まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編12 (今日あま③)

 

 今回の『今日あま』のドラマは、序盤の名シーンを抜粋したようなものになっていた。

 最終話は、その中でも1番の盛り上がりどころがある。

 

 その隠しきれない魅力からか、入学早々ストーカーに被害に遭った少女は、1人で廃墟を訪れた。その足取りは弱々しく、不安を隠そうとする表情だ。

 もし警察にバラせば、クラスメイトの女子へ危害を与えると脅されている。だから、ストーカーの呼び出しに対して、自分が犠牲になればいいと思っていた。

 

 屋根を叩く雨の音に、ゆっくりと歩いてくる音が重なって。

 

 震えながら顔を上げた少女は目を見開いた。

 ストーカーではなくて、最近何かと絡んでくる少年だったから。

 

「なんで…付いてきたの…?」

 

「お前の考えそうなことだろ」

 

 身振り手振りで怒りを見せながら『いいから帰って!』と叫ぶ少女に対して、真剣な瞳を見せている少年は『バカなの?』って伝える。

 

「1人にさせねぇよ」

 

 彼が役者として演じてきたキャラのほとんどがこういう考えだろうし、彼自身も当然のことだというように思っているはずだ。今回の場面に適したイケメンな表情が画面いっぱいに映る。

 

「……バカはどっちよ」

「ったく、だれがバカだって?」

 

 乙女のような仕草、少し赤らめた頬、そういう演技だってお手の物だな。

 共演者の彼を自然とドキドキさせているほどだ。

 

 だけど、そんな雰囲気をぶち壊すように、怪しい人影が映った。

 

「なんだ、チャラついてるやつまでいるなぁ?」

 

 水たまりを叩くような足音が不気味で、臨場感にあふれている。

 

「ハハハ、この女はお前が思ってるような人間じゃないぞ?」

 

 黒いフードの下から聞こえてくる声は、まるで闇に引き込むようなものだった。

 

 

 それはそれとして、テレビの前の女子たちは、心の中で『きゃ~』って歓喜の声をあげているようだ。愛久愛海の普段を知っている分、ダークなキャラでギャップ萌えなんだろう。

 

 

「とある植物は、日の当たる場所にいれば干からびる。こいつも暗いところがお似合いなんだ」

 

 実際にこのシーンの撮影現場を見れたわけじゃないし、アイたちほど俺は知識がそこまでない。それでも、『すごく上手いな』っていう感想が出るほどに、その技術的な演技はまとまりきっていた。

 

「お前は、俺たちとは違う…」

 

「さっきから何言ってんだ? お前がストーカーなんだろ?」

 

 少年に胸倉を持ち上げられる姿はまるで幽鬼のようだ。そこから身体を少しのけぞらせて角度を調整することで、己の顔を照明に当たることで輝かせる。

 

聞こえなかったか!? そんな女、守る価値ないんだよ!

 

 この一瞬だけは『俺が主役だ』と叫んでいるようで。

 瞳には黒い星が浮かんでいるようにも見えた。

 

 

 アイも瑠美衣もかなちゃんも『アクア~~!』って思わず叫んじゃって、自分の腕をサイリウムのようにぶんぶん振っている。照れている愛久愛海が子どもっぽくて可愛らしいし、愉快そうな月愛に軽く頬をつつかれている。

 

 

「っ……」

「この子はッ!」

 

 少年は気合を振り絞るように叫ぶ。

 

 暗い表情の少女は、亡国の姫かのように注目を集めようとしているし。

 ストーカーは、ダークなイケメンで対抗心を燃やされるだろうし。

 

 

俺の大事な友達だ!!

 

 かなちゃんや愛久愛海が対決するかのように演技をする画面で。

 今できる最大限の演技で、メルト君はスポットライトを浴びてみせた。

 

 

「はっ! お前、殺してやろうか?」

「殺されても守る!」

 

 ナイフを取り出したストーカーの荒々しい動きに、焦りながらも少年は何とか付いていく。

 

 お互いに素人感を見せながらも、手に汗を握るような攻防だった。

 まさか恋愛作品でここまでのアクションシーンがあるとは思わないだろう。最終的に殴り飛ばされるストーカーによって、水たまりに倒れた時の衝撃は派手で、落としたナイフでカランと無機質な音を立てる。

 

「何見てんだよ? ヒーローに守られるヒロイン気取りかよ」

 

 怖く、キモく、光を引き立たせるように闇を演出させている。

 

「身の程わきまえて生きろよ。夢見てんじゃねぇよ」

 

「てめぇ! もう1発殴ってやろうか!」

 

 再び胸ぐらを持ち上げられるストーカーは、それでも大声で嗤う。

 乱れた髪で片目だけ輝かせた姿が画面いっぱいに映り込んだ。

 

「この先、ろくなことはない。お前の人生は真っ暗闇だ!」

 

 

それでも、光はあるから

 

 画面いっぱいに映る少女の泣き顔は、まるで曇り空に太陽の光が差し込んだかのように輝いていた。

 

 

 この後も『主人公に恋に落ちた乙女の顔』だったり、クラスメイトの女子と再会して友達になったり、1話以来の教室で役者みんな勢揃いでエンディングが流れ始めたり、これからの原作シーンの漫画のコマが流れたり。

 

 今回のドラマは、『本格的にヒーローとヒロインの距離が迫っていく』、そんな始まりの物語を十分に見せることができただろう。

 

 

☆☆☆

 

 

 ドラマの打ち上げパーティーということで、撮影に関わった人たちがみんなで会場にいた。

 

 かなちゃんはメインヒロインだったということもあって、着飾っていて挨拶回りに忙しそうだ。マネージャー見習いということで愛久愛海が付き添っているし、瑠美衣も付いていっている。

 

 ドレス姿の かなちゃん、ワンピース姿の瑠美衣、スーツ姿の愛久愛海、その3人は一際(ひときわ)目立っているから、メルト君たちや若いスタッフたちからチラチラと見られている。

 

「昔は一緒に挨拶回りしていたんだけどな」

「ね、もうルビーもアクアも15歳なんだよね~」

 

 瑠美衣も愛久愛海もかなちゃんも、そして今日は両親のところに預けている月愛も、ホント大きくなった。

 

 壁の花になって、子どもたちを見守っていた俺たちのところへ吉祥寺先生が向かってくるので、軽く会釈をする。

 そして、俺はアイの後ろへ下がる。

 

「星野アイさん、撮影お疲れ様でした」

 

「はい、こちらこそご協力いただきありがとうございました、吉祥寺先生」

 

 形式的な挨拶はまるで大和撫子のように美しい所作で、その一瞬だけは多くの視線を釘付けにしていた。

 

「えっと、私のほうこそ、あなたのような方に出てもらえて光栄ですので」

「ん、私が出たがっただけですよ?」

 

 アイは きょとんとする。

 その時には、再びそれぞれの場所で賑やかになっていた。

 

「私、子どもの授業参観とか大好きなので」

「ステキなお母様なんですね」

 

 ホントにそう思う。

 自分のスケジュールは俺やミヤコさん任せなのに、学校行事表は毎月必ず確認するママさんだからな。

 

「話には聞いていますが、16歳の頃には子育てをされていたそうで?」

「そだよ、クリス君が支えてくれたおかげでね」

 

 それから『タメ口でいいかな?』ってアイは伝えていて、吉祥寺先生は同年代だろうし仲良くできそうだと思ったんだろう。彼女は快く頷いてくれた。

 

「こんなに接しやすい人だったのね。なんというか元アイドルで、今は演技派女優だから」

「私は私だよ? ま、そんなに友達いないけどね!」

 

 アイも世間一般の陽キャではないよな。

 そういう意味でも吉祥寺先生と意気投合できそうだ。

 

「漫画家としては、お二人の話を聞きたいって思ってたのよ」

 

「なになに? 昔のこと?」

「俺もですか?」

 

 『だってドキュメンタリーとかもないでしょ?』って吉祥寺先生に言われて、確かにお断りをしているのが現状だな。

 

「そんなにドラマチックだったかな?」

 

 あごに指を当てたアイが俺に尋ねてくる。

 よく取材を受けていた時期も何かと驚かれていたけど。

 

「俺たちにとっては日常だったしな」

「そうそう。『今日あま』ほどキュンキュンできないと思うんだよね」

 

 思い返してみればアイの境遇は、『今日あま』のヒロインに似ているかもしれない。

 

 ただ、アイのお母様は愛してくれているし、俺とアイの関係は恋よりはって感じだった。世間が求めているような恋愛ものにはならないと思う。

 

 俺たちは今回のドラマ6回分を思い浮かべながら。

 

「んー、私とクリス君は幼馴染だけど、中学の頃もB小町で忙しかったんだよね」

「ストーカー被害も実際にありましたが、大した相手でもなかったので」

 

 というかB小町のドームライブ成功をストーリーにすれば、十分盛り上がるのでは。

 

「あるじゃん、クリス君のカッコイイシーン」

「アイのほうこそ、大量に可愛いシーンあるんじゃないか?」

 

 『プロポーズとかも最高だったもん!』『赤ん坊の頃のアクアとルビーがオタ芸したライブとか』って俺たちは笑顔で言い合うけど、お互いの見せ場なら語れるらしい。

 

「とてもドラマチックじゃないかしら、あなたたちの中では日常であってもね」

 

 そういうものなのだろうか。

 まあアイの可愛らしさを伝えられるなら、ドキュメンタリーやドラマ化とかの話を受けてもいいように思えてくる。

 

「だって、すごくインスピレーションが湧いてくるもの」

 

 吉祥寺先生の瞳はキラキラと輝いていて、まぶしかった。

 

「お~ 漫画家さんっぽいね、ヨリコちゃん」

「現役でプロの漫画家さんだからな?」

 

 というか名前呼びをするってことは、だいぶ気に入ったらしい。

 

 

 その後、プライベートな連絡先も交換したし。

 たまに会って話すようにもなった。

 

 いつか『今日あま』くらい人気の漫画を再び連載できるよう、日々頑張っているらしい。

 

 

 

☆☆☆

 

 とある部屋にて。

 

「おい、こんな企画が来てるが、どうする?」

「ん? あー、そういう系か。出演者次第だな」

 

 企画書を返されて『お前なぁ…』と呆れる。

 それを通せるだけの影響力があるのに、天然で無自覚なやつだ。

 

 

 

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