まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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前書き:ここからまた短編が続くと思われます。不定期更新です。


サイドストーリー2
短編① (愛久愛海視点, かわいい新米役者)


 

 苺プロ感謝祭としてのライブは無事に終わった。

 

 といっても僕はサポート役どころか雑用役だ。2代目B小町3人が主役で、あとは初代B小町4人で特別に数曲という構成だった。

 久々の本格的なライブで喜んでいた母さんは『ニノちゃんたちとも出たかったなぁ』ともっと欲張りだったな。

 

 あと、鏑木さんやルビーからの依頼で、同時並行で進めていた『深堀れワンチャン』の立て直しについては、ひとまず様子見という段階だ。番組の仮編集まで代わりにやることになったし、さすがの僕も夏休みくらい休みたいし。

 スマホを見れば、作業のヘルプを求めてきていたが、五反田さんには応援の返事だけしておこう。

 

「おにぃちゃ~ん!」

 

 いつも通りミヤコさんの部屋に入ると、ルビーが抱き着いてきた。

 一瞬デフォルメされてて、もふもふゆるキャラ小さいかと思ったけど、気のせいだろう。こんなにも元気に大きくなってくれてた。

 

「じゃなかった……パパぁ!」

 

 なんだこの展開……いやいや、さりなちゃんの可愛さ最高かよ。

 

「まったく、いつまでもこの子は……」

 

 そしてカナが眉をピクピクさせながら近づいてきて、これは甘えたがっていそうか。

 

「ほ、ほぉ~ら、ルビーちゃん、離れましょうねぇ」

「……ぐすっ…ふぇぇ~」

 

 目の前で離れたくないって、ルビーちゃんが泣いてしまったぞ。

 僕は、俺は、どうすればいい。

 

「うぅ、ごめんねぇ~ こんなに可愛い子を叱るなんてぇ~」

 

 今度はカナも泣き始めた。ひとまず2人を優しく撫でてあげることしかできないが。

 

「……うぅ、よかったねぇ」

「感動的だね」

 

 全く泣けてないメムさんと、いつも通りのルナの反応でわかった。

 即興をやってて、演技の練習中というわけだな。

 

「大丈夫だよ、2人とも」

「わぁー、せんせのはだのいろって、はだいろだ、すごい」

「……いや、なによその台詞」

 

 僕もそう思う。

 

「え?……じゃあ、スピキ! チョワヨ!」

 

「今度はミームってやつ!?」

「ルビーちゃんの再現度すごっ!?」

 

 詳細は知らないけど、流行のネタか。

 カナやメムさんが驚くほど。やはり俺の妹がこんなに可愛い。まるでデフォルメされてるような気がして、ゆるキャラでピースで可愛い。

 

「どうやら中断のようだね」

「そうだな。練習用の台本が必要かもしれない」

 

 まだどういう演技の練習かはわからないけどな。

 

「うー、だって思いつかなかったもん」

「いいえ、私もまだまだね。受けの演技に回ってるなら、どんな展開にも対応しないと」

 

「泣く演技ってのも意外と難しいんだねぇ」

「それに即興だと、どうしても普段通りの癖が出てしまうものらしいね」

 

 メムさんと、たぶんルナも挑戦していたらしい。泣く演技にも、いろいろと手法はあるが、どういうのが得意かは人それぞれだからな。

 

「私も思った。カナちゃんママ、優しすぎない?って」

「そ、そこは、台本があれば余裕なのよ。プロですから」

 

 カナはそう言うけど、ルビーも得意分野の演技になったら天才的なセンスがある。

 本人が意図してなかったとしても、持ち前の魅力も含めて、周囲は影響されてしまうだろう。

 

「……ごめんなさい。あんたが求めてるのは『本気』ってのは理解してる。今度やるときは台本用意しておくから」

「ううん、私が頼んでるんだもん。時間は…まだあるし……」

 

 なるほど。予定が空いた段階で、ルビーはもう行動を起こし始めていたんだ。しかも周りを頼ってもいる。

 

「母さん、つまり『星野アイ』の演技か」

「そう! そりゃ生まれてからは余裕だけどさぁ!」

 

「悔しいけど、こういうのは黒川あかねが得意なことね」

 

 そう言ってカナが机の上に置いた紙に書かれているのは、結婚宣言の会見の内容か。父さんが代わりに過去を語っている時も、母さんはずっと笑顔を浮かべていたんだよな。

 

 きっとあの病院に来た頃には、もう乗り越えられていたと思うけど。

 最も傷ついている時期の『星野アイ』ならば。

 

「『そんなこともあったなぁ』って」

「嘘をつく演技、あんた、そういうのもできるのね」

 

 カナが褒めてくれるけど、自分の中で負の感情をキープしながら笑顔で上書きするようなものだ。

 一瞬だけなのに、モヤモヤが残り、気分が悪い。

 

「む~、お兄ちゃんもカナちゃんも、すぐできるじゃん」

「これくらいの台詞と感情くらいならな」

 

「あまり続けたくはないし、続けられないわよね。それで当時B小町のセンターやってたんだから相当よ」

「私も気楽に応援してたけどぉ、いろいろ抱えてたみたいだよねぇ」

 

 母さんはアイドルとしての完璧さを求める。前提として『心』は関係なくて、技術によって正しい型で歌って踊ることにより、魅力的に見える。

 そこに幸せな感情を乗せていって、国民的アイドルとなったと思う。

 

「母さんは、本当は泣きたいのに、笑顔でステージに立っていた頃がある」

「『どんなに疲れていても笑顔を見せなきゃね』と昔から教えてもらってるけど。あれは決して体力的な疲れだけじゃない、ってことよね」

 

「ママのこと、もっと理解しないと……」

 

 ルビーが焦る気持ちもわかる。本格的な演技経験は少なくて、しかも主演狙いだ。同世代にはカナや黒川、不知火がいて、どうせあの実力主義な五反田さんも人選に口出しするだろうからな。

 

「……実際の撮影で…まあ……虐待とかイジメとか受けるんなら、遅かれ早かれよね」

「ごめん。カナちゃんもイヤだよね」

 

 そういう台本を、これからルビーは練習に使うというわけか。

 

「完全に同じ経験をするという、古典的な演技手法もないわけじゃない……からな」

 

 とはいえ、それは準備段階で(つら)さを何度も体験することになる。

 たとえそれをしなくとも、実際そういうシーンを撮る時に、ネガティブな感情をキープしなければならない。

 

 母さんと父さんの映画を撮る話に喜んで、僕もどこか楽観的だったのかもしれないな。

 

「アイさんは……母親が自分から離れていく(つら)さも経験してるはず。ちょっと想像するだけで震えちゃうわね……」

 

 カナも、母親と別々に暮らしていた時期があったんだよな。

 そしてそういうことは、ルビーも経験している。

 

「ママは、どうだったんだろ……」

「母親からの愛情を、信じ続けたか、疑っていたか……」

 

 キミには悪いけど、俺はまだあの人たちを許せそうにない。

 

 キミはあんなにも(つら)い思いをしていた。そんな記憶は、生まれ変わっても引き継がれているはずだ。

 そして今は全く演じなくたっていい。ありのままに生きて、夢を叶えて、本気で嬉しそうに笑っていられる。

 

 だから演技において感情を引き出すために、(つら)い過去を追体験することなんて。

 

「実はちょっと考えたいこともあって……とにかく昔のママの気持ちを知りたい。だからみんなに手伝ってほしい!」

 

 本当にまぶしいよ、キミの笑顔は。

 たぶん前世の両親のことも、ずっと愛し続けてるんだね。

 

「お姉ちゃんったら本気だよ。お兄ちゃんはどうする?」

「当然、手伝うだろ」

 

 兄として、愛する妹たちの頼み事は全部やるだけだ。社会的にマズくなければ。

 

「ありがと! てかお兄ちゃんやカナちゃん、そもそもどうやってるの?」

 

「役作り、それと感情演技のことか?」

「役者ってたぶん全員、こだわりの塊みたいなものよ。黒川あかね、あいつとは真逆だし」

 

 確かに、あれは僕も真似できそうにないな。

 

「私の場合は、まず自分自身を理解すること。そして過去の感情だとか、好き嫌いだとか。そういうのを膨らませたり、抑え込んだり」

 

 カナの話す手法は、僕もよく使う。

 ふむふむ、ってルビーが呟いている。

 

「演じるキャラの倫理観、考え方、人格などね。自分と対比しながら、キャラに近づいて、私自身と合体させるの」

 

「おー、えーと、合体なんだ?」

 

「だな。もし自分と合わないキャラクター性であっても、直感的にできる人もいるけど」

 

 きっとそれは天賦の才能だけじゃなくて、監督たちがそんな機会をくれているだけだ。

 

「喜怒哀楽の表現だとか、新たに経験を増やすこと、とにかく使える要素で、感情演技する場合もある」

 

 五反田さんに教えられたことの1つだ。『すごい演技』というのは、自分に合う役だから()りやすいだけ。だからそれはまだ甘やかされてる。

 作品の世界観や求められている役に『ぴったしの演技』をすることが、長く役者人生を歩むことに必要なんだろう。

 

「つまり僕たちのようなタイプは、自分の引き出しから、そのキャラの演技を編み出す」

「決めつけるのはよくないかもしれないけど、たぶんルビーもそういうタイプじゃないかしら」

「なら、おそろいだ!」

 

 細かく分ければもっとタイプはあるが。

 このままルビーが前世の記憶を利用して、感情演技を目標とするなら当てはまるだろう。

 

「一応は話しておくわね。黒川あかねは、憑依型または没入型の典型例なんだけど」

 

「カナちゃんと真逆のタイプなんだっけ?」

「そう。とはいえ憑依型であれば、僕たちもたまにキャラと自分の境界線がなくなることはある」

 

 舞台で演じている時の記憶がない瞬間もあったしな。あれは刀鬼そのものになるような、それほど強烈な感情演技が必要だ。

 姫川さんは当たり前のように憑依型でやってくる。正面からぶつかるために、僕も毎回の舞台でやったけど、なかなか大変だった。

 

「黒川の場合は情報を集めて、そこから統計学だとか……とにかく理論的に役作りをする」

 

「そうね。黒川あかねは、自分の感情や経験じゃない。とにかくキャラを調べて調べて調べ尽くして。それで演じるキャラを自分の中に産む。そこから憑依型の演技をしてくるの」

 

 カナがそう説明したけど、ルビーたちはきょとんとしていた。

 

「まあ例えばよ。研究してコピー桃太郎を産んでおいて、自分がそのコピー桃太郎を演じるわけ」

 

 そのコピーした桃太郎に憑依して演技するから、自分自身の体験や意思とは遠い。だから演技中に、感情をコントロールできなくなる可能性もある。

 そんなリスクもありながら、黒川は産み出したキャラでスター性を発揮してくる。産み出したキャラが正しいのだと訴えてくる。

 物語に適したキャラとして世界観に()み込んでこようとすることは、ライバルとして恐ろしい限りだ。

 

「まとめると。僕たちは、自分の経験から桃太郎に近づく。黒川は、理論的に桃太郎を構成する。その桃太郎に憑依するかは、時と場合だな」

 

「そんなところね。誰かしらが脇役、調整役になることも必要だもの」

 

 共通することがあるとすればだ。自分の中に、別の人格を用意するよう『自己暗示をかける』ところだろうか。そうでなければ、監督や演出、あと共演者にとって、『ぴったしの演技』ができない。

 

「ん~、わかったような、わからないような?」

「あかねちゃん、頭よさそうだもんねぇ」

「霊媒師に向いてるんじゃない?」

 

「自分の意思をほとんど、からっぽにしようとする点で、同じ…なのか?」

 

 ルナがそう言うと、ガチなオカルト方面に聞こえてしまう。

 黒川もカナの応援で夢中な姿を見れば、純粋な女子高生だけどな。

 

「というわけで、役作りってのは、役者ごとにこだわりスタイルがあるのよ。得意なことでやればいいの」

「ああ。ルビーの場合は、まず自分自身の理解だな。そこから母さんの感情に近づけるはず」

「ん! やってみる!」

 

 ルビーが選んだなら応援するし、僕たちでフォローもする。

 僕も用いることのある『メソッド演技法』は、役者自身の体験を使う。だからネガティブな感情演技のとき、それをキープするのにとても労力がかかる。だから役者が不眠症になった事例すらあるらしい。

 

「まっ、どうせ台本ベースになるし。求められてるキャラ性を解釈するための練習してればいいわよ」

「五反田さんだからな」

「そっか。あの人だもんね」

 

 ルビーも少し緊張がほどけたようだ。

 五反田さんは、ぶっきらぼうで職人気質なのに親切な人だ。もし感情演技で困っていれば、むしろ引き出す手伝いもしてくれるだろう。

 

「しかもあれよ、『空気』を演じろ~なんてイジワルなんてないでしょ」

 

「空気って? この周りの?」

「なにそれ、なぞなぞ?」

頓智(とんち)話のようだね」

 

 ルナの予想通りだろうな。

 例えば解釈するなら。身振り手振りで表現したり、それっぽい雰囲気の演出だったり、もしくは『まるで空気のような役』を1人だけで演じきったり。

 

「クセのある監督か演出家か、言いそうなことだな」

「しかもこれが子ども向けオーディションだったのよねぇ。あっ、私は当然できましたことよ、おほほほ」

 

 カナが自信家可愛い。

 

「ん~ 役者興味あったけど、なんかいろいろ知らないとなんだね~」

「ほんっといろいろよ~」

 

 ルビーがリラックスしたようにソファに座り、カナは僕を引っ張って、2人で挟むように一緒に座り込ませてくる。まさしく両手に花の状態だな。

 

「まあ好き勝手やって天才ぶるのは、わりと簡単なのよ。演技が上手いだけでいいなら、天才子役も何の苦労をすることなかったでしょうね」

 

「だからこそ『スター性』がある天才役者は『特別』なんだろうな。説得力やカリスマ、そういう言葉が当てはまる」

 

 そんな役者は、観客のみならず、共演者や展開すべてを引っ張っていける。確かな実力がある。

 カナや母さんが自己主張型として、黒川や姫川さんが憑依型として、それぞれタイプが分かれていたとしてもだ。僕の周りにはすごい役者が多くて。

 

「僕たちの母さんは役者としても、とびっきりだぞ」

「さすがママ!」

「さすがお母さん」

 

「マザコン兄妹妹(きょうだい)の言う通りね。私もだいぶ学ばせてもらってるわ」

「すごく優しいのに、アイさんって職人気質だよねぇ」

 

 ステージでの魅せ方、ファン心理の理解、カメラの前での表情管理、嘘の笑顔を武器にする技術、といったところか。僕がぱっと思いつくだけでもな。

 

「ルビー、安心しなさい。あんたには私たちが付いてて、なんならアイさん本人だってついてる」

 

 カナの言う通り、究極の援護だな。

 僕も、メムも、ルナも、最大限の協力をしていくし。

 

「というわけで打倒! えーと、たぶん黒川あかね&不知火フリルよ!」

「わかりました! 師匠!」

 

 ルビーは役者としても、才能を開花させていくことだろう。

 まっすぐに、キラキラと輝いてくれている。

 

 

 

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