まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
青い空、青い海、それと春なのにギラギラと照らしてくる太陽だ。
「暑ぅ……」
「そんな顔見せていいんですか?」
宮崎どころか沖縄より、はるばる南のベトナムに僕たちは来ていた。
ネクタイを緩めてシャツを着ている姫川さんは、集合場所に向かっている最中もフラフラと歩いていた。昔から演技以外だとマイペースな人だと思っていたが、そういうところは変わっていないらしい。
劇団ララライのエースだけでなく、月9主演俳優だとか、帝国演劇賞だとか、凄い人なのにな。
「さあな。台本のない仕事は久しぶりだから」
「ですね、自由度が高い。それを良いと見るかどうかは人それぞれ」
基本的にインドアな僕たちが海外旅行まで来ているのは、『今、好きになりました』という収録のためだからだ。普段は2泊3日の修学旅行をテーマにした恋愛リアリティショーであり、中高生を中心として多くの人が視聴している。
「まっ、なんとかなるだろ~」
「大あくび… 飛行機でもぐっすり眠っていたが…」
そして今回は特別編としてこの天才役者の登場だ。
いつも通りの番組のようにカップルが1つでも成立すればよし、そうでなくとも姫川さんのプライベートが見れるというだけで、相当の視聴率となるはずだろう。
「昨日も遅くまで起きていたんですか?」
「ん、海外旅行楽しみで眠れなかった」
ルビーも寝かせるのが大変だったが、この人もそういうタイプだったか。
鏑木さんから斉藤社長を通して、苺プロへオファーが来たのは僕とルビーとメムさんだ。アイドルになる直前の2人の知名度アップには大いに役立つし、まあ僕も1人の役者として引き受けた。
あくまで知名度アップのための仕事だし、僕たち3人はそこそこに恋愛ドラマのような演技をするだけだ。ルビーはとりあえず海外ロケということに喜んでいてマイペースで可愛らしいし、僕やメムさんがフォローすれば大丈夫だろう。
さて、姫川さんはこの番組にどれくらい本気なのだろうか。
あれこれと考えながら歩いていると、遠くで手を振っている男子の姿が目に入る。
「姫川さん! アッくん! はよっす!」
『うわ、陽キャだ』と内心思いつつ、僕は視界の隅でカメラマンやディレクターたちを確認する。どうやらまだ撮影は開始していないようで、先に女子側を撮るのだろう。
「どうした? 2人揃って緊張してる?」
「おいおい、あの姫川さんだよ?」
ダンサーの熊野ノブユキ、バンドマンの森本ケンゴ、この2人もそれぞれの分野で若手のスペシャリストだ。
前者はまさしく陽キャ、こういう番組に適している正統派イケメンキャラを自前で持っている。後者は耳ピアスがチャラついてる雰囲気というか、不良っぽさに引き込まれる女子も多いだろう。
「むしろ……楽しみだ」
「ひゅー、すげぇや」
「さすがは大物俳優だ」
普段の黒ぶち眼鏡を外し、サラサラな髪を手櫛で整え、静かに笑う表情で、一気に姫川さんのオーラが切り替わったように思えた。真っすぐと遠くを見つめる姿は、まるで舞台に立ったかのよう。
僕は震える拳をギュッと握り。
我ながら気持ち悪いほどにニヤける。
これだけの不利を背負って、なお役者として目立たなければならない。もしカメラの隅に映り続ける存在になってしまえば、有馬にはネタ動画のように爆笑されてしまうことだろう。
「さて、女子たちが来る前に、スケジュール確認をしておこうか」
逆に僕は事前に用意していた眼鏡をかけて、撮影に
「ん、頼む」
挑戦的な笑みを浮かべながら、姫川さんは頷く。
悪いが、貴方にも負けるつもりはない。
「お、おう! そうだな!」
「えっと、最初は1人ずつ合流なんだっけ?」
森本の言う通り、女子から1人ずつ集合のシーンだな。
簡単な紹介が番組内では流されるためだ。
あえて口には出さないが、そこで男子の第一印象など、女子の反応を中心に撮影するのだろう。つまり、入場から本格的な勝負が開始される。
ルビーやメムさんも上手くやっているといいが。
☆☆☆
「海だーー!」
「海だよぉーー!」
メムちゃんと両腕を上げて海に向かって叫ぶ。
「山びこが来ないね!」
「山じゃなくて、海だからねぇ」
言われてみればそうだった、さすがメムちゃんだね。
いやー、初めての海外ロケできるなんてテンション上がるよね。
普段はあの『今、好きになりました』で恋愛リアリティショーだけど、特別編だから自由気ままな海外旅行でもいいって聞いて、私たちは大きく頷いちゃった。
お兄ちゃんもいるし、かなちゃんはすっごく羨ましがってたね。
えーと、ディレクターさんによれば、それぞれ『自己紹介して』って話だったよね。同じ事務所で初対面じゃないだろうからって。
「私はMEMちょ! そういう名前でYouTuberやってます!」
「星野ルビーです! 最近だと役者で『今日あま』に出てました!」
いやー、あのときはかなちゃんと、今回はメムちゃんと共演できるの嬉しいなぁ。
「私たち、同じ事務所なんだよねぇ」
「そうそう! 苺プロってとこ!」
ふっふっふ、しっかり宣伝したし、ミヤコさんとルナは褒めてくれるかな?
あとはちょうどいいタイミングで、2人と合流なんだっけ。
おでこに手を当ててキョロキョロしていたら、ボブカットで制服の美少女が歩いてくるのが見える。
「は、はじめまして、黒川あかねです。普段は劇団ララライというところで、舞台役者をしています」
「やっほー、あかねちゃん!」
「はじめましてだよぉ!」
あ、そっか、なるほど、『はじめまして』という設定なんだ。私は昔会ったことある子だし、女子同士は空港で顔合わせしてたから不思議だった。
「お二人ともかわいいですね」
「「あらやだもう~」」
そりゃあ私は最高に可愛いママの娘だからね。
褒めてくれたし、『あかねちゃんもかわいいよ』って、ちょっとイケボ風に言ってみる。
まるでアナウンサーかのようにハキハキしてて声が綺麗だし、こんな子がもしアイドルやってたら推しの1人になるもん。
「ど、どんな人が… あとは来るんだろうね?」
「男子メンは私たちも知らされてないもんねぇ」
あかねちゃんが話を進行してくれるけど、なんだか緊張してるみたい。メムちゃんはしっかりフォローしてくれてて、さすがは大人だなぁ。
そして、もう1人の女子は爽やかに手を振りながら歩いてきた。
「はじめまして、鷲見ゆきです。一応ファッションモデルかな?」
「えー、有名人じゃん!」
「で、ですね!」
あかねちゃんも知ってるみたいだし、私たちと同年代のモデルじゃ1番有名かもだよ。
「わ~ 2人とも綺麗な金髪だね!」
「ゆきちゃんたちも綺麗な黒髪じゃん!」
サラサラでロングでキューティクルな秘訣をみんなで話し合いたいくらい。
「こ、これで女子は全員ですね」
「だね、どんな男子が来るか楽しみ~」
かわいい仕草で語りかけくるゆきちゃんに、私やメムちゃんも相槌を打つ。
この子はファッションモデルなんだけど、カメラの位置把握とか、まるでママやかなちゃんのように上手そう。もしアイドルだったならこれほどのライバルがいるのはワクワクしてくるね。
「きた! あれじゃない!?」
遠くから見てもモデル体型で制服だし、歩き方がイケメンで陽キャオーラに溢れているよ。
「わっ、イケメンだ」
あらあらまあまあ、ゆきちゃんのタイプでござるかぁ~?
「俺は熊野ノブユキ! ダンサーやってます! よろしく!!」
私たちも元気よく『よろしく~』って返事をする。
「ヤバイ、ガチイケメンだね」
「だねぇ」
「いやぁ、それほどでも!」
熊野君ったら、照れた姿がういういしいね。
イケメンだから言われ慣れてはいそう。
「好きなタイプとかいるんですか?」
「えー、気になる気になる!」
ゆきちゃんったら早速アプローチかけてるよ。
たくさん少女漫画を読んできた私の予想だと、これは一目惚れだと思う。
「いやー、そのー、おもしろい子だな!」
はぐらかされたけど、答えた視線はゆきちゃんみたいだし、ゆきノブってことだね。
「あっ、次の人が来たみたいですよ」
「ギター背負ってる!」
「ルビーちゃん、よく見えるねぇ」
次は、見るからにバンドやってますって感じの子が来た。
「えー、はじめまして、森本ケンゴです」
あちゃー、この子だいぶ緊張してるっぽい。
「バンドやってるんだねぇ」
「は、はい。ベースやってて」
メムちゃんがすかさずフォロー入れてて、さすが年上のお姉さんだね。
「好きなタイプとかどうなんです?」
ゆきちゃんは男子全員に同じ質問をする気なんだ。その度にカメラを向けられるだろうし、もしかしてかなりの策士でもあるのかも。
「えっと、優しい人、かな」
「「かわい~」」
ピアスで髪染めてるのに、どこか小動物系じゃん。
ギャップで多くの女子がメロメロだよこれ。
そして、3人目は待ちに待った人で。
「はっ! あの姿は!!!」
「やっと来たねぇ」
「だれだれ? 知ってる人?」
優等生のように制服を着ていて、細マッチョで、しかも眼鏡で、歩き方が堂々としていてカッコいい。厳密にはハーフじゃないんだけど、金髪碧眼のハーフっぽい容姿でもある。
「お兄ちゃ~~~ん!!」
1日も会えなくて寂しかったよ~~!
「ひゃあ~ 今度は金髪のイケメン」
「相変わらずホストみたいにカッコいいねぇ」
「ルビーさんとは兄妹なんですね」
『しごできって感じ~』と ゆきちゃんが褒めてるけど、お兄ちゃんの良さが分かるなんてポイント高いよ。
「星野アクアです。妹共々、よろしくお願いします」
「はわわわ お兄ちゃんカッコいい~~!」
「ルビーさんはブラコン?」
「アクア君がシスコンでもあるねぇ」
ゆきちゃんやメムちゃんが褒めてくれて嬉しいよね。
「好きなタイプはいますか?」
「ん? そうですね、好きになった人がタイプかと」
なんてミステリアスなお兄ちゃんせんせ!
演技の爽やかスマイルもギャップ萌え!
「この2人のお母さんって、星野アイさんなんだよね」
「やっぱりそうなんだ!」
「自慢のママです!」
「母さんたち、見てる?」
お兄ちゃんは自然と私の隣にやってくることで、それがちょうど中央くらいで、そしてカメラに向かって手を振った。
ママやパパやルナへの愛たっぷりなんだけど、全国の女の子たちもキャーキャーするでしょそれ。
ホント注目を集める技はママみたいだよね。
まだ4人目もいるのに、場が固まっちゃってるよ。
てかお兄ちゃん、こんなに時間を引き伸ばしてどうするの?
「あとは、もう1人……」
なんとか進行させようと、あかねちゃんが小さな声を発した時、ダダダって地面を叩きながら走る音が聞こえてくる。
私たちは思わずそっちを見ちゃう。
だから、全てのカメラは彼の姿に向けられる。
まるでヒーローのように、私たちの前に飛び込んでくる。あんなにもアクロバティックな入場だったのに、汗1つかいていない。
「待たせたな、姫川大輝だ」
横顔は『やってやったぞ』という風に笑っていて。
そんな彼の存在感は、一気に注目を集めていったように思えた。