まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
私は、子どもの頃からアイドルになるのが夢だ。
昔からB小町が推しで、その中でもアイさんのガチファンになっていた。可愛くて、カッコよくて、綺麗で、『愛してる』って心の底から伝わってくるようなパフォーマンスだった。
そして今も芸能界で大活躍し続けていて、バラエティやドラマや映画、いつもとにかくキラキラしてる。16歳の頃には母親になったらしくて、家族のことをとても愛していて、そういうところも推せる。
解散の時の結婚宣言はビックリしたけど、自分たちの子どもについて幸せそうに語っていて、こっちまで胸がぽかぽかした。
だから私がアイドルに憧れたのは、やっぱりアイさんが理由なんだろうねぇ。
新規の事務所でありながら、2度のドームライブを成功させたB小町は、今でも伝説になっている。そのハードルもあるのかな、今の苺プロは女優部門やネットタレントが中心になってて、残念だけどアイドル部門は休止されている。
それでもアイドルへの憧れはあって、自分なりにトレーニングを続けた。高校3年でやっと、大手のオーディションの最終審査まで残ることもできた。
それも『気にせず自分の夢を追いなさい!ママも一緒に頑張るから』って励ましてくれたから。
ママが倒れちゃったことがあって、弟たちの学費のためにお金を稼がないといけなくて……
もう23歳になってて再び応募すらできなくて、しかもオーディションを受けていたときから何年もブランクがある。
それでも諦めきれなくて、迷ってたところだった。
まさかこんなことになるなんてなぁ。
「では、詳細を話していきましょうか」
目の前の栗栖さんも、私は推している。
高校1年の頃からアイさんを支えていたエピソードとか、事件があった時に守り通した話とか、私や友達の中で家庭的な男性として人気がある。
ハーフで金髪でイケメンなのに、子育てを理由にモデルや俳優を断っているらしいのが惜しい。今のスーツ姿とか、本音は写真を一緒に撮ってもらいたいくらいだもん。
「ちなみに月愛は幼稚園なので、また会えたら話してあげてください」
「あー、普通に平日のお昼ですもんね」
確かにルナちゃん、幼稚園の水色の服を着てたから。
でも雰囲気や話し方が私より大人っぽかったし、芸能界で大成できるって励ましてくれた。子役のアクア君といい、ホントに美男美女な家族だよねぇ。
「まあ本人
「おぉ、なんだかすでに社長っぽい」
あれ~ というか斉藤さんって、今の社長じゃなかったっけ~?
私がそういうことを考え込んでいるうちに、資料やタブレットの準備が終わったみたい。
「今日のところは、アイドルに詳しい助っ人も呼びました」
「そういうことで私も混ぜてもらうね?」
「アイさん!?」
ドアから、にこにこと綺麗な顔をのぞかせている。
推しがまぶしくて目がぁ~!
「可愛い子が後輩になるのは嬉しいね!」
「なるかもしれない、だからな」
よいしょ ってソファに座ったアイさんは、とてもリラックスしていて、服装もロングスカートで落ち着いていた。テレビに出ている時の芸能人オーラがなくて、近所の優しいお姉さんって感じなのかな、そういう雰囲気がしている。
「アイドルのことならどんどん聞いてね!」
「はい、よろしくお願いします!」
『ほらクリス君もリラックスリラックス~』って膝をぽんぽんしていて、イケメンと美女が仲良し夫婦なのが、なんというか目の保養になるねぇ。
「それじゃあ、こちらからいくつか提案をさせてもらう」
ふむふむ、パターン1としては、私をメインとした新規アイドルグループを作って...
メンバーを募集してから半年以内にはデビューなんだって。
「うぇ!? 私がメイン!?」
「そう、これが短期間でアイドルになりたいという場合だ。ただし現実的なことを言えば、小規模なステージからスタートする」
「B小町も最初はそんな感じだったんだよ」
用意されていたコーヒーを飲んで、一度落ち着かせてもらう。
興奮しちゃったけど、今の自分の実力は分かってるから。
「アイドルも仕事だ。最初期のB小町を参考に、具体的な収入は多くてこれくらいだろう」
書面で金額を見せられたけど。
こんなに少ないんだって思っちゃう。まあそこは覚悟の上だよ。
「メンバーの人数は多くない予定だけど、会場の規模からして、最初はどうしてもな」
そう言って、栗栖さんはこちらにもう1枚書面を見せてくる。
「それと個人の仕事としてテレビ出演の機会を作る。苺プロの女優とセットで出演、いわゆるバーターになるだろう。ただ、これも将来への人脈作りみたいなものだから」
芸能界は厳しい世界だとは思っていたけど。
こんなに甘くないんだなぁ。
「というのが、短期的にアイドルになる場合のパターン1だ」
さらに話を続けてもらったけど、早急にレッスンを継続したり、自分のパフォーマンスでファンを獲得したり、SNSで認知度を拡大したり、他メンバーとのやり取り、などなど考えていくことは多そうだね。
「やっぱり遅かったんですかね…?」
「ん、20代からアイドルになる人もいるよ?」
『最近だとーーー のグループの人だね』ってアイさんが優しい声で教えてくれて、おかげでちょっと元気が出てきた。それこそ大手のアイドルグループだったし。
「幸い、キミも小柄だから若く見られると思うよ」
「ねぇー なんで私を撫でながら言うのかな~?」
『そんなアイが可愛いよ』『それならヨシ!』って
夫婦でイチャイチャしてて ほほえましいけど。
まあホントにアイさんは、いつまでも若くて可愛いで有名だよねぇ。
「そういうことだから、苺プロとしては特に年齢制限は設けていなくて、各メンバーの持ち味を活かす売り方をしている」
「だね。それにしてもB小町の頃が懐かしいな。いろいろあったなぁ~」
人差し指を顎に手を当てて、何かを思い出すようにほほえんだり。
そして『こういう表情だったはず?』って言いながら、アイさんは闇に濁りきった瞳を見せたり。
私は膝の上でぎゅっと手を握って、その現実と向き合わなきゃいけない。テレビの向こうではキラキラと輝いていたけど、
「てへっ☆」
アイさんは一瞬でアイドルスマイルを作る。
その完璧な笑顔に、私は思わず惹きこまれた。
そして、また優しいお姉さんの雰囲気が戻る。
「もちろん楽しいこともあったし、アイドルをやってよかったと思ってるよ」
今の私に足りないことは多い。
たぶんまだ甘く考えちゃってるところもあるけど。
「本気でアイドルをやりたいなら私も応援するし、時間を見つけてレッスンも手伝うよ」
それでも、この気持ちだけは、オーディションを本気で受けていた頃からずっと変わっていないから。
「はい! お願いします! 『アイドルになりたい』って気持ちには自信があるので!」
こちとら、23歳になっても夢を叶えてやるつもりじゃい!
「ん、さすがルナがスカウトした子だね! 将来性ばっちり!」
「だな、その自信を持ったまま、挑戦してほしいことがある」
そう言って、栗栖さんは新たに資料を広げた。
「さて、ここから話すのがパターン2だ」
「家族みんなで考えてみたよ! 私的にもこっちがオススメ!」
えっと、パターン2としては...
2年後を目標に、『2代目B小町』?
これって……
「にゅや!?」
「B小町のネームバリューなら、最初から大きなステージで歌えるはずだろう」
「3人でいつかドームに行ってくれるかなぁ~」
はわわわわ、すごい話になってきたよ。
B小町は私にとっても伝説みたいなものだから。
「とりあえず、まず契約した時点でこれくらいだな」
「お義父さん、うちの社長なら払ってくれるでしょ~って」
「うぇぇぇ!?」
一括で桁違いの金額だった。
こんなに私に投資してくれるの!?
「2年ほどの準備期間は、アイドルのトレーニングを続けながら、もしネットタレントとして所属してもらったなら、それで毎月これくらいだろうな」
こんなにも、この人たちは私に期待してくれるんだ。
「ネットタレントというと、youtuberのような?」
「そうなる。事前に知名度があれば、アイドルになってから優位になる」
「ってルナやアクアが話してたね!」
配信か~、友達の中でも趣味でやってたって聞いていたことはある。いずれテレビにも出演するなら、トーク力っていうのかな、良い練習にもなるかも。
そうなると、ぴえヨンみたいに実名は避けたほうがいいのかな?
苺プロはネットタレントでも有名だから、心強いなぁ。
「それでなぜ2年なのかについて、見てほしいものがある」
「タブレット? 動画ですか?」
画面に映っていたのは、2人の中学生が踊る姿だった。
「これが今の中学生のレベル…?」
「アイの英才教育と、本人たちの頑張りだと思うけど」
「そだよ、娘のルビーと、幼なじみのかなちゃん!」
幸せそうな笑顔のアイさんは、動画とタイミングを合わせるように、手でハートを作るポーズをする。心の底からの愛情が伝わってくるようでキラキラと輝いて見えた。
こんなすごい人に教えてもらってきて、しかもこの子たちはまだ中学生で発展途上なのが末恐ろしいよ。
こっちの子は天才子役としてよくテレビで見るし、ルビーって子は両親譲りの容姿も兼ね備えているし。
「2人とデビューを合わせてもらうことになって、キミが25の頃になるだろう」
『だから』って栗栖さんが頭を下げようとするのを、私はピースを顔の前に向けて止める。
「任せてくださいよ! 2年で追いついてやります!」
何年も我慢してきた夢が叶うんだもん。
こんなに応援されて、ますます自信もついたし、ワクワクもするし。
「なんなら花形のセンターも狙うほどに!」
最後のライブでB小町がそんなパフォーマンスをしていたように、年齢関係なくこの子たちは仲間でライバルって思わなきゃね。
「そっかそっか! センター争いが楽しみだね!」
「ああ。俺も箱推しになりそうだ」
2代目B小町としてドームを目指す、これが次の夢なんだろうなぁ。どんどん欲張りになっちゃうねぇ。