まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
~1日目の感想~
星野ルビーの場合
「超楽しいです! みんなとすぐ友達になれたし遊園地最高でしたし、ご飯も美味しかったです! 相変わらずお兄ちゃんもすごく頼りになって、ずっと大好きで、まさか一緒に海外旅行なんて…うれしくて…… あっ、えっとえっと、私、昔は病気がちだったので!」
鷲見ゆきの場合
「今のところ3人とじっくり話したんですけど、みんなステキな人で、素で話しやすいノブユキ君、意外とノリのいいケンゴ君、こんなお兄ちゃんが欲しいアクア君、みたいな? 2日目はもっと踏み込んで話してみたいな~って思ってます」
MEMちょの場合
「ご飯食べてからはケンゴ君と話して、んー、ちょっと遠慮が見えたねぇ。まあギターを弾いている時は真剣でカッコよかったし、えーと 懐メロ? も弾いてくれて楽しかったなぁ。頑張ってるのが伝わってきて、なんだか応援したくなったよー」
黒川あかねの場合
「アクア君、すごく優しくて… でもいいかもって思ってた人が… 誘われてるの見て… なんだか感情が高ぶっちゃって… ぐすっ… こういうのって難しいですね…… 姫川さんに相談に乗ってもらったの… すごく温かかったです…」
☆☆☆
昨晩、家族との電話で『アクアも元気!? だいじょうぶ!?』って母さんが心配してくれて可愛かったし、父さんからは『いっぱい楽しんで、ルビーと無事に帰ってくるんだよ』と温かい言葉をくれて、ルナのやつは『おみやげよろしくね』とマイペースだった。ただ、ベトナムにも過保護なカラスが飛んでいるらしい。
そして有馬との電話では『黒川あかねに気をつけなさい!』と、終始ご機嫌ナナメな様子だった。どうやら舞台や演劇では黒川は『天才役者』として有名らしく、僕とは逆で、年齢を重ねるとともにそう呼ばれるようになったのだろう。
こういう台本のない番組に不慣れなようで、それでも真面目に取り組んでいる子という印象なので、気をつけろと言われてもな。
ともかく、準備や朝食を終えた後、軽く全体ミーティングを行ったから、そろそろ2日目の撮影が再開する。
そのため、起床時のルビーはピンクで星な可愛らしいパジャマだったが、B小町なウサギがプリントされた白シャツの部屋着に着替えている。それと短いズボン? だから、太ももが見えすぎじゃないだろうか。
あまり素肌を見せていない黒川やメムさんを見習ってほしいものだ。
黒川と目が合ったけど、ニコッと見せた笑顔が、誰かに重なった気がした。
いけない、そろそろ撮影が始まるから集中しないと。
「『今、好きになりました』、旅のしおりを読みますね」
今回は鷲見が読んでくれるのだが、彼女は部屋着とはいえ肩出しで、いくらなんでもセクシーすぎだった。
姫川さんと熊野と森本がチラチラと目のやり場に困っていると思われる。
「お昼は2組に分かれてグループ行動です」
台本を読んでいる鷲見が丁寧に説明してくれているが。
今日は水族館もしくは動物園の予定となっている。
各自のペアの選択権は男子側にあり、それを決めるべく、次の撮影場所となる砂浜に移動する。
そして、僕たち男子4人は熱い砂浜にうつ伏せになって、スタート位置についた。
ビーチフラッグ対決という企画らしく、こういう砂浜で走った経験はないな。まあ誰よりも先に赤い旗を掴むだけでいい。
「「「「準備できた~?」」」」
黄色い声援に、とりあえず片手で返事をしておく。
カメラマンは僕たちを背景にして、先に女子たちを撮っているので、このまま我慢するしかない。
そんなとき、『なぁ星野』と姫川さんが話しかけてきた。
「お前は誰と組むか、決まっているのか?」
今はカメラに映っていないので、低い声だった。
「このままルビーと過ごすつもりです。それで十分に撮れ高を狙える」
「仲が良いな。うらやましいくらいに」
眼鏡をかけていない瞳は僕をぼんやりと見ているようで、その表情からも姫川さんの感情はあまり読み取れない。『うらやましい』という言葉にすら、感情が乗っていなかった。
僕の視界の隅に、カメラが目に入る。
「…… なぁ! 誰を誘うんだ?」
姫川さんの纏うオーラも一気に変わる。
まるで真っ白なキャンバスに絵の具をぶち撒けたように色がついた。
そんな感情演技は、有馬も得意としていて、そして僕が苦手としていることだ。
「ルビーとはもう少しベトナム観光をしたいので」
「ならライバルってことだ! 俺もルビーちゃんと話してみたいからな!」
肩だけを動かして、心の底から楽しそうに話しかけてくる。
その快活そうに笑う表情と、何よりも動きで表現している。
あくまで僕の勘だが、彼はこの番組で何かを狙っている。
それがオファーを受けた理由で、2日目にして大胆な行動を見せている。初日では僕たちに合わせていると思ったが、今回はルビーをペアとして選ぶとあらかじめ宣言してきた。
「なんか熱くなってきたぜ!」
「負けられないな」
熊野と森本もノリがよく、まるでドラマで台詞を言い合う展開になっている。
こんな風に周囲を飲み込むほどのカリスマと輝きは、
「よーし! 俺が勝ーーつ!!」
自分に喝を入れるように、勇ましい声が耳に響いた。
僕が演じてきた役はここでムキになって言い返すものでもないし、俺自身が得意とすることでもない。
周りには何も使える小道具がない。
時間もなければ、僕の実力も負けている。
「「「「よーい どーーん!!」」」」
ルビーたちの声を合図に勢いよく立ち上がった。
砂浜を勢いよく蹴り上げて走り出す。
「みんながんばれ~!」
「走って走って~!」
視界の先、楽しそうに応援している姿が、アイドルとしての母さんの姿に重なる。
いずれルビーもアイドルになる。
他の誰かを好きになって、父さんと母さんのように結婚するかもしれない。
僕は… 俺は、兄として、さりなちゃんの自由を縛っていいのか?
旗まであと少しというところで―――
「っしゃぁ!!!」
赤い旗を掲げた姿を、思わず見上げてしまう。
「ひゃー! すごかった~!」
「速かったよね!」
「みんな元気っ子だねぇ」
白熱した戦いだった。撮れ高だった。
それは役者として喜ばしいことなのに。
「あとちょっとだったね」
その引っ張り上げてくれる声に顔を上げる。
黒川と目が合ったとき、有馬の姿に重なった。
「じゃあ、ルビーちゃんと動物園で、お願いします!!」
「はーい! おねがいしま~す、姫川さん!」
「また新しいペアだねぇ」
「せっかくだもんね」
拍手が聞こえてくるので、僕も表情を作り直してから合わせる。
「よしっ、2回戦目だ!」
「ああ、そうだな」
女子メンバーに軽く手を振りながら、僕たち3人は再びスタート位置に戻り始める。
「みんながんばってね☆」
その星のように輝く瞳に吸い寄せられそうになる。
ほほえみかけられて、なんだか頬が熱かった。
いや、気のせい…だったはず。
彼女たちの『輝き』は天性のもので、そう簡単に真似なんてできない。
それから再び『よーい どーーん!!』と聞こえてから、走り抜けた僕は赤い旗をあっけなく掴み取っていた。さっきまで思うように身体が動かなかったのがおかしいと感じてしまうほどに。
むしろ、わざわざ迫真だと見えるような演技をした。
「さすがお兄ちゃん! かけっこ速い!!」
「ルビーちゃんがウサギみたいだねぇ」
「え、ジャンプ
ぴょんぴょんとジャンプするルビーが喜んでくれていて、幸せそうな笑顔でいてくれることは嬉しい。初日の遊園地のように、たとえ僕が付いていなくとも心の底から楽しんでくれるだろう。
なら、このモヤモヤとする感情はなんだ。
僕がホントにしたいことは何だっただろう。
さりなちゃんを見守ること? 妹を守り通すこと?
「では、あかねさん、一緒に動物園はどうですか?」
役者として、僕はそのように番組を進行させていた。
水族館で突発的な撮影をするには、スペースも光源も十分ではない。
「わ、私でよければ……」
もじもじと照れている姿は年相応で。
紛れもなく今は彼女自身としての素顔のはず。
いいだろう。
姫川さんの狙い、そして黒川の真意、その両方を確かめてやる。
それがルビーのためになると、そう考えずにはいられなかった。