まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
番外編1 (結婚式の後の晩ごはん)
式が終わってから、俺たちはパーティー会場に移動した。
アイはお色直しで、シンプルなウェディングドレスを着た。
紫がかった黒い髪は下ろしたまま、ラベンダーの色のウェイティングドレスもよく似合っていた。アイは何を着ても似合ってしまうので、いつも綺麗で可愛らしい。
そんな姿でも写真をみんなで撮ったり、子どもたちと一緒にウェディングケーキをカットしたり。
愛久愛海が製作した動画を流してくれたり、瑠美衣や かなちゃんがお祝いソングを歌ってくれたり、俺たちは感激して号泣した。
その後、各自ドレスやスーツから、私服に着替えた後、斉藤さんのお
あゆみさんは再びアイと抱きしめ合ってから、幸せそうな表情でご帰宅された。
そうして。
「よいしょ っと」
アイはゆったりとしたワンピースで、リラックスしたようにソファに座る。そして、細くて美白な腕を前側に伸ばした。
その指には結婚指輪が輝いている。やっぱり結婚式を挙げられたことがとても嬉しくなってくる。アイにウェディングドレスを着てもらえたり、親たちへの感謝を伝えることができたり、ホントにしてよかった。
「んーー! 楽しかったけど、疲れた~」
俺も座ると、アイは甘えるように身体を寄せてきた。
少し動きやすいドレスだったとはいえ、やはり長時間立ちっぱなしは大変だったらしい。
これでも身内限定だからスケジュールがサクサク進んだけど、規模の大きい結婚式であれば、さらに時間がかかるはずだ。
ドレスのために朝もあまり食べてなくて、お昼くらいに演出のためケーキを少し食べた程度だ。アイもお腹ペコペコだろうな。
「次はミヤコちゃんたちの結婚式でもする?」
「いえ、お構いなく」
母さんが手際よくテーブルに料理のお皿を並べながら、手伝っているミヤコさんへ絡んでいる。昨晩のうちにかなり用意してくれたみたいで、オシャレな盛り付けまでしてくれていた。
「かぁー! 酒がうめぇ!!」
「おつまみに持っていっていいかい!」
カウンターを陣取っていた斉藤さんや父さんはすっかり上機嫌で、つまみ食いまでしようとしている。
俺たちが到着する前に、チーズをおつまみに飲み始めているらしい。そんな夫たちに、やれやれと女性陣が受け入れてあげている。
それにしてもお
俺やアイはお仕事の関係で飲むことがあるくらいで、あまりお店では飲まない。こういうシックな雰囲気はこのお部屋で味わえるし、何より晩御飯は子どもたちと一緒に食べるほうが好きだし。
「ほら、みんなも食べちゃって!」
母さんの声で、スマホで撮った写真を見ながらキャッキャしていた子どもたちがテーブルに集まっていく。
瑠美衣だけでなく、かなちゃんも目をキラキラと輝かせてくれる。愛久愛海はクッションを並べてくれていて、とても紳士的だな。
「おばあちゃんの料理も美味しいんだよ!」
「おばあちゃん?」
「本人がそう呼んでくれって言っていたぞ」
かなちゃんが疑問に思うのも仕方ない。
まだ30代だからな。
俺やアイもソファから降りて、低めのテーブルに近づいて座り直す。ふわふわ絨毯といい、人数分のクッションといい、斉藤さんも子どもたちのことをしっかり考えてくれている。
「「「「「いただきます!」」」」」
5人で手を合わせてから食べ始める。
1つのお皿に、サラダやお肉料理などなどが乗っている。
アイの好きな食べ物を集めていて、いわゆる『高級お子様ランチ』だろうか。例えばふんわりとした卵焼きはまさしくキッシュと呼ばれる料理で、その1つ1つのクオリティが高い。
ミニハンバーガーに旗が立っているのもポイントが高いと思う。
「うまっ!!」
「でしょでしょ!」
「レストランで出せるレベルだよな」
好ききらいなく、かなちゃんも美味しそうに食べてくれている。一応ピーマンは使わないよう、母さんに伝えておいた。
「自分なりに身につけているだけよ?」
「とはいえレシピあれば作れるんじゃないか?」
海外出身で洋食だけでなく、和食や家庭料理にも詳しくて、かなり教えてもらった。俺も16歳で実家を出てからは独学を続けているけど、まだまだレパートリーの多さでも、手際の良さでも勝てないだろう。
「どうかしらね。挑戦してみてからじゃないと」
「私もたまに教えてもらっているけど、とても料理上手な人よ」
俺たちと話しながら、母さんとミヤコさんはバーカウンターを大人たちで囲むように座った。料理も居酒屋風に1皿ずつにまとめていて、夫たちの好物も用意しているらしい。
ワインを注いでもらってから、グラス同士で優雅に音を鳴らしている。
「アイ、次は何飲む?」
「オレンジジュース!」
モグモグと食べているアイがそう言ってくれるので、テーブルにあるピッチャーから、コップに注いであける。これもオレンジを搾って作ってくれてるのが、母さんのクオリティがすごい。
「ありがと!」
「ん、口元にソースついている」
俺は布巾を取ろうとしたら手を掴まれて。
蠱惑的な笑みでアイは顔を近づけてくる。
なので、子どもたちに見えないよう、背中で隠してから。
「えへへ」
たぶん、わざとだったんだろう。
こういうところも愛らしい。
「ねぇ、ああいうのいつも?」
「もう見慣れたことだよ」
「祖父母もよくやってるぞ」
こそこそと子どもたちが顔を寄せ合って話しているけど、受け入れてくれたようで何よりだ。俺も両親で見慣れたけど、過剰でないなら、夫婦の愛情表現は子どもからすれば安心する要素だと思う。
そんなこともしながら食べ進めていると、キッチンから
母さんたちがオーブンでガーリックトーストも焼いてくれていたようで、いやー、なんて俺たち想いなんだろうなー
「は~い 食べる人~?」
「私も食べた~い!」
「私もお願いします」
「では僕も」
母さんの呼びかけに、よだれを垂らしながら瑠美衣と かなちゃんが純粋な笑顔で、愛久愛海は何かを察したような表情で、子どもたちみんなが手を上げる。
まあ母さんのことだから、子ども向けには味付けを優しめに変えて作っておいたのだと思う。
「僕も運ぶの手伝います」
「えらいわ~ それじゃあクリスたちに持っていってくれる?」
愛久愛海がまるで慈愛のこもったような表情で、トーストが積み重なったお皿を持ってきてくれた。明らかに乗っている具材が多く、いつか将来的にキミにも作ってあげるから。
「わっ、これ面白い味の野菜なのね」
「アボカドじゃなかった?」
「厳密には果物らしいぞ」
『付け合わせすら……』と、さすがは愛久愛海だ。
とても身体に良い食べ物だと知っているらしい。
母さんは良い笑顔で あ~ん しているし、ミヤコさんも食べきるまでワインを追加させないし、とりあえず俺たちに『今日は補給しなさい』ということだろうな。
「美味しいねっ!」
「ああ。美味しいな」
明日から女性陣の計画が本格的に開始されると思うので、父さんと斉藤さんも元気に頑張ってほしい。
☆☆☆
俺とアイと愛久愛海と瑠美衣で、かなちゃんを送り届ける。
かなちゃんのお父さんへのご挨拶は3人に任せることにした。ちょっと食べすぎて、ブレスケアでどうこうできなかった。
俺と母さんがお皿洗いをしている時も、父さんや斉藤さんはソファへ横になって天井を見上げていた。
食べてすぐ寝てしまわないよう、ミヤコさんや愛久愛海から監視されつつ、瑠美衣に指でお腹をぷにぷにされていた。
「クリス、あとは私がお片付けやっておくから」
「わかった。甘えさせてもらうよ」
母さんに背中を押されて。
俺は、夜景を見つめているアイに近づいていく。
「月が綺麗だな」
そう伝えると、アイは笑みを浮かべる。
「月が綺麗だね」
昔もこういうやり取りをしたけど、同じ言葉を返せばよかったんだろう。
愛してると真っすぐ伝え合ったり、同じものを一緒に見たり、同じような感覚を共有したり、こうやって手のひらの温もりを感じたり。
何度だって、いろいろな方法で、愛を伝え続ける。
とびきりの愛をちゃんと届けたいから。
「さっきお母さんと電話したんだ。今日はありがとうって」
「よかったな」
お手紙のやり取りを続けて、先日から電話もしてくれるようになった。
短い時間だったけど、電話越しとはいえ俺もあらかじめご挨拶することはできた。そして最後まで迷っていたらしいけど、俺から『アイのために来てくれませんか』って懇願した。
「忙しくなる前に、みんなで予定合わせてお義母さんに会いに行こうか」
「ん、ルビーとアクアもちゃんと紹介したいもん」
そうなると、あゆみさん含めて、またみんなのスケジュール調整だな。
明日からまた忙しい日々が続くだろう。
だからこそ今日の誓いのように、ずっと一緒に乗り越えていこうと、ずっと一緒にいようって、そう思うし。
「これからもよろしくね」
「こちらこそ、これからもよろしく」
こんなにも可愛らしくて綺麗な奥さんと結婚できたことを、俺はとても幸せに思う。