まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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5話前編(夏祭り)

 

 今日はとても街に活気があった。

 

 もし車でここを通るなら、駐車することはおろか、そう簡単に近づくこともできなかっただろう。歩道には屋台が立ち並んでいて、いつもより多くの人で賑わっていた。

 

 それは、夏祭りをしているからだ。

 

「わ~!」

 

 桜の模様が散りばめられていて、桃色の浴衣を着た瑠美衣がキラキラと目を輝かせる。

 

 ようやく今年は夏祭りに連れてきてあげることができた。やっぱりママと一緒が良かったらしく、遠くの花火をベランダから見るくらいで、毎年我慢させてしまっていたから。

 

「これが夏祭り!」

 

 よく似ている顔立ちでそっくりなアイも、子どもの頃に戻ったようにワクワクしていた。中学の頃からアイドルで忙しかったり、瑠美衣や愛久愛海を産んだり、なんだかんだ夏祭りに来るのは初めてだ。

 そんな彼女はピンク色の浴衣に、紫色の蝶の模様が散りばめられている。伊達メガネで髪もくるくると後ろで纏めているけど、可愛らしさや魅力は隠しきれていない。

 

「お兄ちゃんたち こっちだよ~!」

 

 今日も笑顔満開の瑠美衣は大きく手を振る。

 

 愛久愛海と有馬ちゃんと姫川君がゆっくりと歩いてきた。せっかくなので2人にも浴衣や甚平を買ってあげたけど、よく似合っている。慣れない履き物の有馬ちゃんのペースに合わせているのだろう。

 

「ホントに私まで良かったの?」

「母さんたちを見習って遠慮しなくていいぞ」

 

 2色のアジサイで白い浴衣の有馬ちゃんはもじもじとしていて、そして夏祭りを楽しみにしてくれていた。

 保護者にも電話で確認を取ったけど、まさかのお父さんが出てくれて快諾(かいだく)してくれた。どうやら愛久愛海と斉藤さんの交渉は上手くいったようだが、タイミングがいいのか悪いのか、実家の都合で母親は里帰りしているとのことで…

 

 いや、今は置いておこうか。

 

「姫川君も遠慮しなくていいから」

「っす」

 

 ワークショップから愛久愛海や瑠美衣とは、SNSをフォローし合っているらしい。金田一さんからぜひとも休日は外に連れ出してほしいと言われているので、俺たちは浴衣の買い物から早速連れ回した。

 本人も満更ではない様子で、珍しそうに屋台をキョロキョロ見ている。

 

「じゃ 行こっか♪」

「そだ! かなちゃんお手々つなごっ!」

「仕方ないわね。あんたが迷子にならないように繋いであげる!」

 

 瑠美衣と有馬ちゃんなら、手を繋いで歩いていても、それほどスペースを取らないだろう。2人で仲良く歩いていく姿は、まるで姉妹のようだ。

 

 それから俺たちは人の流れに沿って、屋台を見て回る。

 

 くじや射的の景品を見て『ほへ~』ってしたり。

 焼き鳥の(こお)ばしさにヨダレ垂らしたり。

 マイメロがプリントされた袋の綿あめを買ったり。

 タコ焼きの行列に並んでキャッキャッしたり。

 

 すっかり有馬ちゃんも、アイや瑠美衣と一緒に楽しんでくれている。浴衣姿の美女と2人の美少女がとても華やかな光景だけど、周りは思い思いに夏祭りを過ごしているから、そこまで気にした様子はない。

 

 3人が並んでいるうちに、愛久愛海や姫川君と手分けして空いている店で目ぼしい食べ物を買ってくる。男子陣営は空腹を誘う香りによって、とても食欲がわいていた。

 

 歩道から少し離れると、休憩用に簡易テーブルやベンチが並んでいたので、その1つを6人で使わせてもらう。普段は公園に出かける時に使っているけど、お手拭きやテーブルクロスを持ってきておいてよかった。

 

「トロトロでうまうま~」

「かなちゃんも あ~ん」

「あ、あ~ん」

 

 瑠美衣を膝に乗せてタコ焼きを食べさせ合いながら、隣にいる有馬ちゃんにも食べさせてあげている。さすが芸能人たちなので、スマホを向けるとカメラ目線でポーズを取ってくれる。

 

 出会った頃は余裕がないように見えたけど、年相応に笑うようになったな。

 

「クリス君たちも たくさん買って来たんだね」

「さすが男子、ちゃっかりしてるわね」

「例えば何を買って来たの?」

 

 俺たちは買ってきてくれたタコ焼きをモグモグしながら、袋から成果の一部を見せ合う。

 

「揚げパンだよ」

「僕は例えばイカ焼きだな」

「キュウリとトウモロコシ」

 

 『なんかチョイスが!?』と瑠美衣と有馬ちゃんからツッコミを受けた。特にキュウリが好評で、トウモロコシは普通な評価、イカ焼きは女子にとって硬そうだった。

 俺としても揚げパンは給食を思い出すので、アイは懐かしそうに味わってくれる。

 

「なんだろ、なんでかどんどん食べちゃう」

「結構美味い」

「イタリアンスパボーだな」

「揚げパスタでしょ」

 

 これも愛久愛海が買ってきてくれて、なんだかんだ好評だった。甘さと塩味を交互に味わうように、アイたちは綿あめの袋から分けっこしている。袋入りの綿あめって、例えば割りばし1本で取り出しながら食べるんだな。

 

「はい クリス君もあ~ん」

「あーん」

 

 アイが使っていた割りばしを向けてくれて、甘みが口に広がる。

 

 そんな俺たちの姿を、有馬ちゃんは顔を赤らめていて、姫川君はチラチラと興味あるようで、そんなに珍しい光景なのだろうか。

 

「ん? 姫川君も食べたかった?」

「……ありがとう」

 

 (うち)でよくやるように瑠美衣は、姫川君へ綿あめを向ける。

 あまり感情の変化は見せないけど、内心はかなり嬉しそうだ。彼もいろいろと抱えているみたいだから、その真っすぐな明るさで元気づけてほしいな。

 

「ほら! アクアも食べたいでしょ!」

「そんなに揺らさないでくれるか」

 

 出会った時から思っていたけど、有馬ちゃんは愛久愛海のことがだいぶ気になっていると思う。前世もあって息子は大人びているから、この子くらい遠慮しない距離感が合うかもしれない。

 そういう意味ではこの子も、推しの子だな。

 

「~♪」

 

 アイも幸せそうな笑顔を見せる。

 

 まだこれからどうなるか分からないけどね。

 こういうのは、この子たち次第だから。

 

「そだ! チーズハットグも気になったんだ!」

「チーズでハットグなの? 美味しそう!」

「あんた ハットグの意味わかってるの?」

 

 今は、家族と友達みんなで一緒に夏祭りを楽しもう。

 

 

 

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