まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
・不定期投稿です
1話(これからの未来)
ドームライブからしばらくのこと。
B小町は様々な賞を取り、紅白にも出場し、現在では最も人気のあるアイドルグループとなっていた。街を歩いていれば、あちこちのお店でその歌を耳にする。
アイは今まで以上に芸能界で活躍するようになると同時に、他メンバーも全国的な有名人になった。今では、B小町所属メンバー全員が、それぞれ複数の番組にレギュラーとして出演するようにもなっている。
メンバーが全員揃うライブも、あちこちで行われるとはいえ。
やはり数年のうちに解散して、メンバーがそれぞれの道を歩んでいくのだろう。これからどういう形で芸能界に関わっていくかどうか、各自で考える期間になっているはずだ。
アイもこれからのことを考えているはずだ。
それはプロとして、自分で解決することだろう。
ちなみにもしアイドル活動を続けるのなら、彼女はB小町としてではなく、『ソロアイドル』として音楽活動を続けることになるのだろう。しかし、それがどれほど現代で大変かは素人の俺でも分かる。
ファンの好みが多様化する中で、グループアイドルに対抗して、たった1人の個性で多数のファンを獲得・維持しなければならないからだ。…… まあ俺個人としてはアイならできると思うけどな。
ともかく、1番星のように輝いているアイドルだが。
そんなアイも
「ルビー、おひざに座って?」
「はーい! ママ~!」
髪をまとめるようにタオルを撒いているアイの膝に、瑠美衣がちょこんと座った。娘もだいぶ大きくなったけど、まだドライヤーで髪を乾かすには大変そうだからな。
「ママ! 愛してる!」
「私も愛してるよ、ルビー」
ピンクでウサギな可愛いパジャマで可愛かった。
つまり女子のお風呂上がりが可愛すぎるってことだ。
ホントに愛らしいママさんと娘だ。
俺と愛久愛海は本の文字に視線を戻す。
「どうしたの ママ?」
「ふふっ みんな可愛いなぁ って」
ちらちら見ていたのがバレバレだったらしく、せめてもの抵抗として俺たちはテレビに視線を向ける。
テレビではケンミンショーで宮崎県の番組をやっていて、なんだか懐かしくなった。俺もアイもほとんど観光できなかった上に、生活していたのは今回紹介している地域とも違う。
愛久愛海もどこか懐かしそうで、前世は宮崎に住んでいたのかもしれない。
「2人は宮崎で生まれたんだよ」
「へぇ~、そうなんだ~」
ロングの金髪をふわふわとされながら、瑠美衣は心地よい風で気持ちよさそうにしている。アイは髪を乾かすのがとても上手で、その手の動きはまるで美容師のようだ。それもあって、相当リラックスできていることだろう。
『私たちが16歳の頃だったな~』って呟くアイを見て、確かにあっという間の5年くらいだったように思える。
「私も早く16歳になりたいな」
「ん~? よしよし」
アイは瑠美衣の頭を撫でる。
母親似なところがあるので、瑠美衣も16歳で大きな決心をする可能性がある。その時は俺の両親がそうしてくれたように、相談に乗りながら瑠美衣の意志を尊重しよう。
次にアイは自分の髪を乾かし始める。
ホント綺麗だな。家族で1人だけ黒髪なことを気にしている時がたまにあるけど、まるで夜空のように紫がかった髪が、俺はとても好きだ。
「麦茶でいい?」
「うん! ありがと クリス君」
顔の熱を冷ますために、麦茶をコップに注いで一気に飲む。
あとはみんなそれぞれのコップに注いでから、愛久愛海に手渡したり、アイや瑠美衣のためにお盆に乗せてテーブルに置いたり。
「宮崎って、へぇー」
「こういうところもあるんだね」
瑠美衣はママの膝に座ったままで、テレビ画面をボーっと見ている。今は若いご夫婦が映っていて、おそらく郷土料理をピックアップして放送していた。
アイが使っていたドライヤーの音が止まる。
ぽかぽかした頬はホントに綺麗だな。
「そういえば、パパとママって、結婚してるの?」
瑠美衣は何を言った?
結婚って言ったよね?
それなら16歳の時に?
あれはまた別じゃない?
「「………あ」」
目で会話していた俺とアイは、同時に声を出す。
「け、結婚!? どうするんだっけ!?」
「て、手続きが必要じゃなかったか?」
俺たち、いろいろとすっ飛ばして家族になっていたらしい。
結婚か……
結婚かぁ……
「結婚といえば、ウェディングドレス、だよな?」
「着てみたい…かも…… クリス君も見たい?」
アイが着ている姿を想像してみるが、そんなの絶対に綺麗じゃないか。
「見たい」
「きゅぅ~」
俺たちはお互い顔を真っ赤にして。
人生の中で1番緊張している気がする。
「父さん、母さん、一旦落ち着いて」
「「ふぅー」」
ヤバイ、顔が熱い。
いつも以上にアイを意識してしまう。
「よしっ、布団の準備してくる!」
「ちょっとお片付けしてくるね!」
『今度話し合っておくから!』と2人で子どもたちに伝えて、俺は寝室へ、アイは洗面所へ、パタパタと駆けていく。
「お兄ちゃん、言っちゃダメだった?」
「遅かれ早かれ、どうせ気づいていただろ」
ずっと俺は家族のことを愛しているけど。
今日、アイに恋していることを自覚した。
☆☆☆
瑠美衣と愛久愛海が寝静まった頃、俺とアイはソファに隣り合って座っていた。
さっきは年甲斐もなく取り乱してしまったが。
考えるべきことの多さに、今は冷静になっている。俺たちがちゃんと話し合って、これからのことを真剣に決めないといけないから。
「どうしよっか」
「このまま、というのも十分幸せだ」
世間には嘘を通し続けることで、無用なトラブルは減らすことができている。アイは変装して、4人で公園を散歩することだってみんなが幸せに感じる。最近ではカラオケに一緒に行って、瑠美衣は早期からボイトレが必要なことに気づけた。
「スケジュールのこともあるけど… 幼稚園、最近行けてない……」
「アイも本音は行きたいよね? 瑠美衣も愛久愛海も喜ぶと思う」
いくら変装を重ねても、回数が多くなるほど誰かに気づかれるかもしれない。幼稚園の行事だけでなく、幼稚園の卒園式や、小学生の入学式、これからもたくさん機会は増えていく。
苺プロ所属の関わりだけでは、さすがに誤魔化しきれないだろう。
「結婚、考えてみるとしたら?」
つまり、俺とアイと子どもたちの関係を。
16歳で産んで、隠していたことを。
「……2人が隠し子だと公表することになる」
「ん、そうっぽいよね」
いくつかスムーズに上手くいく方法は思いついているが。
「子持ちの男とアイドルが再婚、まああり得ない話じゃないだろう、が」
そういうのが1番リスクを減らすことのできる『嘘』なのだろうが、俺たちの場合ではあり得ない話だ。
「私の子じゃないなんて嘘でも言いたくない」
アイは力強く宣言する。
例えば苺プロの事務所で、相当に我慢しているはずだ。
「分かっている。俺だってそうだよ」
「それでこそクリス君だよ」
寄り添ってきたアイの頭を、優しく撫でる。
ということで。
結局、どう真実を言っても炎上待ったなし。
「困ったね~」
「困ったな」
とはいえ焦りはない。
俺とアイで一緒にゆっくり迷えるのだから。
「今日ルビーに言われるまで、自覚してなかったね」
「俺も、今のままで十分幸せだったけど」
いくつも夢は叶えてきたのに、まだまだ夢は増えていくらしい。
「やっぱり私たち 欲張りなんだなぁ~」
「おかげさまで、俺まで欲張りになった」
もしすべてが上手くいくのなら、アイが瑠美衣や愛久愛海のママなんだって、外でも自由に言ってほしい。
「アイの欲張りなところも大好きだよ」
「えへへ ありがと クリス君」
今日のキスは、いつもよりドキドキした。
「さて、結婚のこと、アイドル的にはどう思う?」
「なんというか、タイミングはいいかもね」
今度はアイの考えを教えてほしい。
「私、アイドル以外も、結構自信が出てきたんだ」
「昔からモデルとしても可愛かったよ」
『ふふーん』ってアイはもっと褒めてほしそうだ。
そんな姿も可愛らしい。
「詳しいことは分からないけど、ソロアイドル? という選択肢もあるんだよな?」
「あー、一応ね?」
やっぱり苦難の道なのだろうか。
プロのアイドルならもっと詳しいだろう。
「アイドルはやめて、いろいろやってみようと思うんだ。マルチタレントっていうのを目指して」
『あ、でもルビーがアイドルになったらステージで共演したい。とりあえず歌手は続けたい』って、欲張りなアイにはピッタリな言葉かもしれないな。
「それに、だましだましでやってきたけど、そろそろB小町も解散しようって流れだから」
そう言って、疲れたような瞳を見せた。
「嫉妬や羨ましさ、そういうのが強いと思うよ」
「……そうかな?」
嫌われていると思ってアイが
「複雑な思いが絡まっているんだろう。少なくとも、ドームライブを終えた時の写真、みんな心の底から喜んでいたよ」
今のメンバーに関して、最近は変わっていない。
もし本当に嫌だったのなら離れていただろう。
「クリス君がそういうなら、そう思うことにする」
深呼吸もして、だいぶ楽な気持ちになったのか、ぎゅ~ と抱き着いてくる。
解散して、一度メンバー同士で距離を取って、いつかアイとみんなが本音を出し合えるような関係になれるといいな。みんなでB小町のことを思い出話にできるような関係に。
「やっぱりクリス君がいい」
「ああ。俺もアイがいい」
アイも20代になれば、他の芸能人から少しずつアプローチをかけられているのかもしれない。例えばドラマで共演した男性とのプライベートな関係はどうなのかと、SNS上で噂されることもあるだろう。
「どうしよっか」
「どうするかな」
アイドルが16歳で妊娠、しかも約5年は隠してきた。
もしバレたら、斉藤さんや苺プロに確実に影響が出る。マスメディアやSNSによっては、俺の両親も話題にされるかもしれない。愛久愛海や瑠美衣も、ターゲットにされてしまうだろう。
俺とアイは一緒に乗り越えるだろうが、子どもたちに苦難を…… といっても、現状でも我慢させていることは多い。
アイもそれをよく悩んでいる。
彼女の
「よしっ、こういうのはどうだ」
まだ考えるべきことは多すぎるが。
それでも。
「世間にバレてから、あれこれ好き勝手に言われるより、真っ向勝負しないか」
「それは…… ん、なんだかクリス君らしいね」
アイが笑顔を見せてくれた。
「そもそも後ろめたさは感じていないんだ。むしろ瑠美衣と愛久愛海は、俺とアイの子どもたちです、と自慢したい」
「うん! 自慢したい! 親子共演って言われたい!!」
さっきからネガティブなことを考えすぎだ。
もっと幸せで明るい夢を考えていたい。
「それに、家族で遊園地、行ってみたくないか?」
「もー キミはずるいなぁ~」
星のように輝いていて、宝石のような瞳で見つめてくる。
「そんなとこも大好きだよ」
「アイ、ありがとう」
そう言ってくれて、俺たちは再びキスをする。
やはり恋を自覚したからなのか、ドキドキした。
それから、ディズニーのサイトを見ながら、これに一緒に乗ってみたいって話したり。ジェットコースターの年齢制限というのを見て、4人ではまだ先になりそうだと話したり。
遊園地だけじゃなく、水族館や博物館、プール、まだ行ったことのない場所はたくさんある。子どもたちの参観授業や運動会にもたくさん行ってあげたい。
アクアと一緒に親子としてドラマに出演したり、ルビーと一緒に親子アイドルとしてライブをしたり。そんな2人を応援するために俺と愛久愛海が並んでサイリウムを振ったり。
身内だけで結婚式も挙げてドレスを着てみたい。両親や斉藤さんやミヤコさんに幸せと感謝を伝えたい。
寝るのがちょっと遅くなっちゃうくらいに。
俺とアイは笑顔で夢を語り合っていた。