まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編15 (愛久愛海視点, 今好き編②)

 

~男子メンバーの第一印象について~

 

MEMちょの場合

「みんないい子そうだし、1番会えて嬉しかったのは実物の姫川さんだねぇ。YouTuberとしてその本性に迫るっていうかぁ~」

 

鷲見ゆきの場合

「ノブユキ君かな、明るくて一緒にいて楽しそう、そんな第一印象です。あとは星野アクア君、みんなの顔を見て話してくれて、なんだか優しくて頼りになりそうです」

 

黒川あかねの場合

「特に星野アクア君ですね。彼が子役だった頃から知っていて、最近だと『今日あま』にも出ていたのですが、とても迫力のある演技でした。お互い役者として、いろいろと話をしてみたいと思っています」

 

星野ルビーの場合

「もちろん最推しはお兄ちゃんです☆ それで~ ノブユキ君は爽やか系、ケンゴ君はクールで小動物系、姫川さんはなんだろ、不思議系?」

 

 

☆☆☆

 

 

 最初の全体収録が終わり、個人ごとに撮影を行った。

 

 僕も『女子メンバーの第一印象』を答えることとなり、今後の展開次第で適切なシーンを使ってもらえるよう、簡潔に全員分を答えておいた。ルビーの可愛らしさについてはもっと語りたかったが。

 

 さて、事前の打ち合わせで言われたことは、大まかに『基本的に自由に会話していい』『ただしカメラのアングルには気を付ける』『実際の修学旅行のようにスケジュールに従う』くらいだ。

 

 つまり台本はなく、そのほとんどが出演者のアドリブもしくは個性そのものだ。

 だが実際に使われるシーンはほんの一部であり、盛り上がらないようなら、その出演者が映り込む時間は少なくなる。

 

 まあ世の中には、わずかな登場であっても、『主役』として印象に残る『努力家な天才役者』がいるのだが。

 

「星野、さっきは助かった」

 

 男子メンバーで固まって次の撮影場所に向かいつつ、話しかけてきた姫川さんの横顔を見る。

 

「いえ…何かありましたか?」

 

 スタッフさんたちが焦っていたから何かと思い、その分はこちらで引き伸ばさせてもらったが。

 

「観光客の集団に巻き込まれてな。別の場所に迷いかけた」

「…もしかして、眼鏡がないとあまり見えないので?」

 

 そんな僕の質問に対して、彼は小さく頷いて肯定した。

 

「ならコンタクトレンズとか」

「怖いからしない」

 

 まだ言いかけている最中で否定されたぞ。

 

「動きは大体見えるから良い」

「そうですか」

 

 今更、僕がどうこう指摘することでもないか。

 母さんや有馬のように、この人も役者に関してプロ意識が高い。

 

 その実力で確かな評価を受けていて、彼には彼のスタイルがある。この人が主演の作品はいくつも目を通したが、1つ1つの所作に感情が乗っていて、まるで情報の塊に思える。さっきもそうだったが、動きで魅せる演技のレベルは最高峰だ。

 

 なら尚更、なぜこの番組のオファーを受けたのだろう。

 僕たちのように知名度アップを狙う必要もなく、この人が得意とする派手なアクションも基本的に要求されないのに。

 

「そうだアッくん、可愛い妹さんいるなんて羨ましいじゃん」

 

 熊野が後ろにいる僕へ話しかけるように声を発した。

 

「ああ。確かにルビーは妹だが」

 

 僕にとって当然のことなので、それ以上の返事が思いつかない。

 

「や、お兄ちゃんとしては、こういう番組は心配じゃないの?」

 

「いつかあいつにも、好きな人ができるとは思っているからな」

 

 まあルビーの純情を(もてあそ)ぶヤツには手段を選ばないが。

 

「ひゅー、良いお兄ちゃんだな」

 

 そんな風に軽い男はイエローカードだぞ。

 

「ま、俺は別の女子狙いだから安心してくれ」

「参考程度に聞いておこう」

 

 どうやら熊野は、誰かに積極的にアプローチをかけるつもりでいるらしい。

 

「おいおい、3人ともノリが悪いぜ」

「第一印象って言われても、出会ったばかりじゃないか」

 

 そう言っている森本はなかなか硬派なようで、じっくり吟味するようだ。

 僕の場合も、おそらく姫川さんの場合であっても、演出上そういう浮ついた会話をするくらいだろう。

 

 

 いくつか話をしていると、観覧車が目立つテーマパークが見えてきた。

 

 

 ゲート付近でスタッフさんと通訳さんからチケットを受け取り、なんというか至れり尽くせりだな。さすがにベトナム語は分からないからとても助かる。

 それに、最初からこういうテーマパークで遊ぶことで、インパクトもあり、メンバーの緊張をほぐすこともできるわけか。

 ただ、僕個人としては、こういう場所は番組的に悪手だと思う。

 

 すでに女子メンバーも到着しており、話す時間もなく、僕たち8人は再び横に並んでカメラを意識し始める。

 

 僕は横目に見るが、姫川さんは再び眼鏡を外していて、その雰囲気は堂々としたものに変わっていた。

 そして熊野にはスタッフさんから『旅のしおり』が渡されており、意中の相手が定まっている彼を、いわゆるメインキャストとして扱うのだろう。やはり男子メンバーの中ではこの2人がリードしていると思われる。

 

「えー、『今、好きになりました』は運命の恋愛を見つける恋の修学旅行、今回はその特別編です」

 

 この番組の基本的な流れとしては、ペアもしくはグループで行動し、その後に個人で直前のできごとの感想を簡潔に話すシーンがある。

 明かす内容は、様子見の駆け引きであったり、秘めた想いであったり、番組のための演技であったり。つまり、僕はそこで主導権を握ればいい。

 

「旅の最終日には、特定の相手と2人きりの時間を作ることができます。そこで告白するもよし、3日間の感想を言い合うもよし、つまり自由!」

 

 3日間はいつも以上に、アドリブの連続になりそうだな。

 普段の番組の場合、告白という目標はあるが。

 

「1日目は、ベトナムのニャチャンの大人気テーマパークにてフリータイム、とのことです!!」

 

 がっつり台本を読んでいた熊野は説明を終えるべく、カメラ目線になって言いきった。

 

 笑顔のルビーやメムさんが『きゃ~!』って賑やかにパチパチとしているため、僕たちもノリを合わせておく。

 

「ねっ、男女2人ずつ、4人グループで行動しない?」

 

 拍手が収まったところで、すかさず鷲見がそう提案した。確かに8人同時に動くより、各メンバーにスポットライトが当たる可能性が高くなる。

 

「みんな、絶叫は好き?」

 

 重ねて提案を続けて、グループ分けすらスムーズにする。

 展開の主導権を握りつつ、同時に現役JKのノリというわけか。

 

「はいはーい! 私、乗りたーい!」

「じゃあ一緒に行こっか!」

 

 笑顔のルビーが挙手したため、鷲見と合わせて女子メンバーは決まったようだ。

 

 すっかりテーマパークを楽しむ気分なのが可愛らしい。母さんや父さんと一緒に行った時も、それこそ前世から、そういうのには乗らなかったから楽しみにしていたんだろう。

 

「いいね、ジェットコースター!」

「あー、俺もそっち混ぜてよ」

 

 熊野と森本が手を挙げたので、これでグループが決まった。

 僕個人としてはルビーのことが心配だが、仕方ない。

 

「私、絶叫系ちょっと苦手なんだよねぇ」

「なら、残りのメンバーはゆっくり回ろうか」

「はい、そうしましょう」

「だな! みんな、またあとで合流しよう!」

 

 自動的に残りの僕と姫川さん、メムさんと黒川でグループとなった。

 

 メムさんが苦手と言っているのが本音かどうか分からないが、これで似たようなアトラクションの映像が流れることを避けられる。

 

 『またあとでね~ お兄ちゃん~』と手を振っているルビーや鷲見たちが先に歩いていく。

 さて、あっちの純粋に楽しむ子たちに負けないよう、こちらは役者組の優位性を利用して演出させてもらうとするか。

 

「せっかくテーマパークに来たし、あのコースターならどうかな?」

「どれどれぇー、あれくらいならいけるかも♪」

 

 側に寄ってきてメムさんが僕が指差した方向を見る。ツーショットになるべく、カメラを意識したような仕草も見せていて、こういうところも母さんから学んでいるのだろう。

 

 なんならメムさんは姫川さんより大人だし、後輩女子って感じの関係をすでに築けているから、共演者として()りやすい。

 

「あかねさんは平気?」

「私も平気だと思います、アクア君」

 

 大和撫子がニコッとほほえむと、まるで花が咲いたように思えた。

 

 この人数なら()りやすいようで、しかも僕の演技にも気づいていて合わせてくれている。普段は僕がよく()っている立場だが、こんなにも演技がしやすいんだな。

 

 奥手で丁寧な女子高生キャラといったところか。

 確かにそれならルビーたちともキャラ被りはしないはずだ。

 

「姫川さんもそれでいいですよね?」

「おう! 俺たちも早く行こうぜ!」

 

 貴方には悪いが、今のうちにBパートの主導権は握らせてもらおう。

 この4人の中でたぶん僕だけが遊園地経験者だからな。

 

 目的の場所は機関車やトロッコを模したジェットコースターで、特に混んでもいなかった。そこまで待ち時間なく、スムーズに撮影が進むのがいいアトラクションだな。

 

「あかねさん、足元には気をつけて」

「あっ… ありがとうございます」

 

 先に乗り込んだ僕はエスコートするべく手を差し出す。

 柔らかい手を添えてもらい、黒川も隣に座ってきた。

 

「僕たちが運転手だな」

「ふふっ、ですね」

 

 これで最前列も確保できた。

 

 姫川さんとメムさんも乗り込んできて、『なんかもう高くて怖いよぉ!でもたのしみぃ』『メムちゃんは度胸あるな!』と、撮影を意識した台詞で話しているようだ。

 

 スタッフさんから腕に取り付けるタイプのカメラを渡されたが、これなら僕たちが楽しんでいる姿を自分で撮影できるということか。

 

 そして、ジリリリと出発のベルが鳴ると、黒川は『わっ!?』と驚いたように可愛らしい声を出す。

 すっかり役に入り込んでいるようだな。

 

 それならばと僕はカメラを揺らさないよう、レバーをしっかり握り込み、黒川との距離を詰めた。

 

ひぅ!? アクア君!?

 

 さっきのはなんだか素っぽかったな。

 それに女子高生らしい良い香りがする。

 

「こういうの得意か?」

「ううん、全然…です……」

 

 適度に会話をしながら、登っていくのを待つ。

 しっかり僕と黒川が映っているはずで、カメラの角度は完璧だな。

 

「そろそろだ、しっかり掴まってろよ」

「は、はい!」

 

 黒川もレバーをギュッと握り直してくれたようで、手が少し触れ合った。

 

「うおぉ!?」

「きゃあああ!?」

 

 僕は少し叫ぶ程度で、あとは透き通るような声でリアクションを演技してもらえばいい。このカメラでどれだけ綺麗に音声を録音できるか分からないが、編集すれば素材として使ってくれるかもしれない。

 

「うぎゃああああああ!?!?」

「わあああ…え? わあーー」

 

 ただ、想像以上に他のお客さんもはしゃいでいて、すぐにジェットコースターは一周してしまった。

 

 一度、流れに沿って出ていくので撮られていない。

 その間にカメラの録画を確認してみる。

 

「よしっ」

「ふ~」

 

 思わずガッツポーズをしてしまう。

 絶叫系と違って速度もちょうどいいため、かなり上手く撮れていた。

 

「ふふっ、さっきより今のほうが楽しそうだね」

「それはオフレコだからな?」

 

 黒川も今のほうが自然な笑顔で、お互い筋金入りの役者なのだろう。

 

「いやー お二人さんは楽しそうだねぇー」

 

 そんな風にメムさんが棒読みをしながら呼びかけてきたが。

 

「うぷっ……」

 

 その隣には口元を抑えている姫川さんがいた。

 

 どうやらこの人はジェットコースターが苦手だったらしい。

 こういうのに乗ったの初めてで、自分でも知らなかったのだろう。

 

「えっと、どうしようか?」

「とりあえず、少し休憩しよう」

 

 なに、別にアトラクションに乗るだけが遊園地じゃない。

 

 ベンチで姫川さんを休ませている間に、僕はスタッフさんたちと打ち合わせをして、ショップで市販のアイスを購入してきた。

 

「アイスだ!」

「なるほど、次はそういうシーンを」

 

「姫川さんも大丈夫そうですか」

「ん、もう平気」

 

 カメラマンさんと頷き合って、ここから撮影を再開してもらうことにする。

 

「アイス買ってきたけど、どれがいいかな?」

「アクアは気が利くな!」

「わー、ベトナムのアイスかなぁ」

「アクア君、ありがとうございます」

 

 撮影が始まれば、再び全員が役に入り込んだ。

 

「すごいマンゴーの味がする」

「ベトナムって感じだねぇ」

 

 可愛い子やイケメンなら、アイスを食べているだけでも十分使えるシーンになる。

 

 この辺りは遊園地にしては珍しく他の人の映り込みが少なく、目立つ背景も少ない。確かに初日のテーマパークはインパクトがあるが、それで主役がアトラクションに取られては番組的に本末転倒だ。

 

 この流れで、さっきディレクターさんに伝えられた通り、2人きりのシーンも撮っておくか。4人行動だったのに、急に2人行動のシーンになっているのは不自然だからな。

 

「あかねさん、少し2人で話さない?」

「わ、私でいいなら……」

 

 細かい移動の間は撮影されず、噴水前の広場を選ぶ。

 

 いくつかネタはあるが、何から話したものか。

 最初に鷲見が実践していたように、『好きなタイプ』から番組好みの会話に持っていくのはまだ早そうだが。

 

「そうだ、『今日あま』見たんですよ。アクア君も出ていましたよね?」

 

 黒川のほうから話を振ってくれる。

 向こうもあらかじめ考えていたんだろう。

 

「あかねさんも見てくれたんだ」

 

 それにしても、よく名前を呼んでくれて真面目な子だ。

 視聴者側に僕の名前を印象づけるためなんだろう。

 

「はい! 最終話のあのシーン、すごく迫真って感じでした!」

 

 身体の前で握り拳を作り、熱く語ってくれる。

 しかも感情的になってネタバレをするなんてこともない。

 

「なんだか照れるな。メインヒロインの子の演技が凄くて、それに負けないよう頑張ったから」

それはもちろん凄いよね

 

 あれなんか、急に素でハッキリと断言されたぞ。

 奥手で丁寧な女子高生キャラはどこにいったんだ。

 

 こほん、とわざとらしく咳払いをすることで、僕は編集点を作っておく。

 

「あかねさんのほうこそ劇団ララライ、姫川さんと同じところなんだよね?」

「そうですね。いくつか舞台でメインキャストもやっているんですよ?」

 

 どうやらさっきの一瞬だけで、さっきの僕の話には、黒川個人として何か譲れないものがあったらしい。もしかして有馬のやつ、この子に何かやらかしたのか?

 

「舞台か。今度、観にいってみようかな」

「えっと、それなら… いえ! ぜひ観にきてください!」

 

 黒川自身がどうかは知らないが、今の役柄からすれば押しに弱そうだな。

 

「話が変わるけど、あかねさんの好きなタイプってどうなの?」

 

「えぇ!? その、えっと……」

 

 まだこういう系のアドリブは慣れていなかったか。

 もじもじと恥じらう姿は、たぶん黒川自身の姿を見せている。

 

「大人っぽくて、無言になっても気まずくならない、とか」

 

 乙女のような表情には、ドキッとするものがあった。

 

 

 まるで余韻を楽しむような静寂が続いたが。

 僕としてもわるい気分でもないようだ。

 

 

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