まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
姫川大輝、黒川あかね、鳴嶋メルト、不知火フリル、寿みなみ、鷲見ゆき、熊野ノブユキ、森本ケンゴ
8月のある日のこと、幕張メッセには15000人規模のファンが押し寄せていた。アイさんたち初代B小町時代からのファンにとって、かつての伝説が蘇るような特別な日だろうな。初代メンバー7人のうち4人が参加してた。
当然、ルビーたちの人気も凄まじい。
俺は舞台が好きな、ただの演劇人間だ。昔の自分はそれしかないと思ってた。
でもライブを見る度に『やっぱすげーな』と何度も思う。知り合いっていうのもあるけど、こんなにも夢中になって推しを応援してしまう。
ルビーは、あの光り輝くステージで歌って踊ってて、きっと心の底から『アイドル』を楽しんでる。元気よく跳んでサラサラなロングヘアーが揺れている。
「
何でもできる気がしちゃう
小さな光もたくさん集まれば
誰かを照らす星に変わる」
まっすぐ綺麗に輝いてくれている。あの笑顔が、本当にまぶしい。
***
今日は完全にオフにしてて、俺は昼の部で行ってた。でもこの後も予定がないわけじゃない。
俺の住んでるところに、客が来るからだ。
「よろ」
「「「「お、お邪魔します……」」」」
「ん、どぞ」
いつものクール
「アフターの会場ありがとう。誰かと興奮を共有したかったから」
「ええんですか? 私たちまで泊めてもろて」
「ああ、寝室は余ってるし」
今日集まる女子は4人で、女子高生らしくパジャマパーティーとかするんだろう。
俺とか男子組はリビングに雑魚寝だな。泥酔して、いびきのうっせぇ金田一のオッサンより数百倍マシだ。
「すっげぇ、窓でっけぇ」
「さ、さすが姫川さんだよね」
「それな、センスとかマジ尊敬する」
俺もこの部屋を見て、最初はそういう感想だった。東京の夜景を見下ろせるのは気分が結構よくなる。それなりの金がかかるだけあって、部屋のデザインはアンティークか、シックか、たぶんそう言ってたはず。
「ガラスの階段なんて、美術館でしか見たことないわぁ」
「姫ちゃんのことだからデザイナーズ系そのままでしょ」
さすが不知火よくわかってるじゃん。荷物を置いて堂々とソファでくつろいでるから、他のやつも真似していってくれてる。
「ん、ぶっちゃけその階段怖い。いつもこの床に布団敷いて寝てる」
2階には寝室用に1部屋だけある。なんで1部屋のためにこの階段を付けたんだよと今も思う。そこそこ部屋が暗めだし、酔ってる時にガラスにぶつかりそうだし。
「センスじゃなかったの!?」
「上映会できそうなスクリーンとスピーカー、これも!?」
驚いている鷲見や熊野に頷いておいた。別に動画はパソコンかスマホで見ればいいだろ。
家具購入や引っ越しが面倒ってのと、面倒だから住所バレしないようにってのと。
親しみやすい不動産のおっちゃんに全部任せてたら、こんな値段も階層もたっけぇ部屋に住んでた。あの時は『姫川君センスあるねぇ~』とおだてられて、気分がよくなってたと思う。
「この人、ちょっと演技できるだけで中身は一般人だよ」
不知火はそう言うが、ほとんどの役者がそうだろ。IQまで高そうなアクアや黒川みたいなのが例外で。
「ていうかさ、不知火さんも普段はこういう感じなんだね」
「それな。なんか普通っぽい」
「テレビだと清楚キャラやってるからね。姉と違ってこういう顔だし」
ころもさんのほうが、確かに可愛い系だよな。不知火の綺麗系で『おもしれぇ女』キャラもウケそうだが。
そして他にも客は来ていて。
「や、みんな久しぶり」
「俺は、初めましてが多そうか?」
俺とメルトと黒川は、昼の部で行ってた。だから先に部屋に来てパーティー準備中だった。
「久しぶり! あかね!」
鷲見と黒川が手のひらを合わせてキャッキャしてる。とてもいい光景だ。メルトはというと『今好き』組とは初対面になるか。
「キザミだよな?」
「あれカッコよかったぞ」
「おう、ありがとな」
同年代の男子同士で、すぐ仲良くなれそうだな。
この中で俺が1番年上だから、もうオッサンに思えてくる。
「そろそろ運んでくるか」
「そうっすね」
「驚かせたいって言ってましたものね」
帰ってきて暇だったから、メルトと黒川に料理を教えてもらいながら作ってた。俺たちはキッチンに行って、完成させておいた大皿をリビングに運ぶ。
「えぇ!? これ全部手作り!?」
「役者組は料理までできんの?」
「店に出せるレベルだろ」
「へぇ、やるじゃん」
「盛り付けも綺麗やなぁ」
和食系はメルトの、洋食系は黒川の、料理の実力がよくわかる。パーティー形式になるだろうから、料理を串に刺して出すという案も良い工夫だと思った。
シイタケの肉詰め、厚揚げの味噌焼き、鴨ロースの胡椒焼き、ちくわチーズ、うずらベーコン巻き、だし巻き卵。
ミニトマトとモッツアレラ、生ハムメロン、スモークサーモンとアボカド、豚ヒレ肉のソテー、味付けはカプレーゼ風に。
「残った食材は
「ご飯ものも欲しいかなって。かわいくできてるでしょ」
『うちの漬物』なんて言葉が出てくる高校生すげぇ。アクアと黒川に隠れてるが、メルトもなかなかハイスペックな役者だよな。家が和食系の高級店で、高校だとバスケ部って。
それにしても不知火まで驚かせられたのは、なかなか良い作戦だったろ。
「腹減ったし、さっさと食べようぜ」
まさか自分の家で、こういうパーティーになるとは思わなかった。
まずは料理の話題から始まって、次々と料理串を取って食べていく。そして美味しいと言ってくれると嬉しくなる。
俺は手伝ったくらいで、メルトと黒川が考えるレシピなだけはある。和食系はビールに合う味、洋食系はワインに合う味で、飲みたくなる美味さだな。まあさすがに未成年7人を前にして、俺だけ酒を飲むわけにもいかないだろう。
だんだんペースがゆっくりになってくると、話題は苺プロ感謝祭のことになる。ルビー、有馬、メム、共通の知り合いがアイドルとして出てたんだ。たとえ俺らがお互いのことを深く知らずとも、楽しい会話は尽きない。
「個人のチャンネル全部見てるから。私が誰よりも先にMEMちょさんのこと愛してたから。私が恋愛リアリティ出てたら乙女ヅラさせてたから」
「すげぇ古参ファンアピールだ」
「しかも男前すぎる」
「かなちゃんはね! かなちゃんはね! かわいくてね!」
「あかねってこんな感じになるんだ」
「有馬さんのこと大好きっすから」
「ルビーのファンサ、ヤバくなかったか?」
「関係者席にお兄さんおったからなぁ」
3人それぞれをメインとした曲があって、今回のライブではそのダンスのお披露目もされていた。あらかじめ歌を聴いていた時よりも、やっぱり生のライブは良いものだ。
「そういや、アッくんは最近どうなんだ?」
「舞台に呼ばれてる時は多そうだよ」
「ネットの深掘れワンチャンも出てるね」
「モデルもしてるんやなかった?」
「確か秋からドラマにも出るらしいぞ」
アクアの話題にもなっていってた。去年の舞台でも熱いやつだと感じさせられたけど、最近ますます芸能活動に本腰を入れてきてる。また競演するのが楽しみだ。できれば舞台で、また刀でぶつかり合いたい。
「それもだけど。恋愛ってやつだよ」
熊野が気になるのはそっちだったか。同じ芸能科の不知火と寿、あとどうせ黒川なら、いろいろと知ってそうだが。
「ほら、ルビーちゃんと仲が良くて、子役の頃からはアクかな、だろ?」
「兄妹の距離感バグってたもんね」
「無理ないよぉ。あんなお兄さんうらやましいもん」
「舞台だと、有馬さんの付き添いも多かったですよね?」
「家族ぐるみみたいなものらしいよ。かなちゃんとお泊りなんてうらやましいよね」
「黒川さんもしてたよね。宮崎で。一緒に温泉まで入って」
黒川は旅行中ひたすら有馬に興奮してたな。でも不知火、お前もメム相手に乙女ヅラしてたぞ。まあともかく、アクアの恋愛ネタを深堀りしても、はぐらかされるだけだろう。
俺が話題を変えるか。
「そういう熊野と鷲見はどうなんだ? 2年目だろ?」
「いやぁ、たまに番組であれこれ言われるんすけど」
「もっと普通のカップルさせてって感じだよね」
そういや恋愛リアリティの番組だと、付き合いが継続してるカップルの場面が放送される場合もあるらしいな。あれって出演料は追加で貰えるんだろうか。
「ブレスレット、お揃っちしてるよね」
「お揃っち? 今のJK語?」
「ほんとや。いつか私もお手本にしたいところやわぁ」
寿も誰かと付き合ってるのだろうか。ゆるふわで可愛く、モデルしてて、学校でも男子からの告白は多そうだが。
「あれ、寿さんも彼氏いたり? こっそり教えてよ」
「おらへん、おらへんよ?」
「この中だと、カップル1組だけだと思う。いやはや
やれやれとする不知火も思いっきり高校生だよな。
メム以外に、こいつに乙女ヅラさせる男が現れるかは知らないが。
「ケンゴはどうなんだよ。今は大学生だろ?」
「一応な。バンドもあってそういう暇はないし」
森本はもう大学生か。そういやメムはどうだっただろう。いや、去年高3だったのは気のせいか、今年が高3か。俺の勘違いだろう。
「番組でMEMちょさんにアピしてなかった? あれは演出用?」
「ちょっと気になってたくらい。今はアイドルとして推してる。作詞作曲して今度のオーディションでは狙うつもりだ」
「へぇ、曲作れるのすごいな」
「レーベル所属でしたよね?」
苺プロで曲のオーディションみたいなのがあるって、感謝祭でも告知されていたな。俺は音楽知識が全くないけど、推しへの最高のファンレターになるんじゃないか。
「あっそうか…かなちゃんに私の歌を……」
「黒川さんならマジで作りそうっすね」
「ほんとそれな」
黒川は有馬への愛情がデカい。昔に見た2人の
CMでもセットでよく見るし、この前はモデルとして写真も一緒に撮ってたらしい。舞台稽古に集中できないレベルに、黒川が嬉しそうに語ってた。
「じゃあ世間で噂の、姫川さんと不知火さんは? よく一緒に出かけてるんでしょ?」
鷲見は『これ聞いてよかったのかな』って、唇を指でちょこんと抑えた。仕草があざとかわいい。
「便利だからな。共演が多いし」
「便利だよね。熱愛報道
主人公とヒロインとしての共演が多いのもあって、俺たちの関係も注目されるネタとなりがちだ。俺は演劇人間で、別にドラマとかそこまで気乗りしないんだが、不知火みたいな実力のある女優との共演は楽しい。
「というか別に、ころもさんとかも一緒にいる時が多くて……あー、まあいいか」
都合よく俺と不知火だけの瞬間を切り取られてるのか。ちゃんと昼間に会ってるとはいえ、いろいろと厄介な世界だよな。
「姫ちゃんとは便利な友だち、それだけだよ」
「え~ あっさりしすぎ~」
実際そういう関係だしな。役者としての共演を楽しめて、気を使わなくていいって友人だから。
「共演多いと、異性でもそれなりの友人になるものだろ。最初は『芋ハート』だったか?」
「いや、最初は28時間のドラマ」
あぁ、あれか。不知火がまだ演技でも清楚キャラを保ってたから、本気は見られなかったやつ。
「へぇー、あかねはドルオタで忙しいっぽいし。じゃあ鳴嶋君はどう?」
「じゃあ ってなに。かなちゃんのこと語らせてよ。しかもあれはアイドル役をしてるかなちゃんという認識で」
「俺っすか? 俺も演技のこと学んでてそんな余裕なくて」
聞いてる限り、メルトもどんどん演技力が上がってきている。舞台のために木刀を振るってた時のように、『努力バカ』でいてくれてるようだ。俺も、みたのりおも、お前の感情演技の熱さは目標にしてるんだぞ。
「メルトは役者も料理もできて、こう見えて真面目だからな。狙っておいたほうがいいぞ、男っ気ないやつらは」
「ちょっ、姫川さんまで!?」
「おっ姫ちゃん、それはウチらへの挑戦状か? ケンカか?」
「別に私は、まだ男子とは、恋愛する気ないだけですからね?」
「せ、せやで? 料理まで上手なん、ええとこやと思いますけど」
不知火と黒川はいつも通りだが。寿はそこそこ脈ありだったのか?
まあいいか。照れた様子を見せるメルトも奥手っぽい。あまり深掘りすると逆に付き合わなそうだし。
「ここは唯一のカップルから、どう過ごしてるか深堀りワンチャンとしようよ」
さすが不知火わかってる。
それからは鷲見と熊野のノロケを聞き出したり、またアクアたちの話題に戻っていったり。黒川と不知火が推しについてキャラ崩壊レベルに語ったり。
役者人間のこいつらも、だいぶ女子高生っぽいとこがを見せている。
思えば高校生の頃の自分は、毎日が目の前のことでいっぱいだった。こんなゆるい時間は味わえなかったなと思う。
テーブルの上の皿は、まだ少し料理が残ってる。それもそろそろ片付けて、順番に風呂に入って、寝なきゃいけないのはわかる。それでもパーティーはまだまだ終わりそうにない。
彼ら彼女らの笑顔はまぶしくて、明るい声や話題は途切れない。
俺もちゃんと笑って、会話を楽しんでいる。
きっと普通で、特別なことでもない。友人やその友人が集まってくれて、ライブ行った後にパーティーやってる。今度は、アクアたちも呼んでやりたくもなる。
『推しがいると世界が輝く』ってのは、本当にそうらしいし。
友愛なんじゃねぇの、この感情って。
空っぽではなくて、愛されないこともない。もしあの男に会ったら自信を持って言えるだろう。別に会いたくはないけどな。