まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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第4話②(アイ視点, いろいろと目標ができたこと)

 

 私は嘘()き。

 

 お母さんたちの前でも、施設でも、学校でも、あれこれ考えるより先に誰かに合わせてる。そうすれば、ほとんど上手くいくから。

 

 嘘()きという自覚はあるけど、自分でも何が本心で、何が嘘なのか、もう分からないんだよね。

 

 だからこんな私は、アイドルなんて向いてないと思ってた。

 だってアイドルは笑顔を振りまいて、みんなを笑顔にする綺麗な存在なんでしょ。テレビで見るアイドルはキラキラしてるんだもん。

 

 私は愛を知らないから。

 きっとファンを愛せないし、ファンからも愛されないよ。

 

 そう思ってた。

 

 施設が騒がしかった時に、街を散歩してたら、おじさんに声をかけられたけど。

 いわゆるアイドルのスカウトで、ついついファミレスで奢ってくれるからって釣られちゃった。

 

 そのおじさんが言うには、お客さんは綺麗な嘘を求めてて、嘘()きなのも才能なんだって。

 

 『愛してる』って言葉が本当になるかもしれないって聞いて、ちょっとアイドルに興味が出た。

 

 そういえば、知らない大人に付いていっちゃうの危なかったかもね。

 

 生まれたときから家族はお母さんだけで、どっか行っちゃって、どうせ私のことを心配してくれる人なんていないし...

 

 ん、まぁクラスに1人いるかもってとこ。

 

 彼は不思議な人だった。

 言葉を選ばないなら、変な人だ。

 

 ハーフらしくてその金髪で青い瞳、ちょっと日本人離れした顔もしている。

 

 休み時間は難しそうな本を読んでいるか、空を見ているか、他の男子と遊びに行くところは少ない。でも困った時は助けてくれるような人で、5年生になった頃にはクラス委員長としてみんなが推していた。

 

 金髪だし、まるで物語に出てくるような王子様な存在って女子たちで言ってた。

 

 でもいざ目の前にすると、みんなは恋愛対象としては見れなかったみたい。いわゆるイケメンで勉強や運動もすごくできて、男子だけど高嶺の花ってやつなんじゃないかな。

 

 いろいろあって本当に余裕がなかった時、私が何も言わなくても助けてくれた。

 でも私だけじゃなくて、気づいたらあちこちに声をかけていて、ちょっと()いちゃう時もあったかな。

 

 私の嘘も、失敗も、普通に受け入れてくれて、彼と過ごす時間は苦痛じゃなかった。

 

 だから名前を覚えるのが苦手な私でもすぐに覚えられたのかな。

 

 月村クリス君、とにかく彼は青いクリスタルのような瞳もそうだけど、男性アイドルやっててもいいくらい、まぶしいくらいの人だと思う。

 

 中学生になっても私と彼の関係はクラスメイトのままだった。

 たまに公園とかカラオケとか遊びに行くけど、彼は自分のことはほとんど話すことはなくて、あまり興味ないのかもね。

 私だって癖であれこれ嘘をついて本音は伝わっていないだろうし、ていうか自分でも本音分からない時が多いし。

 

 ただ彼はいろいろと物珍しそうに見ていて、私も嘘ついてるかどうか気にしてなくて、気分転換として楽だった。早めに施設に帰ってもなんだか疲れちゃうし。

 

 私がサトウ社長にスカウトされた時のこと、クリス君に相談してみよっかなと思って。

 

「もしも私がアイドルになるって言ったら、どうする?」

 

 我ながら変な聞き方だよね。

 その時の私は、背中を押してもらえればいいや程度だった。

 

 『人間関係に永遠なんてない』からクリス君もいつか離れていくだろうって。

 今思えば、私はこの関係を続けていくことを最初から諦めていたんだろう。

 

 ただの気まぐれで私と一緒にいてくれるだけ。

 だって彼は誰とでも仲良くできそうだもん。

 

 でもね。

 

「アイが決めたことなら応援するさ……

 が、誰かに強制されているなら……  」

 

 ゾクゾクしちゃった。

 

 いつも水晶のような純粋な瞳が、まるで闇を包んでいるようだった。こんなに綺麗に研いだ刃物を隠し持っているなんてね。本気になったら手段を選ばない人なのかな。

 元々困った時は助けてくれるような人だと思っていたけど、命をかけてまで守ってくれるかも。

 

 まぁクラスメイトでしかない私なんかのために、どうなんだろうね。

 

「大げさだよ。スカウトされただけだから」

 

 そんな嘘ではぐらかしつつ。

 『あぁ…独り占めしたいなぁ……』って思い始めた。

 

 それに、サトウ社長と話した時を思い出しつつ、アイドルが『愛してる』と嘘をつく話とかしていたら。

 

「友愛ともいうか? そういうのは感じているな」

 

 彼は、全ての魔法が愛から生まれたとも言っていたけど。

 こんなに心を動かすのなら、確かに魔法かもね。

 

「……そっか」

 

 友達として、たぶん愛してくれてるようで、きっと嬉しさもあった。

 でも、そんな風に愛を簡単に与えられる彼に酷く嫉妬した。

 

 クリス君は、裏表もほとんどなくて、約束も守ってくれて、そして愛をくれる人だ。私たちが大人になっていくほど、彼という光に焼き焦がされるように、あちこちからモテモテになっちゃうんだろうな。

 

 アイドルをやって本物の愛も欲しかったけど。

 その愛を向ける対象として、誰かは必要で。

 

「ますます欲しくなっちゃった」

 私という『魔王』は、クリス君が『みんなの勇者』になる前に手に入れておくべきだと思った。

 

 

★★☆

 

 

 ある雨の日のこと。

 

 初めてクリス君の家へ行った。

 彼にはお母さんも……それにお父さんもいるらしくて、愛情たっぷりに育てられたんだろう。そりゃあ純粋培養?、みたいにこんなイケメンに育つのかもね。

 まるで私をお姫様として扱う執事のように、テキパキとお世話をしてくれるけどさ。

 

 あぁ…()いちゃうなぁ……

 お母さんもお父さんも仲が良くて。

 

 でも彼も男子の1人だ。

 ちょっとつつけば本性を出すかもしれない。

 

「……クリス君って、本当に私のこと好きじゃないの? 異性として」

 

 わざと身体を寄せて、そう誘ってみた。

 

 もし私を襲うようなら……それもそれで悪くないね。その鍛えている腕で無茶苦茶に愛してもらえば、本物の愛が分かるかもしれないから。

 

 でもそういうことはなくて。

 

「恋愛感情ということか? 考えたことがなかったな」

 

 少なくとも自分の容姿が可愛いほうだと思っているし、他のグループのみんなにも嫉妬されて陰口を言われるほど。

 そんな私のアピールくらいじゃ理性が揺るがないというのは、鉄壁すぎるんじゃないかな。

 

 どちらにせよ、下心があってこういう人助けをしているんじゃないんだって分かった。

 ボランティアで本物の愛を振りまくなんて、この人こそアイドルに相応しいんじゃないかな。まぁ嘘が苦手っぽいから、ファンが期待する程の愛は、そう簡単に見せないかもね。

 

「ねぇ、いろいろ聞いていい?」

「知っていることや、話せる範囲なら」

 

 それだと本気の『愛してる』を言わせたくなっちゃうじゃん。

 私は欲張りで、悪い魔女だね。

 

「クリス君って聞かないと自分のこと話してくれないよね。あっ、こうしよ、お互いに1つずつ質問を出し合うってやつ」

 

 まずは好きな食べ物、嫌いな食べ物、ありきたりな質問だけどね。

 

 その中でクリス君に、昔あったことを頑張って話してみた。私が彼のことを知りたいと思うように、彼も私のことを知ろうとしてることが嬉しくて。

 

 あまりどう言ったかは覚えてなくて、蓋をしていた感情を引き出すようで(つら)かったけど。

 お母さんが『ごめんね…ごめんね……』って謝ってる顔をなんだか思い出しちゃった。あれはなんだったっけ。

 

「ああ。苦手でも食べようとしてて、えらいな」

 

 ほら、撫でてくれた。

 私のトラウマでさえ、彼の愛をもっと引き出すために利用してやる。

 

 でもほんの少しだけど、楽になれた気もした。

 

 珍しくお互い本音を話していくうち、どれだけ本性を引き出そうとも、クリス君と過ごす時間は楽に感じる。

 

 これから先に他にも良い人は見つかるかもしれないけど、でも目の前に転がっていた宝石をみすみす素通りするなんて勿体ないよね。

 

「ねっ、クリス君、子ども何人欲しい?」

 

「……ん?」

 

 アハッ、珍しく動揺したね。

 何人がいいかな~、たぶん産むのって大変だろうけど、欲張りな私って2人や3人で満足できるのかな。

 たくさんの家族に囲まれて、アイドルの経験を活かして、子どもたちに本当の『愛してる』を言ってあげたい。

 

 でも、アイドルの稼ぎってどれくらいなんだろう。

 私とは違って、幸せになってほしいよね。

 

 クリス君も最低限の責任は取ってくれるんじゃないかな。私にも家族ができれば、家族としての愛が手に入るかもしれない。

 

「いや、すぐには思いつかないな。将来的に経済状況から考えて人数を決めるべきか? 大学に行きたいというかもしれないし、まあ何にせよ―――生まれてよかったと幸せになってほしい」

 

 あれ………?

 さすがのクリス君でも、私の心を読めるはずはないし。

 

 そっかぁ~

 あぁ! この人だ! この人しかいないんだ!

 

 なんで幸せそうな家族がいて、そんな感情が出てくるの?

 なんで失っていないのに、そこまで愛情を欲しがるの?

 なんで私の欲しい本物を、そんなに言葉にしてくれるの?

 

 これが夢じゃなくて、ほんっとうに現実でよかった。

 

 みーつけたぁ~~

 私たちって運命の相手なんだ~~

 

 もう私以外の女に惚れないように、知らないやつらに『愛してる』なんて言わせないようにしないといけない。『勇者』として守って愛するべきは、『魔王』の私と、子どもたちだけでいい。

 

「ねぇ、私が16歳になったとき、手伝ってほしいことがあるんだけど、いい?」

 

 心の底から『愛してる』を言うことも目標だけど、愛する対象を家族として繋ぎとめておくためには、早いほうがいいよね? キミもそう思うよね? 

 

「ああ、高校1年の頃くらいか、俺ができる範囲ならいいよ。ちなみに何を?」

 

「な~いしょっ♪」

 

 うなずいてくれて嬉しくて、膝枕をさせてもらえば、膝はちょっと硬かったけどさ。これだけ密着すれば、ようやく少しは反応してもらえるみたい。アイドルをしていれば身に着けやすいと思うけど、女としての魅力も磨いていかないといけないね。

 

 早く大人になりたいなぁ。

 16歳の誕生日が待ち遠しくてたまらない。

 

 あっ、でもいざ頼んで断られたとき、この人も離れていっちゃうのかな?

 万が一そんなことになったら、もう私は生きていく気力が起きなくなるかもね。

 

 最近忙しくて疲れているのかな、どうにも思考がネガティブになっちゃう。

 

「本当? 嘘じゃない? もし嘘だったら」

「約束しよう」

 

 あぁ、よかったぁ

 

「いつもありがとぅ」

「ああ、どういたしまして」

 

 周りの人も、クリス君も、いっぱい騙してきて。

 そんな噓つきな私だけど、今だけは心の底から感謝を言えた気がする。

 

 

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