まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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4話(2回目のドームライブ)

 

 2度目のドームライブは、23歳になるアイの誕生日がある12月だった。

 

 斉藤さんも意図したわけではなく、運が良かったと言っていた。世間はクリスマスムードであり、どこか浮き足だった感じがしていて、なんだかいける気がしている。

 

 それというのも今日、B小町解散が発表され、アイは秘密を明かすからだ。

 

 間違いなく炎上は避けられないが、クリスマスと年末年始ですぐにSNS上のトレンドは切り替わっていくと思いたい。とはいえどんな騒ぎになろうと、家族で一緒に乗り越えようと決めている。

 

 B小町が今年の紅白に出ないことは話題になっていて、苺プロの予定通り、すでにファンの間では『このライブで最後かもしれない』と噂されている。やはりアイドルグループには、解散もしくは卒業がつきものなのだろう。

 

 今日のライブはいつも以上にチケットの申し込みが白熱したらしい。実際にサイリウムの動きは激しく、歓声も響き渡り、盛り上がりは最高潮だ。

 

 

―――そして、終わりが近づいてくる。

 

 

 ここまではB小町結成から特に人気だった曲だったり、アイ以外のメンバーがセンターの曲だったり。前回のドームライブの時より、B小町全体としてのレベルが上がっている。

 

 もう一度、アイをセンターとしてポジションについた。

 

「みんな~! ここまで楽しんでくれた~?」

 彼女の呼びかけに、会場中から返事が返ってくる。

 

 サイリウムが波のように揺れている間、アイドルとして表情や身振り手振りでファンサを続ける。それが収まったくらいの時だっただろうか、彼女の纏っている雰囲気が変化する。

 

「私のワガママで、次は新曲入れてもらったんだー」

 無邪気な笑顔で普通っぽくそう発言する。

 

 『新曲だよ~』と念押しをしているが、とても嘘のように笑っていて、どこか寒気を感じさせていた。彼女の事情を知っていなくとも、何か過去を抱えている少女のように見えて、人々は困惑する。

 

「あっ、ごめんね! さっきの演技☆」

 再びアイドルの表情になる。

 

 今の彼女を見て、ファンのみんなはどこか安心する。確かに今の姿も演技を含むのとはいえ、アイドルとして本物の愛も重ね合わせているため、完璧で究極に自然な笑顔を浮かべていた。

 

「ちなみにさ?」

 彼女は妖艶な表情と声を見せる。

 

 女優としてのそんな一面も知っているだろうが、ライブでこういう姿を見せるのは初めてだったため、誰もが思わず息を呑んでしまう。覚悟はしていたことだが、とうとう彼女の口から語られるのだろうかと。

 

「ん、もう察してるよね、今日がB小町最後のライブ」

 包み込むような優しい雰囲気に変化した。

 

 それは、まだ世間には見せたことのない『母性』を感じさせるものであり、慈愛に満ちた表情だった。決して演技ではなく、彼女の本当の姿の1つであって、それは特定の人たちに向けられてきたものだ。

 

 そして彼女は、一度(うつむ)いて。

 顔を上げれば、1番星のアイドルとして輝く。

 

「あと2曲! 盛り上がっていくよ!!」

 

 アイは天高く 人差し指を上げてポーズをする。

 

B小町のアイとして最後の新曲!『アイドル』!

 

 他のメンバーは一歩下がり、イントロと同時に彼女は歌い始めた。

 

 

★☆★☆

 

 

 「無敵の笑顔で荒らす メディア

  知りたいその秘密 ミステリアス

  抜けてるとこさえ 彼女のエリア

  完璧で噓つきな君は

       天才的なアイドル様♪」

 

 アイドルの歌う愛や恋は必ずしも本物でなくてもいいし、嘘でも貫けば本物になるかもしれない。そう願ってからアイドルになった。その時から今日まで培ってきた経験と知識、感情、自分が持ちうる全てをこの歌と踊りに込める。

 

 始まりは嘘だらけで、あまり自分の感情すら分からなくて、自己紹介も何となくでやった。人のことをあまり覚えられないから、基本的に誰かを名前で呼ぶことはなかった。表情を作って愛想笑いをしていれば、怒られずに何事も上手くいくと思っていたから。

 

 女子同士の恋バナというものに巻き込まれることも多かった。愛や恋について知識を得る機会だと思ったが、牽制や嫉妬のようなものを感じた気がする。どこか恋愛感情の押し付けのように思えて嘘っぽかったと思うし。

 

 同級生の男子から告白されたこともあるけど、はぐらかすように断った。ライブでも『愛してる』って嘘を伝えても好評で、恋愛感情を含んだようなファンレターもあったと思う。そんなことより、どうしても愛する対象が欲しくなっていた頃だったなぁ~

 

 『愛してる』と嘘をついていても、どんどんファンは増えていく。たとえ歌や踊りが一線級でなくとも、周囲の期待に応えるように、自分はB小町のセンターであり続けた。まさしく完璧で究極のアイドルとして(まぶ)しすぎたのかもね。

 

 いじめがあって、それが原因でやめさせられたメンバーもいた。実力の差に挫折した子たちもたくさんいた。他にも嫉妬したメンバーと喧嘩したまま、和解するには長い時間が必要だった。私はどんなに嫌われても我慢し続けて、それでもセンターとして輝き続けなきゃだけど。

 

 今のメンバーは、私を1人のアイドルとして、そしてライバルとして見てくれている。こんな風に、みんなそれぞれの輝きを見せて隣に並び立ってくれる。星のように輝いて星座のようにまとまるのがB小町なんだって、今なら分かる。

 

 「得意の笑顔で沸かすメディア

  隠しきるこの秘密だけは

  愛してるって嘘で積むキャリア

      これこそ私なりの愛だ」

 

 B小町でアイドルをやれてよかったって思う。嘘でも愛を伝えてきたことで、本物にどんどん近づいていけた。私の歌が支えになっていた子がいたと実際に聞いたこともある。

 

 「流れる汗も綺麗なアクア

  ルビーを隠したこの(まぶた)

  歌い踊り舞う私はマリア

     そう嘘は飛びきりの愛だ」

 

 昔の私は愛が分からなかった。本当の愛してるを言いたかった。愛する対象が欲しかった。家族という繋がりが欲しかった。そして、子どもたちを守るために嘘でずっと隠し通している。いつの間にか、愛情は心の奥底で宝物になっていたと気づけた。

 

 嘘という魔法で輝いて、本物の愛にたどりつくために、アイドルになった。でもファンのためにも続けたくなった。嘘で子どもたちのことを隠し通しながら、アイドルを続けている。パートナーとしての幸せ、母親としての幸せ、アイドルとしての幸せ、全部欲しいから。

 

 星野アイは欲張りなんだ。

 

 一度本棚を整理してから目的の本を見つけるように。言葉として引き出すために少し時間はかかるけど。

 それでも、愛はあって、心の底で宝石のように輝いているから、あとはその感情をありのままに見せるだけでいい。1番の愛を向けるのは家族だけどね。本物の愛を、ファンのみんなにも届かせたい。

 

 「等身大でみんなのこと

  ちゃんと愛したいから

  今日も嘘をつくの

  この言葉がいつか本当になる日を願って」

 

 「それでもまだ

   君と君にだけは言えずにいたけど」

 

 「ああ やっと言えた

  これは絶対嘘じゃない

     愛してる♡♡♡」

 

 

 これが私、B小町のアイの軌跡だよ。

 

 無限にも思える星々で夜空がに包まれたようだった。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 ラストはB小町全員で『サインはB』を歌ってくれている。俺たちファンはそれぞれの推しに向かって、サイリウムを振ったり声援を送ったり、愛を向けていた。

 

 たぶんあれ、全員アドリブの動きなんだろう。

 それでも形になるのはプロだからだからこそ。

 

 センターが競うように入れ替わると、サイリウムの色が盛り上がるように動く。めいめい、たかみー、ニノ、ほか3人も、それぞれの輝きや表情で目立っている。モチーフの色はそれぞれ分けていて、彼女たちは仲間であってライバルなんだ。

 

 やはりラストは実力でアイがセンターに出てきた。

 6人のプロも満足そうに笑顔を見せる。

 

 7人で横一列に並び、声と動きを重ね合わせる。

「「「「「「「ア・ナ・タのアイドル

       サインはB チュッ♡」」」」」」」

 彼女たちは愛を振りまくように決めポーズをした。

 

 俺たちファンは、それぞれの推しに向かってモチーフの色のサイリウムを振る。赤、青、緑、オレンジ、紫、黄、ピンク、それぞれの色でドームがまるで虹がかかっているようだ。

 

 

 俺と瑠美衣と愛久愛海は赤色のサイリウムでオタ芸を披露していた。隣にいる斉藤さんと父さんなんて大泣きしながら7本のサイリウムを振っている。母さんやミヤコさんも7本のサイリウムを握っていることで、涙を拭けなくて大変そうだ。

 

 まあこれでB小町も終わりだと思うと、切なくなる。

 

 

 1人ずつ挨拶や感謝をしたり、今後のことを語ったり。

 その度に そのメンバーの色のサイリウムが揺れた。

 

 こんなにも、B小町は愛されている

 伝説のアイドルグループとして語り継がれるはずだ。

 

 

 そして、そのラストを飾るのはアイで。

 

「みんな! ありがと! 心の底からありがと~~!!」

 

 身体全身で叫ぶように、彼女は本音を伝える。

 まるで青空のような笑顔だった。

 

「私はマルチタレントとして活動していきます!

 アイドルのアイから 芸能人の星野アイになるよ!」

 

 彼女が芸能活動を続けてくれると分かり、ファンのみんなが歓喜の声を上げる。中には感激して号泣している人たちもいて、これからもその輝きを見たいからだろう。名字を公開したことも、彼女の本気度が伝わってきたはずだ。

 

 会場は温かい声援に包まれ、B小町の他メンバーたちも心の底から拍手をする。

 

「それと、みんな! 重大発表するね~~!」

 

 そう言うと会場は静かになっていく。

 その静寂の中で彼女は幸せそうに深呼吸した。

 

 

 星野アイは恋する女の子として。

 「私ね! 結婚します!!!

 幸せいっぱいな素顔で叫ぶ。

 

 

 『………え?』って

  ポカーンと会場全体が静かになって。

 

 

「「「はぁーーー!?!?」」」

「「「えーーーーっ!?」」」

 

 他のB小町メンバーたちが驚くのも仕方ない。

 彼女たちにすら秘密にしていたことだから。

 

「3日後に会見! 詳しくは苺プロの公式サイトをチェック☆」

 

 誰もが固まっている中、CMのようなセリフを可愛く言いながら、すっきりした表情のアイがスタスタとステージを歩く。

 

「アイドルのアイを愛してくれてありがと☆

   これからは星野アイとしてよろしくね!」

 

 『みんな愛してる~~~!!』と心の底から叫びながら、満面の笑みでアイはファンサをしつつスキップするように降りていく。

 

 「「「愛してる~~~~!!」」」

 B小町メンバーも、スタッフも、会場のみんなも、ちょっとやけっぱちに返事をした。

 

 解散のライブで結婚宣言という。

 そういう意味でも、B小町は伝説かもしれない。

 

 

「そだ、B小町のみんな! 一緒にアイドルしてくれてありがと! 私はみんなのこと愛してるよ! 私、もっともっと幸せになるね!」

 

 一度振り向いて、彼女はそう伝える。

 嬉し泣きしていて声は震えていた。

 

 

 『まったく』って表情で、最後の最後まで振り回されたメンバーたちは青空のような笑みを浮かべた。愛を振りまいてきた『完璧で究極のアイドル』だったのに、今の姿は『恋に夢中な女の子』にしか見えないから。

 

 彼女たち6人が拍手を始めると。

 会場のあちこちから拍手が聞こえ始めて。

 

―――星野アイという女の子の幸せを祝福するように

 

 ドームは拍手喝采となる。

 

 

 

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