まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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4話(劇団ララライ)

 

 

 

 その日、劇団ララライは熱気に満ちあふれていた。

 

 時代劇を中心とした数多くの舞台を行っていて、近年かなり有名になっていた。何人かエース級の役者がいて、実力で団体としての評判をどんどん上げている。

 しかし、とある事情もあって最近は少し悪評を受けてしまっていた。

 

 それを払拭するためか、久方ぶりのワークショップが開催されることになった。宣伝の意味もあって、初心者からプロまで広く募集していて、希望があれば子役も対象らしい。つまり劇団としては、次代のエースを求めているのだろう。

 

 そんな凄いところに、俺まで参加させてくれて。

 今はアイと一緒に、稽古の体験をしていた。

 

「なんだい? キミが私と戦ってくれるの?」

「ああ、俺が貴女を止める!」

 

 互いに距離を詰めて。

 刀を交差させながら位置を変える。

 

 実際の戦いより、派手な演出を意識する。

 

「アハッ★ なかなかいい腕だね!」

 

 『ここまで生き残ってきただけはあるよ!』と言って、身体をひねって回転斬りを行ってくる。刀で受けて衝撃を受け流すように、俺はかなり距離をとった。

 

「はぁはぁ……危なかった……」 

 

「そんなに逃げないで、よっ!」

 

 刀を振り下ろして、たぶん飛ぶ斬撃なので。

 その角度と全く同じに刀を振って、斬り払う。

 

 これで隙はできたはず。

 

「体勢を立て直す前に、倒しきるッ!」

 

 地面を勢いよく蹴って、刀を勢いよく振り下ろそうとする。

 

 しかし、(あや)しい笑みを浮かべて、鬼姫は刀を自ら手離す。

 そして短刀を鞘から引き抜いた。彼女は確かに刀を扱うが、それは単なる武器でしかなく、侍としての誇りは持っていなかったのである。

 

「なっ!?」

 

 鬼姫は小柄な体を するりと潜り込ませてきて。

 逆手に持った短刀で華麗に斬り裂かれた。

 

「残念だったね?」

「ちくしょう……」

 

 俺の手から刀がするりと音を立てて床に落ちた。

 

 両腕の力を抜いて。

 その後、倒れ込めばいい。

 

「また強くなって、私を楽しませてよ」

 

 目を閉じて倒れたまま思うけど。

 これってそんなに致命傷扱いなのだろうか。

 

 まあこの後は見逃されて、強くなるために弟子入りしたり、他の弟子たちと修行編があったり、鬼姫にリベンジしたり、元凶のラスボスが出てきたり、いろいろある。

 

 という物語のシーンの1つだった。

 

「よしっ、そこまででいいだろう」

 

 金田一さんが手を叩いて音を出すと、拍手があちこちから聞こえてくるので、ようやく俺は起き上がることができる。戦いで気になった点、場面ごとの表情、台詞の言い方などなど、そんな感じのことを各グループの代表者が褒めてくれることになっている。

 ただし、アドバイスについては金田一さんだけが行う、というのがここのスタイルらしい。

 

 とりあえず俺は落ちている木刀を拾っておくけど、やはり重さが感じられなくて、武器を振っている気分にならない。そう思っていると、アイが軽くポンと肩をたたいてくる。

 

(ごめん、痛かったよね?)

(刺さらないやつだから平気だった)

 

 短刀はカシャカシャする小道具だし、アイは演技を迫真に見せながらも繊細に扱っていた。

 

(ん、ならよかったよ)

(にしても、演技に付いていくのでやっとだよ)

 

 台詞を覚えて、展開を覚えて、表情を考えて作って、できるだけ派手に動いて、あらゆることを同時並行しなければならない。

 

(合わせやすかったよ? ちょっと速すぎたかなーってとこがあったくらい)

(そこは焦ったところだと思う)

 

 こういう演技について、アイや瑠美衣や愛久愛海は日々努力しているんだと実感した。厳密には舞台で違うだろうけど、通じることは多いだろう。

 

(あと、アイに武器を向けるってのがどうにも)

(も~ 好き! 愛してる!

 

 って俺たちが目で会話していたら、金田一さんはゴホンと咳払いしたので、たぶん彼にはバレている。

 

 この劇団ララライ代表の金田一敏郎という方は、今は演出家として様々な演技を指導しているらしい。彼からすれば、俺たちのちょっとした仕草も見抜けるのだろう。

 

 まずはグループごとに、表情や台詞や動きなど、演技の初心者にも分かりやすい言葉で褒めてくれる。愛久愛海は『感情表現が参考になる』と言ってくれて、感激して泣きそうだった。

 そして、金田一さんによれば、観客に見せるには俺の動きがいくつか速すぎた。台本や共演者のアイに遠慮して、動作を始めるのが少し遅れているとのことだ。もしも本格的に演技をやっていくなら、自分で考えても動けるようになれって。

 

(まあアイがいないとできない演技だよな)

(ん? クリス君はそれで良いと思うよ?)

 

 それはそうかもしれない。

 

 アイに関しては、それはもう褒め言葉だらけで、その中でもべた褒めだったのは。

 魅せるために動きは派手に、それでいて自然な動きにしていて、常に観客を意識した位置取りもできている。役に入り込む『没入型』と、演技をサポートする『適応型』、どちらも両立していて、しかも役に応じて『私を見て』という輝きをオーラのように纏う。

 

 といった内容を黒川ちゃんって子が、メモを読み上げながら少し早口に語ってくれた。

 

「あっ、その…… 以上です」

 

 熱くなっていたことに恥ずかしくなったらしく、ぺこりと会釈して席に座った。もじもじとする彼女に、瑠美衣と愛久愛海は『グッジョブ!』とポーズで伝えている。

 

 その後の金田一さんの話は、かなり専門的で細かい助言だった。アイは真剣に聞きながら考えこんでいて、その話もまた成長の(かて)にするだろう。

 

「それでは、一旦休憩としよう。15分後に―――グループからだ」

「「「はい!」」」

 

 そう返事をして、金田一さんは席を立つ。

 彼が目配せしてきたので、俺とアイは付いていく。

 

 廊下に出れば、少し涼しい。

 役者たちで凄い熱気だったからな。

 

「今回は助かった。星野さんだけでなく、子役たちも連れてきてくれるなんてな」

 

 次回以降のワークショップの宣伝に、今日撮った様子を使うらしい。 

 とある事情のことを考えれば、アイが劇団ララライ自体とは友好関係があることは重要になってくる。愛久愛海や瑠美衣まで連れてくるのは、団体のことを信頼していると世間に伝わるだろう。

 

「いいよー そんなかしこまらなくて、私も金田一オジサンって呼ぶし」

 

 アイがそう言うと、彼は懐かしそうな表情をした。

 

「前回のワークショップのことは今でも思い出す。お前と、アイツが全部持っていった」

「いろいろ動きは参考になったよ」

 

 アイはその場で1回転してポーズをとる。

 『動』と『静』のような、そういう技術を劇団ララライで吸収したらしい。

 

「刀を振り回すの? あまり好きじゃないけどね」

「そうだな。アイツは喜んで教え込んでいたが、そういう点でも合わなかったようだ」

 

 ハテナマークが出ているように、アイは首をかしげる。

 

「ん? アイツ?」

 

「いや、それならいい。ところで星野栗栖君だったか、キミは何か武道を?」

「型はないですが、西洋剣? で剣術を少々」

 

 俺がそう言うと、彼は納得したような表情だ。

 

「なに、刀を振りづらそうにしていたのでな。キミも参加してくれて感謝するよ。うちのやつらにもいい刺激になった」

 

「いえ、こちらこそ演技を体験させていただけるのは貴重な経験でした。苺プロのアクアやルビー、そしてアイ、周りがみんな役者ですから」

 

 『共演できたの嬉しかったですし』って言うと。

 アイも満足そうな笑顔で頷いてくれる。

 

「体験か、そういう場でもあるがな」

 

 そして、彼は顎をさすった。

 

「役はこちらが選び、誰かがサポートすれば」

「クリス君は私の夫で、将来はマネージャー兼ボディーガードの予定だよ?」

 

 『だから誘わないでね?』とニコニコしていて、愛が重くて心地いい。

 

「誘えるとは思っておらんよ。夫婦で仲が良いことだ」

 

 そう言って、少し寂しそうな表情をした。

 昔のことを思い出しているように。

 

「そだ、そろそろ戻らなきゃじゃない? クリス君、ルビーとアクアの番でしっかり撮ってね!」

「任された。アイも演技指導役、楽しみにしてるね」

 

「キミたちの子か。噂によれば、相当の英才教育のようだが」

 

 そうつぶやいた金田一さんは、どこか挑戦的な笑みを浮かべた。

 

「アイが教え込んでくれていますね」

「クリス君からも良い意味で影響受けてるよ」

 

「さて、誰が最も目立つだろうな。子役組には… 姫川がいるからな」

 

 俺たちと、金田一さんの間で、まるで火花が散ったようだった。

 

 

☆☆☆

 

 

 小学生高学年くらいで、黒髪でボサボサで眼鏡で、ちょっと疲れたような雰囲気がしていた。でも威圧感のようなものはなくて、言うなれば無味無臭なのかな。

 

 でもそんな姫川君の瞳が、今は燃えている気がする。

 

「15分の休憩か…… 今のうちに話を詰めておこう」

 

 お兄ちゃんがそう言うと、私たちは強く頷いた。

 

「このタイミング、わざとだと思います。あの2人の演技をあえて最初に見せてきた。星野アイさんがサポートしているとはいえ、あの人の全力の演技に、星野栗栖さんは付いていけていた」

 

 あかねちゃんが ぎっしり書かれたメモを机に置いて、深刻そうな表情だった。

 

「あれはママが大人げないよ。パパに没入型? ってのをさせて、人間離れした動きで演技に付いてきてもらえばいいもん」

「つまるところ、父さんは後出しじゃんけんだな」

 

 今回は練習に制限時間があっただけで、たぶんあの演技をもう1度するなら、ママはもっと完璧にリードできる。ていうか短時間で自分の演技は完璧にして、パパをフォローする余力まであるのが凄いよね。

 パパは演技に不慣れなのに、細かい刀の動きとかが完璧で、どうしても目で追ってしまった。というかママの隣に立ってて、輝きが隠れてない時点で誇っていいよ。

 

「あの2人、目で会話していた」

「それが私たちのパパとママですから!」

 

 寂しそうにつぶやいた姫川君に、私は胸を張って自慢する。

 

「そういうものなのか? 夫婦って」

「それであんな息ぴったりに?」

愛してるからな。お互いのことを見てなくても大体わかるんだろう」

 

 お兄ちゃんに教えられて、姫川君やあかねちゃんは考える素振りを見せる。とても真剣で役者気質だなー。

 

「パパとママがイチャイチャしてただけだよ、あれ」

「ルビーの言う通りだ。あくまで理想の合わせ方で、実践するには時間がかかりすぎる」

 

 でもでも、あの後に演技をするっていうのは。

 

「緊張してきた~ でもパパとママが見てくれるの楽しみ~」

 

「……とりあえず、俺があの人の動きを可能な限り再現する。周りを見る余裕はなくなるけど、みんなの動きは見ておくから」

 

 姫川君のその演技はとても寂しいことだと思った。

 まるで代役のようで、代わりなんだって。

 

「私たちは、まだまだチャレンジャーなんだよ」

 

 ここには凄い役者さんたちが集まっているって分かる。しかも私の憧れているママの後に演技するってのは、確かにプレッシャーもあるけどさ。

 

姫川君! コケて当たり前! 楽しく挑もうよ!

 

 私は私のままスターになって、ママと一緒にステージに立つのが夢だから。

 

「……だが、俺は」

「ほら、あそこ見てよ!」

 

 ママと、それにさっきまで怖そうだったオジサンが、『アクアとルビーのほうがすごいもん!』『姫川は俺が育てている』みたいな言い合いをしながら戻ってきている。パパはビデオカメラを準備してくれていて、参観授業みたいになってるじゃん。

 

 あんなに楽しそうに私たちを応援してくれるなんて、プレッシャーが吹き飛ぶくらい、楽しく頑張ろうって気になる。

 

「あのオジサンに愛されているんだね」

 

「そういうのは…わからない…… けど」

 

 姫川君は口元を抑えた。

 めっちゃニヤけてるじゃん。

 

「よしっ、ルビーと黒川も予定通り没入型で頼む。僕が3人をまとめきる」

「よっ! さすが1発撮りの天才子役!」

「が、がんばろう~!」

 

 あかねちゃんが照れながらも声を上げる。

 やっぱり明るいほうがいいよね。

 

「せーのっ! えいえいお~!」

「ぉー!」

「「おー」」

 

 私たちは腕をつきあげて、息を合わせた。

 

 

 この数年後、劇団ララライに2人の若いエースが生まれた。

 

 

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