まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
番外編13 (愛久愛海視点)
あちこちで桜の花びらが舞っていて、中庭の噴水もよく目立っている。
さすがは都内の私立高校、しかも普通科と芸能科が合同で行う入学式だった。さっきまで僕やルビーがいた体育館は、かつての母校よりずっと大きい。
大量の生徒でごった返していて、こうして手を繋いでいないと、ルビーが迷子になってしまいそうで心配だな。
これだけの人数の大移動、それに教師の準備もあるから、そこそこ時間に余裕がある。僕とルビーは、少し学校の敷地内を見て回ることにしていた。
「うひゃ~ やっぱりきれいな高校~」
「ああ、そうだな」
ホント、こうしてこの子がルンルンと元気に高校に通えていて、僕は神様に多大な感謝をしている。
朝は母さんと一緒にあんなに号泣したのに、なんだかまた目頭が熱くなってきた。
「大きくなった」
「ん? なになに?」
こうして隣で見守ることができるのも、感謝しないといけないな。
さてと、追いついてきたか。
「ふっふっふ、ようやく来たわね」
「この声は!」
聞き慣れた声のわざとらしい演技に、ルビーはいいリアクションをしている。
ここの制服を着ていても、帽子がトレードマークだな、有馬は。
「改めて入学おめでとう、アクア、ルビー」
そんな風に有馬が入学を祝福してくれた。
「「ありがとう」」
父さんや母さんやルナと一緒に保護者席で見ていたはずだ。小学校や中学の頃と違って、入学式の後に保護者と会う時間がないのは、高校ならではだろうけど。
「制服で来たのが功を奏したか」
「かなちゃんも新入生っぽいもんね!」
新入生に紛れて抜け出してきたんだろう。
「早速イビるぞ後輩!」
有馬は面白いリアクションを見せてくれてから。
こほん、と咳払いの仕草をした。
「というか、あんたたちも芸能人なんだから気をつけなさいよ」
「「?」」
僕とルビーは揃って首をかしげる。
はて、身だしなみは完璧にしてきたはずだが。
「それよ… こ、恋人繋ぎよ! うらやましい!」
「かなちゃんこそ本音出てない?」
「ストレートに言ってきたな」
そりゃあ僕だってこの学校、しかも芸能科で恋愛関連はスキャンダルになるだろうって分かる。まあ僕とルビーは実の兄妹、しかも双子なんだ。
だがこうやってルビーを見守っておかないと、そこら辺の俳優にでも口説かれたらどうするんだ。
「も~ かなちゃんったら、芸能人が多いからこそだよ」
ルビーは有馬の耳元で、ごにょごにょ と何かを伝えた。
「それもそうね!」
「でしょでしょ!」
ガシッと美少女たちが握手を交わす。
昔から何かと仲が良い子たちだ。
「さっ、案内してあげるから付いてきなさい」
「は~い! かなちゃん先輩!」
周囲を見渡せば、確かに芸能人たちもいる。ただ、僕からすればこの2人の容姿はその中でも飛び抜けていると思う。
いや、ちょっとスカートが短すぎないか?
都会の学校はそういうものなのか?
「う~ 緊張してきた~」
「普通の学校なんだから、普通にしてればいいのよ」
『あんたアイドルになるんでしょ』と言った有馬に、ルビーは『それはそれ、これはこれ~』と返す。
それこそ母さんもライブでは緊張する姿なんて全く見せないのに、僕たちの入学式や卒業式の度に緊張したり泣いてくれたりするからな。ホント可愛らしい人だと思う。
「さっ、この先に1のFがあるわ」
「うわぁ…」
「お兄ちゃんの目が腐ってきてない!?」
圧倒的に廊下の幅が狭いんじゃないかと思うほど、大量の生徒たちで詰まっている。都会の高校ともなれば、中学の頃よりマシかと思ったが。
さて、残念ながら、ここから有馬は付いてこれないだろう。
「その、えっと、相談したいこと、いつでも言いなさいよね!」
「またよろしくな、先輩」
「だね! また頼りにするよ、かなちゃん先輩!」
1年ぶりに有馬と同じ高校に通えるのが嬉しい。
僕がこの学校を受けた理由の1つでもある。
お互い目立たないくらいに軽く手を振ってから、僕とルビーは手を繋いで教室へ向かった。
「わ~」
「これは」
芸能科の教室は、廊下と比べてだいぶ落ち着いていた。
爽やかイケメンだったり、お嬢様のような美人だったり。
さすが芸能科というべきか、顔面偏差値が高い。
「いくぞ」
「ん!」
しかし、母さんと父さんの遺伝子を受け継いだ僕たちも決して負けてない。歩くだけで自然と視線を集めてしまうほどの容姿は、両親譲りで誇りに思っているのだから。
座席表を確認すれば、前後の席のようだ。
ルビーが分かりやすくガッツポーズをした。
「ひゃ~ えらいべっぴんさんたちや」
僕たちがそれぞれの席についたくらいに聞こえた声は、ルビーの隣の席の女子かららしい。
いやはや、なんて胸の大きさだ。桃色の髪で、しかも同級生のあの子に匹敵する女子がいるとは思っていなかった。
制服の上着は椅子に掛けているせいで、男子どころか女子からも視線を集めていて、ボタンなんて取れそうだぞ。
落ち着け俺。
あっ、いや僕?
どちらにせよ入学初日にスキャンダルを起こすわけにはいかない。
「僕は星野愛久愛海、妹共々よろしくね」
自分でもキザでキモイと思う声が出てしまった。
ルビーから黒い星のような瞳を向けられている気がするけど、気のせいだと思いたい。
それはそれとして、『アクアマリン?』ってキョトンとされている。
「正真正銘の本名だ。アクアと呼んでくれていい」
「えっと、うち、寿みなみいいます、よろしゅー」
ほう、関西弁か、いいじゃないか。
いや待てよくない。名前呼びアピールまでしたせいで、ルビーからの視線がますます怖くなった気がする。
「こほん、ほら挨拶」
「私、星野瑠美衣、お兄ちゃんともともよろしくね☆」
『ともとも』ってなんだ。
ルビーのアイドルオーラに、思わず寿さんは『はわ~』って感嘆の声を出していて、気づいてないようだけど。
「みなみちゃんもモデルさん?」
「あ… せやねん、一応」
やはり寿さんはモデルなのか。もしそういう本を買ってもルビーと有馬に捨てられるだろうから、そういう界隈にはだいぶ疎いんだよな。
「ルビーちゃんも、モデルさんってこと?」
「うっ…そこそこモデルで… 『今日あま』とかの役者も…」
アイドルになるにあたって、ルビーもある程度はモデルや役者をしてきた。
役者といってもメインで出演した作品も言いだしづらく、強いて言えば確かに『今日あま』だろうな。それは僕にも言えて、ほとんどが端役だ。
『帰ったら見てみるわ』って笑顔で言う寿さんに、ルビーは感動して涙している。
「お兄さんもモデル?」
「いや、主に役者だな。例えば―――」
そう聞かれて、いくつかメインキャストをした映画やドラマのタイトルを出してみたが、やはり反応はイマイチだな。
五反田さんが監督をした作品の中でも、さらに低予算のものばかりだったし、キラキラな女子高生が見るようなストーリーでもないか。
「というように役者といっても、僕も一応だな」
「なんか気が合いそうやね」
おしとやかに笑ってくれて、この子とはおそらく良い関係を築けるだろう。
「む~ お兄ちゃん、もっとすごいとこいっぱいあるのに」
ルビーはそう励ましてくれるけど、僕はどの分野でもいまだ三流でしかないと思っている。
それにキミのほうが、前世から願っていたように、母さんを超えるくらいアイドルとして輝いてくれるだろう。
「えっと、星野ってことは、もしかして?」
「そ、大当たり!」
「ああ、母は星野アイだ」
そのことだけは自信を持って言える。
たとえ兄妹揃っていまだ大した実績があろうとなかろうと、母さんも父さんも愛してくれる。2人の子どもは、ルナも合わせて世界で3人だけなんだ。
「大物やなぁ」
「自慢のママだよ!」
「芸能人としても、母親としてもな」
明日から時間があるとき、僕たちのお弁当を作るんだって張り切っていた。僕もルビーも生まれ変わった頃を思い出すくらいに感動している。
「えーと、寿みなみ、と…」
「目の前でググるの!?」
寿さんの画像検索だとか。
実はエセ関西弁だとか。
楽しく会話を続けていて、裏表がなく明るいルビーには、早速友達ができたようだな。ラインまで交換しているのはさすが女子高生だ。
さて、僕のほうも周囲を見渡すけど……
男子たちもあちこちにグループができてしまっている。
いや、まあ、ほら、男子はいきなり友達認定しないから。
別に俳優やモデルの陽キャ男子たちに付いていけなそうとか思ってないから。
そんなとき、見覚えのある女子と目が合った。
「あら、『今日あま』に出てた人たち」
そう呟くように話しかけてきたのは、腰まで届く黒髪の美少女で。
「「不知火フリル!?」」
ルビーや寿さんと同じく、僕も心の中で素直に驚いている。
月9のドラマでも大人気だったし、中学生でありながら大人びた容姿だし、演技だけでなく歌や踊りもできるマルチタレントでもある。たぶんこのクラスで最も有名な芸能人だろう。
「確かに『今日あま』には一応出ていたけど」
「2人とも良かった」
とても簡潔な感想だった。
僕なんて端役でほとんど顔だって隠れていたのに、それでも役者として覚えてくれている。母さんや有馬たちから褒められるのとは、また違った嬉しさを感じていた。
「そちらの方はミドジャンの表紙見ました、みなみさんでしたか?」
「はい!」
偶然か、それとも芸能界をよく知っているのか、寿さんのことも名前を当てていた。
その後ルビーに誘われて、僕も女子2人とプライベートのラインを交換したけど…
当分の間、男子の友達はできそうにない気がした。
☆☆☆
とある部屋にて。
「お前のために、候補者のリストまで作ってきたようだぞ」
「……何の話?」
相変わらずどこか抜けているやつだ。
足元に置いてやったリストをパラパラとめくっていく。
「あー、あの話か……」
やがて、とあるページで指の動きが止まる。
携帯まで取り出して何をする気だ?
「なぁオッサン、誰だっけ、プロデューサー」
「おいおい、正気か?」
その子だけじゃなく、一家丸ごとを相手にすることになるぞ。