まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
・原作読み直していますが苦難が多すぎる
すぐ とは希望されたものの、契約期間を考えれば、最速で来年の4月くらいの移籍になる。遅くてもっと年単位でかかるだろう。
どうやら愛久愛海はすでに斉藤さんと話を詰めていたらしく、本気になった彼は凄いな。先日の勧誘は、全てが上手くいったとした場合において、有馬ちゃん自身の意思確認だったらしい。
話によれば、彼女は天才子役でありながら、現在所属の事務所は扱いに困っているとのことだ。出会った頃はプライドが高めだとは思っていたけど、少しずつスタッフとのコミュニケーションは良くなってきている。それにしては、いくらなんでも悪目立ちが続いている。
原因が彼女の母親にもあるからだろう。
娘に過干渉なようで、大きい仕事を常に希望する。まるで自分自身が大女優かのように、待遇について口出しをする。スケジュール管理や送迎も事務所に任せることが多い。
五反田監督に聞いた話によれば、初めて会った時の撮影でも『うちの子があの2人のせいで目立ってない』とトラブルがあったようだ。彼は知ったことかと、有馬ちゃんに挫折を経験してもらったみたいだけど。
しかし恐らく立場上、多くの撮影の監督たちは、配役に関する指摘やクレームを入れられたとして、事務所にこっそり愚痴を言うことになる。そして事務所は保護者と板挟みになって、このままの状況というのは面白くはないのだろう。
つまり移籍については、事務所より母親次第になりそうだけど、というか稼いだお金は有馬ちゃん自身が考えて使っているのだろうか。それに、有馬ちゃんは本当に愛されているのだろうか。
今は子役だからとはいえ、このままでは有馬ちゃん自身が芸能界を渡り歩いていくノウハウを学ぶ機会がなく、あと数年もすれば出演依頼が減っていくかもしれない。
斉藤さんは『任せておけ。こういう話で札束を投げつけたことがある』と良い表情で言っていて、愛久愛海も『使える物は全部使う』と大量の資料を読み込んでいるので、芸能界に詳しい2人に任せるとしよう。
☆☆☆
愛久愛海と瑠美衣が小学校に通い始めたことで、俺は苺プロの事務所で働く時間がさらに多くなった。
コネと言われればそうなんだけど、少しでも家族と過ごせる時間が増えるので気にしない。子役部門に関すること、アイの送迎などが中心となっている。
3人がレッスンだとか、事務所に揃っているような時は、主にミヤコさんの手伝いをしていた。あの人はアイのマネージャーでありながら要領がよく、様々な部門の統括もしていて実質的に副社長なので、その仕事量が多すぎる。
たまに彼女がいない場合の引継ぎを若手社員に行っていることも見かける。たぶん将来的な計画だと思うけど、身内の女性陣の中で何か話し合いがされているようだ。
とりあえず土曜日の今日は倉庫の整理だったのだが… すごかった。個人的になかなか満足したところで、俺はミヤコさんがいる部屋に戻ってくる。
「作業終わりました」
「ありがとう。こういう力仕事を任せられるの、壱護か貴方くらいだから」
この人、社長な斉藤さんにすら仕事を任せるところあると思う。今日はテレビ局で重要な会議に参加しているらしい。昼からは戻ってくるみたいだから、愛久愛海と話し合いだろうな。
「いえ、特別に働かせていただいている身なので」
元B小町メンバーでタレント部門が拡大したことで、多くのスタッフがあちこちに駆り出されることになった。引き続き、ネットタレント部門も成果を上げ続けている。
そのため事務所にはデスクワークが貯まっていて、猫の手も借りたいほど忙しそうだ。
俺もメールの確認をしていく。
少し時間が空いてから、ミヤコさんはキーボードやマウスから一旦手を離して、リラックスするべく身体を伸ばした。そろそろ基本的な休憩時間に近い頃合いだな。
見たところかなり疲労が溜まっているので、負担をかけない程度に回復魔法をかけておくことにしよう。
「肩もみしましょうか?」
「え、ええ、お願いするわ」
早速始めると、『こういうのを求めていたのよ』と呟くミヤコさんだけど、どういう表情なんだろう。まあ声色から喜んでいることは分かるからいいか。
「あ"あ"~ 効くわ~」
すごい肩こりで、すごい声だな。
よく両親やアイにやっていたように、早めにミヤコさんにも行ってあげればよかった。俺の手の届かないところで、この人には側でアイを見守ってもらってきたから。
「そういえば、倉庫がそろそろ限界だと思いますよ」
「あ~、やっぱり?」
もしオークションに出したなら、プレミア価格になりそうなグッズも見かけて面白かったし、まだ生産数が少ない時のキーホルダー『アイ無限恒久永遠推し』なんて懐かしかったし。
「あの人、ホントに物を貯めるから」
「アイもそうなので、実家の俺の部屋は倉庫ですね」
B小町の思い出だったり、ファンから貰ったものだったり、そういったものを大切にしたい気持ちが強いのだろう。そんなワガママをどうにかしてあげたいってくらい、俺たちはそれぞれのパートナーを愛している。
「ふぅ~ だいぶ楽になったわ。ありがとう」
「どういたしまして」
『うそっ、たった3分で?』と驚いている様子だけど、昔のアイと似たような驚き方だな。まあ言いふらすこともないだろうし、どうせ身内限定だし、疲れている人に使わないのもったいないし。
「では、お昼休憩に入りますね」
「ええ。みんなとゆっくり休んできて」
満面の笑みで送り出してくれた。
やはりミヤコさん自身がモデルをやれそうなくらい綺麗だなと思う。そういう依頼が実際あっても、スケジュール的に断っているらしいけど。
とか思っていると、ガシッと腕を掴まれて。
倉庫へ連れ込まれるのを受け入れる。
☆☆☆
ごきげんなアイと一緒に、瑠美衣や愛久愛海とも合流した。
どうせだからってミヤコさんの部屋に家族みんなでお邪魔させてもらって、お弁当を食べながら おしゃべりもした。『ミヤコママ お菓子ある~?』『ミヤえもん 私もほしい~』ってアイと同じくらい瑠美衣も懐いているようだ。
瑠美衣はアイから本格的な指導をしてもらったようで、その成果を明るく語っていた。すでにB小町の曲をいくつか踊れるらしいけど、デビューまではもう少し年齢的な成長が必要だろう。
愛久愛海は子役のレッスンを素早く終わらせた後、最近仲が良い五反田監督の手伝いをしていたようだ。まだ彼は俳優になるかは迷っているらしく、縁の下の力持ちのような仕事にも興味が出てきている。
昼からは、アイがミヤコさんの送迎で収録に、瑠美衣は音楽のお勉強で、愛久愛海は手伝いの続き、それぞれの場所へ向かう。
夕方になれば俺が子どもたちを連れて、先に帰宅することになっている。
そして、俺は身なりを整えてから。
「いらっしゃいませ、天童寺様」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
広告代理店の女性を玄関から応接室に案内する。
「星野栗栖と申します。本日は
「あら! お噂はかねがね」
妻のアイが超有名なので、やはり先方の第一印象がかなり良くなる。
苺プロもかなり成長したとはいえ、まだ芸能界では新参者として見られがちだ。ミヤコさんが後日さらに詳細な内容を担当してくれるので、最初の挨拶として気に入ってもらえれば役目は果たせるはずだ。
指輪がふと見えたけど、彼女も母親なんだろうか。