ密着取材してきました!」

 

「あぁ? レイヤーの作品愛なんてもの使えるか? いや、いい、内容いいから動画共有しておけ」

 

 そんな指示は投げやりっていうか、テキトーっていうか。

 

「わかりました」

 

 冷静なお兄ちゃんが頷いてくれて、私もアイドルスマイルを浮かべるけどさ。内心めっちゃムカついてくる。漆原さんは動画見る前に面白くなさそうって顔してるし。

 

「あれだ、部屋にコス飾ってて……なぁ吉住、いい感じのやつ撮れたか?」

「いえ、飾ってませんでしたよ……」

 

 なぜか急にニヤニヤしてる漆原さんが尋ねて、吉住さんは苦笑いしてる。

 まあ私もお屋敷みたいなとこで、キラキラと飾ってると思ってた。1人暮らしのお部屋で作ってて、そういう普通っぽいとこも撮れたのがよかったよね。

 

 お兄ちゃんがノートパソコンにカメラを接続してて、映像が再生できるか確認してくれてる。これ番組だと、どこまで使ってくれるんだろ。

 

「漆原さん、仮編集ですが、僕が(おこな)ってもよろしいでしょうか」

 

「あん? なんだって? できるのか?」

 

 漆原さんが疑ってるけど、お兄ちゃんは映画監督さんのところで学んでるもん。

 私は、おばちゃんとおしゃべりしたり、隣でスマホいじってたりだけど。

 

「基本的なカット整理と、構成の仮組み程度なら」

「いろいろできるとこ、私も見てます!」

 

 お兄ちゃんもっと自信家になっていいのにね。まあそれもお兄ちゃんらしいや。ひかえめなとこも推せる。

 

「なら最低2日だけやるからそれまでにやってみろ。だが動画は共有しておけよ、万が一にもボツじゃ撮り直しだからな」

 

 めっちゃ早口で命令な指示だった。班長なのに班員に、えーと、リスペクトがないよね。

 

「ありがとうございます」

 

 お兄ちゃんまた大変なことを引き受けちゃって、逆にお礼まで言ってて、ホント真面目だよ。もちろん私もお茶くみと応援して、手伝うからね。

 

「これであとは当日だが、調べ直したら面倒だった。最近は面倒が多い、こっちが取材させてもらうっての?」

「アハハ…時代は変わってますね……配慮…配慮……」

 

 そして、いつも通り早口どころか、漆原さんの話の内容よくわからなかったし。

 しかも吉住さんの目だいぶヤバイ感じじゃない?

 

「あれなら会場撮ってるだけで、尺がいけそうだな。そこにコスプレイヤーへの深堀りをだな」

 

「ちなみに漆原さん、当日の衣装についてですが」

「そ、そう! こっちでコスプレしますから!」

 

 私はホワイトボードに、『私とママのコスプレ用意』って書きこんだけど、これ地味に縦にまっすぐ書くの難しいね。

 

「……待て、なんだって?」

「夏コミ当日の衣装ですね。作製時間も技術もないため、既製品、つまり借りて参加で」

 

 お兄ちゃんが視線で頼んできたから、『借りて参加で』と書き加えておいた。

 

「あー、買えば済むもんは買え。やることは多いが、人が足りねぇ。俺も昔は作らされて、やり直しくらって……」

 

 そして、漆原さんは首を大きく振った。

 やっぱりだいぶ疲れてるっぽい。

 

「どこまで話した? ママってなんだ?」

「そうだった! 漆原さん、メールチェックを!」

 

 吉住さんにそう言われて、しかめっつらな漆原さんも自分のノートパソコンを操作し始めた。

 そして特徴的な丸メガネをかけ直した。

 

「……星野アイ…出るのか……?」

 

「はい、喜んで来たいって」

「授業参観のつもりでしょうね」

 

 そうそう、漆原さんをいい感じに改心してもらうために、『もっと立場が上の人から指示してもらおう作戦』の仕込みだね。

 

「授業参観だぁ? そんな軽いノリで、いや、ちょっと電話する」

 

 漆原さんはそう言って、スマホを持って立ち上がった。

 

「鏑木さん、お疲れ様です。その、ご連絡が遅くなってしまい……そうです、その件について最終確認させていただきたく……はい、ええ、夏コミ来場、正式でよろしいんですね?」

 

 静かな部屋でも、向こうからの内容は聞き取れなかったけど、漆原さんは『丁重に扱わせていただきます』って、軽くお辞儀してた。

 立場が上の人には、ちゃんと礼儀正しくしてるんだね。

 

「星野アイ、正式決定ってわけか」

「だ、大丈夫なんですか? 僕たちで、夏コミ会場で、警備を?」

 

 吉住さんは心配してくれてるけど、めっちゃ余裕だと思うなぁ。

 

「なんとかするんだ。いいか、鏑木Pはアイのファンだと言って、俺らに期待してると言った。俺らとしても、番組としても、チャンスってことだ」

「はい……ですが、コスプレして参加すると言っても……撮影許可とか……」

 

 漆原さんの声が興奮してて、吉住さんとも話し合ってくれてる。

 ママが番組に出てくれて、鏑木さんパワーがあれば、『今日あま』の撮影の時みたいに、効果てきめんっぽいね。

 

「当日はマネージャーも来るので、警備は任せていいですよ」

「すっごく安心安全です!」

 

 実はパパにも前世あるっぽくて、絶対カッコいい勇者とかだよ。

 だって宇宙1番究極最高お姫様なママを救ってくれたし。

 

「それはそれで、向こうとの連携をだな。それにだ、いいか? 事前に考えることは他にもあるんだ」

 

 漆原さんが席を立って、ホワイトボードの前でペンを持った。

 だいぶ癖字だったけど、ちゃんと書いて教えてくれようとしてる。

 

「どのルートで会場入りするか、控え室はどれほど快適か、もしもの緊急退避、そしてロケ弁は高級幕の内」

 

 そんな話を聞いてて、私の時ってこんなに丁寧に考えてくれてたっけ。

 まあ超美人マルチタレントのママだから、豪華な部屋にすべき。お弁当はパパが作るやつ。

 

「なるほど。ファンへの対応も考えるべきですよね?」

「そう、それもあったな」

 

 吉住さんと漆原さんが相談してるけど。

 確かに推しを見つけたら、私も全力で握手やサインを求めにいっちゃうか。まあ私は娘としての特権があって、ママとのお風呂すら許されるけどね。

 

「あ~、あれだ、星野兄妹……明日マネージャーに連絡を取れる時間をだな」

「わかりました。帰ったら聞いておきます!」

 

 それなら私でもできそう。お兄ちゃんは動画編集で、私はパパに相談だね。

 でも、なぜか漆原さんは不満そうな表情をした。

 

「帰るだぁ? ここから大事な……いや、そうだな、まだガキで、未成年だったか……」

 

「えっと? まだ手伝えますけど」

「ルビーは明日の午前中、ファン感謝祭のレッスンだろ」

 

 お兄ちゃんに言われて思い出したし、私もまだまだだなぁ。よくよく考えれば、ゼロからコスプレ作りの余裕が全くないね。

 でも明日そんなに大変じゃなくて、今日まだ手伝えるのに。

 

「……今日は解散だ。吉住、これまとめたらお前も帰れ」

 

 漆原さんはそう言って、ホワイトボードの文字を指差した。

 吉住さんは頷いて、そして驚いてて。

 

「わかりました……え? 今なんて?」

「仮編集やら連絡なんやら、星野兄妹がやるだろうが。明日の昼から本格的にやるぞ」

 

 そう言いながら、散らかってた書類とかを集めて。

 

「本番まで体力を残しておけよ。お前が倒れたら手間が増えるからな?」

 

「は、はい! お疲れ様です! 漆原さんも…しっかり……」

 

 もう漆原さんが会議室から出ていっちゃったね。

 吉住さんはその扉を見つめてるままだ。

 

「なにあれ? ツンデレ?」

「さすがに疲れてたんだろ。人間には休養が必要だ」

 

 わー、お兄ちゃんせんせが言うと、まったく説得力ないね。

 サボってるって言い訳で病室に来てくれたり、前世も生まれ変わっても徹夜勉強してたり、あと監督さんのとこで手伝ってたり。すぐムチャクチャ頑張る代表じゃん。

 

 こうなったら今日は、お兄ちゃんを早めに休ませてやるんだから。

 遺伝子つよつよ美少女が添い寝して、癒してあげるからね。

 

「じゃあ私たちも帰ろっか。吉住さん、今日ゆっくり休んでね!」

「お先に失礼いたします」

 

「お疲れ様です、それと、なんか、いろいろありがと!」

 

 吉住さんが初めて笑顔を見せてくれて、お礼を言われた。

 

「えへっ、どういたしまして?」

 

 確かに私たちはきっかけを作ってて、こうなったらいいなぁと思ってはいた。

 

 でももう変わり始めてて、運がいいのかな? それとも漆原さんは余裕があったら元々あんな感じだったとか?

 それはわからないけど、でも前みたいにピリピリしてた時より、今の感じのほうがいいよね。

 

 面白くて楽しい番組のために、みんなで楽しく番組作りしたい。

 たぶん綺麗事で理想なんだろうけど、私は願いたいから。

 

 

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