まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編5 (雨宮吾朗と天童寺さりな)

 

 もう1年以上前になるか、宮崎旅行の計画を俺からアイたちに伝えると、理由を尋ねられた。

 

 そういえばどこかに行きたいと俺から言ったことはなく、アイや瑠美衣の希望が多い。だから正直に、『月愛からの提案だね』って話した。

 当時はまだ0歳の赤ちゃんからジト目で見られ、家族は『まあ転生者なんでしょ』って普通に受け入れていた。

 

 みんなのスケジュール調整や、月愛がもう少し大きくなってからと考えて、そうこうしているうちに、次の年の11月の連休に行くことになった。

 

 交通機関や泊まる場所を大まかに予約しただけで、向こうでゆっくりする予定だ。やっぱり俺とアイは『あの病院を見たいね』と話していると、瑠美衣も目を輝かせて賛成してくれた。

 他にも愛久愛海が行きたい場所を提案してくれて、月愛は『神社以外ならどこでもいいよ』と言っていた。どうやら生まれ変わったばかりの姿で、他の神様に いじられたくないらしい。

 

 飛行機を使って、はるばると宮崎へ、そこからレンタカーを使って高千穂に移動する。

 後部座席ではチャイルドシートに座った月愛に瑠美衣がスマホで動画を見せながらキャッキャしていた。子どもたちに大人気のぴえヨンの声とかが聞こえていたはず。

 

 さて、今日も慌ただしそうな病院に着いたけど、外観を見るだけにする。

 それだけでもみんな満足そうだった。

 

 俺もアイも、愛久愛海と瑠美衣と月愛も、それぞれに思いをはせる。

 

 俺にとっては、アイが元気に子どもたちを産んでくれた病院の1つで、妻への感謝を再確認する場所だから。

 

「せんせ… どこにいるのかな…」

 

 瑠美衣のさびしいつぶやきに、月愛が優しくほほえんだ。確信もできただろうから、あとは愛久愛海に任せればいいよな。

 

 

☆☆☆

 

 

 いつか高校生になった時にでも、1人で行こうとしていた場所がいくつかある。

 だから今回の旅行は、僕にとって最高の提案だった。

 

 東京から宮崎の高千穂までの所要時間を再度実感する。僕も大学は東京方面だったけど、母さんたちは秘密を守るため、はるばる遠くにある病院を選んでくれたんだと感じた。

 

 宮崎総合病院は、とても懐かしく思える。

 

 研修医だった頃のこと、産婦人科に勤めていた頃のこと、たくさんの思い出がある。

 ルナのことは分からないけど、ルビーの悲しい横顔を見れば、ちゃんとキミと向き合わなきゃいけないと思った。

 

 父さんは、僕の記憶にある住所を目的地にしてくれたけど。

 

 やっぱり遠目に見ても、10年以上は誰にも手入れされていないからボロボロの家になっている。ポストからは無造作にチラシが飛び出していて、雨で濡れた形跡があった。

 

 それでも『雨宮』と書かれた表札が、しっかりと残っていて。

 

「ただいま」

 

 当然、もう誰も『おかえり』とは言ってくれない。

 

 思い出といっても産医になって祖母が喜んでくれた記憶くらいで… 当時は外科医になりたかったんだよな。

 祖父は大学の僕に仕送りは何度かしてくれたっけ。

 

 僕は流されるように生きていただけだ。

 

 まあそのおかげで研修医として あの子に、産医として父さんや母さんに、それぞれ会えたんだから、僕の前世にも少しくらいの価値はあったはずだ。

 

 振り返れば、妹の綺麗な瞳から涙が流れている。

 

「お兄ちゃんが…… せんせ… なの…?」

「そうだよ、さりなちゃん」

 

 生まれ変わって、何よりも元気に育ってくれて嬉しい。

 

 前世も可愛かったけど、キミの希望通りに母さんと似た容姿になって、あの時と同じでアイドルを目指している。しかも家族の愛情に囲まれていて、僕も兄として愛することができる。

 

 さりなちゃんを両親に最期まで会わせることができなかったり、大事な母さんの出産に立ち会えなかったり、こんな僕にも救いがあるなんて、神様には感謝しないといけない。

 

「行方不明って聞いて… アイドルになって… 私が見つけてあげないとって……」

 

 涙をごしごしと袖で拭いている。

 

「生きているって、信じてくれていたんだね。ありがとう」

 

 身体を ぎゅっと抱きしめた。

 最期の時と違って、ちゃんと温もりがある。

 

「私のほうこそ… ありがとう… せんせのおかげで、さりな は幸せに逝けたよ」

 

「どういたしまして、さりなちゃん」

 

 あれからたくさんのこともあって、僕は変わったところも多いけど。

 キミの『えへへ』って心の底から笑う姿は、昔のまま可愛らしいよ。

 

 

 キラキラと宝石のような瞳が、どんどん近づいてきて。

 

「ん」

 

 

 

 どうやら唇にキスされたらしい。

 

 

 それを理解するのに、少し時間がかかってしまった。

 

「大好きだよ、せんせ!」

「僕も大好きだよ、さりなちゃん」

 

 この子を天童寺さりなとして見て、僕は雨宮吾郎として想いに答えた。これは前世の約束だからって、自らに言い訳をする。

 

 とはいえ、顔がニヤニヤするのを止められない。幸せを感じているところに、さらに幸せが重なったから。

 

 

(まあここから兄妹関係で落ち着くよな?)

 そうやって僕は自問自答する。

 これ以上は社会的にヤバいから。

 

(でも、恋する乙女のように可愛らしいぞ?)

 白衣を着ているのは産医時代の俺か。

(さりなちゃんに手を出すなら俺が許さない!)

 次はサイリウムを持った研修医時代の俺か。

(いや許さないって、みんな僕だよね?)

 幼い金髪の僕が、俺にツッコミをする。

 

 

 ふぅ、なんだか脳内の法廷で何人かが言い争うイメージがふと思い浮かんだ。たぶん混乱しているだけだと思うし、議論がまとまった気はしないし。

 

 それにしても僕とルビーは実の兄妹なのに、父さんや母さんやルナはどう思うだろうか。

 

「キャ~! キスしたよ! とびきりの愛だね!」

「子どもたちが幸せそうで何よりだな」

 

 とても満足そうな表情だった。

 僕たちの両親の心が広すぎる。

 

「良かったね。2人は再会できる運命だと思っていたよ」

「運命!? 私たちってそうなのかな!?」

 

 母さんに抱っこされたルナが、まるでお姉さんのように言ってきたけど、妹は前世の僕たちを見ていたのかもしれない。普段の生活を見るに、自由気ままな神様だと思う。

 

「そだ、お兄ちゃんせんせ、なんで生まれ変わったの? 女性とトラブル?」

 

「断じて違うよ」

 

「えっと、やっぱりアクアはあの日に?」

 

 申し訳なさそうな表情で、別に母さんのせいじゃないのに。

 

「そうだね、母さんの出産が近かった」

 

 って、前世の話をしているのに、いつも通り僕は母さん呼びだった。父さんが前世も過去の一部だって言っていたように、いつか混じりあっていくんだろうな。

 

「病院を出た時、急に話しかけられたんだ。『星野アイの担当医だろ』とね」

 

 その時は公表すらしていなかった名字だった。

 部屋も個室にして、名字は隠すようにしていたのに。

 

 その後、僕が焦ってアイツを追いかけてしまって、たぶん崖に突き落とされたんだと思う。

 

ふーん

 

 視線をずらした母さんの瞳は、まるで黒い星を浮かべているようだった。いつも(うち)ではニコニコしている母さんの、こんなに怖い表情を僕もルビーも初めて見る。

 

 いや、母親として、演技以外では負の感情を、あまり僕たちの前で見せないようにしていたんだろう。

 

 入院期間もガラスのように繊細な人だと思っていたし、あの時も今も、母さんのパートナーとして頼れる父さんがいてよかった。どうしてもファンは『偶像』を押し付けてしまうから。

 

「アイ、そのことは大丈夫だと思う」

「ん、クリス君がそういうなら」

 

 心の底から幸せでいられるようにって、母さんの日常を父さんが支えている。

 いつか僕もああいう人になりたいと思っている。

 

「愛久愛海も瑠美衣も、月愛も、望んでいないことのようだ」

「そうだよお母さん、もう()ぎたことだね」

 

 父さんやルナが言うように、僕は自分自身のことで復讐してほしいとは思っていない。とはいえ、僕のために悲しんだり怒ったりしてくれたのは嬉しい。

 

「ごめんね、反省(ハンセイ)反省(ハンセイ)~」

 

 撫でられながら、てへっと可愛い表情になる。嘘ではなく、ちゃんと母さんの素顔なようで安心した。

 

「父さんやルナは、僕のためにこの旅行を?」

「そういうこと。お兄ちゃんのためを想ってね」

 

 たまに素直じゃないけど、とても優しい妹だな。

 

「つまり、どういうこと?」

 

 ぎゅって腕の中にいるルビーが僕を見上げてくる。宝石のような瞳をキラキラさせていて、母さんのように、この子も染まりやすいだろう。

 

 母さんやルビーにあまり見せたくはない状態だろうけど、捜索に置いていくって提案しても頷かないだろう。だから、家族として僕たちが精神的に支えようと思う。

 

「キミに貰った大事な『物』が残っているから、それを探そうって、この旅行をルナが提案してくれたんだ」

「そうそう、大事な『もの』がね」

 

 僕もルナも、ルビーには昔のまま、真っすぐに夢を見ていてほしい。

 オタクってくらいに誰かを推して、幸せな表情を浮かべる。そして母さんに勇気づけてもらってきたように、いつか誰かを勇気づけたいって、自分なりにアイドルとして輝こうとしてくれている。

 

「そっか、最期までずっと持っててくれたんだね、あの宝物のキーホルダー」

 

 賢くて優しいから、気づいちゃったか。

 

「警察に預かってもらうことになって、手元に戻ってくるのはいつになるだろうな」

 

 決して代わりはなくて、『あれじゃないといけないから』って伝えてルビーを撫でると、嬉しそうにニコニコしてくれる。

 

「それにしても、いつも側にいてくれたんだな~」

 

 確信はなかったけど、僕は子どもの頃からさりなちゃんのように接してきた。まあ前世があってもなくとも、キミやルナを大切な妹として愛してる

 

「僕はキミをずっと妹のように思っていたから、生まれ変わってくれて嬉しいよ」

「む~ せんせがお兄ちゃんかぁ~ それはそれでありだけどなぁ~ 複雑だな~」

 

 2人で一緒にB小町を推したり、アイドルになりたいって夢を見てくれたり、元気になったら髪を伸ばしたいって聞いたり、もし生まれ変わったらって話したり、結婚してって言われたり。夜にネットに引っかかったカラスを助けたこともあったな。

 

 幸せな思い出がいっぱいあって、語り合いたいことはたくさんある。

 

 それにしても16歳になったらって話が、現実的になってきた。

 今後、僕たちの関係について一緒に考えていかないといけないだろう。こんな可愛らしい子に真っすぐな恋愛感情を向けられて、意識しないなんてできないから。

 

「ねっ、私がアイドルになったら推してくれるよね?」

「当然だろ。昔も今も、これからも、ずっと推しているよ」

 

 ちゃんと大人が守ってくれる苺プロに入ってくれて、ホントに良かった。母さんや父さんたちが付いていて、しかも僕自身も芸能界で少しくらいサポートできる。

 

「ん~ お兄ちゃんせんせ~ ずっと愛してる~」

「ああ、ずっと愛してる

 

 これからルビーとどういう関係になるかは分からないけど、焦って確定づけることでもない。まあ、もしいつか誰か大切なパートナーができるとしたら、兄として見定めさせてもらう。

 過保護かもしれないけど、僕は大切な妹たちを守っていこうと思う。そういう夢を持つことができたように思える。

 

「さっ 行こっか!」

「よーし、ぜったい見つけるぞ~」

「大体は分かっているよ」

 

 ルナがそう言うと、いつの間にか屋根の上にいたカラスたちが飛び立っていく。

 僕たちが車に戻ると、父さんはそれを追いかけるように運転してくれた。

 

 

 その後、みんなで『探しもの』は見つけることができた。事情聴取などなど、やることはたくさんあるけど。

 

 僕の心はとても晴れやかだった。

 

 

 

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