まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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5話後編(愛久愛海の推しの子)

 

 

 夏祭りに来るのは僕としても久しぶりで、宮崎にいた頃は時間もないけど、なんだか行く気にならなかった。さりなちゃんは病室から花火を見ることしかできなくて、連れてきてあげたかったって思うから。

 

 ともかく、愛久愛海としては初めてのことだった。さすが東京は珍しい屋台も多くて、新鮮な気持ちで楽しめている。

 

 妹のルビーも前世はあまり外出したことがなかったらしく、いつも楽しそうにしている。幼稚園や小学校でさえ、同年代の子たちに混じっていても全く違和感がないくらいだ。

 そんな姿に思わず、さりなちゃんを重ねてしまうこともある。

 

「それじゃあ行ってくるね!」

「もし何かあったら呼んでね?」

 

 浴衣姿の母さんも若々しく、女子高生に混じっていてもバレなさそうだな。B小町を引退してからも芸能人として大活躍中の推しだけど、父さんに甘えている姿は普通の女の子のように幸せそうで微笑ましい。

 

「姫川君も戦えるんでしょ?」

「あれ演技だから」

 

 3人ずつ交代して買い出しに行くことになって、母さんと瑠美衣、そこに姫川が付いていく。本人は謙遜していても、劇団ララライで舞台関連の演技を学んでいるだけあって、まだ小学校高学年でありながら心強さを感じる。

 

 僕は、自分の小さな手のひらを見つめる。

 

 もう少し成長すれば戦えるようになるだろうか。

 父さんほどの強さとまでは行かなくとも、誰かを守り通せるくらいにはなりたい。前世で不審者に殺されてしまったこと、あの時はストーカーに母さんが殺されかけたこと、僕はどちらも無力だったから。

 

 そんなとき、僕の肩に父さんの手が置かれた。

 

「ちょっと席をはずすから、頼める?」

「分かったよ、父さん」

 

 母さんたちに何かあったのだろうか。

 父さんが行くなら大丈夫だ。

 

 でもこんな風に、いくら父さんでも手の届かない時がある。頼まれたからには、今は有馬のことを僕が守り通そう。

 白い浴衣がよく似合っていて、とても可愛らしい子を。

 

「いいお父さんね。なんだか安心できるわ」

「そうだな。僕たちのことをいつも見守ってくれている人だ」

 

 有馬の言う通り、安心感がある。

 僕たちは芸能人で、特に母さんが自由にこういう夏祭りに来れて、心の底から楽しめているのは、やっぱり父さんがいるからなんだろう。

 

「お母さんも… こういうことを一緒に楽しんでくれるのね」

「ああ。スケジュールの休みを僕たちと合わせようとする人だ」

 

 母さんはマルチタレントになってからも大人気で、とても忙しいけど、スケジュールにある程度は希望を言える。だから僕たちと一緒に過ごす時間をつくって、自分自身も全力で楽しんでくれる。

 

「自分の子どもじゃないのに、こんなステキな浴衣まで買ってくれて」

 

 有馬は視線を落とした。

 

「……ほんと、うちの親とは大違い

 

 そう小さくつぶやいた。

 とても寂しそうな表情をなんとかしてあげたいけど。

 

「最近ママが不機嫌でね、またお父さんと喧嘩して大変だったわ」

 

 無理に笑いながら泣いている。

 

 有馬と母親の関係は、僕たちが1度壊したようなものだ。所属している事務所での悪評を突きつけて、芸能界はそんなに甘くないと、このままではいずれ仕事がほとんど来なくなるだろうって伝えた。

 

 当然『娘のためを思って頑張っているのに』と口論になって。

 

 斉藤さんが『親が子どもの可能性を潰すなッ!』と数百万円の札束を机に叩きつけた。それくらい彼も有馬に期待してくれていて、星野アイたちのように、芸能界で輝けるよう責任を持って育て上げるって。

 

 そうして、来年度には苺プロへ移籍できることにはなったとはいえ。

 

「ねぇ、あんたの親って喧嘩するの?」

「ちょっとしたことがあっても、すぐ仲直りする。話せなくなる時間がもったいないって」

 

 『そうなんだ』と嫉妬と安心が混じったような表情を見せて、浴衣の袖で目元を抑える。

 

 夫婦喧嘩なんて、有馬が板挟みで(つら)いじゃないか。

 

 僕たちの選択は本当に正しかったのだろうかと、どうしても考えてしまう。前世のことも後悔だらけで、どうしても思い出してしまう。

 

 

「私、何言ってるんだろ。あんたには面白くない話だったでしょ」

 

「そんなことはない」

 

 涙を拭いて、無理に笑顔を見せる。

 僕は勢いよく席を立って、有馬の隣に座り込む。

 

 思わず、眼鏡をかけ直す仕草をしてしまう。

 

「え? ちょっと、急にどうしたのよ?」

「もっと話して、少しでも楽になればいいよ」

 

 綺麗な髪に軽く手を乗せる。

 

「………うん」

「素直でよろしい」

 

 頬を赤く染めて、もじもじとする。

 あまり異性に触れ合った経験がないのだろうか。

 

 

 『ずるい…』って小さくつぶやいて、おしとやかな有馬が新鮮で、ずっと見ていたくなるけど。

 

 

「ちゃんと食べてるのか? 今日の朝は?」

「お父さんが、パンを買っておいてくれた。別に……私は自分のご飯くらい自分で用意できるけど」

 

 『だから大丈夫』って言うけど。

 有馬の嘘は分かりやすすぎる。

 

「ダウト、有馬は料理をしたことがないと見た」

「んなっ!? じゃあ、あんたできるの?」

 

 僕は頷く。

 こっちは自炊なら完璧だぞ、独身だったから……

 

 とはいえ僕は祖母に習ったけど、たぶんこの子は家事をほとんど習ったことがなくて、その小さな手ではまだ重い荷物を運ぶこともできないだろう。

 

「作らなくても電話すればいいし! ひとりでお買い物だってできるし!」

「えらいな」

 

 よしよし と撫でてあげれば、年相応に子どもっぽく嬉しそうにする。

 

 出会った頃は生意気なように見えたけど、母親の期待で頑張りすぎていたせいもあって、本当はこんなにも素直で繊細な子なんだ。

 

「今はお父さんと2人で暮らしているんだったか?」

「ん、ママさ、今は実家に戻ってるの。お爺ちゃんが腰やったんだって」

 

 その話は耳にしたけど、僕が求めている答えじゃない。

 

「お父さんはどんな人なんだ?」

 

「お仕事が忙しそうな人……」

 

 やはり母親と過ごした時間が長く、有馬が子役をしていたこともあって、父と娘で距離を掴みかねていると思う。

 

「家事もやってくれて… わるい人じゃないとは思うわ」

 

「なら、時間をかけていけば仲良くなれるだろ」

 

 僕の前世の父親なんて、会うきっかけすら見つからなかった。さりなちゃんのご両親なんて、結局はあの子の最期まで会いにくることはなかった。

 

「私が売れれば、ママも喜ぶからさ…… 機嫌も直るかしら?」

 

「有馬のお父さんに甘えればいい。仲直りしてほしいって」

 

 あの母親も過干渉になってしまうくらいは、娘への愛情があったんだから、きっと夫婦で仲直りできると信じている。そうじゃないと、有馬が(つら)いから。

 

「ホントむずかしいこと言うわね、あんたって」

「脚本や演出なら手伝ってやるよ、有馬かな」

 

 有馬は『私を見ろ』って顔してる時が一番輝いてるんだ。

 無理に『母親にとって いい子』を演じなくとも、家族想いな賢くて優しい娘だから。

 

「じゃあ、その時はよろしくね」

「任された。だから、お父さんとコミュニケーションを取っておくんだよ」

 

 僕が芸能界で子役を続けているのは、有馬との共演が楽しいというのも理由だろう。いつか僕の脚本や演出で演技してもらいたいとも思っている。ほかにも誰かを守り通せるように鍛えたいし、医学の選択肢も選べるように勉強もしているし、ホントに夢が増えてしまった。僕たちは親子揃って欲張りみたいだ。

 

「ねぇ、なんでそんなに優しくできるの? アクアだけじゃなくて、ルビーやアイさんたちも」

 

「有馬を愛してるから」

 

 年下の子、友達、それとも気になる異性なのか、まだどんな愛情かはハッキリとはしないけど。

 

 どんな関係であっても、この言葉を自信を持って伝えることができる。僕は父さんや母さんに『愛』を教えてもらってきたから。

 

「あ、あんた! そういうのは好きな子に!」

 

「有馬の思っている以上に、愛は一方通行だぞ。伝わってくれれば嬉しくなるけどな」

 

 真っ赤になって見上げてくる姿が可愛らしくて、嬉しくなる。

 こういう姿も好きで、演技をしている時も好きだ。

 

「あれ、あんたって、あのアイさんをずっと見てきたのよね?」

「当然だ。とても長く… 子どもの頃からアイのファンをやっている」

 

 

 さっきまで照れていると思ったら。

 急に何かを考えこんで焦ったり。

 よしっ て何かを決断したり。

 

 こういう感情豊かなところも好きだ。

 

 

「決めたわ。私もアイドルやって輝いてみせる」

 

 そうだ、こいつは負けずぎらいでもある。

 この表情を見て、この子が推しになったんだ。

 

 立ち上がって、指先を向けてくる。

 

「あんたの愛してるより

  でっかい愛してるを返してあげる!」

 

 白い浴衣姿がとても綺麗で可愛らしくて。

 アイドルにファンサしてもらった気分だ。

 

「それでこそ僕のライバルで、推しの子だな」

 

 僕はどうしようもないほど、有馬かなのファンにもなっていた。

 

 

 

 

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