まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編18 (愛久愛海視点, 今好き編⑤)

 

【1日目、番組の裏側で】

 

「なぁ、なんでこの番組の話に乗ったんだ?」

「なんでと言われても、役を()り好みできない立場ですから」

 

「あー、すまん」

「気にしてませんよ。まあ私、臆病で引っ込み思案で、こういう番組は苦手ですけど、知名度アップに繋がるので」

 

「よく言う。昼、あんなに楽しそうに演技してたのに」

「幸運にも、話したいと思っていた人がいたからです。じゃあ姫川さんはやっぱり、目的があってこの番組に?」

 

「……気づいてたのか」

「姫川さん、2日目は協力しませんか?」

 

 

☆☆☆

 

 

 2日目、ベトナムの動物園に僕たちは移動した。

 

 ルビーや姫川さんや黒川だけでなく、スタッフさんたちとも行動するため、遊びに来たわけではなく、撮影のためだ。

 

「ここが、どうぶつえん!!」

 

 キラキラと目を輝かせるルビーの可愛らしさで、そんな堅苦しい考えは吹っ飛んでいきそうだ。

 

「アクア君もはじめてなの?」

「そうだな。遊園地や水族館に行ったことはあるけど」

 

 カメラを意識しながら、話しかけてくる黒川に返事をする。

 

「あかねさんは?」

「私もはじめてなんだ~」

 

 その瞳にまるで星が浮かんでいるようで、やはり母さんを参考にして演技をしている。

 この番組が放送された際、緊張がほぐれてきた『黒川あかね』、その持ち前の可愛らしさが出てきたと視聴者は思うだろう。今の彼女には推したくなるほどの輝きがある。

 

 『シマウマだ~! 白黒だ~!』って元気よく駆けていったルビーに向かって、自然と僕は付いていこうとするけど。

 

 帽子を被っていて見慣れた髪型の少女が、視界を奪うように背伸びしながら顔を近づけてきて。

 

「ねぇ、好きな動物とかいるの?」

 

 明るく可愛らしく『私を見ろ』と伝えてくるよう。

 その自信に満ちあふれた太陽のような演技すらできるのか。

 

 それで、好きな動物についてだったか。

 ありきたりな犬や猫もあまりピンとこなくて。

 

「カラス… とか?」

 

 動物をあれこれと思い出しているうちに、そう声に出してしまっていた。ポカーンとしている黒川の表情が新鮮で、素で可愛らしいと思った。

 

「あー、いや、おちゃめなやつがいたんだよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

 口元を抑えて顔を見せてくれなくて。

 カラスが好きなのって、女子高生からすればドン引きなのだろうか。

 

 どちらにせよ、黒川の演技は完璧だったのに、僕のせいでNGシーンを出してしまった。次の編集点を作るべく、一度周囲を確認してみる。

 

 相変わらず木の上にカラスがいて。

 肝心のルビーはというと。

 

「あっちはキリンだよね! エサやりできるかな!?」

「ちょっ!?」

 

 姫川さんは腕を引っ張り回されているようだ。

 

 トレーニングもしていて身体能力が高いし、ああやって元気よく走り回ることができる。

 前世のことを思うと涙が出そうになるが、今は撮影中だな。

 

 ただ、ルビーたちは他のお客さんたちに紛れているため、撮影は一度中断している。

 ルビーの安全、姫川さんの狙いも気になるが。

 

「アクア君、私たちも行こ?」

 

 オシャレな女の子が誘導してくる。

 カメラを利用して2人から遠ざけるつもりか。

 

「そうしよう。何か見たい動物いる?」

 

 『んー、有名どころだと、ホワイトタイガーだよね』と可愛らしい仕草を見せた。そんな彼女が歩くペースに合わせて、僕も歩き始めるしかない。

 

 

 歩いている間に会話はないが、その空気感は気まずいわけではない。

 

 

 むしろ僕も、たぶん黒川も、次の台本を自分の中で考えている時間だからだ。

 

 普段のルビーや有馬は、いい意味で直情的なので分かりやすい。

 ただ、今のデート相手となっている黒川は相当に計算高いタイプだ。撮影中ということもあり、役者として目立とうとするだけでなく、何かしら目的があって行動している。

 

 おそらくルビーから僕を遠ざけたのは、姫川さんに協力しているからだろう。つまり、黒川は彼がこの番組に出演した目的も知っている可能性が高い。

 

 こちらもカメラを利用して、黒川の真意を探るべきか。

 

「ラクダなんているんだ」

「ホントだ、たくさんいるね」

 

 広いスペースが設けられている割には、お客さんが少ない。

 こういうところを撮影場所に選ぶ考えが一致したようだ。

 

 可愛らしい容姿で、あれだけ目立つ演技もできるのに、しかも周りがよく見れていて()りやすい。才能の塊のような子が努力を続けていて、まさしく本物の『天才役者』だ。

 

 前世を生きてズルをしただけの『元・天才子役』ではない。

 

「ありがとう、今日は誘ってくれて」

「ん、また話したかったから」

 

 僕はそう言ってから、柵に腕を乗せて黒川に目線を合わせる。

 その瞳はキラキラと輝いている。

 

「昨日、黒川さんとは話して楽しかったから」

 

 それに、その演技力も賞賛するしかない。

 僕のこの程度の演技では動揺する気配すら見せない。

 

「そっか、うれしいな~」

 

 母さんとも、有馬とも、ルビーとも、どこか似ている笑顔だ。

 

 一体どういう共通点がある。

 それが演技の秘訣なのか。

 

「あかねさんは、役者いつからやってる?」

「5歳の時にはやってたよ、子役として一応ね」

 

 有馬もそうだが、この子も早熟だったらしい。

 やはり、元々の才能が僕には足りないのだろうか。

 

「アクア君も子役だったんだよね。 ――― とか――― とか――― とか ――― とか!」

 

「ステイ、そこまでで落ち着こう」

 

 ルビーや有馬と共演した映画だけでなく、五反田監督に出してもらった作品をいくつか挙げてくれた。

 

「あと、赤ちゃんの頃にサイリウムを振っていたのもアクア君とルビーちゃんだよね?」

 

「まあ、動画残ってるらしいよな」

 

 ファンとして抑えきれなかったので後悔はない。

 恥ずかしくはあるが。

 

「アクア君、照れてる?」

「少しだけ」

 

 『なら……』って黒川は楽しそうに笑った。

 

「ずっとアクア君のファンでした、こう言ったらもっと照れてくれる?」

 

「……そうかも」

 

 推してくれている子がここにもいたんだ。

 

「ありがとう。なんだか、役者を続けてきてよかったと思った」

「どういたしまして。いつかまた何かの作品で共演できるといいよね」

 

 僕は才能や実力ばかり気にしていたけど。

 

 ルビーや母さんや父さんやルナ、有馬たちから『推されている』ってことをもっと実感すべきだったんだ。嬉しさが心の底から込み上げてきて、こういう感情がポジティブな自信に繋がるように思える。

 

 

☆☆☆

 

 

 それから少し経過して。

 

 黒川の希望通り、ホワイトタイガーの場所に向かう頃には、撮影も一旦中断となる。大量のお客さんがいて、僕たちに自由時間をくれることになった。撮れ高はここに来るまでいくつも撮ったし、僕たちはまだまだ高校生だからって。

 

「ふふふふ 放送されるの楽しみだなぁ~」

 

 ホワイトタイガーは演出上の話なだけだったらしい。

 黒川も人混みはあまり好きじゃないようで、結局2人でベンチに座って休憩することにした。役者としては作品が良くなるのは確かに楽しみだが。

 

「楽しみって?」

「こほん、気にしないで?」

 

 どうやら他にも隠し事はあるようだ。

 いや、無理に聞こうとは思わないが。

 

「その… 僕が出演した作品、たくさん見てくれたんだな」

「だって推しの1人だもん、キミが『一発撮りの天才子役』だった頃から」

 

 だが、その肩書きは過去のものだ。

 今の僕は、そこそこの役者でしかない。

 

「む~ ぴったしの演技がいつもできる子なんて、そうそういないんだからね!」

「いや、それは」

 

 最初は前世持ちというズルをしていただけで。

 それ以降は五反田さんの指導のおかげだ。

 

「何よりも、あの かなちゃんとライバルだし!!

 

 黒川の表情が迫真すぎる。

 さては最推しが有馬だな、この子。

 

「し、知り合いなのか?」

 

「同い年、しかも同じ女の子だったんだよ… ()りたかった役を片っ端から持っていって… しかも可愛いし

 

 どうやら複雑な関係だったらしい。

 劇団ララライに所属したのはそういう経緯もあったのだろうか。

 

「今じゃ私たちの世代で かなちゃんと不知火フリルのツートップ、どうせなら一強でいてよ」

 

 まるで『そのほうが潰しがいがある』と幻聴が聞こえてくるようだった。

 役者ってどいつもこいつも負けず嫌いが多いらしい。

 

「だからもっと自分に自信持って!?

 かなちゃんと同レベルで競えるんだよ!?

 『今日あま』でイチャイチャしてたでしょ!?」

 

 畳み掛けるように褒められて、熱くなった頬を手で覆う。

 

「イチャイチャって…… してねーよ?」

 

 あの時も『絶対負けない』って思って()っただけだ。

 

「かなちゃんがいながら、なんでこういう番組に出たの!?」

 

 ぷく~ って黒川は頬を膨らませる。

 

「あいつとは幼馴染だっての」

 

 今は、な。

 

「まあおかげで、先に恋愛ドラマのような共演ができたの自慢できるし、 可愛いとこも見れたけど

 

 それで放送されるのが楽しみだったのか。

 有馬には、厄介なファンでライバルがいるらしい。

 

 役者として生き続けるなら、恋愛ドラマへの出演機会もたくさんあるだろう。父さんを溺愛している母さんですら、そういう出演を何度もしているし、そのフォローはその数百倍の愛でやっているようだ。

 

 日本に帰ったら、僕は有馬もフォローしなければならないし。

 

 

 そして今回のように、ルビーにもそういう機会はあるわけで。

 

「なぁ、姫川さんの話を聞いてもいいか。何か協力していて別行動にしたんだろ?」

 

「ん、そうだよ」

 

 動物園に来てからはルビーが引っ張っていったから、スムーズに別行動になったのだろう。しかし、今朝のことを考えれば、間違いなく姫川さんはルビーを本気で誘いにいっていた。

 

「別に口止めされてないし教えようか?」

 

 想像以上にすんなりと目的が果たされそうだ。

 黒川の瞳をじっと見つめながら、その答えを待つ。

 

 

 そんな僕の緊張が面白かったのか、黒川はくすくすと笑って。

 

 

「あ~ん ってしてもらいたいってだけだよ」

 

 『夏祭りで綿あめ食べさせてくれたの 忘れられないんだって』と、ほほえましそうな笑顔で言った。

 

 

 

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