まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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8話 瑠美衣視点, 夏コミとこれから

 

 とうとう今日は夏コミで、私たちは早起きして会場入りしていた。

 いつものスキンケアだけじゃなくて、メイヤさんの友達も手伝いに来てくれて、コスプレっぽいお化粧も完成した。

 茶髪のウィッグと、あとカラコンちょっと怖かったけど、ツルギのコスプレだからしてみた。

 

 カナちゃんが着てた舞台衣装ほど完璧じゃないけど、普通に良い衣装だね。吉住さんが妹から借りてきてくれたやつ。

 そして隣に目を向ければ。

 

「キャー! やばっ! ママかっこよすぎ! 視聴者全員、億 支払うべき!」

「ルビーもかわいいよ~ なんか新鮮だねぇ」

 

 ハァハァ、カッコいいのに色気がヤバイよ。

 シンプルな作りのブレイド衣装なのに、着てるママが豪華すぎる。こういうのなんて言うんだっけ、男装の美人ってやつ。

 

「あの、あまりヨダレなどは……」

 

 キザミでカッコいいコスプレしてる、そんなメイヤさんにそう教えられて、やばっ。

 

「え、出てます?」

「ほら、じっとしてて」

 

 ママがふわふわな布で拭いてくれた。人前なのにオギャりそうだよ。

 でも今日は私がママを案内しなきゃ。

 

「そ、それでは! お昼前には出なきゃなので、コスプレエリアに移動しましょう!」

 

「腕章やマイクをつけるのでは?」

「そうそう、必要だったはずよ」

 

 メイヤさんとその友達が教えてくれて、危なかった。忘れるところだった。

 

「ありがとうございます、えっとぉ」

「ルビーもいつも通りでいいんだよ。お二人(ふたり)もいるし、私たちみんながついてるし」

 

 ママが手を握って言ってくれた。私いつのまにか緊張してたっぽい。

 

 確かにメイヤさんたちのほうが、夏コミのプロだもんね。

 深堀りリポーターとして教えてもらって、本物(リアル)を撮る、そういうのが私なりの戦い方だと思うから。

 

 だったら、今の本当の気持ちを伝えよう。

 

「じゃあ楽しみましょう! 夏コミ!」

「「「おー!」」」

 

 よしっ、私もいっぱい楽しむぞ。

 

 

***

 

 

 お兄ちゃんやパパやルナ、漆原さんや吉住さんと合流して、コスプレエリアを移動してる。

 

 しかも今回の私たちのコスプレは、ブレイド・ツルギ・キザミで、ちょうど新宿クラスタ組だね。歩いてる人から注目されてるけど、いつもと髪色も瞳の色も違うから、ママもバレない気がする。

 なんとかを隠すにはなんとかってやつ。

 

「しかしあっちぃな……っと、ご気分は大丈夫ですかい」

 

 漆原さんがそう聞いていて、めっちゃゴマすりすりしてる。鏑木さんの推しのママが出てるからって態度が露骨すぎるよ。まあ気持ちはめっちゃわかるよ。

 

 パパが日傘で守りながら歩いてても。

 日焼け止め貫通するんじゃ、ってくらいの太陽だもん。

 

「大丈夫ですよー ね?」

 

 ママに尋ねられて、私やメイヤさんも頷いた。外にあるコスプレエリアは屋根なんてほぼなくて、しかも日陰(ひかげ)があるところには大量の人が集まってる。

 私たちはまだ和服っぽいコスでよかったよ。着ぐるみみたいなコスの人も見る。

 

「メイヤさん、冷えるやつ貼ってきてよかったですね」

「少しの間ならだいぶ楽なのよね」

 

 この1週間、いろいろメイヤさんにお世話になってる。

 夏コミ当日の豆知識を話してくれたし、コスが完成したらお部屋でまた撮らせてもらえたし。

 

「ねぇ、私はそんな方法を聞いてないよ?」

「ルナはその文明の利器を頼ればいいだろ」

 

 ルナがお兄ちゃんと話してて、麦わら帽子やハンディファンを使えていいよね。

 私たちはウィッグとか崩れちゃうから使えないし。

 

 なんか『サハラ砂漠って38度なんですよ~』みたいな呼びかけが聞こえてくるし、日本の夏の暑さってヤバいね。

 

「それにしても、いろんな格好の人がいるんだね」

「ねぇ、あれどこかのアイドルのコスプレなのかな?」

「一応? ラブライブのキャラクターですから?」

 

 メイヤさんが教えてくれて、聞いたことあるなぁ。

 確かアイドルのアニメなんだっけ。

 

「へぇ、ああいうのも男の人が好きっぽいね…参考になるなぁ

「ホントだ、青髪メイドがいる!かわい~!」

「あれも人気キャラですから?」

 

 カメラを持った人がたくさん集まってて、あちこちで撮影会をしてるみたいだった。でも完全に自由ってわけじゃなくて、『歩きながら撮影禁止』みたいな看板を持ってる会場スタッフさんもいる。

 みんながマナーを守ってる感じしていいね。

 

「おい見ろ吉住! ありゃストライクフリーダムガンダムじゃねぇか! 」

「手作りで凄いですね。ダンボール? 発泡スチロール? 安全面への配慮もあります」

 

 ああいう全身コスプレも男の人って好きそうだよね。パーツの合体ロボみたいに作ってて、翼がカッコよくて、私もあのコス着てみたいかも。

 てか、漆原さんもなんだかんだ楽しんでそうじゃん。

 

「わ、あの緑の人は?」

「なんかポーズ取ってるねぇ」

「勇者ヒンメルの銅像でしょうね」

 

 メイヤさんって物知りだなぁ。

 たぶんアニメキャラやアニメネタが多いだろうけど、忍たま乱太郎やおじゃる丸のコスプレとかないのかな。もしくは水戸黄門でも。

 

 あっちの映画泥棒するやつ知ってる!

 そっちに『ぴえヨン』、まるで本物みたいに筋肉がすごい!

 

「おー、いたいた。吉住、この辺りを確保しておけ」

「わかりました。撮影準備しておきます」

 

 手を振ってるのは運営スタッフさんの1人で、そこに漆原さんは最終確認に向かっていった。

 吉住さんへの指示も聞こえてたから、私たちも各自準備を始めた。

 

 お兄ちゃんが三脚で設置してくれてるカメラは全体用で、『深掘れワンチャン』や『番組ロケ中のため撮影NG』の看板も用意している。

 

 私たちがやっておくことは、コスやウィッグやお化粧の最終チェックくらいだった。

 

「私とルビーは、あまり撮ってもらったらいけないんだよね?」

「ん、確かそう。メイヤさんたちはいつも通りやってもらってて、その紙は?」

 

「レイヤーの文化みたいなものですよ」

「写真を撮った後に誰かわかるようにね」

 

 へぇ、書いてるのはSNSのアカウントとかで、宣伝みたいなこともするんだ。

 メイヤさんたちは本当に慣れてる感じがするね。

 

「あのさ、だいぶ寄ってきてない?」

「狙われてそうだねぇ」

 

 とりあえず私とママはしゃがんでおく。背中を向けて準備してるっぽいとこを見せながら、パパとお兄ちゃんと吉住さんになんとかしてもらうしかないよ。

 日傘を借りてるルナも、なんか寄られてきてるし。

 

「レイヤーが(とど)まると、ほぼ流れで撮影許可みたいなものですから」

「私とメイヤはこっちでやっておくね」

 

 メイヤさんはキザミとしてポーズを取って撮影対象で、友達の人は『列切れてます』って看板持って、少し離れて活動を始めてる。

 夏コミのコスプレエリアの風景ってことで撮らせてくれて、当日まで協力してもらえるのありがたみがすごいよ。

 

 『撮影よろしいですか?』って声があちこちから聞こえてて、それをメイヤさんが許可して、一般のカメラマンさんたちが半円みたいに囲んでる。

 撮ったら交代するみたいで、そのために列ができていて、でも列が伸びすぎないようにメイヤさんの友達が立ってくれている。

 ああいうのがコスプレエリアの撮影会なんだ。

 

「なんだか潜入してるみたいで面白いね。ミヤコママが止めるわけだよ」

「深堀りリポーターも、ここまでコソコソしなきゃなんて思わなかったなぁ」

 

 今日は私たち3人のコスプレで主役だと張り切ってたけど。

 

 漆原さんや吉住さんやお兄ちゃんが、インタビューしてもいい人たちを呼んできてくれて、その人と一緒に番組のカメラで撮影してもらう。

 

 B小町としてライブをしてる時みたいにハデじゃなくて。

 とても地道に、大切な瞬間を撮っていく、そういうのを積み重ねる日になった。

 

 

****

 

 

 私たちは控え室に戻ってきて、私服に着替えて、ロケ弁ならぬ高級アイスを食べながら少し休んだ。たった2時間程度のことで、ライブでも耐えることに慣れてるとはいえ、汗びっしょりだったよ。

 

 メイヤさんたちは自由時間ということで、これからコミケを回るんだってさ。

 本当は私たちも見に行ってみたいけど、このまま安心安全でトラブルなく戻らないと、漆原さんの首が飛んじゃうらしいから我慢だね。

 

「本日のご協力、ありがとうございました」

「こちらこそありがとう。コスプレを知ってもらえて、番組で発信してもらえて」

 

 私たちが協力してもらってるのに、メイヤさんは満足そうな表情をしてて、お礼まで言ってくれた。

 

 

****

 

 

 夏コミに行って、お盆休みを使ってあゆみおばあちゃんに会ってから、数日後のこと。

 

 今は番組編集が最終段階だと思う。

 友情出演でママが出て、夏コミという特別な機会で、そしてコスプレ製作の本物(リアル)と夏コミの本物(リアル)を放送するような回になるはず。

 コンプライアンス、リスペクト、そういうのが守られてて。

 

「これでよかったか?」

「ん、バッチリだよね?」

 

 誰も損してない。みんなノーダメ。

 でもお兄ちゃんは何か心配が残ってるのかな。

 

「もしかして、漆原さんや吉住さんのこと?」

「いや、今後それは変わっていくだろう」

 

 お兄ちゃんが言うには。

 漆原さんに仮編集の動画を見せた段階で、コスプレイヤーへのリスペクトは少しあったみたい。私たちが当日のコスプレの準備してる間に、そういう仕込みがしてくれてるのも、さすがお兄ちゃんだなぁ。

 あとママを出演させながらも、夏コミでの撮影をトラブルなく終わらせられた。だから鏑木さんからの評価も上がったらしくて、とにかく制作会社からの人員補充もされたんだって。

 

「じゃあ吉住さんもだいぶ楽になる?」

「ああ。彼は先輩となって、後輩がノウハウを覚えるまでは大変だろうが」

 

 そっか、いろいろ覚える時間も必要だよね。

 吉住さんもアシスタントディレクターを続けていくのかな。今頃はもう次の番組準備の会議を始めていそうかもね。徹夜しすぎてなきゃいいけど。

 

「なら、心配ごとってなに?」

「ルビーも、僕も、それなりに母さんたちも、この回の制作まで関わっている。もしも何かあって炎上すれば、逃げきれないかもしれない、と思ってな」

 

 心配症で過保護だなぁ。

 それもお兄ちゃんの大好き愛せるポイントだけどね。

 

「その時はそのとき。みんなに助けてもらおうよ」

「みんなを頼るべきか。また教えられたな」

 

 私にも、お兄ちゃんせんせに教えられることがあって嬉しいな。

 

「お兄ちゃんたちと番組作り、一緒にやれて楽しかったし、またやろうよ」

「だな。次は映画かもしれないぞ?」

 

 そうそう、ママとパパの映画を撮る予定なんだよね。

 今度は役者どころか、主演を狙わなきゃで、想像できないほどにやることが多そうだけど。

 

「私ね、アイドルのこと以外もいろいろやってるけどさ。どれだけ大変でも、みんなと一緒ならすっごく楽しい!」

「……俺も、本当にそう思うよ」

 

 せんせの表情してる。

 

 そうやって昔のこと思い出してくれてると、すぐ泣いちゃうんだから。

 『天童寺さりな』のことをちゃんと覚えてくれてて、だからこそ(つら)かったんだよね。

 

「今の私は、星野瑠美衣は、いっぱい長生きするよ」

「ちょっ…そういうのは…感動しすぎて……」

 

 慰めようとしたらもっと泣いちゃった。

 こうなったらヨシヨシしてあげなきゃ。

 

「だからお兄ちゃんも長生きして、いっぱい私を推してね」

 

 せんせへの初恋はまだまだ続きそうだし。

 お兄ちゃんへの愛情は無限恒久永遠だよ。

 

 

 生まれ変わってから、本当にステキな日々が続いてる。

 

 





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