まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
少しずつ涼しくなってきた秋の頃だ。
「いよいよだね」
純白のドレスで、ふんわりとスカートが優しく広がっている。
アイはそんなウェディングドレスを着ていた。ベールやティアラといった装飾品もキラキラと輝いていて、ロングの紫がかった黒髪によく似合っている。
見せている素肌も柔らかそうな美白だ。アイドル時代からスタイルを完璧に維持していて、ドレスと同じく純白な手袋はさらに腕を細く見せる。
たとえお化粧をしていなくても可愛らしくて綺麗な女性だけど、今の姿は大人びた美しさが引き立られていた。
「何度も言う。綺麗だよ」
「ありがと クリス君もカッコいいよ」
俺はシンプルに白いタキシードを着ている。母親譲りの金髪ということもあって、我ながらちょっとしたモデルくらいなら名乗れそうだ。
まあ、お相手は宇宙で1番可愛らしいお姫様だ。
「なんだか実感がないね」
「とりあえずドキドキするよな」
『そうだね』って頷いて、アイは自分の胸に指先を当てる。
俺と同じく、愛情と幸せで心がいっぱいだと思う。
瑠美衣と愛久愛海が生まれて、家族4人で一緒に暮らし始めて、みんなでたくさんの思い出を作ってきた。それでも十分に幸せを感じていた。
秘密を隠そうとしていた時期も長かったから、心のどこかでこういう結婚式を挙げることは諦めていたのかもしれない。
でも、俺もアイも欲張りだから。
秘密を公表して、入籍もすることができて。
こうしてまた1つ夢を叶えられるのが嬉しい。
「入るよ~ ママ! パパ!」
瑠美衣と愛久愛海、そして かなちゃんが入ってくる。
子どもたちの幼馴染ということもあって、昔から仲良くしてきて、もうすっかり身内って感じだ。それに、こういう経験をさせてあげたいって彼女も招待した。
「「きゃわ~~♡」」
自分の両頬っぺに指先を軽くあてて、ママと娘が興奮する。
「ママが綺麗すぎる! ディ○ニープリンセスだよ!」
「ルビーもアクアもかなちゃんも可愛すぎる! 魔法のお城でダンスパーティだよ!」
瑠美衣はお花が装飾されたピンクのドレスを着ていて、まるで妖精のようだ。かなちゃんも赤のドレスでどこか大人っぽく、愛久愛海は紺色のスーツを着こなしていて、3人ともそれぞれの可愛らしさがある。
「アイさん! えっと、すごく綺麗です!」
「綺麗だよ、母さん」
かなちゃんも愛久愛海も、素直な感想で褒めてくれる。2人は芸能人としてのアイのファンでもあるから、たぶん内心は瑠美衣くらい興奮していると思う。
「あぁ~ 美女とイケメンで眼福~
しかもそれが私のママとパパだってさ~」
「写真撮って表紙飾ったら、相当売れそうだけどね」
「身内で独占したくもなるよな」
子どもたちがとことん褒めてくれて。
俺とアイは顔を見合わせて小さく笑う。
そういう依頼も実際にあったとはいえ。
今のアイの姿は、俺たちだけに見てもらいたいっていう輝きで魅せてくれているからな。
☆☆☆
その日、結婚式会場には、招待客たちが数人ほど集まっている。
星野兄妹、斉藤ミヤコと月村夫妻のほかには、有馬かな、決してその人数は多くはない。それでも、みんなが幸せそうに談笑しながら待っていた。
そして、少し離れた場所に、星野あゆみも座っている。
他にも祝電として、元B小町のメンバー、苺プロのスタッフたち、金田一敏郎や姫川大輝といった、多くの人が祝福してくれているとのことだ。
星野アイの芸能界での知り合い、星野栗栖のアルバイト関連の知り合い、2人の学校の同級生、そして多くのファンたちが、SNSで情報が発信されてから祝福してくれることだろう。
司会からの挨拶があって、これから結婚式が始まるようだ。
まず、厳粛な雰囲気で新郎の入場が行われる。
祭壇の前に新郎の星野栗栖が立った。白いタキシードを身にまとっている彼の瞳が真っすぐに入り口に向けられていて、これからも家族を守り通す覚悟を感じさせる。どうやら、こちらの存在にも気づいているようだ。
明るめの曲が流されて、再び扉が開く。
祝福にふさわしい歌だった。
ウェディングドレスに身を包んだ新婦の星野アイが、義父に腕を絡めて、優雅に入場してくる。サングラスを外した斉藤壱護の表情はガチガチに緊張していた。
真っすぐとバージンロードを進んでいって。
そこに、優しい表情の実母が近づいていく。
「アイ、ますます綺麗になったわね」
「お母さん…来てくれて…ありがと……」
『遅くなっちゃってごめんね』って星野あゆみが伝える。新婦は目が潤んでいるけれど、泣かないようにって、幸せそうにいっぱい笑顔を見せる。
「ずっと愛してるわ、アイ」
「私もずっと愛してるよ、お母さん」
そう言って、お互いに抱きしめ合った。
ちゃんと記憶にある温もりを確かめるように。
「ミヤコさん、それでは一緒に」
「私もさせてもらうわね」
もう1人の母親である斉藤ミヤコも席を立って、星野あゆみの隣に並ぶ。
「ありがとう。お母さん、ミヤコママ」
新婦が軽くお辞儀をして、2人の母親にベールダウンを行ってもらった。
これまで愛情たっぷりに育てた母親が手伝う最後の身支度とされている。成長した娘のこれからの幸福と安全を願うという気持ちもあるだろう。
「これからも家族みんなで幸せでいてね」
「家族をいっぱい頼って、あなたも支えてあげて」
『いってらっしゃい』って2人の母親に送り出されて。
「うん! それじゃあ いってきます!」
なにげない言葉のやり取りもまた、親子の愛情なんだろう。
再び、新婦と義父はバージンロードを歩き始める。
新婦の晴れ姿はとても美しく、ベール越しでも見える笑顔には幸せが溢れていて、見ている者たちは拍手を続けた。幸せの気持ちを共有するように、みんなが笑顔だった。
一旦立ち止まって、義父と新郎が合わせてお辞儀をする。
「あゆみさんと、俺やミヤコの娘をこれからも頼むぞ」
「はい。必ず幸せにします」
そして、絡めていた腕をはずす。
「娘のおかげでホントに忙しい日々だ」
「いっぱいワガママ聞いてくれたよね」
『ドームにも行けたからお互い様だ』と、斉藤壱護は嬉し涙を流しながら笑う。夢を叶えさせてもらって、しかも愛する娘が幸せになってくれて、彼もまた幸せだろう。
「いつもありがとう、お義父さん」
「アイ、元気でな!」
義父から離れていって、声で背中を押されて。
新郎の手のひらに、新婦は手のひらを重ねる。
「ただいま♪」
「おかえり」
そうして2人で隣り合って歩き始める。
小学生の頃に支えてもらって、中学生の頃から本格的に関係が深まっていき、一緒に選んだ願いを叶えて、16歳の頃には父親や母親になった。仕事や育児や家事といった多くの面で支え合い、一緒に多くの苦難を乗り越えながら、家族4人でたくさんの幸せな思い出を作ってきた。
長いようで短かったバージンロードを歩ききってから、振り返る。
そして、台にある本を2人で一緒に持つ。
「私たちは〇月〇日に無事に入籍をし、夫婦になることができました」
「本日、私たちは 皆様の前で夫婦の誓いをいたします」
――― これからも私たちは、どんな時も一緒に手を取り合って、心の底から愛し合って、ずっと幸せで笑顔あふれる家族でいることを誓います。
「新郎 星野栗栖」
「新婦 星野アイ」
人前式として、改めてみんなにそう誓った。
瑠美衣と愛久愛海が2人で一緒に指輪を運んできてくれる。星野アイも星野栗栖も思わず、子どもたちに抱き着いてしまって、家族みんなで満面の笑みを浮かべる。
「僕たちは2人のおかげで幸せだから」
「ママとパパも! もっと幸せになってね!」
「ルビーとアクアのおかげでもっと幸せだよ」
「これからも家族みんなで一緒だな」
「「「「愛してる」」」」
そんな愛にあふれている光景があって。
斉藤壱護は目をそらさないよう男泣きをしていて、斉藤ミヤコや星野あゆみはハンカチで涙を拭き、月村夫妻が有馬かなと一緒に『おめでとう~~!』って、星野一家を祝福する。
「ずっと一緒にいようね」
「これからもずっと一緒だ」
結婚指輪を交換して。
そして誓いの口づけを行う。
まさしくハッピーエンドのようではあるけれど、決して終わりではなく、まだまだ彼ら彼女らの物語は続いていくだろう。
真の意味で母を得られなかった3人を、どんな苦難があっても彼なら導くことができる。いつか生まれ変わる彼女すら、心の底から愛されるに違いない。
だから、とりあえず今は祝福しようか。
とびきりの愛を実感することができて。
愛する子どもたちがいる母親になって。
生涯を共にする男性と夫婦にもなれた。
―――1人の幸せな花嫁を
あとがき
・番外編と言いつつ、結婚編までは第2目標として完結させたかった。
・ここまで引き続き読んでいただいた方ありがとうございます。
・もしよかったら『星野アイ ウェディングドレス』で画像検索してみてください。
・公式からの供給2種と、皆様の評価や感想や閲覧数が筆者のモチベでした。
追伸
・これ以降も不定期投稿で番外編です。
・そろそろネタが尽きてそのうちエタると思いますが、調整前のストックが2話分はあります。