まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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アニメ最新話を見ていたら、個人的に知らなかったアクアのことを知ったので、書きました


短編② (有馬かな視点, 彼氏の趣味)

 

 

 苺プロ感謝祭も終わって、ようやくひと段落。

 

 といっても夏休みなんて関係なく、撮影でスケジュールは詰まってて、自分は話題でホットな有名人なんだと実感する。

 長いものにはなんとやら。単純な実力で選び抜く映画監督や番組企画は決して多くない。お互いに利用して、配慮し合って、やっと役者は有名になっていけるような世界。

 

 コネも、愛想も、可愛げも。あと手札の数?

 いろいろ足りない私は、もしこの苺プロに入ってなかったと思うと、ゾッとするわね。

 

 そんな苺プロ事務所は、夕暮れになると特に慌ただしい。こうして、私みたいなタレント、マネージャーやスタッフが次々と戻ってくるような時間帯だもの。

 私たちのサポート体制バッチリで、みんな親切で、とても過ごしやすい。

 

 誰かと会う度に『お疲れさまです』を言ってくれる。こっちこそ『お疲れさまです』なのよね。私のような小娘にそこまで気を使うとは思わないけど、とりあえず私は戻ってきたらいつもの部屋に向かう。

 

 きっかけはアイさんからだけど、まず副社長のミヤコさんが聖人すぎるのよね。私物がどんどん増えていってて、もはや部屋がリビングだもの。

 

「お疲れ」

「あんたもね。今日はドラマ撮影だったんでしょ」

 

 アクアがいつも通りカッコいい。

 ソファでくつろいでるだけで無駄にカッコいい。

 

 まだルビーやメムさん、あとはアイさんやクリスさんも、まだ戻ってきてないようね。今日は打ち上げも兼ねて、みんなで晩御飯を食べる予定だから。

 

「また読書タイム?」

「そう」

 

 アクアが片手で本を持ってる姿なんてのは、良いとこの大学生っぽさがある。

 子どもの頃から漢字だらけの文学本を読んでたり、しかも最新の医学書まで読んでたり。文武両道どころか、もう文系だろうと理系だろうと、どの学校でも努力チート無双してそうなやつなのよね。 

 私とは雑学本の貸し借りもしてくれてるけど。さて今日は何のジャンルかしら。

 

「へぇ!」

 

 思わず声が漏れた。

 だって表紙にでかでかと載っているのは、バイクだったもの。しかもメタリックでメカメカしいやつ。

 

「なにそれ? バイクよね?」

 

 私はアクアの隣に座って、ちょっと心が弾む。

 私の彼氏ったら、これまた高尚(こうしょう)な趣味ですこと。

 

「ふふっ、アクア、もしかして新しい趣味なの?」

「なんで嬉しそうなんだ?」

 

 だって、アクアが自分の好きな趣味を楽しんでる時間はめったにないもの。真面目に知識を増やしているとか。そして、とにかくお人好しで、助けたがりだから。

 

「ねぇねぇどれ乗るの? あっ、2人乗りさせてもらえる?」

「気が早いな。まだ免許ないし、1年以上必要だし」

 

 そういうものなのね。2人乗りを考えて選んでてくれたのかしら。たぶんルビーも乗せるだろうから。

 

「じゃあ来年の約束よ」

「だから、気が早いって」

 

 そう言いながらも、優しく撫でてくれるから、オッケーってことよね。

 

「でも、あんたのことだから車かと思ってたわ。えっと、似合わないとかじゃないから! むしろカッコいいし!」

 

「ん、それは頼まれたからだな」

 

 なるほど、結局は今回も人助けってことね。

 まあきっかけはともかく、アクアに趣味が増えるのは嬉しいけど。

 

「ちなみに誰に?」

「姫川さんだな。鳴嶋も誘われてる」

 

 またイケメン男子3人組かい。

 料理もできて、バイクにも乗れるようになって。どんだけこいつら、モテポイントを増やす気なのよ。

 

「『だって漢字難しいだろ。あと俺1人だと寝そう。教官が怖そう』ってな」

「声真似、似てるわね」

 

 めっちゃ言いそうなことだった。

 姫川さんとアクア、どっちが年上なんだか。

 

「そんなに怖くなかっ……ないと思うけどな。まあ先にバイク免許を取っておけば、普通自動車の時に少しは楽になる」

 

「へぇ、応援しておくわね」

 

 どれくらいの時間かかるのかわからないけど、なんとなく聞いてる話だと大変そうよねぇ。先輩たちも、高校卒業した後の春休みから行ってた気がするわ。

 

「どんなのがあるの?」

「いろいろ、だな」

 

 私は邪魔にならないくらいに、くっついてから。

 

 雑誌を横から覗き込むと、バイクの写真と解説がある。

 ページをめくっていってて、いろいろ違うっぽい。

 真剣で、流し読みもしてて、たまに頬が緩んでる。

 1つのページでじっくりと留まることもあった。

 

「気になるのあった?」

「ん、それなりに」

 

 私は、いつの間にか見ていた横顔から、雑誌のページに視線を移した。

 

 ほとんど黒色で、ちょっと白色のあるやつ。

 アクアってこういうメカメカしいのが好きなのかしら。

 

「なんかあれね、アクアは特撮ヒーローもできそう。ほら、仮面ライダーよ」

 

「確かに、バイクと言えばそうだな。最近はどうか知らないが」

 

 私の頭の中で勝手にイメージが膨らむ。

 アクアがバイクで駆け付けてぇ、変身ポーズを取ってぇ、キリっとしててぇ。

 

「ただ、そういうのは姫川さんや鳴嶋みたいな、王道主人公がやるだろ」

 

「は~~ わかってないわねぇ~」

 

 やれやれ、まったく、自分の魅力をわかってないんだから。

 私は呆れたように肩をすくめてやった。

 

(かげ)がある主人公だって人気が出るものでしょ。それにダークヒーローって感じのもいるらしいわ。私のクラスメイトに、役者目当てで推してた子いたもの」

 

 んー、詳しくは知らないけど、変身したらスーツアクターさんが演じるのかしら。アクアなら舞台でも、姫川さんと飛び跳ねてたから、生身で動けるところも作品に活かしてほしいところね。

 

「それなら、カナも出演の可能性がある。可愛いからな」

 

「はうぅ!? くっ、不意打ちとはやるじゃない」

 

 すぐこの私を、手のひらでお手玉ころころしてくるんだから。

 照れもせず、よくそんな台詞を言えるわね。

 

 そういえば女の子の仮面ライダーも増えてきてるって聞いたことがある。でも、背の高い美人さんが、バイク乗ってるのがカッコいいイメージだし。

 

「ルビーのほうが向いてそうね。あの子、背も高いし、スタイルいいし、元気よくぴょんぴょんしてるし」

「ルビーはどっちかというと…いや、なんでもない」

 

 何を想像したんだか、このシスコンが。

 

「それに、カナは小柄だろうと存在感があるだろ。母さんのようにな」

「相変わらずのマザコンね……ありがと」

 

 私もアイさんを目標にしてるし、たぶんアクアの最推しレジェンドだし。

 

 だから、もっと自信を持っていいのよね。

 アイさんにも、アイドルのレッスンで教えてもらってるように。

 

「らしくなかったわね……ええ、そうですとも。この有馬かなは、役者歴が数倍だから、数倍は強い設定になるでしょうね」

 

 どうせフィクションで演じるんだから、強がってこそよね。

 ちゃんと胸を張っていよう。

 

「ルビーのやつも、私たちが先輩としてビシバシ鍛えてやらないと」

 

「演技の稽古、手伝ってくれるんだろ」

 

 あの子が狙ってる役は、『星野アイ』だものね。

 今の姿からは想像しづらいけど、たぶん昔の私と同等か、いやそれ以上のトラウマを抱えてたかもしれない。

 

 優しく教えるだけじゃ、たぶん足りない。

 役者を続けてきたからわかる。ネガティブな感情演技をする時は、きっと手加減すべきじゃないって。

 

「演技とはいえ…稽古とはいえ……結構(つら)いこと言うわよ。いいわね?」

 

「ああ。信頼できるカナだから頼める」

 

 まっすぐな言葉で、まっすぐな瞳だ。

 ほんと、そういうとこが好き。

 

「すまないな。カナにも、ルビーにも、負担をかける」

 

「そこは、せめてお礼を言いなさい」

 

 私がどれほど、助けたがりのアクアに救われてきたことか。

 恩返しだけじゃなくて、どんなにアクアを助けたいか。

 

「いくらでも頼ってよね。私は、アクアを愛してるんだから」

 

「わかってる。僕も愛してるよ、カナ」

 

 バイクの2人乗りの約束をした1年後も、もっと先の未来でも、ずっと一緒にいたい。

 

 

「ねぇ、いい……?」

 

 軽く触れるだけじゃなくて、ちゃんと重ねにいく。

 

「……ん」

 

 呼吸も、体温も、感覚も、全てが伝えられる距離。

 慣れてきたはずなのに、何度だってドキドキする。

 

 時間の感覚が曖昧(あいまい)になっていくし。

 アクアも、夢中になってくれるのがわかる。

 

 大好き。愛してる。心の中で何度も呟く。

 

 私を好きでいてくれるアクアには、いろいろ楽しんで、幸せでいてほしい。

 

 

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