まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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6話(幸せな未来に向かって)

 

 

 今夜も天の川がよく見えていて。

 多くの星々が輝いている。

 

 今年はとても慌ただしかった。B小町が解散して、アイたちが女優やマルチタレントになって、苺プロの体制も変化した。それに、子どもたちのこともいろいろあった。

 

 芸能界のこと、他のご家庭のこと、どちらも答えが見つかりづらいからだろうか。人々の価値観や感情、現在の事情、様々なことが絡み合って複雑になっている。

 

「むずかしいな……」

 

 最善の選択なんて、過去を振り返っても分からないことだらけだ。

 

 どうにか落としどころを見つけて、子どもたちはそれぞれ前に進むことができている。これからもたくさん悩んで、自分で選択していかなければならないことも多いだろう。

 

「お悩み?」

「そんなところかな」

 

 眠っている子どもたちの様子を見てきてくれたようで。

 パジャマ姿のアイが隣に座ってくる。

 

 

 指を絡めてきて、静かな時間を一緒に過ごす。やっぱりこういう時間も幸せに感じて安心できる。ふと最近あった嬉しいことを話したり、悩みごとがあったら聴いてもらったり。

 

 

「子どもたちのこともあるから、遠い過去について話そうか。俺の前世の記憶を」

 

「ん、聴かせてもらうね。ルビーやアクアもなんだ?」

 

 ずっとアイは待ってくれていたんだろう。

 家族のことをいつも見守っていてくれる。

 

「そうだな。俺だけじゃなくて、瑠美衣や愛久愛海にも前世の記憶がある」

「そういうことだったのか~ さすがにいろんなこと知りすぎてるもん」

 

 『いわゆる転生ってやつ?』と聞いてくるので、安心できるようにアイを撫でながら頷く。

 俺は『話しても話さなくてもいい』と2人に伝えていたし、アイも『子どもたちの個性』って受け入れていた。無理に いい子を演じることなく、自分らしく生きる瑠美衣や愛久愛海を見て、アイもなんとなく何かあるとは気づいていたんだろう。

 

「記憶を引き継いでいて、ある程度は人格が前世のまま、そして精神は身体に引っ張られると思う。だから親の愛情を心の底から求める」

 

 『まとめると、ちょっと過去が多いくらいだよ』と伝えて、これくらい俺自身にとっては簡単な認識だ。もしかすると、何かしら転生した意味があるかもしれないけど、そういうのは誰かに言われた時に考えばいい。

 

「幸せな思い出も…… (つら)いことも?」

 

 俺は頷いて。

 手を前に出して、そして握り込む。

 

 剣を握った感覚は、もはや魂に染みついているといっていい。

 

「俺の場合は、この世界から見て異世界で生きて、戦いの日々だった」

 

 

 剣術や魔法は今でも使えること。10歳を超えた頃には戦場に出ていたこと。命のやり取りで魔族を次々と斬り殺したこと。そして、前世では親に愛されていなかったこと。

 

 

「昔から変な人と思ってたけど そういうことだったんだ」

「いい意味で?」

 

 『いい意味で~』と頬っぺすりすりしてくるので、よしよしと撫でる。やっぱり話しても話さなくても愛してくれると思っていた。

 俺も過去がどうであれ、アイや瑠美衣や愛久愛海を愛することは変わらないように。

 

「生まれ変わった俺は両親から愛情を教えてもらって、その尊さを知ることができた。アイと出会う頃には、すでに前世の記憶もずっと過去のことだよ」

 

 だから、俺はすでに折り合いがついている。

 『そっか』ってアイは安心してくれる。

 

 今はアイも、過去に折り合いをつけようとしているところだから。

 

「ルビーやアクアはどうなの?」

「たぶん個人差はあると思うけど、精神が揺れている時期なんだろう。まあそれも、有馬ちゃんや姫川君も多かれ少なかれ経験していることだよ」

 

 幼少期の(つら)いことを抱えて、子どもの頃のアイが不安でいっぱいだったように。

 

「ねぇ、キミが知っていることを聴かせて?」

「そのつもりだったよ。一緒に子どもたちを支えてほしいから」

 

 そういう時期に支えてくれる人がいるのは、本当に心強いことだろうから。

 

「まずは瑠美衣のことからだ」

 

 

 俺と一緒に前世の母親に会ったこと。重い病気から長く入院していて、お見舞いに来てくれなかったこと。

 幸運にも生まれ変わって再会することができたけど、言葉では愛情を伝えてくれなかったこと。

 

 

「それは…… (つら)いね」

 

 今のアイは母親から愛されていることを知っているけど、今までは実感することができなかった。どんなに(つら)い経験をしても、子どもによっては親の愛情を信じて待っている。

 

「私はお母さんと、お手紙から、やり直してるんだ」

 

 アイは母親を愛してるから。

 

「お母さんのこと、まだちょっと許せないところもあるけど、また仲良くしたいとも思ってる。痛いこともされたけど… お母さんも(つら)かったみたいだから」

 

 1人で生きるのは寂しいって知っていて、アイはホントに思いやりのある女の子だ。

 

「瑠美衣も信じて待つことにして、アイドル活動を通して愛してるを伝えるんだって」

「そっか。ルビーは優しい子だね」

 

 いつか瑠美衣も、前世のお母さんと仲直りできるといいな。少なくとも、天童寺さんは娘が頑張っている姿を応援してくれるみたいだから。

 

 

「次は有馬ちゃんの話にしようか」

「かなちゃんのこと? アクアがお義父さんとコソコソやってるよね」

 

 『まったく誰に似たんだか』とぷりぷりしているけど、あの計画的で用意周到なところはママ譲りだと思う。もしアドリブをするにしても、知識や経験の多さでカバーもできる。

 

「それじゃあ、有馬ちゃんの事情で知っていることを話すよ」

 

 

 過干渉な母親が子役事務所とトラブルを起こしていること。夫婦仲及び家庭環境が良好とは言えないこと。

 このまま上手くいけば、来年には事務所移籍は可能だということ。

 

 

「結婚してても… 子どもがいても… 上手くいかないことってあるんだね」

「俺たちが思っている以上に多いのかもしれないね」

 

 不安そうなアイの身体をもっと寄せる。

 そうして、お互いの温もりを確かめる。

 

「有馬ちゃんも(つら)いだろうな」

 

「ん、お母さんたちが喧嘩してるの… 痛かったことより憶えてるかも」

 

 アイのお母さんも、たまに男の人を家に連れてきていたらしいから、その時のことを思い出しているのだろう。いつだったか、『お酒に酔って大変だった』と言っていた。

 

「むずかしいね」

「むずかしいな」

 

 どうにかしてあげたいけど、これは有馬ちゃんのご両親が選ぶことで、俺たちはあくまで他人だから。

 

「有馬ちゃんはお父さんと一緒に東京で、お母さんはご実家のほうに、少し別居するみたいだ」

 

 ご実家の事情もあるみたいで、これからのことを考える期間になると思う。願わくば、お母さんは娘を思うあまりに空回っていただけと思いたいし、お父さんは娘との距離感が掴みづらかっただけと思いたい。

 

 たとえ夫婦仲が壊れてしまっていても、娘への愛はあって、『繋がり』があると信じたい。だって、有馬ちゃんがそう願っているから。

 

「一度離れて、気持ちの整理がついたら、また家族みんなで暮らす。そう信じよう」

 

「ん、そうなるといいね」

 

 愛久愛海もそう信じて行動しているだろう。

 彼のおかげで、有馬ちゃんも前向きになれたから。

 

「それで愛久愛海のことだけど…… 焦りは感じるかな」

「やっぱりあの時のことかな?」

 

 アイが刺されかけた時から、よく鍛え方だったり、まだ小さい身体だったり、そういうのを気にしているところがある。もし本格的に教えてほしいと言うなら、俺が教えるけど。

 

「愛久愛海は優しくて繊細だから、万が一を考えてしまうんだと思う」

「女の子からしたら 頼りになるな~ってなるね」

 

 『支えてあげたいな~ってなるし』と言ってくれる。

 

 そして膝に座ってきて、首へ腕を回してくる。

 お互いの頬は赤く、こういうのがなんだろう。好きな人を頼りたい頼られたいって思うとか。

 

 

「ぅん…… ぁ……」

 

 

 今思えば、こういう長めのキスとか、こういうのは恋愛感情からだったんだろう。俺たちは愛情マシマシだったから恋心に気づくのは最近になったけど。

 

「えへへ あの時のこと、本当にありがとう」

「どういたしまして。守り通せてよかった」

 

 そう言って、左手を優しく撫でてくれる。

 大切な人が生きているんだって、この温もりが安心させてくれる。

 

「アクアも支えてくれる子ができれば大丈夫だよ」

「アイがそう言うなら説得力があるな」

 

 俺からすれば、有馬ちゃんを推したいところだ。大人びている愛久愛海も、彼女と遊ぶときは見た目相応になれている。有馬ちゃんも家庭環境や天才子役のこともあって、あまり同年代には友達がいないみたいだし。

 

「やっぱりアクアはモテモテになっちゃうね。かなちゃんにいろいろ教えてあげよっと♪」

 

 アイが心配しているように、もっと彼を好きになる女の子が増えるかもしれないな。

 

「で、姫川君のことだけど」

「あの子には金田一オジサンが付いてるよ」

 

 とある人の面影があるように思える。

 まあ、親子と言っても、同じ道を進むとは限らないだろう。金田一さんも役者として確かな実力を身に着けさせるように、今のうちから育てているようで、姫川君もプロ意識を持って成長してくれていた。

 

 

 瑠美衣は自分なりの輝きでアイに並び立ちたいって思っていて、超えてみせるって向上心もあるし、みんなに愛を伝えていきたい願いもある。

 愛久愛海は様々な方法で誰かを守り通すために、芸能界で知識と経験を身に着けていて、これからも鍛えて(たくま)しくなっていくだろう。

 有馬ちゃんも2人の幼馴染になってくれて、周りに助けてもらいながら苦難を乗り越えて前向きに、これからもプロ意識を持って努力を続けていくはずだ。

 

 

「子どもの成長は早いね」

「私、そろそろ抱っこもおんぶもできなくなっちゃうなぁ~」

 

 それはそれで、ママと娘で手を繋いで、仲良く一緒にショッピングしそうだ。今でも参観授業に行けば、可愛らしいママさんとして有名なんだから。

 そろそろ愛久愛海と一緒に親子として共演もできるかもしれない。あの監督さんに頼んでみれば、どうにか企画を立ててくれるだろうか。

 

 なんにせよ、アイや瑠美衣や、愛久愛海と家族になれて良かったと思う。もしかしたら、もう1人増えるかもしれないし。

 

「私、クリス君と家族になれて幸せだよ。みんなに愛してるって心の底から言える」

「俺も幸せだよ。あの時、一緒に選んでよかった」

 

 俺と出会ってくれてありがとう。

 瑠美衣と愛久愛海たちに出会わせてくれてありがとう。

 

「家族になってくれてありがとう」

「ん、私からも ありがとう」

 

 『家族』とは言葉だけのものではない。

 愛で繋がり、心の底から信じられる人たちで、頼ってもらいたいし頼ることもある。楽しいことも悲しいことも、その全てとまでは行かないけど、ある程度まではみんなで共有できる。

 

 俺はそう信じている。

 

「これからもずっとずっと、一緒にいようね」

「ああ。生きている限り、一緒にいよう」

 

 

 俺たちの結婚式はもうすぐだ。

 

 

 

 

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