まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
・妊娠や時期について、知識不足なところがあり、大変失礼な誤りがありましたことをお詫び申し上げます。
・読者の皆様に多大なるご迷惑をおかけしたこと、お詫び申し上げます
アイの誕生日の次の日から、俺はすぐにアイと両親が会える日を調整することにした。
海外出張から帰ってきたタイミングで、俺は自分の両親を前に正座して。
『きっと、すぐに子どもができると思われます』
そうやって、はぐらかすことなく真っすぐに伝えた。
さすがの父さんもビックリしていたけど、母さんは『血は争えないわね』みたいな感じだった。海外出身でありながら、日本へ来て文学女子になったらしいので、相変わらず語彙の多い母親だな。
2人の予想通り、パートナーは星野アイという幼馴染だと伝えれば、ほんの少しだけ安心した様子を見せる。信頼はしてくれていても、俺もまだ年齢的に高校1年であり、
それと、こればかりは性別的にアイが主役となるので、産む側である『アイ自身も同意している』と俺からあらかじめ言っておく。
いくら母さんが経験したとしても、やはりまだ16歳ではリスクが高くなる。本人に会った時にも、ちゃんと意志を聞いて、先輩としていろいろ相談に乗ってあげてほしいとお願いした。
『今後のことをどれくらい考えているのか』とも聞かれたけど、俺は通信制の高校に編入して、アルバイトの時間もさらに増やす予定だ。俺の子育てに専念した母さんとは違って、彼女はアイドルを続ける予定だとも伝えた。
俺よりこの日本社会で長く生きている人たちだ。どれほどの苦難が待っているか容易に想像できただろう。俺の負担が大きいことは親として心配していたけど、アイだって負担は大きい。
だからこそアイと一緒に乗り越えていくって、それだけの覚悟はあるのだと、真剣な瞳で説得した。
いろいろと長くなったけど、これでもまだまだ足りない。さらにアイや俺の両親と、そして彼女の保護者の斉藤さんやミヤコさんと話し合って、もっと詳細を詰めていかなければならないだろう。
俺とアイと両親で初めて夕食を共にした時は、まだちょっと甘えづらそうにはしていたけど、
母さんに至っては娘も欲しかったらしく、スキンシップがすごかったな。
☆☆☆
16歳の誕生日から1か月以上が経過した時だ。
アイの妊娠が分かった。
そして定期的に健診に通っていると、双子ということも判明して。
☆☆☆
月日が経過していき。
公共交通機関をあれこれ使って、俺とアイと斉藤さんで宮崎県までやってきた。斉藤さんたちやアイともしっかり話し合ったけど、長期的な入院となると東京や地方都市からは離れていたほうがいいと。
「ごめんな、負担かけて」
「ううん、ここって過ごしやすそうだし」
表面的にかなり変化があったことだけど。
背伸びして大人びて綺麗系ファッションが多かったのが、最近のアイは可愛い系やボーイッシュコーデも好んでいる。どれも似合っていて、印象が変わるところも愛らしい。
猫耳フード付き黒色パーカーだったり、伊達眼鏡だったり、低めの位置で結んだツインテールだったり、そういう変装をしたアイを診察室までエスコートする。
安定期を選び、できるだけ短時間の移動になるよう飛行機を使ったとしても、今回の移動はアイにとって負担が大きかっただろう。今は比較的元気そうだけど、妊娠初期は体調をよく崩していたから心配だ。
少しずつ減らしていったアイドルの仕事も、今は『体調不良』として完全に休んでいる。それはそれで他のB小町メンバーはセンターを奪っておいてやると、良い発破になっているようだ。
最近さらに輝いている1番星に、彼女たちの嫉妬も大きくなっているらしいのは心配だ。
「ん~? 今は元気だよ?」
「ああ。
今のアイなら、
看護師さんの1人に案内されて少し待っている間、お互いの存在を確かめるように、ずっと指を絡め合っていた。
安定期とはいえ長距離移動が負担がかかっていないかということもあり、付き添いで来てくれた斉藤さん
「お待たせしました……っと」
問診票を持って入ってくる男性のお医者様は、通りすぎる際に俺たちを一瞬見たらしく、『若いなぁ~』と小さく呟いた。事前に年齢は見ているはずだけど、実際に対面すると更に若い印象を受けたのだろう。
分野は様々とはいえ、お医者様たちには前世でもお世話になっていた。その知識量や医術にはホント頭が上がらない。今も俺とアイにとって心強い味方として、まるで後光があるように輝いて見える。
「えっと、星野アイ…さん?
……こちらには初めてお越しですよね?」
「ええ、込み入った事情もありまして……東京のほうで健診もいって、そうだ、これがその病院の……」
代表して答えたのは斉藤さんで、俺たちの年齢的に保護者として来てくれた。俺の両親も『代わりに行きましょうか』と通話越しに聞いてくれたが、斉藤さんには『どうか任せてほしい』と伝えられたらしい。
どれだけ忙しくとも、彼もアイのことが心配なのだろう。
「分かりました。貴方が親御さんですよね?」
「そうです。それと申し訳ない、相当の無理を頼み込んでしまって……」
少しだけ時期が早いのに入院することも承諾してくれて、アイのプライバシーも重視するために個室である。移動の問題さえ乗り越えることができれば好条件の病院だ。
俺たちの秘密を守るべく東京や地方都市近辺は避けて、それでいて最新設備も充実しているところで、両親や斉藤さん夫婦が厳選してくれた。
「では、そちらの男の子が?」
「そっ! クリス君がこの子たちのお父さんだよっ♡」
アイは指でハートを作ってポーズをとる。
まさか彼女が診察室でもファンサするなんて、やれやれと斉藤さんは額に手を当てていて、お医者様なんて目を高速でパチクリしているぞ。まっ、可愛いからいいでしょう。
「アイはこの子たちのお母さんになるな」
『ね~』って別々の椅子に座っているまま、うりうり~って腕に頬ずりしてくるので、彼女の頭をフード越しにヨシヨシと撫でる。
猫耳がぴょこぴょこしているように見えるのは気のせいだろう。漫画の世界じゃあるまいし。
ところでお医者様が固まっているけど、大丈夫だろうか?
「雨宮先生、そろそろ」
「と、とりあえず、こちらでもエコー検査をしてみましょうか」
看護師さんに釘を刺されて、混乱しているお医者様は席を立った。
そしてアイだけが検査室へ誘導されるのを見て。
「ちょっと行ってくるね?」
「「………あ」」
追いかけるわけにもいかない俺たちは、思わず椅子から崩れ落ちるように両膝をついてしまう。今できるのは、遠ざかっていくアイたちの背中へ手を伸ばすことだけだ。
「彼女と子どもたちのことをお願いします!!」
「先生! アイたちは大丈夫だよな!? 」
斉藤さんまで同じくらい焦ってしまうなんて。
ここで待機させられて、俺も不安でいっぱいだ。
「お気持ちは分かりますが、お静かに」
「「はい、すみませんでした」」
看護師さんから冷静に指摘されたので素直に謝る。
いい歳した男たちがポツンと取り残されたな。
椅子に座るのはどうにも落ち着かないので、それぞれ診察室の床であぐらをかいて座り、身体の前で腕を組む。
「はぁ~~~ とうとうここまで来ちまったか」
どうやらこの人、恐らく1番早く彼女の願望に何となく気づいていたらしい。アイの妊娠の報告をした直後に、頭をガシガシとかいてから、今後のスケジュールを全て組み直していったと聞いている。
ミヤコさんも、実質的な専属マネージャーではないかと思うほど、仕事に付き添ってくれていたとアイから聞いている。
「いろいろありがとうございます」
「まぁどこぞの馬の骨みたいなやつと子どもつくって、いきなり妊娠したとギリギリに言われるよりマシだな」
もし万が一そんな事態が起きていたなら、俺は地獄の果てまで追いかけて、そいつに責任を取らせると思う。
「こうなりゃあさっさと無事に産んでもらって、復帰してからはドームライブまで行ってもらうからな?」
そうやって社長として言葉を発するけど、アイに子どもができることは満更でもない表情なのは、男のツンデレってやつだろうか。
「ええ、アイも復帰したがっているようですから」
「そうじゃないと困るからな。元気なあいつに任せたい仕事は山ほどあるんだ」
今後のことも含めて、あれこれ話していると。
「……なぜ床に座っているので?」
「「いえ、その、すみません」」
お医者様たちが戻ってきたので、
「ただいま」
「おかえり」
ニコニコと見せているアイも椅子に座ってから腕を組んできた。今はフードをはずしていて、アイドルということに気づいていると思う。でも彼らは守秘義務として秘密を守ってくれるだろう。
ギュッと密着して、2人で一緒に不安を分かち合うように、俺とアイは一緒に結果を待つ。東京にいるまま産ませてあげたくて、秘密を守るためにとはいえ、無理をさせてしまったから。
心の中で祈るように。
どうか、無事で―――
写真を提示してからお医者様は振り向く。
仕事柄か、彼の表情はポーカーフェイスなままだ。
説明を受けつつ。
順調だということを伝えられた。
「「よかったぁ~~」」
ひとまず安心した俺とアイは笑顔を見せ合う。
一緒に優しく撫でるお腹の中に、2人分の命が宿っていることが
「東京から宮崎までの移動でしたから…… 他の検査もしっかり頼みます!」
「お気持ちは分かりますが、落ち着いてください」
斉藤さんは思わず立ち上がってしまい、お医者様に詰め寄ってお願いしている。金髪に染めててサングラスでちょっと威圧感あるから、そんなに詰め寄らないであげてほしい。
「それでは他の検査も」
「すみません先生、先に俺から話をさせてください」
立ったまま斉藤さんは大きく深呼吸して、こちらへ振り向いた。
サングラスを一度はずしてから、とても真剣な瞳で見つめてくる。
彼の重々しい声のおかげで、俺たちは浮かれていた気分から真剣なものに戻すことができた。
「アイ、本気で産むんだよな? もしバレたら、B小町どころか苺プロすら……いや、お前はそんなことを気にするな」
一度大きく首を振って、本音を伝えてくれる。
「何よりもお前自身だ。そして彼と、生まれてくる子どもたちのこともある。これから大変になるぞ」
「ん、勝手でごめんね、それと心配してくれてありがとう。サイトウ社長…ううん、お
アイは真っすぐと、義理の父親を見つめる。
俺も決して彼の瞳から目を逸らさない。
「どんなに大変でも、この子たちを元気に産みたいの」
「俺も全力でアイと子どもたちを支えます。お願いします」
座ったままアイはあまり負担にならないようお腹を支えて少しだけ、彼女の分も俺は深く頭を下げる。
どんな苦難も2人一緒に乗り越えて、この双子と一緒に幸せな家族になりたいから。
「ったく、背伸びしていた
『先生』と呼びかけて、彼は限界まで頭を下げる。
俺たちも一度顔を上げてから、合わせて頭を下げる。
「うちのアイを、よろしくお願いしますッ!!」
「はい。医者として、できる限り尽くさせていただきます」
まっすぐな瞳でお医者様も強く頷いてくれた。
俺たちの周りには、優しい人たちがたくさんいて。
ちゃんと愛情に溢れている。