まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
いつも余裕そうなアクアのやつを見返すためにも、私がやりたい演技にも繋がってくるから。
アイドルでも輝いてやる、って決めたものの。
やっぱり芸能人 星野アイはとびっきりの存在だった。
「さっきのとこ、もう1回踊ってみよっか」
「はい!」
普段は大ざっぱで優しい人だけど。
レッスンの時は、とても
それに、どんなに疲れていても自分なりの笑顔を見せないといけない。とことん基礎トレーニングを大事にするし、踊りは細かく修正して合わせることになるし、ファンサも観客に見せるように取り入れることになるし。
部屋の端のあの人たちと、端にいるアイツを、常に意識しないといけない。
こういうトレーニングを続けてきてから、普段から演技をしている時もだいぶ周りが見えるようになってきた。
カメラだけでなく、監督や演出家、共演者、いろんな人たちが撮影にいるんだなって。
やっぱり私に合っている指導で、しかも現役でその実力を発揮し続けている人に教えてもらえている。何度か共演したけど、『本物』の演技派女優ね。
成長してるって実感できて。
ホント楽しいって思える。
「ん、踊りながら歌えるようになってきたね! 上手!」
「ありがとうございます!」
胸の前で手のひらを合わせて、アイさんが褒めてくれる。
私たちの良さをとにかく褒めた上で、アドバイスをしてくれるから、もっと頑張ろうって気持ちになるのよね。
「さすが かなちゃん、ピーマン体操でオリコン取っただけはあるね!」
「ぜっったい あの記録を超える曲を出してやるわ」
ルビーに褒められても、ピーマン嫌いだし、何よりもあの時の歌やダンスはあくまで子役だから評価されただけで、まだまだ満足はできていないから。
「ルビーもちょっとずつ上手くなってきたよ!」
「ほんと? この前カラオケで2点伸びた成果出てるかな!」
私より可愛いし、生まれつき金髪で可愛いし、性格も良いし、今もダンスの点ではルビーに負けている。最近ますますポジティブになっているようで、歌唱力も上がってきている。
時にはアイさんと並んで踊っていても、あの輝きに付いていけるほど。
明確な目標とライバルが側にいるってのは、燃えてくるわね。アイドルとしても、ちょっと気になるアイツのことについても。
「ほら、休憩だからしっかり休めよ」
「うひゃぁ! いきなりタオルかぶせるな!」
うが~ って両腕を上げてアクアに抗議してやる。
いつもいつも私を動揺させるんだから。
「母さん、雰囲気で休憩する人だからな」
「ふん、それくらいもう分かってるわよ」
ぬるめのスポーツドリンクも手渡してくれて、それを飲んで頬の熱を少しでも冷ます。
「クリス君~! ルナ~!」
クリスさんたちへ抱きつきにいったアイさんは、観察力もすごい人で、私たちの様子を見て休憩を入れてくれる。
私だけじゃなくルビーのやつも、疲れを見せないよう耐えていた分、今は大きく肩で息をしている。
あれだけ続けて元気なアイさんって、まるでスイッチを完全に切り替えるみたい。完璧で究極なアイドルから、普通の可愛い女の子に戻るところは親しみが持てる。
ああいう明るいところも、芸能界で出演依頼が大量に来る理由かもしれないわね。
「そうだ、ルナ! どうだった?」
「相変わらずお姉ちゃんは可愛いね」
それで、クリスさんに抱っこされている黒髪の赤ちゃんは、ルビーやアクアの妹でルナって子らしいんだけど。
「明るく子どもっぽいところも評価されそうだよ」
いくらなんでも早熟を越えて超早熟じゃない?
「え!? 私って天才児で大人びてない!?」
『自分のことそんな風に見てたの?』と冷静な指摘で、なんだかルビーのほうが子どもっぽいわよ。
「瑠美衣のそんな明るさが俺は好きだよ、月愛もそうだよね?」
「そういうことにしておくよ」
「やったぁ~!」
「私もなでてなでて~!」
アイさんすら子どもっぽく混じっていって、生まれたばかりの赤ちゃんに撫でられる小学生と母親ってどういうことよ。
「まっ、僕のほうが天才児で大人っぽいよな」
「あんたはもう少し可愛いままでいなさい、小学2年生」
そんなアクアはミステリアスと可愛さが共存してるのよね。出会った頃は金髪ということもあって、天使かって思うくらい可愛かった。今でも可愛いところはあるし、どうせならこのまま可愛くカッコよく育ってくれてほしいわね。クリスさんのようなイケメンに育つんでしょうけど。
まあルナも可愛さの方向性は違っていても、あれはあれで可愛いわね。幼い頃のアクアのような面影は感じるから。
「あの、少し撫でさせてもらっても?」
「撫でさせてあげるよ。ただし神を敬う気持ちでね」
本人が答えるんかい!?
しかも昔の私より態度がデカい!
クリスさんやアイさんも快く頷いてくれたので。
「わっ、もちもち」
「「でしょでしょ~」」
指で頬っぺをぷにぷにさせてもらうと、とても柔らかくて可愛い。瞳の色はアイさん譲りで、目つきはアクアによく似ていて、もしアクアに子どもができたらって想像までしちゃって。
たぶんどんな子でも可愛がっちゃう…
あれ? あ、いや、とりあえず…
「ありがとうございました」
「敬意が足りない気がするけれど」
だから態度デカいわよ。
神様キャラで子役でもするつもり?
それはそれで役が貰えそうね。
「なんだ、もういいのか?」
「ぴゃあ!」
あんたはホント! 急に隣に来るの!
嬉し… ビックリするのよ!
「お父さん、おやつの時間にしたいな」
「そうしよっか。みんなも食べる?」
「「たべるたべる~」」
私も混ぜさせてもらって、事務所の休憩室に移動する。
イチゴやブルーベリーをそれぞれトロトロにしたものを、器用にスプーンで味わっている赤ちゃんを見て、最近の赤ちゃんは早熟でグルメなんだと思った。
☆☆☆
お父さんが出張や泊まり込みだと、私はアクアたちの部屋に泊まらせてもらうことがある。
アイさんは土日も夜までお仕事がある場合が多くて、今日なんて始球式を担当していた。
私とルビーがお風呂からあがっても、テレビは野球の試合が流れ続けていて、アクアたちは真剣そうに見ていた。
「お兄ちゃん、お風呂あがったよ~!」
「よしっ、キリがいいから入ってくる」
野球は6回が終わったところで、アクアがソファから立った。
振り向いたところでこっちをチラチラ二度見してきて、なによ、褒め...はっきり言いなさいよ。
「母さんたちと買ったやつか。似合ってるじゃないか」
「あ、当たり前よ」
あんたが恥ずかしそうにしてるから、こっちまで照れるんだからね。
紫色はあまり着てこなかったけど、アイさんにオススメされてよかった。
「パパ~! 髪乾かして~!」
ルビーがナイスタイミングだった。
赤ちゃん用の席で野球を食い入るように見ているルナを少し撫でてから、クリスさんはルビーを自分の膝に座らせた。
「かなちゃんもやってもらう?」
「自分でやるわ」
たまにアイさんにやってもらえるだけで十分嬉しいし、アクアが上がるまでに乾かしておきたいし。
えーと、アイさんが言っていたのは『猫耳フードかぶって にゃ~ん すればいいよ』って、ごめんなさい! いつかやります!
「そこで打たないとっ!」
哺乳瓶片手に野球観戦で熱くなってる早熟ベイビーがいて、なんかもうこの家族なら何でもありかもしれないわね。
おかげさまで調子は取り戻せた。
ドライヤーを借りて弱風で乾かし始める。アクアたちとの、こういうぬるま湯みたいな関係が好き。
「あ、打ったよ!」
「それでいいんだよ」
「腕組みまでしちゃって」
ホント、この家族といると、自然と笑顔になっちゃうわね。