まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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育児編
第1話(子育て)


 

 アイが無事に退院して、少しの期間は宮崎に滞在した。

 最近はできる限り一緒にいるようにしている。

 

 雨宮先生が行方不明になったことも話しているけど、アイは秘密や子どもたちを守るべく、外出した時は気を張り詰めすぎるようになっていた。

 まだ体力が戻っていないのもあって、1日寝込んでしまったこともあった。

 

 瑠美衣や愛久愛海を連れて、一緒に東京に戻ってきてから。

 少しずつ俺が近くにいる時は、休んでくれるようにはなっている。

 

 俺の両親がマンションの部屋を借りてくれて、引っ越しの手伝いまでしてくれたので、ようやく慌ただしい日々は落ち着いてきた。斉藤さんたちも金銭面の支援をしてくれて、子育てに使いそうなものもいろいろと買い揃えてくれた。

 

 俺たちが瑠美衣と愛久愛海に過保護になっちゃうように、俺とアイの親たちも過保護でいてくれている。

 

 そんなある日のこと。

 

「いいのか? その時期の復帰で?」

 

 アイはスマホで斉藤さんと会話している。スピーカーモードのため、俺にも聞こえているけど、アイドル復帰の時期について話しているのだろう。その声からも、アイはすっかり元気になっていた。

 

「うん! それまでに体力戻しておくね!」

「いや、助かるが……しかしだな……」

 

 社長と義父の立場で、心が揺れているような様子だ。

 

「サイトウおじいちゃんのために、ドーム行かないとね?」

「おじッ!? ゴホン、俺はまだまだ若いぞ!」

 

 確かにその年齢で孫ができちゃったわけだ。

 

「大丈夫…… って嘘つかないようにするけど、無茶はしないよ。クリス君に叱られるし、今は大切な子どもたちもいるからね」

「ったく、一丁前に言いやがって。しばらくしたらまた連絡する」

 

 『ミヤコママにもよろしく~』って、アイはミヤコさんも母親のように思っている。からかっていただけで、斉藤さんのことも父親だと思っているだろう。

 

 どうやら、通話は終了したらしい。

 

 すぐ、俺のラインに『アイのことちゃんと見ておけ』って、義父上殿から命令されたので、了承のメッセージを返しておく。

 

「やっぱり復帰早いのかな? でもアクアとルビーとクリス君のために稼ぎたいしなぁ~」

 

 スマホを顎に当てながら、アイはそう呟いた。

 

 俺の最近の悩みの1つは、愛久愛海と瑠美衣がもう少し成長するまで、専業主夫になりそうなことだ。アイの復帰に合わせて、アルバイトも減らしていっている段階で、金銭面はだいぶ両親たちへ頼っている。

 いつか返そうと思いつつ、家計簿はしっかり付けていても、まだ何年も先のことになるだろう。

 

「愛久愛海と瑠美衣のことは任せてもらっていいけど、考えるべきはアイの体調と安全面だな」

「んー、私の体調は整えておくとして、前みたいにマネージャーとしてミヤコママ頼りかな?」

 

 そう言いながらアイもソファに座ってきて、俺のスマホを覗き込んでくる。

 

 最近youtuberなる職業?も増えているらしいので、それで稼いでみようかと思ってみていた。かといって得意なことで再生数稼げるのって、身体を動かすことくらいなんだよな。

 

 とりあえずいろいろ検索をかけてみる。

 苺プロ所属だと、ヒヨコの覆面を被った筋肉の人の再生数が伸びているらしいけど。

 

「ぁぅ~」

「「どうしたの?」」

 

 瑠美衣の声に反応して、2人揃って立ち上がる。

 そんな俺たちがなんだか面白くて微笑み合った。

 

「ルビー、お腹すいた? おむつ?」

 

 といっても瑠美衣はどうしても無理な時以外は、アイじゃないと泣いてしまう。

 0歳児でこれだから、パパとしては娘との関係が今から不安すぎる。いやまあ、それでも娘が幸せならいいんだけどさ。

 

 さてと、俺は愛久愛海のために哺乳瓶も準備しておくか。

 瑠美衣よりも更に我慢強くて、よほど限界の時か、俺たちが暇なタイミングでしか声をかけてこないほどだ。深夜にオムツが悲惨な状態でも我慢しようとしてた時まである。

 

「ルビーえらいね~ そだ、クリス君もどう?」

「切実に、冗談にしておこっかー、ママさん?」

 

 アイはマイペースなところもあるけど、それは本気で言ってそうなのが困る。瑠美衣どころか、愛久愛海からの視線も厳しいものになっている気がしているから。

 

「アクアは今日も哺乳瓶かな?」

「すごい頷いているな」

 

 まるで言葉が分かっているようだ。

 『もしかして天才!?』と俺たちは声を合わせて驚く。

 

 瑠美衣を一度ベビーベッドに寝かせてから、アイは本棚へ向かった。

 

「どう? 私分からなかったけど、これ解ける?」

「足し算すらまだじゃないか?」

 

 とりあえずアイは、入院中に眺めていた高校数学の教科書を持ってきて見せているけど、愛久愛海は当然分からない様子を見せている。

 

「がんばって、アクア♪」

 

 アイがそう応援すると、愛久愛海は番号を指で抑えた。

 さてアイは答えのページを見ているようで。

 

「合ってるよ!? アクアすごい!」

 

 アイはキャッキャと喜んでいて。

 愛久愛海はホントに天才なのかもしれないけど。

 

「おっとっと、アクアもご飯にしないとね?」

 

 アイに抱っこされて、愛久愛海は赤面している。

 

 まあ前世があろうとなかろうと、俺とアイの子どもたちであることに変わりはない。前世も今も含めて、ちゃんと見てあげないとな。

 瑠美衣や愛久愛海には、早めにいろいろと伝えておいたほうがいいだろうか。

 

「瑠美衣、今は愛久愛海がご飯だから、少し待ってね?」

 

 『ぅ~』って瑠美衣もママに甘えたがっているようだけど、ほんの少し頷いて、ちょっとの間はパパで妥協してくれるようだ。

 

「瑠美衣だってすごいよな? ママの歌が分かるからな?」

 

 俺はB小町のCDから歌詞を取り出して見せれば、キャッキャと喜んでくれる。その表情はアイによく似ていて、まるでリズムに乗っているようで、まだまだ小さな身体でダンスしようとしているらしい。

 

 アイのような輝きも、ほんの少し見せている気がする。

 

「瑠美衣も天才かもね?」

「かわいい~~! スマホどこ置いたっけ!?」

 

 4人で賑やかな家族になるとは思っていた。でもちょっと騒がしいくらいに俺とアイは完全に子煩悩になったようだ。

 

 こんなに大切な生きがいができて。

 俺はホントに幸せだ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 相変わらず夜泣きが多くないから、毎晩アイは少し起きるくらいでもいいな。アイドルとして耳がいいらしく、よくアイも起きてくれる。

 

 瑠美衣はすごく複雑そうだけど、俺が哺乳瓶で飲ませたり、オムツを替えたり、夜だけは条件付きで許してくれるようになっていた。

 アイからは起こしてもいいと言われているけどさ、俺だって娘をお世話したいじゃん。

 

 アイ、瑠美衣、愛久愛海、どの寝顔も相変わらず可愛らしい。

 

 さて。

 まだ5時なので、軽く筋トレをした後に。

 

 6時から朝食の準備、といっても市販のパン中心なのですぐに終わる。今日のお昼のおかずは、バイト先で貰ってきた料理を温めてもらうとして、基本的にご飯はアイが炊いてくれる。

 

 瑠美衣や愛久愛海の育児に必要そうな物もテーブルに並べておいて。

 あとは6時半に起床するアイとバトンタッチだな。

 

「ふぁ~ クリス君おはよ~」

「そろそろ出かけるけど、体調は?」

 

 まだ目をこすっているアイの額に触れて、熱がないことを確認する。

 顔色もちゃんと良い。

 

「元気~ ぎゅ~」

「よしよし、瑠美衣と愛久愛海をよろしくね?」

 

 パジャマ姿で抱き着いてくるアイが今日も可愛い。まだ完全には体力が戻っていないのに、2人分の育児や家事を俺と一緒に頑張ってくれている。

 ずっとナデナデしていたいけど、残念ながら時間が迫っている。

 

「じゃ、行くから」

「ん、いってらっしゃい」

 

 玄関を開けて、いつも周囲の警戒は必ず行う。

 

 マンションから出る頃にはバイト先に向かって走り始める。

 

 7時から飲食店アルバイトとして、開店準備の手伝いから接客まで、それが14時半には終わる。本格的な料理は店舗スタッフやパートさんがやってくれて、俺は少し補助する程度だ。

 

 休憩時間に昼食を食べさせてくれるし、お土産としておかずも持ち帰りできるし、1日のうちほぼ3回分の食事代が浮く。以前から続けているけど、こういうところが時給以上のメリットとして大きすぎる。

 

 まあ開店準備とか含めて、混む時間帯によってだいぶハードではあるが、是非ともバイトを続ける後輩には後釜として頑張ってほしい。

 

 というか14時半から17時半まで、飲食店を店長1人体制ってブラックすぎないか?

 

 ともかく。

 バイトが終わった瞬間に、ダッシュで帰宅する。

 

 周囲には誰もいないことを確認して、鍵と扉を開けて入った。

 

 ここが帰る場所で、愛する家族がいて、なんだか自然と笑みがこぼれる。

 こういうのがアイが欲しがってくれて、俺も欲しがった『繋がり』なんだろうか。

 

「おかえり、お疲れ様」

「ただいま」

 

 アイが小声で出迎えてくれるので、俺も合わせて小声にしておく。

 

「瑠美衣は眠っている?」

「スヤスヤだよ。アクアも寝ちゃいそう」

 

 アイが抱っこしている愛久愛海をヨシヨシと撫でる。

 

 この子もアイの母性にメロメロだからな。

 起きている時は顔真っ赤になるくらい。

 

 タッパーに入ったおかずを冷蔵庫に入れようとして、今日は数が減ってないことを確認する。

 

「……ママさんはご飯食べた?」

「……あはは、眠ったら食べるよ」

 

 バレちゃったか、みたいにテヘペロをしているのが可愛らしい。

 アイドルとして体型維持もあるだろうけど、ただでさえ細く、ちゃんと食べてほしいものだ。

 

「何かやっておくことある?」

 

 オムツの数を見るに、何度か変えてくれたみたいだな。

 

「えっとね……洗濯機は回したんだけど」

「回してくれただけ助かる。干しておくから」

 

 洗濯機っていざ回し始めると、音が大きい上に結構長いからな。瑠美衣や愛久愛海が起きている間はあまり洗濯をしたくない。

 

 そしてアイの衣服も干すことにもなるので。

 俺の理性、保ってくれよ……

 

 なんだっけ? 心頭滅却?

 それとも極楽浄土?

 

「ふぅ~ 今日も大変だった」

「今日もお疲れ様、いつもありがとね、パパさん」

 

 愛久愛海もベビーベッドへ寝かせてくれたようで、コップに麦茶を注いでくれている。バイトや家事の疲れを労わってくれるも、大変だったのは俺の理性くらいだ。

 

「今日は混んでたの?」

「ぼちぼちだよ、たぶん」

 

 申し訳ないが、売り上げが原因でアルバイトの時給は増減しないので、特にお客さんの数は気にしていない。忙しい昼間に会計の行列ができたり、麺類を即席で調理したり、ぶっちゃけ数えてられるほどの余裕もない。

 

「どれ食べる?」

「お魚にしよっかな」

 

 『ご飯よそっておくね』ってアイは自分で炊いた白米を、2つのお茶碗によそってくれる。今のアイは自分や家族の誰かが炊いたものなら美味しく食べられるようになった。

 

「「いただきます」」

 

 瑠美衣も愛久愛海も眠っているので、小声で手を合わせて、2人一緒にちょっと遅めの昼食を食べ始めた。この後は交代で休んで、夜泣きにいつでも対応できるようにしておく。

 

 大変なこともあるけど、4人で一緒に幸せな日々だった。

 

 

 

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