まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

19 / 108
第6話(天才子役)

 

 瑠美衣や愛久愛海が生まれてから、2年ほど経過した。

 

 まだ筋力が足りないところもあるけど、2人はかなり自由に過ごせるようになっている。

 

 瑠美衣は髪を伸ばし始めたり、サイドポニーテールにしてみたり、おしゃれにも興味が出てきている。アイドルのこともアイからゆっくり学んでいて、よく一緒にキャッキャしているので、たぶんずっとママっ子だろう。

 愛久愛海は家にある本を次々と読んでいて、芸能界についても少しずつ学ぶようになっている。子役になるにあたって必要な知識を身に着けたいらしく、真面目さを感じた。

 

 アイはB小町のセンターというだけでなく、『アイ』個人としても全国的に知られるようになった。ラジオやモデルだけでなく、各種番組によく出演している。まだ主役やメインキャストではないけど、ドラマにも少し出演した。

 本人は初めて高校の制服を着れて満足そうだった。ちなみに通販で似たものを買ってきて『使われた』。

 

 ともかく、ちょっとした役でドラマの数少ないシーンでも、アイの輝きはSNS上で話題になるほどだ。撮影現場でもそれを感じ取っていたらしく、とある監督が映画の出演者を考える際に、彼女を選んでくれた。

 

 しかも苺プロ繋がりで、愛久愛海や瑠美衣を子役として呼んでくれて、幸運にも1つの映画で親子で出演できることになった。まあ残念ながらスケジュール的に同じシーンの撮影はなさそうだけど。

 

 そして今日、俺はその映画の撮影に、子どもたちの保護者として来ていた。

 

「本日は苺プロ所属ルビーとアクアをよろしくお願いします、監督」

 

 芸能界に入るにあたって、芸名として2人を紹介する。

 

「どうも、そちらの双子の保護者さまか? 若いな? 時代か?」

 

 子役のマネージャーって保護者が行う場合もあるらしい。スケジュール調整や連絡等は苺プロも手伝ってくれるが、俺としては愛久愛海や瑠美衣の送迎まで行わせてくれて嬉しい限りだ。

 

「ルビーとアクアも挨拶できる?」

「よろしくお願いします、超大物監督さま」

「おねがいしまーす、イケメン監督さま?」

 

 言わなくとも挨拶はできるだろうけど、形式的にしゃがんで2人の背中に触れる。賢い子どもたちは被っていた麦わら帽子を一度脱いで、丁寧にお辞儀までしてくれた。

 

「お、おう、最近の赤ん坊たちはお世辞まで言えるのかよ」

 

 『残念ながら超低予算の現場の監督だが』と彼は愚痴をこぼす。

 やれやれとした表情で自分の無精ひげをさすった。

 

「今回が初めてなんだって? 聞いていた通り、おとなしそうで助かる」

 

「それはもう、監督のご希望通りの演技を」

「かわいく映してね、監督さん☆」

 

 愛久愛海はゴマをすり、瑠美衣はポーズを決めた。

 『早熟の天才!?』と監督は目を見開く。

 

「すげーな、あんた一体どんな英才教育を?」

「自主性に任せる? くらいですね」

 

 自分たちのやりたいことやってくれるし。

 それが我が家の方針な気がする。

 

「ほう? ちなみに保護者さまも事務所入ってるのか?」

「いえ、入っていませんよ。両親の知り合いが苺プロ所属なので、2人を子役として所属させていただいていた形ですね」

 

 俺と瑠美衣と愛久愛海を観察しているようだけど、悪意はなさそうだ。2人がいい意味で注目されるのは、芸能界的に良いことかもしれないな。

 俺のことに関しては一応伝えておこう。

 

「妻が忙しい身ですから、今は育児に専念していますよ」

「そうかい、妻を支える夫というわけか。時代だな」

 

 芸能界の女優だろうか、ということは考えたかもしれないな。とはいえ、やぶをつついて蛇を出す、みたいなことは芸能界的にしないだろう。

 

「じゃあ呼ばれるまで、あっちで待機していてくれ」

 

 休憩用にしている施設を指で示している。

 暑いから体調を気にしてくれたのだろうか。

 

「お前らも、今日はよろしくな?」

 

 しゃがんでから、子どもたちに目線を合わせて、それぞれポンと手を乗せてくれた。そのフレンドリーな雰囲気からも、だいぶ2人のことを気に入ってくれたようだ。

 

「わかったよ、監督さん」

「がんばってねー、監督さーん」

 

 背中を向けた監督は、手をひらひらとさせながら歩いていく。

 

「さて、挨拶回りを続けようか。抱っこする?」

「僕は大丈夫だよ、父さん」

「私は抱っこして~!」

 

 瑠美衣の身体を持ち上げて抱っこする。

 体力面も考えて、やっぱり愛久愛海も抱っこする。

 

 ミヤコさんにアドバイスを受けたように、芸名や苺プロを広めるために、撮影現場での挨拶回りをしっかりしておく。芸能界ではこういう小さな積み重ねも大事なのだろう。

 

 結局、珍しい金髪の双子で可愛らしいから、女性スタッフを中心に人気でなかなか時間がかかってしまった。

 俺に対する好意的な視線もあるようだけど、さすがに子連れだから、実際にアプローチかけてこない…と思いたい。こういうのアイにはなぜかバレるから、今夜はちゃんとフォローしないとな。

 

 今日の撮影が始まりそうなタイミングで、挨拶回りを終える。

 

「暑かった~ すずし~」

「他の人たちは撮影中みたいだな」

「2人ともありがとう、ゆっくり休んで」

 

 2人と一緒に座り込むと、瑠美衣はビニールシートの上に寝転がって、愛久愛海もリラックスするように足を伸ばす。水筒で持参していた麦茶で水分補給もさせておく。

 

「どうせならママと一緒がよかったなぁ~」

「撮影日が違うから仕方ないぞ」

 

 2人が話しているのを横目に、スマホでアイに定期連絡のメッセージを入れておく。今日はレッスンの日らしいから、休憩中に見てもらって安心させられるだろう。

 

 『バン!』と音が鳴る。

 勢いよく扉を開けて子役の少女が入ってきた。

 

 挨拶回りの時はいなかったから、今到着したのだろうか。それにしては子ども1人なんだけど。

 

「…… なに? ここプロの現場なんだけど?」

 

 どうやら不機嫌な様子だ。

 

「……う」

 

 椅子に座ろうとして……

 少女にとっては高すぎたらしい。

 

「持ち上げてあげようか?」

「いらない!」

 

 俺が尋ねるも反発される。

 ところでこの子の保護者はどこだろう。

 

「あんたたち、遊びに来たの?」

「いや、違うけど」

「キミは誰だい?」

 

 優しく愛久愛海が少女に尋ねると。

 『私は有馬かな。この映画の女優よ』と、自慢するように名前を告げる。

 

「んー、あの子じゃない?

 えっと、重曹を舐める天才子役?」

 

 そう呟いた瑠美衣だけど、重曹のCMに出ているのだろうか。

 

「10秒で泣ける天才子役!!」

「「あー」」

 

 ニュース番組で、そういえば1度見たことあるな。

 

「まったく、私のことを知らないなんて」

 

「瑠美衣、一緒にごめんなさい しよっか?」

「うー、まあ重曹ちゃんって間違えちゃったから」

 

 瑠美衣と俺で一緒に素直に『ごめんなさい』する。

 

「誰が重曹ちゃんよ……」

 

 そんな俺たちに、なんだか有馬ちゃんはますます不機嫌な様子だ。昔のアイも抱いていた感情だけど、家族で仲が良いことに嫉妬しているのかもしれない、か。

 

「ふん! 寛大だから許してあげるわ」

「寛大なんて言葉を知っているんだ、すごいな」

 

 愛久愛海が純粋な声でそう呟くと、有馬ちゃんは目を見開いた。天才子役とは聞いているけど、日常的にあまり褒められ慣れていない様子だな。

 

「と、当然よ! 私は天才子役だからね!」

「努力家でもあるよな、その台本」

 

 確かに有馬ちゃんが握っている台本の表紙は、ところどころ色が変わっている。

 

「鉛筆でいっぱい書き込んだ?」

「そうよ。なにか文句ある?」

 

 うちの息子、距離の詰め方が良いな。

 ツンツンな有馬ちゃんがデレてきているようだ。

 

 というか子役用に渡された台本が、漢字のオンパレードって実際どうなんだろうな。超低予算ということは、そういうところにも手が回らないほど忙しいというのもあるだろうけど。

 瑠美衣の台本にはフリガナをあちこちに書き込んであげて、一緒に読んであげた。

 

「キミも座ったらどうだ? 涼みにきたんだろ」

「そ、そうさせてもらうわ」

 

 かなり距離を離して斜め向きに座り込む。

 でもチラチラと愛久愛海を見てくる。

 

「む~、なんだか分からないけど、む~」

 

 今度は瑠美衣が頬をプクプクさせていて、双子の兄を取られちゃうと思っているのかな。さすがに双子で恋愛的なことは…… でもお互い前世あるから分からなくなってきたぞ。

 

 ま、まあ、それも愛久愛海と瑠美衣の選択次第だな。

 

 

☆☆☆

 

 

 映画はホラー寄りらしく、森で出会う『気味の悪い子どもたち』ということで、今回の子役3人が呼ばれた。

 

 俺は外野から見ていて。

 有馬ちゃんもあの年齢にしては演技が十分上手いと思った。台本をしっかり読み込んできていて、『私を見なさい』というような自信も感じる。あとは知識も身に着けていけば、将来的に演技派女優と呼ばれるだろう。

 

 さて、次は瑠美衣の番か。

 たった数行の文章から感情を汲み取っていた。表情を作るのが自然というのは共通点だけど、『嘘を完璧に本物として見せる』アイの演技と違って、『なりきって本物として見せる』演技かもしれないな。だから、アドリブだって容易にできる。

 

 そして、愛久愛海が口を開いた。

 恐らく監督や演出家の意図を汲み取っているのだろう。求められる演技を実践する安定感がある。場面の移り変わりで女優さんを映したいだろうと予測して、声だけでも伝わるよう、まさに『上手くこなす』演技だな。だから、スムーズに上手くいく。

 

「カット! オーケーだ!」

 

 たった1度の撮影だけど、監督もすごく満足そうだ。

 基本仏頂面だったのが今はとてもニヤニヤしている。

 

 いやはや3人には良い演技を見せてもらった。

 

 アイも含めて本当にみんな上手だよな。普段と雰囲気を変えて、台本から想像を膨らませて、求められる役を察して、それぞれの持ち前のような演技をできる自信はない。

 身体を動かすことには自信があるから、いろいろ真似にしつつ、ヒーローショーでスーツアクターはできるかもしれないけど、まあ素人としてプロの足元にも及ばないか。

 

「よし、次の準備に取りかかるぞー」

「監督、撮り直して……」

 

 そんなとき、有馬ちゃんが監督を呼び止めた。

 

「いや、十分に」

「とりなおしてよ!!」

 

 涙を流して叫んで、2人よりダメな演技だったって。

 次はもっと上手にやるからって、撮り直してって。

 

 しかし、監督の判断は早かった。

 

「次の撮影の準備だ! 時間は限られているぞ!」

 

 監督は手を叩く音で合図して、準備を再開させた。

 

 監督自身はすでに満足していて、しかも今の泣き顔を見れば再び演技ができるには時間がかかる。子役1人のワガママのために、スケジュールを遅くできるほど、この世界は甘くないのだろう。

 

「パパ」

「父さん」

 

 娘と息子から無茶ぶりが来た。

 

 まあマネージャーさんはおろおろしているし。

 保護者の人は、たぶん送迎だけでいないし。

 

「有馬ちゃん、少しいい?」

 

 俺は片膝をついて、泣いている有馬ちゃんの目線を合わせた。

 

「有馬ちゃんの演技、僕は良かったと思っているよ」

「でも…その子たちより…全然ダメだった……」

 

 感情をいっぱい見せてくれる子だな。

 (つら)い時にちゃんと教えてくれる。

 

「有馬ちゃんは頑張っているよ。ちゃんと伝わってきたよ」

 

 比べてどこが良かったなんて今はいらない。

 俺みたいな素人だから伝えられることはある。

 

「まだまだこれからだよ。悔しいって思いがあれば、有馬ちゃんはもっと伸びる」

「そんなの…! あんたに…!」

 

 関係ない? 分かるわけない? どっちにしろ、確かにその通りだけど。

 

「頑張っているのは分かるよ」

 

 抱き着いてきて、ギュッとシャツを握る少女を、そっと頭を撫でる。

 

「えらいね。いっぱい頑張っている」

「うぅ…… 」

 

 芸能界ってどうにも結果を意識しがちだから。

 よく外野から見ている俺は努力を褒めてあげたい。

 

 

 

 泣きやんだ有馬ちゃんは『次は絶対に負けないから』とライバル宣言した。瑠美衣や愛久愛海はそれを『のぞむところ』と受け入れる。2人にとって生まれ変わってから初めての友達だ。

 お互いに子役は続けそうだから、また3人で再会できるといいな。

 

 




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。