まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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アクア中学生編
番外編7前編 (3人目のアイドルのスカウト)


 

 1歳年上のかなちゃんを追うように、瑠美衣や愛久愛海も中学生になった。

 

 愛久愛海は役者をある程度は続けながら、五反田監督のお手伝いをしたり、苺プロで芸能マネージャーについて学んだり、他にも趣味で最新医学書を読んでいたり、本格的に鍛え始めたり。前世から要領がいいようで、文武両道で多くのことをこなしている。

 瑠美衣やかなちゃんはアイドルのトレーニングを続けながら、学業との両立に少し手こずっている。瑠美衣は勉強が得意というわけじゃなくて、かなちゃんは若手女優としてドラマ出演などで忙しい。たまにアイも混じって、事務所のミヤコさんの部屋で勉強会をしている姿がよく見かけられる。

 そんなアイはというと、主演女優として何年もノミネートするほど、芸能人としてまだまだ成長を続けてきた。あちこち移動して忙しい時が多いけど、家族との時間を心の底から大切にしていて、いつも幸せそうに笑顔を見せてくれる。

 

 今は月愛も幼稚園に通っている。幼なじみの碧斗(アオト)君や愛衣(メイ)ちゃんに連れられて、なんだかんだ元気よく遊ぶことになっているらしい。面倒見がいいから、俺の両親や斉藤さんたちも頼ってくれている。

 

 さて、いろいろと考えこんでいたけど。

 

 夕暮れの空をカラスが鳴きながら飛んでいて。

 俺たちと同じように木々で休んでいくカラスもいた。

 

 月愛の幼稚園帰りに、こういう落ち着いた時間を一緒に過ごすことがある。まるで挨拶するように、ぺこりと頭を下げてくるカラスもいて、何かしら情報のやり取りでもしているんだろう。

 

「これからどうしようかな……」

 

 地面のほうから、つぶやきが聞こえてきた。

 

 そして、その金髪の女性は『アイドルはもう無理だよね…』って自分自身に言い聞かせるようにつぶやく。手のひらの上に置いたスマホをじっと見つめていた。

 

 少し指を動かすと。

 B小町の曲が小さく再生され始める。

 

「面白そうな子だから、話しかけてくるね」

 

 そう言って隣の月愛が ひょいっと枝から地面に降りていく。

 普段はクールなのに、ワクワクとした表情はママさんによく似ているんだよな。

 

「えぇ!?」

「お姉さん、お困りごと?」

 

 突然降りてきたことにビックリしたようで、あたふたと金髪の女性は立ち上がって、月愛の目線に合わせるようにしゃがんだ。

 

「ケガしちゃった!? 痛くない!?」

「平気だよ。お姉さんは優しいね」

 

 くすくすと月愛が小さく笑っている。

 

「そ、それならよかったよ」

「ん、B小町の歌は良いよね」

 

 ベンチに置かれたスマホが1曲再生し終わったらしい。女性が『えっと、最近の子は博識なんだね?』と言ったけど、まあ時折りアイがテレビで歌うとはいえ、B小町が解散したドームライブからもう何年も経過しているんだよな。

 

「お姉さんもアイドルになりたかった?」

 

「アハハ… 聞いてたんだ。賢い子だねぇ」

 

 『私に話してみなよ』って月愛が優しく語りかける。

 彼女はいろいろとため込んでいたようで、ゆっくりとベンチに座り直してから話し始めた。

 

 

 B小町の影響で昔からアイドルに憧れて、自分なりにトレーニングをやって、高校3年でやっとオーディションの最終審査まで残れたということ。

 そんなとき、母親が過労で倒れてしまう。賢くて優しい弟たちの学費を考えれば、すぐにでもお金を稼ぎ始める必要があった。自分は学校を休学して、5年ほど働いてきたこともあって。

 

「弟たちも大学生になって、お母さんも元気になった。だから、これからどうしよっかなって悩んでたの」

 

 とても家族思いで優しい子だな。

 アイドルになる夢を今まで我慢してきたんだ。

 

「ごめんね? いろいろ勝手に話しちゃって、面白くなかったでしょ」

 

 そんな震える声に頷くことなく、月愛が『夢を追いかけないのかな?』って真っすぐな声で質問をした。もし娘が言わなかったのなら、俺が尋ねていただろう。

 

「お姉さんがこのまま頑張っていけば、芸能界でも大成できるとしても?」

 

 予言めいた言葉はなんだか確信できるものだった。

 さすがは、人を導き運命を司る神様の一柱(ひとはしら)なんだろう。月愛は俺たちの娘になってくれてから、身内の範囲で積極的にみんなを導くようになっている。

 

「ありがとね。でも、もう夢を追える年齢じゃないんだよ」

 

 とても(つら)そうな声だった。

 

「20歳を超えると、応募すらできないところが多くて… だからもうアイドルは諦めて……」

「私に嘘は通用しないよ」

 

 そう簡単に夢は諦められないのだろう。

 それでこそ、可能性を感じさせてくれる。

 

「応募できないことが理由なんだ。なら、苺プロでスカウトするよ」

「苺プロって… あのB小町のところの?」

 

 ああいう思いきりの良さもママさん譲りだな。

 斉藤さんたちをいい意味で振り回すところも含めて。

 

「いやー、それがホントなら嬉しいけどね」

 

 もし叶ったなら、ちゃんと嬉しいんじゃないか。

 

「それなら、やはりアイドルになるべきだよ」

 

 そう言って月愛は『お父さんよろしくね』と、俺に向かって目で伝えてきたので枝から地面に降りる。

 

「え? え~~!」

 

 目の前にいる女性は、綺麗なまつ毛な目を高速でパチパチしている。

 

「本物の星野栗栖さん!?」

「はい。こちらが名刺です」

 

 名刺を渡す前から名前を呼ばれた。

 ほとんどテレビに出ないのに、どうやら俺のことも知っていたらしい。よほどのアイのファンしか知らないと思うのに。

 

「こちらは栗栖さんやアイさんの娘さん!?」

 

「そうですよ。3人目の子どもです」

「そして私は苺プロ次期社長の予定でもある」

 

 『ご令嬢ですか!?』って女子高生は良いリアクションで驚いた。

 月愛は自らが芸能人になるより、誰かを導くほうが面白そうって、経営について学び始めていた。

 

 飲み込みがとても早く、すでに画期的な提案もするので、斉藤さんやミヤコさんも興奮しながら教え込んでくれている。親として贔屓目(ひいきめ)に見ても、次期社長については現実的だろう。俺たちと一緒に苺プロの事務所を出入りしているうちに、すでにカリスマのようなものも発揮しているから。

 

「じゃあ、これって本当にスカウト!? 何かのドッキリじゃないよね!?」

 

 俺と月愛はキョトンと首を傾げた。

 さっきから本音しか話してないんだけど。

 

「本気の話だよ。続きは事務所で話そうか」

「では、連絡先の交換と、日程調整をしましょう」

 

「これ…夢じゃないよね……?」

 

 涙を流しながら、目の前の女性は嬉しそうに笑う。

 

「そうだよ。ほら、温かいからね」

「だねぇ~ 温かいねぇ~」

 

 月愛はほほえんで、大きな手のひらと重ね合った。

 

 さて、アイや斉藤さんたちと話し合って、具体的なことを考えていくとしようか。もしかしたら瑠美衣や かなちゃんと一緒にアイドルになるメンバーかもしれないな。

 

 

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