まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
~2日目の感想~
熊野ノブユキの場合
「昨日の夜のごはん、アッくんの大人なとこ見て、かっけぇってなったんです。そんで今日は、ゆきをエスコート? …というか表情を見て過ごして、そしたらもっともっと彼女を知りたいと思ったんで、残りも一緒に過ごそうぜって誘いました!」
森本ケンゴの場合
「正直なところ、メムさんと、もっと話していたいと思ってます。恋愛的な気持ちかはまだ分からないけど、言葉1つ1つが自分と近いっていうか、とにかく楽しくて… 3日間じゃ全く足りないですね」
星野アクアの場合
「僕自身、役者としても人間としても、まだまだ努力が足りないけど、あかねさんが励ましてくれて、だいぶ楽になりました。昨日の夜、彼女の舞台を見に行く約束もしましたし、同じ役者として今後も友人関係は築きたいと思っています」
姫川大輝の場合
「ルビーちゃんと過ごして、楽しかったってのが素直な感想だな。あの子も動物園が初めてだったみたいで、あちこち見たいって元気よく走り回って、餌やりも体験できて、いや~ 満喫させてもらいましたよ」
☆☆☆
昼の撮影が終わり、俺たちは揃って宿泊先に戻っている。
動物園なんて行ったことは初めてだ。
ぼやけた視界だったけど、星野妹が楽しんでくれたってだけで頬が緩む。
星野妹も星野兄も、他の子たちも家族と楽しく過ごしてきたんだろう。
俺と違って。
亡くなった母は女優、親父は俳優、2人とも役者で忙しい人だった。ガキの頃の遊び場と言えば劇団ララライの稽古場で、いい子にして誰かの演技を見ているだけだったはず。
俺は子どもながらに親父が嫌いで、それもあって母と同じく、姫川を芸名に使っている。
親父は売れない役者で、そこにコンプレックスがあるのか、母や俺にだいぶ高圧的な人だったから。
それに、才能のある女の子を引っ掛け回していたらしい。そういうのがいつもの夫婦喧嘩の原因の1つだったんだろうし、最終的には夫婦心中したし、それから俺は施設で暮らしていた。
まあ母も帰りが遅い時があったから、どっかの若い男でも引っ掛け回していたんだろう。あんな親父だから不満も多く、そのストレス解消のためかは知らないが、まさしく負の連鎖だな。
金田一のオッサンにしごかれて俺自身も役者になって、そこそこに芸能界の闇は感じている。それでもだいぶマシになったらしく、母が生きてきた時代は、もっと苦難が多かったらしい。もしかすると、父も母も元々は被害者で、そこから加害者になったのかもしれない。
いまだ芸能界の奥に闇があり、せめて俺自身は正しくなきゃ駄目だと思っているし、そういう飲み会があれば俺は若い子を守る側になるつもりでいる。
「お腹ぺこぺこだよ~」
「お昼あまり食べなかったのぉ?」
芸能界に憧れて、がんばっている子たちがたくさんいる。
今回の番組だけでも星野兄妹、黒川、熊野、森本、鷲見、それとMEMちょっていう配信者で、みんな将来性を感じる子たちだが、真面目だからこそ割りを食うこともあるかもしれない。
「屋台で買って食べたよ! デザートもばっちり!」
「いっぱい食べたんだねぇ、若いねぇ…」
そんな中でも星野妹と接していると、童心に帰るようだ。幼く、美しく、可愛い。まるで特別な宝石のように輝いて見えて、その笑顔が脳裏に焼き付けられる。
「日本に帰ったらまた忙しくなるぞ」
「ほへ? 何が?」
しっかり者の星野兄が付いていて、あの家族や苺プロがいるなら安全だと思っているはずなのに、それでも俺は彼女を守りたいと思い始めた。
『今日あま』の有馬かなとの共演を見て、これから本格的な芸能界入りをすると直感して、彼女と『共演者』という接点を作っておきたいと思った。
別に惚れたとか、そんな浮ついたことじゃない。
芸能界の闇に一切巻き込まれず、光の道を歩いていてほしいと、そんな綺麗事で理想を俺は押しつけているんだろう。
この業界は、才能を利用するだけ利用して捨てる悪い大人がたくさんいる。
「へぇ~、アクア君とツーショ撮れたんだね~」
「もう、そんなんじゃないって」
『あったほうが便利そうだから』って黒川は鷲見と楽しそうに笑っていて、ようやくあの子にも同年代の友達ができたようだ。
星野兄との関係も今後どうなっていくかは知らないが、真面目な塊の黒川の話相手にはなってほしいものだ。
「ルビーちゃんも言ってたけどよ! 腹減ったし、早くバーベキューしようぜ!」
「ノブ、撮影だからいくら急いでも… 待てっての!」
「メムちゃん、私たちも急ごう!」
「だから早い者勝ちじゃないよぉ!?」
元気よく走っていく若い子たちを見て、金田一のオッサンほどじゃないけど、俺もだいぶ年を取ったように思う。
結局、こういう陽キャな番組は俺には合わないらしい。
星野兄妹と久しぶりに共演できたのは、まあ楽しかったがな。
「そだ、結局あかねや姫川さんは告らないの?」
タイミングを見計らったらしく、鷲見が声をかけてきたことで、俺たちはその場に立ち止まる。スタッフさんたちも準備中なので、まだ少し時間はあるだろう。
「ストレートに聞いてくるね」
「別に半強制でもないだろ」
黒川や星野の言う通りだ。
恋愛リアリティショーの中でも、この番組はだいぶ自由度が高い。
もし告白されたとして、受けるも断るも出演者次第だ。なんなら、お友達でいようって呼び出すだけのパターンすらある。
「私の場合、あやふやなほうが1番楽しそうだから♪」
「その被害を最も受けるのは僕なんだぞ」
黒川のやつ、こんなにいたずらっ子のような笑みを浮かべるんだな。星野はそう言いつつも面白がっていて、こいつらだいぶ気が合う関係らしい。
『そういえば』って言いながら、手のひらを合わせた黒川が笑顔を向けてきた。
「あ~ん ってしてもらえたんですか、姫川さん?」
「……何の話だ?」
黒川にそう尋ねられたが、そんな話をしただろうか。
そもそも誰にやってもらうかだが、とある子の笑顔が思い浮かびそうなところで、俺は軽く首を振る。
「ねぇ、もしかしてこの人?」
「考察していた以上に奥手かも」
鷲見と黒川の女子高生コンビがひそひそと話していて、俺はとりあえず頭をかきながら、目線で星野兄に助けを求めてみる。
「これは…… でも……」
こっちもブツブツ言っていて、援護は来なかった。
このままだと俺が女子高生2人にいじられることになるぞ。
「別に… 星野妹と話す時間が欲しいってだけで」
「その理由として夏祭りの思い出を、珍しく
なんだか根に持たれている気がするが、気のせいということにしておこう。
昔、ショッピングモールで買い物したり、夏祭りに連れて行ってくれたり、星野兄妹や有馬たちと過ごしたことがある。家族で仲が良いのがうらやましいって、今でも思っている。
「してもらいたくないんですか、あ~ん ってルビーちゃんに?」
「してほしい。あっ、いや、男ならそういうものだから!」
黒川が上手く揺さぶるものだから、大声を出してしまったじゃないか。
「星野もそう思うだろ!?」
「わかる…… が」
頷きながら睨まないでほしい、星野兄。
そして、やれやれという黒川が仕草をして。
「この番組が終わったら、また会える機会がなくなりますよ?」
「それは……」
『また共演すればいい』と、口に出しかけた。
そんな人任せで、なぁなぁで、だから何年も会えなかったのに。
「私は告白するよ、ノブユキ君に」
そう宣言する鷲見の表情は、まさしく恋する乙女だったように思える。
そこに打算なんて見受けられず、真剣な声だった。
「ずっとモデルのことに集中してて、今まで彼氏作ったことなくて」
「「えっ、ないの」」
鷲見と黒川にニッコリと笑顔を向けられて、俺と星野はビビってしまう。
だって、誰かに告白されてそうなくらい美少女じゃん。
「私、意外とずるいんだけど… ノブユキ君は裏表もなくて素が出しやすくて… しかも今日は自分なりにエスコートしてみようってしてるのが可愛らしくて…」
意外じゃないだろ、というツッコミしそうなのをぐっとこらえた。
「ノブユキ君みたいな真っすぐな男子がタイプなんだって思ったし、このまま疎遠になるのもイヤだから」
もじもじとしている姿は自然で、可愛く思える。
恋する女子はなんとやらだな。
「番組で付き合えば、公認っていうか、会えるきっかけも増えるし、スキャンダルもないかなって」
この番組、付き合ったカップルは特別に何度か撮影が行われる。言われてみれば、確かに公認のようなものだ。
芸能人はスキャンダルにも気をつけなければならず、親父たちがしていたような浮気が世間にバレたら、一気に炎上してしまう。
「だから今日の夜、ノブユキ君に聴いてみるつもり」
「一緒に考えて、一緒に決めるということか」
星野の言葉はとても響くものだった。
『私も応援するよ、ゆきちゃん』って、黒川は鷲見の手のひらを握った。
「付き合っていることを公表する芸能人も最近多いよね」
「だよね! 誰からブームになったんだろ?」
そのブームの発端は星野夫妻だと思われる。
あの2人は結婚だけでなく隠し子まで公表して、身内で結婚式も行った話も聞いたけど。
「というわけで、最終話の主役は私たちが持っていくね!」
「ああ。そこまでの決意なら譲るしかないな」
星野の言う通り、ぱたぱたと赤くなった頬を冷ましていて、そんな鷲見は応援したくなる。
それと同時に、ちゃんと行動に起こせることがうらやましく思う。
「姫川さんもちゃんと悩んで、相談してみたらどうです?」
黒川の応援を受けて。
鷲見の決意を見せつけられて。
ようやく俺は一歩を踏み出せそうなとき。
「ルビーがアイドルになるって言ったらどうする?」
なんて意地悪な質問なんだろうか。
薄々は想像していたことだ。
それはたぶん、俺がちゃんと星野妹に向き合えなかった理由でもある。今までやってきた演技を重ね合わせて、誤魔化してただけで、本音で語り合えてはいない。
結局、いまだ恋愛感情なのかあやふやだが。
「そんなのファン1号になるだけだろ」
アイドルになる前から、すでに『推しの子』なんだから。
「おい、ファン1号は俺だぞ」
「ははっ、さすがお兄さんだな」
一人称まで変わっていて、今の星野の声色がなんだか新鮮で、思わず笑ってしまった。
「というかお兄さん呼ぶな。それと、ルビーのことを泣かせたら、僕があんたを泣かす」
妹に過保護すぎだっての、このお兄さんは。
「言われなくても分かってるよ。とりあえず、さっさと飯にしようぜ、飯」
俺は眼鏡をかけながら、バーベキュー会場に向かう。
「姫川さん、せっかくキャラ付けしてたのにね」
「でも普段のほうがフレンドリーでいいかも?」
いつもの眼鏡をかけて見えた景色はとても鮮明に見える。
たまには人の顔を見ながら演技するのも、悪くないかもな。
「お兄ちゃんたち、おっそ~い!」
だって、こんなに可愛らしい子を真っすぐ見つめられる。