まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
瑠美衣と愛久愛海で話し合ったらしく、俺から本格的に家事を習うようになっている。瑠美衣は目玉焼きに挑戦してくれたり、愛久愛海は普段と少し違った味噌汁を作ってくれたり、朝から俺とアイが喜びで号泣した。
今後アイが出産間近となったとき、俺の両親に2人を預けようともしていたけど、この調子なら自炊して過ごしてくれるだろう。育児の際に、俺の家事の負担も気にしてくれているらしく、ホントに賢くて優しい子たちだ。
そして、ある休みの日のこと。
先日に『
話によれば有馬ちゃんらしいから、大げさにする必要はないとのことだ。なおさら歓迎したいんだけど。
アイは直接会ったことがないので、ずっとそわそわしていた。
「お、お邪魔します……」
「こ、こちらこそ……」
可愛らしいファッションの有馬ちゃんが、普段着のアイと初めて会うことになったけど、玄関でお互い緊張している。俺や愛久愛海と瑠美衣は面白がってとりあえず見守る。
「その……聞いてもいい?」
「え、ええ……いいですけど……」
アイは深呼吸して。
胸の前で両手を ぎゅっと握った。
「幼なじみなんだよね!? どこまで進んでる!?」
『……はい?』と有馬ちゃんは首を
まあアイの中で幼馴染って特別視されているから。
ここで立ったままのも申し訳ないので、愛久愛海や瑠美衣が有馬ちゃんをリビングまで案内してくれる。アイは教室でのエピソードを聞きたそうに そわそわしていて。
(有馬ちゃんは2年生らしいよ)
(そんなぁ!?)
目で伝えると、もしも俺たちがそうだった可能性を考えたらしい。ショックで震えてしまったアイを安心させるべく、お姫様抱っこで運んであげると、有馬ちゃんにビックリされた。この子のご家庭ではしないのだろうか。
有馬ちゃんの対面になるよう、ソファに2人で座る。
「一応紹介しておくか。俺の母さんのアイだ」
「アクアとルビーの母親だよ☆」
「改めて、父親の栗栖です」
「はじめまして 有馬かなって言います」
ソファに座ってペコリと軽くお辞儀する。
どうにもかしこまった感じだけど。
「かなちゃんも麦茶でいい~?」
「それでお願いするわ、ルビー」
そうそう、こういう雰囲気が有馬ちゃんだ。
冷蔵庫を開けている瑠美衣が有馬ちゃんに持っていってくれるので、俺も手伝うことにする。その間に3人が話していて、どうやら女優としても大活躍中のアイと話してみたかったらしい。
「―――も見ました! 今の演技の参考に!」
「およ? だいぶ前の作品まで知ってるんだね」
すっかり芸能界のプロの会話になっている。
有馬ちゃんにとって、アイの演技は目標らしく、たとえ主演じゃなくとも評判を持っていくところに憧れているようだ。愛久愛海もしっかり会話に混ざっていて、2人とも身に着けている知識量がすごいな。
「それで、ルビーやアクアにオススメされて、曲も聴いてるんです! アイさんがB小町の時の―――とか!」
「えへへ 懐かしいなぁ~」
「「「アイはいいぞ~」」」
俺たちファンの中で、有馬ちゃんの評価がさらに上昇した。
すっかり有馬ちゃんもファンになってくれたらしく、アイは特別にサインも書いてあげた。たぶんアイの演技における輝きは、天性のそれだけでなく、アイドルで培った経験や知識によるものだと感じてくれているのだろう。
「ステージと違って、テレビはカメラに可愛く撮ってもらえばいいだけだよ」
「ふむふむ。やっぱりアイドルだからできる演技なのね」
まるで有馬ちゃんがインタビューをしているようにメモを取っていて、アイは他にも意識していることを語っていく。特にほぼ毎日やっている表情の微調整には、『10秒で泣ける天才子役』も心の底から感嘆の声を出していた。
他にも毎日やっていることを話せば、努力家な有馬ちゃんは真剣にメモに書き込んだ。
「私たちも一緒にやってるんだよ☆」
「僕は母さんやルビーより全然だけどな」
「……うらやましい限りだわ、ホントに」
有馬ちゃんは寂しそうに呟いた。
俺たちに弱音を見せてくれるといいけど。
我慢強いところもあるみたいか。
「今日は苺プロの話もするんだったな」
「ええ、よろしくね」
ひとまずは目的を果たすべく、愛久愛海が資料をテーブルに広げた。
子役部門の内容だけでなく、女優部門の実績や福利厚生などなど、フリガナ付きで丁寧に分かりやすく、ちゃんと小学生向けになっている。
愛久愛海自身の欲望を隠しきれず、アイドルに関する内容もいくつか混じっていて、そこは選べる形式にしているようだ。実はまだ元B小町の女優しかいないけど、それでも十分ノウハウはあって、有馬ちゃんの今の目標が『星野アイの演技』なら興味が湧くだろう。
そしてボールペンで示しながら、じっくりと説明してくれる。
「―――という感じだな」
「へぇ~~ ふ~~ん そうなんだ~~」
愛久愛海が自分のためだけに作った資料だって、幸せそうな笑顔の有馬ちゃんも気づいたらしい。表情がデレデレで可愛らしいな。
「今なら苺プロに入った特典として、母さんからの指導も、僕たちと一緒に受けられるぞ」
「すぐ入るぅ~~!」
満面の笑みで即答した。
「かなちゃんが入ってくれるの嬉しいなぁ~」
「よろしくね! かな後輩ちゃん!」
「芸能歴なら あんたより私のほうが長いわよ!」
ともかく有馬ちゃんが良いなら、まずはミヤコさんに頼んで、保護者様や今の事務所に交渉してもらわないとな。
☆☆☆
僕たちはいつもの公園にやってきていた。
アイドルのトレーニングが減っている分、母さんは以前より体力が落ちているらしい。それでも、父さんやルビーのサッカー遊びに付いていけるだけ、20代女性の中では運動ができるほうだろう。
そして僕は有馬と一緒に。
「ボールから目を離すなよ」
「そんなこと言ったって…… へぶぅ」
可愛らしい反応だった。
柔らかいボールが手に弾かれて、コロコロと転がっていく。
こういうボール遊びに不慣れなのは知っていたが、さっきから目を閉じてしまっている。去年よりそれなりに動けるようになってきたとはいえ、体育の授業は大丈夫なんだろうか。
今日の有馬の予定は3つ、母さんに会うこと、苺プロの話、それとドッジボールの練習だ。
「軽く投げるから、次は目を閉じるなよ」
「はわわわわ」
山なりに落ちてくるボールを、真っすぐに見つめて、しっかり抱え込んだ。
「取れたわよ! なによ、簡単じゃない!」
「やるじゃないか」
有馬は褒められると、心の底から嬉しそうにする。
普段は背伸びして我慢強いけどな。
「えいっ!」
「まっ、当てるのが目的なら、こういう山なりは使わないけどな」
今度は有馬から投げてくるので、僕は片手で勢いを止めて、落とさないよう両手でしっかり掴む。
「だったら?」
「いわゆる外野、そこにパスする時だな」
そう教えながら、俺は再び山なりに投げる。
小学生に大人気なボール遊びは、今思うとなかなか奥が深い。ルールもシンプルで、しかもターン制で分かりやすく、多人数が同時に動き回るというのは面白く感じる子は多いと思う。
「他にも体力テストやソフトボール、結構こういう投げ方はする。つまり身に着けておいて損はない」
「ふふっ クラスの子に自慢してやろーっと」
しっかりとボールを抱え込んで笑顔で喜んだ。
そして自信を持って楽しそうに投げ返してくる。
ホント、アイドルに向いているよ。
「さて、次は当てる場合だな。ここからが本番だ」
ドッジボールについて、むしろ基本の動きになってくる。
「普通にガチで投げる。当たると普通に痛い」
「痛いの!? それが普通なの!?」
当時とても恐怖したことを記憶している。どうしてもこういう遊びには熱くなってしまうようで、男子の集団には剛速球で投げ込んできた。もしくは同じくスポーツ仲間が中心に立って真剣勝負を繰り広げる。
「まあ有馬は可愛いから。手加減してくれるはずだ」
「えっ、かわいいっ!?」
どう見ても可愛いだろ。
僕も当てたくないと思うくらいに。
「そ、そう思う?」
「アイドルもできる容姿や声の可愛さだろ」
有馬の選択次第だが、ぜひともやってほしい。
「とりあえず実演をしようか。父さん!」
僕は腕を振って、直球を投げ込んだ。
「ん?」
僕が今出せる全力のボールだったのに。
見ないで片手でキャッチして、ほぼノーモーションで投げ返してきた。
「くっ……」
身体全体で受け止めるが、衝撃で少し後ろに下がってしまう。もし後ろのほうだったら、コート外に出ていたかもしれない。それに、まだ今の僕の身体では、全力で投げるには身体の負担が大きいか。
こういう自分の体調管理も大事だって、父さんにはよく言い聞かせられている。
「というのがドッジボールの基本だ」
「ドッジボールこっっわ!!」
良いリアクションだな。
さすがは『10秒で泣ける天才子役』。
「これくらいが中学生レベルのボールだろう」
「あんたまだピカピカの小学1年生でしょ!?」
そういえばそうか。医者になってからたまに筋肉痛に悩まされていた頃より、ずっと動けて楽しいからよく忘れてしまう。
公園で遊ぶときに例えば、瑠美衣をおんぶして木登りしたり、母さんを肩車して走ったり、よく父さんは人外の動きをするし、そのおかげで母さんはあの時刺されなかった。
僕たちの身体能力はそんな父さんの遺伝だと思っている。
「私、自信なくなってきたかも……」
「そのうちスポーツ仲間がメインの遊びになってしまうな」
あまりハッキリとは憶えていないが、たまに回転をかけてカーブボールの使い手すらいた気がする。バスケ部が相手に来たときなんて、キャッチから投げる動作が早すぎた。
「無理なら避けてもいいぞ? そういうルールだ」
「あおってない? ねぇ、あおってるわよね?」
僕が投げて、それを有馬が避ける。
それじゃあ今の時間が面白くないだろ。
「まっ、さっき言った通り、有馬は可愛い女子だ。手加減してくれるさ!」
「わわっ! いきなりズルいわよ!」
できるだけストレートになるように、そして当たっても痛くないくらいのボールを、有馬は両手でしっかり抱え込んだ。こういうときに安心した表情を見せて、宝物を大切にするような姿も可愛らしい。
「このっ! お返ししてやる!」
「良いボールじゃないか」
やはり有馬と遊ぶのは楽しい。
僕のボールだからなのか、必ずキャッチしてやるって、そういう気合の入った表情だ。
「あーあ 一緒の学年が良かった!」
「それも楽しそうだな!」
僕は、有馬の輝きをもっと近くで見ていたいから。