まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
苺プロは全員が忙しくしていた。
大量の記者が来て、会見は生放送にもなるらしく、その打ち合わせをやってくれている。
斉藤さんやミヤコさんだけでなく、事務所の人たち、元B小町メンバー、所属するネットタレント、他にもたくさんの人たちが、俺たちのために各自協力してくれていた。
まず明るい話として持っていけたのは、ドームライブやその後のインタビューで、やはりアイのおかげだろう。
そこから、まるで炎上がコントロールされるようにトレンドが扱われていった。取材を受けたメンバーたち、番組に出ている芸能人たち、あちこちの配信者たち、今回の件を祝福するように話してくれる人が多かった。
SNSでは『ストーカー事件で守った男性では』という噂も増えていて、ずっとスマホを操作している瑠美衣や愛久愛海だけでなく、最近ベランダでよく見かけるカラスのおかげな気がする。
さらに、苺プロは芸能界で堅実にやってきたこと、そしてアイ自らが公表することも、こういう会見が印象の良いものとして捉えられた要因だろう。
しかし事務所は禁止していないとはいえ、アイドルが男性と付き合っていたことは明白だ。まだ公表していないが、すでに双子がいることも伝えることになるので、どこまでの規模の炎上になるか未知数だ。
万が一のことはあるかもしれないから、瑠美衣と愛久愛海は両親に預けている。
「緊張してる?」
「武者震いというやつだな」
待機場所で段取りを確認していたアイに尋ねられたけど、そう断言できる。
これは俺とアイの関係を明かすことで、瑠美衣と愛久愛海は自分たちの子どもなんだ、と世間でも言えるようにするためだ。まさしく真っ向勝負であり、俺たちは前に進むために、家族で一緒に苦難に立ち向かうだけだ。
「いつも通りのクリス君だね」
「そっちこそ、いつも通りのアイだ」
アイも芸能界で過ごした場数は多く、彼女が隣にいるのは心強い。
もし何かがあったとしても俺が守り通すから、アイは自信をもって会見に挑んでほしい。
時間となって2人揃って会場入りすれば、一斉にカメラが向けられた。
まるで魔法が飛び交うような閃光の嵐だが、慣れているアイは ほどほどな可愛さアピールをするくらいだ。まあ俺も『いつも通りでヨシ!』と言われているので、軽く会釈をしながら2人で席につく。
まず司会進行によって、芸能人の星野アイとして自己紹介をさせてくれている。その時点で俺からの注目を一気に持っていくのだから、1番星のアイドルなのだと改めて実感させられた。
次は俺の出番らしい。
「はじめまして、月村栗栖と申します」
あらかじめ、お相手は『一般男性』と苺プロが伝えてくれている。そのため、芸能人らしい自己紹介は必要ないはずだ。だって、アルバイトやパートやっているとはいえ、専業主夫くらいの肩書きしかない。
記者たちは『2人の関係は?』みたいに目で訴えかけてくるが、結婚予定の相手って言うとありきたりだろうか。どちらにせよ、俺にもう少し話してほしそうだ。
「星野アイさんとは、小学校からの同級生でした」
そう言うと、心の底からの笑顔を見せて頷くアイが可愛らしいけど、ここでイチャイチャするのは我慢する。これに関しては特に斉藤さんから止められているが、さすがに俺たちも場所は選ぶ。
「具体的なお付き合いの期間… それについてはまず、大切なことをお伝えしないといけません」
アイはそう言って、真っすぐに前を見つめる。
俺たちにとって何よりも大切なことだ。
『世間的に、隠し子と言うのでしょうけど』と言い終わった瞬間に、間髪を入れず俺とアイは一緒に立ち上がる。
「愛してる双子がいます! 今年で6歳になりました!」
誰もが困惑している様子で、真剣に俺たちは向き合う。
頭を下げて謝罪はできないことだから。
「つまり、私は16歳で子ども2人を産みました」
「私とアイさん、2人で一緒に悩んで決めたことです」
記者たちは顔を見合うだけで、質問が来ない。
まるで雰囲気に呑まれているようだった。
なら、こちらから話すとするか。
「なぜ16歳という若さで産んだのか、なぜ隠してでもアイドルを続けたのか、聞きたいことは多いでしょう」
会場のみんなが頷いた。
俺もアイも台本なんて作ってなかったけど。
嘘をつかずに事実を伝えればいいだけだから。
「愛を求めていた少女が、幸せな家族が欲しいと願った… そんな話をさせていただきます」
物心がついたときには父親はおらず、少女は母親に育てられていた。
それでも幸せに育っていたが、いつしか痛みや
母親がとあることで逮捕され、少女は施設に預けられる。
しかし釈放されてからも、迎えに来てくれることはない。そうして彼女は唯一の家族と離れ離れになってしまう。母親の愛情なんて『嘘』だったのではないかと疑いつつ、それでもいつか迎えに来てくれるって母親のことを信じながら、義務的に小学校に通う日々が続く。
少女の転機は中学生になった頃だった。
苺プロの斉藤社長に、アイドルとしてスカウトされる。アイドルの歌う愛や恋は必ずしも本物でなくてもいいし、嘘でも貫けば本物になるかもしれない。だからアイドルになれば、本物の愛を手に入れることができるかもしれないと、少女は考えた。
ある日、アイドルになることをクラスメイトの1人に相談してみた。少女にとっては世間話のようなもので、その中で愛について尋ねてみる。そこで返ってきたのは『友愛』であり、少女は愛の1つを簡単に手に入れることができた。そして同時に、両親がいる彼に嫉妬した。
アイドル活動は決して楽しいことだけじゃなかった。
愛を知ろうとして、慈愛の心で接するようにしていた。
だけど、深く愛する対象が欲しくなっていく。なぜなら少女が無自覚に求めていたのは家族愛だったから。
そして自分の家族をつくればいいと考えた。その協力者に選んだ男性は『愛している』と心の底から言ってくれている。
でも、16歳を迎える女性の中では不安が
「私は不安を打ち明けて、私の願いをしっかり聴いてくれて、私の安全のことまでしっかり考えてくれました。そして、一緒に悩んで、一緒に選ぼうって、一緒に苦難を乗り越えようって……」
『えっ、あれがプロポーズ!?』とアイが顔真っ赤になってしまった。俺の話を一度引き継いでくれたが、久しぶりに愛情や恋愛感情で限界突破したらしい。
なので、再び俺が口を開く。
「その後すぐに、私の両親、アイさんの保護者の斉藤夫妻に相談しました。2人で覚悟を伝え、これからのことについて説明して、実際にすぐ行動しました」
例えば通信制高校に編入して、アルバイトをさらに増やした。アイの入院期間は病院の近くに住み込んで、面会時間が許される限り側にいた。その時も産まれてからも、通信制高校のことと、育児と家事を両立した。
無事に双子が産まれ、体調が戻り次第にアイ自身も子どもたちの養育費のためにも、アイドル活動へ復帰した。活躍を願ってくれるファンの皆様のために、アイドルとして心の底から愛を伝えたいから。
そういったことを話していると。
「あ、あの、ご両親と暮らしていたのですか?」
記者の1人が思わず、そんな質問をしてしまったようだけど。
「あまり詳しくは知らないのですが、アイさんの入院時期にすでにストーカーに狙われていたらしく」
そういえば裁判始まったんだっけ。
最近忙しくて無視していた。
「できるだけ人の出入りが少ないよう、私とアイさんと子どもたち、マンションで4人暮らしですね。特に問題もなかったのですが、月に1度くらいで様子を見にきてくれましたよ」
なんだかドン引きされているようだが。
瑠美衣と愛久愛海が賢くて優しいからだと思う。
「住所や子どもたちのことは身内だけで秘密にしていましたが…… しかし実際にストーカーによって、アイさんが命を落としていた可能性すらあります」
「1回目のドームライブの時ですね。あの時は関係者の皆様、ファンの皆さん、延期をご理解いただいて感謝しています。応援の声も本当にありがとうございました」
アイが命を落としていた可能性は十分ある。
改めて、守り通せてよかったと思う。
アイがあの時のことをちょっと興奮しながら話し始めた。
俺からは アイが子どもたちと一緒に応急処置をしてくれたことを話しておく。一応は古傷として残しているけど、テレビに映すのはどうかと思うので手袋はしたままにするけど、『え~』って頬をプクプクするアイが可愛らしい。
「さて、長々と失礼しました。皆様が他に気になることは、なぜ隠し通さなかったのか、でしょうか」
俺が問いかけると、記者たちが一斉に頷いた。
話がスムーズに進められるから助かる。
俺とアイは、カメラに向かって再び真剣に向き合う。
「「私たちの子どもたちです、と自信を持って言えるように」」
小学校の入学式や運動会に行ったり。
家族4人でショッピングに出かけたり。
「愛を求めていた彼女が、幸せな家族が欲しいと願ってくれて、2人で一緒に選択して、そして
「私が仕事をしている分、彼は育児や家事はもちろん、精神的な面で支えてくれています。子どもたちも幸せそうに元気に育ってくれています」
「子どもたちの養育費だけでなく、復帰を願ってくれたファンの皆様のためにも、彼女は本気でB小町の活動に復帰して、全力で取り組んできました」
「愛してるって伝えてきたのは、アイドルとしての私の本音です。数多くの皆様にもらってきた愛を込めて、私は本物の愛を伝えるような活動をしてきたつもりです」
「「どうか、私たちの結婚を祝福していただけませんか」」
☆☆☆
数日後、多くのファンレターやプレゼントが届く。
そしてその中には。
―――星野あゆみさんという方から来ていて
俺も読ませてもらうが、昔この人は精神的な余裕がなくて、そして当時に再婚相手として付き合っていた男性とトラブルも多かったらしい。どんな理由があろうと娘に
『自分勝手に離れてしまって、ごめんなさい』
『迎えに行かなくて、ごめんなさい』
後悔や謝罪の言葉がとても多くて。
『ずっとCDは買ってきた』
『これからも星のように輝いてほしい』
最初期からアイを応援してくれていて。
『言う権利はないだろうけど 愛してる』
『どうか彼や子どもたちと一緒に幸せになって』
―――アイはお母さんからずっと愛されていた
「早く言ってくれたら……よかったのに……」
「愛するのに…権利なんて……いらないよ……」
「
「愛してる……私もずっと愛してるよ……」
涙で濡らしながら書かれた手紙が 涙で濡れていく。