まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
金髪に染めているのだろうか。
ファミレスに入って、サングラスをかけた男性のところに向かうように、アイは俺の腕を引っ張っていった。
こちらを見ている彼はまるで魂が抜けてしまうかのように口が開いている。
「佐藤さん、おまたせ!」
周りの人の名前をよく間違うアイだから、年上の人を名前で呼ぶことは珍しいな。
「……佐藤じゃなくて斉藤だ」
男性はこめかみを抑えながら反論しつつ、ずれたサングラスをかけ直した。
値踏みするような視線がサングラスの中からこちらへ向けられるも、あまり悪意は感じないので別に気にしないことにする。
空いている席にアイが元気よく座って、ポンポンと音を立てないくらいに自分の隣を叩いた。
俺は軽く会釈してから、そこへ座り込んで鞄を席の下へ置く。
「ねっ、今日も何か頼んでいいの?」
「……ああ。1品や2品くらいならな」
アイが俺たちのどちらも知っているからだろうか、俺たちに自己紹介をさせてくれる前にメニューをテーブルの上に開き始めた。
隣の少女はキラキラした瞳でページをめくっていて、やがてデザートのページで止まっている。
「あー、まずは自己紹介といこうか。俺は苺プロダクションの斉藤壱護というものだ」
「初めまして、月村栗栖です。アイとは同級生で、小学校からの仲ですね」
「ねぇクリス君、こっちのアイスとこっちのプリン、どっちがいいと思う?」
密着するように見せてきたが、トリフアイスってなんだろう。
「それくらいなら両方頼んでいいぞ」
「砂糖さん、頭いい! シェアすればいいじゃん!」
注文用紙にボールペンで書きこんでいて、ちゃっかりドリンクバーまで記入していた。ファミレスの中でも安めとはいえ、一応大丈夫かと目で尋ねてみる。
斉藤さんは呆れながらも頷いてくれたので、俺が店員へ渡しにいった。
ついでに俺がコーヒー、付いてきたアイがメロンソーダを取りにいくと、斉藤さんは観察するようにこちらを見ている。
いくらでもジュースが飲めるということで、アイは本当にドリンクバーが好きなので気づいていないようだけど。
そして席に戻るとすぐに。
「なぁ最近の中学生って、そんなに距離が近いものなのか? あれだ、ただの同級生の場合な?」
「さあ? みんなそうなんじゃないの?」
「仲間や友達だったらこんなものでは?」
2人揃って首を傾げれば、アイの頭がちょうど肩に触れて、まるで猫のようにスリスリ寄ってくる。いつも公園とかでこういう距離感なんだけどな。
「月村君だったか、まさか帰国子女か? 海外に住んでいたとかは?」
「俺はハーフですね。生まれて、ずっと日本ですよ」
親譲りの金髪は珍しいとは思う。
でもまさかこの世界から見て、異世界で生きていたなんて言っても信じられないだろう。別に聞いてほしいことでもないし。
「いや、単刀直入に言おう、2人は付き合っている、のか?」
「付き合ってないですよ」
「ひどーい、愛してるって言ってくれたのに」
アイはまるでショックを受けたように俺の左腕へ抱き着いてくる。どこか遊んでいるということは分かるが、それはそれとして可愛らしい演技が相変わらず上手だな。
さっきのできごとを言っているのであれば。
「愛しているよ、友達として」
「むふー、友達だね 今は」
そういえば明確に友達と伝えたのは、今日が初めてかもしれない。この少女は人付き合いは上手くやるけど、いざ友達作りとなると苦手なほうだ。
これからは言葉にして愛していると言うと喜んでくれるかもしれない。
少し後ろへ下がるように、ソファへ深くもたれかかった様子の斉藤さんが、やがて大きく息を吐いた。
「こりゃ可能性の塊だぞ……」
そう呟いて、どこか興奮したように白い歯を見せた。
「本音を言えば、2人の関係はどうであれ、売れた時に炎上しかねない。だが、隠し通せるなら構わない」
「えっと?」
アイがキョトンとしているうちに、店員さんがプリンとアイスを運んできてくれた。
「ん、プリン美味しっ!」
よく給食でそんな様子を見せるように、ほんの少しスプーンで何かを探す動きを見せてから。
ゆっくりと美味しそうに食べ始めてくれる。
「ほらクリス君、美味しいよ あ~ん」
プリンの乗ったスプーンをこちらに向けてくるので、希望通り口を開ける。
市販のものとまた違ってどこか上品で、この価格でこれだけの美味しさを出せるなんてな。
そのお返しにアイスを乗せたスプーンを少女の口へ向ける。
アイは小食なこともあって、晩御飯も食べられなくなると困るので、外食に出かけるとよくやっている。
プリンほとんど、アイス少しを食べたくらいで、スプーンを動かすスピードが落ちている。
「……頼む、俺が作るグループにはお前が必要なんだ」
両手をテーブルに置いて、彼は頭を下げた。
悪意も全く感じられず、むしろここまでの誠意を見せるならば信頼できそうだけどな。
「えっと、表立ってこういうことできなくなるのは、ちょっと寂しいけどね、サイトウさんだっけ?」
斉藤さんはちゃんと名を呼ばれたことに反応して、顔を上げた。
「嘘という魔法で輝いて、みんなに愛を伝える。そして本物の愛にたどりつくために、私アイドルやるつもりだよ♪」
どうやら、アイの中ですでに答えは決まっていたようだ。
「そ、そうか! 助かる!」
大きな声を出してしまい、周りを気にしながら斉藤さんは軽く咳払いをした。
それだけ興奮したということだから、是が非でもアイドルになってほしかったのだろう。
あとは斉藤さん主導で、今後の契約の流れを説明してくれるけど……
アイがよく聞き返していたり、大事そうなところは全部俺に相談してきたり。
俺と斉藤さんがなんだか2人揃って、アイの保護者の気分になった。
まぁ俺以外にも誰かに懐いてくれたのは嬉しいことだ。
☆☆☆
斉藤さんと、俺たちは別々に帰っていく。
放課後や休日を中心として、レッスンの予定を連絡してくれるらしい。アイは携帯を持っていないので、代わりに俺が連絡を受けることになったけど。
そのうち斉藤さんが持たせると言っていたので、最初のうちだけだろう。
こうして帰る時間もほとんどなくなってしまうので、ちょっと寂しい気はする。
いくら変装しても、付け焼き刃の魔法で少しだけ誤魔化したとしても、秘密を隠し通すのなら確実でなければならない。
「斉藤さんが良さげな人でよかったな」
「ん、
今のところアイは施設で暮らしているけど、いずれは斉藤さんと暮らすことになるんだろう。
施設の人にもそれなりには良くしてもらっていても、多人数と生活するにはストレスも溜まりやすい子だ。
そんなアイが、懐いている斉藤さんと暮らすことができるのは安心だな。
「それだけ期待しているんだな、アイに」
「……そうなのかな?」
かつて勇者として期待された俺も、身内からの感情は心地いいものには感じた気がする。政治的に国境警備隊をアピールするための広告塔にされたのは悪意たっぷりだったけど。
それにしても俺が将来の夢というやつの選択肢に迷っているうちに、まさかこの少女に先を越されるなんてな。
でもまぁ俺がやりたいことも、また1つはできたか。
「アイドルってライブするんだったよな? できる限り観に行くから教えてほしい」
「んっ、来てくれるんだ?」
おいおい、まさか仲間を疑っていたのか?
当たり前のことだろう。
「ああ。俺はアイのファン1号だからな」
「ん! そうだね! サインも考えておこっと♪」
そして万全を期すためには。
「あー、ただ、お客さん多すぎて見つからないかもしれないし、できるだけ離れたところから見るつもりだ」
俺1人ならば、こっそり後ろの席に潜り込めるだろう。売り上げ貢献のためにチケットは買うつもりだけど、お小遣いに頼るよりは何か中学でもできるバイトでも探すべきか。
「そっか、クリス君なら何とかするかぁ~」
悩んで損した、みたいなスッキリした表情だな。
「じゃあ私は、たとえ1万人いてもキミを見つけてみせるね!」
1万人なんて夢が大きいな。
楽しく頑張れよ、アイ
「友達だね、『今は』」
(口パク)